インフィニティダンガンロンパ6 ようこそぼくらのコロシアイ強化合宿 作:M.T.
side KM
モノクマから動機ビデオが配られた。
どうせ俺の精神を揺さぶるものだろうと予測はしていたから、覚悟はしていた。
だが、いざ自分の動機ビデオを見ると、どうにもならない現実に頭を抱える自分がいた。
俺は、決断しなければならなかった。
ここで過ごした奴等の事は嫌いじゃないし、こんな出会い方じゃなければ良き級友になれていただろう。
だが、何かを救いたければ何かを犠牲にしなければならない。
そんなの、とっくの昔から何度も経験してきた事だ。
俺は、療香をここから出す為に、俺を含むそれ以外の奴等を殺す。
「…………はぁ」
何度経験しても、慣れないものだな。
自ら人を殺す決断をするというものは。
悪いな、皆。
明るい未来の為に、俺と共に死んでくれ。
◆◆◆
side YK
私は、大和に配られた動機ビデオを見て目を疑った。
「嘘でしょ…こんな事って…!」
私は、そのビデオを見て、それが本物だとすぐに確信した。
だとすれば、一刻も早くここから出なきゃいけない。
でも、ここから出るという事は、私以外の全員を殺すという事。
大和を、仲良くしてくれた皆を殺すなんて事、私にはできない。
それでも私は決断しなきゃいけなかった。
私は…迷った挙句、自分を含めた大和以外の全員を殺す事にした。
私は、大和さえ生きてここを出てくれればそれで良かった。
だけど大和は、ビデオを見終わった後、私に向かってこう言った。
「療香。頼みがある。俺を――殺してくれ」
◆◆◆
VOTE
薬師寺療香 9票
的凪梢 3票
氷川みるく 1票
『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の司令官】神風大和クンを殺した鬼畜殺人犯は、【超高校級の軍医】薬師寺療香サンでした!』
『キャハハハ、アンタ達連続正解なんてやるじゃない!まあでも、三人ほどどっかのおバカさんが間違えて投票しちゃったみたいだけどね!』
「は?何でボクに票が入ってるの?まあ一票は薬師寺さんだろうけど、他二人はどういうつもり?」
的凪は、突き刺すような視線を樺戸と酒蔵に向ける。
二人は、的凪を睨みつけていた。
「リョウカは犯人じゃねえよ…!だって、リョウカはヤマトとあんなに仲が良かったんだぞ!?」
「薬師寺ちゃんが犯人なんて、何かの間違いだろ!」
「だからってボクに入れるって酷くない?ボクなんか死んでもいいって事?この短期間で随分と嫌われたね」
的凪は、二人に冷めた視線を向けていた。
一方で神無月は、氷川を指差して怒鳴り散らしていた。
「おい!!てめぇいい加減にしろよ!!何でまた自分に投票してんだよ!?椛達なんか死んでもいいって事!?」
「ひぃっ、ご、ごめんなさい、ごめんなさい…!だって、わたし…!薬師寺さんが犯人だなんてっ、信じたくなくて…!ひぐっ、えぐっ…!」
神無月が怒鳴ると、氷川は肩を震わせて泣いた。
俺も正直、神無月と同じ意見だった。
薬師寺を犯人だと信じたくなかったのは、氷川だけじゃない。
俺達だって、信じたくなかったんだ。
それでも、死にたくなかったから、他の皆を死なせたくなかったから、薬師寺に投票した。
でも氷川は、他の奴に投票して恨まれるのに怖気付いて、また自分に投票した。
誰かに恨まれる覚悟も持たない『信じる』なんて、そんな薄っぺらいものは、ただの甘えだ。
そして打田も、薬師寺に投票しなかった三人に向かって殺気を放っていた。
「お前らいい加減にしとけよ。次やったら尻の穴増やすぞ」
「ひっ……!」
打田が銃に弾を込めながら殺気を放つと、氷川は顔を真っ青にしてビクッと肩を跳ね上がらせる。
打田も、神無月と同じ意見だった。
後の事を考えずに、処刑する人間を選ぶ重圧から逃げた奴等に対して激しい怒りを覚えていた。
するとその時だった。
『はいはーい、そこまで!流石にボクもこんなしょーもない事で神聖な裁判場が血の海になるのはカンベンだからさ!というか今回の主役は薬師寺サンだし!そろそろアレいっちゃいますよ!』
「アレってまさか…!?」
『決まってるじゃないですか!おしおきですよお・し・お・き!薬師寺サン、最期に皆に言っておきたい事はない?』
「……………」
モノクマは、薬師寺に声をかけるが、薬師寺は俯いて黙り込んだままだ。
敗者は何も語る事はない、という事だろう。
するとその時、誰かが薬師寺の処刑に待ったをかけた。
「待って下さい」
処刑に待ったをかけたのは、梶野だった。
梶野は、淡々とした口調で薬師寺に尋ねる。
「薬師寺様は、神風様と共犯だったのですよね?神風様が、薬師寺様に自分を殺させてまで薬師寺様を脱出させたかった理由とは何なのでしょうか?十中八九、動機ビデオが関係していると思うのですが」
『キャハハ、だってさ。話してあげたら?』
梶野が尋ねると、薬師寺はポツポツと話し始める。
「…私と大和は、それぞれ配られた自分のビデオを見たの。私に配られたのは、敵襲を受けて壊滅している私達の隊…白と黒のモノクマのマスクを被っている奴らに襲われて次々と殺されていく何の罪もない国民の方々、そして血の海と化していた日本だった」
え…?
待てよ、今、日本が血の海に…って言ったか?
あのビデオの中で、危機に晒されていたのは…みゆきだけじゃなかったのか!?
「に、日本が血の海に…!?」
「どういう事だよそりゃあ!?」
「…あなた達は、第二次世界大戦以降、日本が他国のテロに巻き込まれたり戦争になったりしなかったのはどうしてかわかるかしら?私達が、日本に迫り来る危機を未然に防ぎ、脅威となる存在を排除していたからよ。我が国の矛となり盾となる事、それが私達『旭』の存在意義よ。国とたった12人の命、どちらを取るかなんて考えるまでもないでしょう?」
俺達の混乱を他所に、薬師寺は淡々と語った。
薬師寺は、まるで氷の彫刻のように、冷たく感情の抜け落ちた表情を浮かべていた。
幼い頃から軍人として育てられた薬師寺は、恐らく感情を殺す訓練も受けていたのだろう。
まるで機械のように、淡々と任務をこなし、国の為なら、恋人だろうと級友だろうと、時には自分の命すらも平気で切り捨てる。
それが、薬師寺療香という人間だ。
…きっと、付き合いの浅い奴なら、薬師寺の事をこう分析するだろう。
だけど俺には、薬師寺はそんな人間には見えなかった。
もっと、薬師寺に神風を殺させるような、『何か』があったはずなんだ。
「はーいストップ」
唐突に、誰かの気怠げな声が聴こえてくる。
振り向くと、的凪が眠たげな表情を浮かべながら手を挙げていた。
的凪は、腕を組んで薬師寺に尋ねる。
「薬師寺さんさぁ…いつまで茶番を続ける気?」
「茶番…ですって?」
「キミが本当にここから出なきゃいけなかった理由は、まだあるはずだよ。そうでしょ、モノクマ」
『はいはーい!もう少し粘ると思ったんだけど、薬師寺サンってば演技がヘタクソなんだもん!このままじゃ退屈なので、もう全部話しちゃいましょか!実はね、薬師寺サンに配った動機ビデオは、今言った通りだったんだけど、神風クンに配ったビデオの内容はちょっと違ったんだよね!今からそれを見てもらいましょうか!』
「ちょっと待って…!やめて!!」
モノクマがぴょこんと跳ねながら言うと、薬師寺が血相を変えて叫んだ。
薬師寺の表情からは、冷静さが消え失せて顔色が悪くなっていた。
『ん?どうしたの、薬師寺サン?』
『キャハハハ!そりゃあ、療香チャンは隠したいよね!療香チャンは、
『てなわけでVTRスタート!』
「やめろ!!!」
モノクマがリモコンを取り出しビデオを再生しようとすると、薬師寺が目を見開いて叫んだ。
ここまで取り乱した薬師寺は、見た事がない。
それ程までに、神風が受け取ったビデオには、薬師寺がどうしても隠し通したいものが映っていたんだろう。
だが無情にも、映像は流されてしまった。
ーーー
『おとうさん。おかあさん。げんきですか』
映像に映っていたのは、病衣を着ている幼い女の子だった。
薬師寺と同じ黄緑の髪と神風と同じ群青の瞳を持っていて、どことなく、顔立ちも薬師寺に似てる気がする。
この子は、まさか……
『私はげんきだよ。ふたりとも、おしごとがんばってね』
女の子は、若干拙い口調で話した。
きっと、両親に向けたビデオレターだろう。
後ろには病院が映っていて、看護師と思われる女性が微笑みながらこちらを見ている。
闘病生活中なんだろうな。
『あのね、私、しゅじゅつがんばったんだよ。あとね、おなまえかけるようになったんだよ。私ね、おとうさんとおかあさんみたいになりたいんだ!こまってる人がいたらたすけられるような、つよくてやさしい人になるんだ!』
女の子は、自分で書いた字を見せながら、まるで春一番に咲いた花のような笑顔を浮かべた。
紙には、拙く、でもはっきりとした字で、『のぞみ』と書かれていた。
この子の名前だろうか。
でもその直後、のぞみちゃんは胸を押さえて苦しみ出した。
多分、心肺の病気なんだろう。
『ケホッ、ケホッ…ごめん、おくすりが切れたみたい。またあしたもおはなししようね』
ーーー
そこで映像は終わった。
映像が終わった後、ふと薬師寺を見ると、薬師寺は、証言台にしがみついたまま膝をついて項垂れていた。
するとモノクマとモノルナは、ゲラゲラと笑いながら話し始める。
『うぷぷぷぷ!映像に出てきた彼女の名前は、神風
娘……?
嘘だ、二人に子供がいるなんて話、聞いた事が無い。
大体、のぞみちゃんが二人の娘だとすると、二人が出会った時期と矛盾する。
でもあの娘は薬師寺と神風にそっくりだったし、モノクマが嘘をついているとは思えない。
だったら、あの映像は一体…?
「薬師寺さんっ!あの映像はどういう事ですの!?こんな大事な事を、どうしてもっと早く仰ってくださらなかったのですか!?」
リーゼは、証言台を叩きながら薬師寺を問い詰めた。
皆も、薬師寺が娘の事を話さなかった事について、思う事がある様子だった。
でも俺には、薬師寺が娘の事を話さなかった理由がわかる。
言わなかったんじゃない。言えなかったんだ。
「きっと、自分の娘を恋人殺しの言い訳にしたくなかったんだろうね。おかしいね。娘の存在を隠したところで、何も変わるはずないのにね」
的凪は、腕を組んだまま笑いながら言った。
薬師寺は、娘を殺人の理由にしたくなかったんだ。
もし薬師寺が本当の事を話せば、俺達にとって、のぞみちゃんは『殺人犯とその共犯者の娘』になってしまう。
自分達の罪で娘の魂が穢れるのだけは避けたかったんだろう。
「ですが、待って下さい。確か薬師寺様と神風様が出会ったのは、士官学校入学後ですよね。ですがこの映像に映る少女の年齢を推測すると、彼女の誕生は、薬師寺様の士官学校入学より前という事になってしまいます。この矛盾はどう説明するおつもりですか?」
「…私と大和の間には、子供はいないわ。そもそも妊娠した事すらないし」
「ではあの映像は何だというのだ?」
「私には、子供はいない。でも、あの映像を見て確信したの。あの子は、間違いなく私の娘よ」
「貴様、何を言っている!?子供はいないと言っておきながら、あの映像の少女が娘だと!?冗談も休み休み言え!!」
「私にだってわからないわよ!でも、あの子は確かに私達の娘よ!あの子がつけていたイヤリングだって、私が大和から貰ったものよ!」
安室が問い詰めると、薬師寺は声を荒げて答えた。
確かに、のぞみちゃんはイヤリングをつけていたし、顔も二人にそっくりだった。
多分、のぞみちゃんに関する記憶が無くても、血の繋がりが薬師寺とのぞみちゃんを繋いだんだろう。
すると打田は、呆れてため息をつきながら薬師寺に尋ねる。
「…何?あんたと神風は、捏造かもしれない映像を、しかもいるはずもない娘の事を信じたって言いたいの?」
「そうよ!!」
打田が尋ねると、薬師寺は目に涙を浮かべながら叫んだ。
ここに来て、薬師寺は初めて、感情を露わにした。
軍人としてのプライドも、使命も、全てをかなぐり捨てた薬師寺は、俺達の知る薬師寺とはまるで別人だった。
◆◆◆
side YK
動機ビデオを見た後、私は、大和に相談したわ。
そしたら大和は、私に言ってきた。
「療香。頼みがある。俺を――殺してくれ」
「………えっ?」
私は、大和が何を言っているのか分からなかった。
大和は、真剣な表情で、私の両肩を掴んだ。
「どのみち一人しか出られないなら、俺かお前、どちらかが死ぬしかないだろう。ならば、俺が死を選ぶ。我儘を言うなら、俺は他の誰かにじゃなく、お前に殺されたい。だから、頼む。俺を殺して、外に出るんだ」
どうして…?
どうしてそんな事を言うの…?
私は、あなたがいたから生きられた。
私は、あなたが生きてくれれば、それだけで良かった。
国から与えられた任務なんて、私の命なんて、どうでも良かった。
それなのに、それなのに…!!
「ちょっと…待ってよ…!どうしてそうなるの!?大体、あなたや皆が死んだところで、モノクマが私を外に出してくれる保証なんてどこにも無い!そしたらあなたは犬死にになるのよ!?」
「そうかもしれないな。だが、犬死にを恐れて行動しないままでは、何も変わらない。俺が犬死にになるかどうかは、お前にかかってるんだ。俺が無駄死にするのが嫌だというなら、どうか俺の死を、無駄にしないでくれ」
違う!
私が言いたいのは、そういう事じゃない!!
私は、誰よりも、あなたに生きてほしいのに…!!
◇◇◇
私は結局、大和を止める事はできずに、計画の準備は最終段階に入ってしまった。
「大和…やっぱりこんな事、やめましょう?」
「療香。俺の代わりはいくらでもいる。俺の部下には、優秀な奴等がいる。そいつらなら、必ず俺に代わって隊を導いてくれるだろう。だが、あの子の母親はお前しかいないんだ。外に出て、もし希望に会えたら、俺の分まであの子を愛してやってくれ」
…私は、最低だ。
感情を殺す訓練なら、散々してきたはずなのに。
大和の代わりなんて、いるわけがない。
そんな事、分かっていたはずなのに。
それなのに、大和が私を生かす為に命を懸けようとすればすれほど、命が惜しい。
モノクマの映像なんて信じていなかったはずなのに、私に娘なんていないはずなのに、今はただ、あの子に会いたい。
「それであなたが死ぬなら何の意味もないじゃない!私は、あなたが生きられないなんて嫌よ!」
「療香。もし俺達が二人ともここから出られないままで、一生希望に会えなかったら、俺は一生後悔する」
「だったら尚更、あなたが生きてここから出なきゃダメでしょ!?」
「いいや、ここから出るのはお前だ。だってお前は、俺なんかよりずっと、あの子を想っているのだからな」
私の思いは、すっかり大和に見透かされていた。
大和は、こうなる事をわかっていて、私にあのビデオを見せたんだ。
大和はいつだってこうやって、私の本心をいとも簡単に見透かしてくる。
本当に、最期まで、私には出来過ぎた
「大和…私、絶対にここから出て、希望に会うからね。あなたの分まで、あの子を幸せにするから…!!」
◆◆◆
「私達にとって、あの子は希望なの!!本当は、あの子さえ生きていてくれれば、この国の事なんてどうでも良かった!!一度でもあの子に会えるのなら、何も要らなかった!!」
薬師寺は、涙ながらにこの事件の真相を語った。
これが、こいつの嘘偽りない本心だ。
もしあの映像が本当で、のぞみちゃんが今もどこかで生きているのなら、今すぐにでも駆けつけて会いに行きたかった。
それが薬師寺の…いや、薬師寺と神風の動機だったんだ。
もしかしたら、もうのぞみちゃんはとっくに死んでいるのかもしれない。
それでも薬師寺は、のぞみちゃんの母親として、どうしても外に帰らなきゃいけなかった。
こいつらは、国の為に動く道具なんかじゃない。
ここにいる誰よりも、人間らしくて、外の世界に執着していたんだ。
だからこそ、ここにいる誰よりも、あの映像を信じてしまったんだ。
全てを知ってしまった今、俺は薬師寺の事を恨めなくなっていた。
俺は…俺達は、どうすれば良かったんだ。
俺達が立ち尽くしていると、無情にも奴の声が響く。
『うぷぷぷぷぷ、もう気が済んだみたいだし、そろそろアレいっちゃっていいですかね?』
「っ、おい、待て!!やめろ!!」
『やめませんやめられませーん!!もうそろそろ尺が押してるから早くしろよって圧力を感じるので、サクッとやっちゃいましょっか!』
「やめろ、やめてくれ!!」
「お願いです、モノクマさん!やめて下さいまし!」
「この下衆がぁっ…!!」
モノクマがおしおきを始めようとするのを、俺と安室、樺戸と酒蔵が止めた。
リーゼも、涙ながらに必死に訴えかけた。
すると、その時だった。
「私はまだ……全てを諦めたわけじゃない!!」
証言台の前で膝をついていた薬師寺は、その場で立ち上がると、覚悟を決めた様子でパンプスを脱ぎ、全力で走り出した。
薬師寺が裁判場の扉に体当たりすると、扉がひとりでに開く。
薬師寺は、プライドも、気品も、全てを捨てて死に物狂いで逃げた。
「行けえ!!逃げろ、逃げてくれ!!」
「薬師寺さん!逃げて下さい!」
「頑張れリョウカ!!オレ達がついてるぞ!!」
俺達は、逃げる薬師寺に声援を送った。
無駄な事だったとしても、それでも叫び続けた。
これ以上、誰かが死ぬところは見たくない。
…頼むから、どうか逃げ切ってくれ。
『キャハハハハ!療香チャンってばホンット往生際が悪いね!まあいいや、やっちゃおお兄ちゃん!』
『今回は、【超高校級の軍医】薬師寺療香サンのために!!スペシャルな!!おしおきを!!ご用意しました!!!』
『それでは張り切っていきましょう!!』
『『おしおきターイム!!!』』
「生きる、私は生きる!!何が何でも逃げ切ってやる!!私が死んだら、大和を殺した意味がなくなる!!希望の為にも私は、こんな所で死ねないんだよ!!!!」
薬師寺は、死に物狂いで逃げていた。
モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。
ボタンに付いている画面に、ドット絵の薬師寺が逃げるのを、モノクマとモノルナが追いかける様子が映っていた。
ーーー
GAME OVER
ヤクシジさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
ーーー
薬師寺は、薄暗い道を必死で走っていた。
後ろを振り向くと、迷彩柄の服を着たモノクマが、戦車に乗って追いかけてくる。
薬師寺は、再び前を向き直すと、全速力で走った。
そこで画面上に文字が現れる。
ーーー
おくすりのめたね
【超高校級の軍医】薬師寺療香 処刑執行
ーーー
薬師寺がしばらく走っていると、ギロチンのような歯がガチン!ガチン!と金属音を立てながら上下から高速で迫り出してぶつかり合っていた。
巻き込まれたら、身体が真っ二つになるのは言うまでもなかった。
薬師寺は、覚悟を決めると、二枚のギロチンの間に飛び込んだ。
何とか身体を切られずに済んだ薬師寺は、再び走り出す。
すると今度は、床が動き、壁や天井から液体が大量に噴き出す。
液体に触れると、肌が爛れた。
薬師寺は、液体に触れて手が爛れた痛みで一瞬足を止めるが、後ろからモノクマを乗せた戦車がギロチンの刃を砕きながら迫ってくると、薬師寺は液体を浴びながらも走り出した。
すると今度は、床がひとりでに動き、床から棘が飛び出す。
薬師寺は、床から飛び出した棘に足を貫かれ、痛みのあまり目を瞑る。
するとその直後、床がゆっくりと回転し始める。
薬師寺は、覚悟を決めると、棘を手で掴みながら床にしがみついて這いずった。
腹を棘で抉られ、あちこちから噴き出す液体を浴びて全身が爛れながらも、前に進んだ。
何とか動く床を渡り切った薬師寺だが、既にボロボロになっていた。
薬師寺は、フラフラになりながらも、前に進んだ。
だが、大量に噴き出す液体のせいで足が滑り、目の前にあった崖から落ちそうになる。
何とか崖壁にしがみついて落下を防いだ薬師寺だったが、崖からはキャタピラ音が聞こえてくる。
崖の下は、真っ赤な液体で満たされた池になっており、有毒なガスを放ちながらぐつぐつと煮立っていた。
池に落ちたら、死は免れない。
薬師寺は、何とか崖から這い上がろうとするが、うまく力が入らず、そのまま落ちそうになってしまう。
するとその時、薬師寺の目の前に誰かが現れる。
彼女の目の前には、彼女が外に出てでも会いたがっていた娘の希望がいた。
愛娘の姿を目の当たりにした薬師寺は、涙を流しながら娘に向かって手を伸ばす。
だがその直後だった。
戦車から飛び出した神風の格好をしたモノクマが、背後から希望の身体を何発も撃ち抜いた。
全身を撃ち抜かれた希望は、絶望の表情を向けながら薬師寺に声をかける。
「お……お、かぁ……さ…………」
希望がそのままその場に倒れると、モノクマは戦車で希望を轢き殺した。
希望は、悲痛な叫び声を上げながら肉塊へと化していく。
娘を目の前で殺された薬師寺は、絶望に堕ちた。
そのまま、崖壁が崩れ、薬師寺は下へ下へと落ちていった。
そしてついに、
――ドボンッ
落ちた。
完全に絶望した薬師寺は、抵抗する事もなく、そのまま池に沈んでいく。
池を満たす強烈な酸は、じわじわと薬師寺の肉を溶かしていく。
やがて、薬師寺の全身が池の底に沈んだ。
しばらくして、池の表面に白骨が浮かび上がる。
それを見た神風モノクマは、ゲラゲラと笑った。
そして、その近くでは、清掃員モノクマが潰れている肉塊を掃除し、近くに転がっていた希望の首を回収する。
希望の首の断面からは、バネが飛び出しており、まるでビックリ箱の中に入っている玩具のようだ。
薬師寺の目の前で殺されたのは、本物の希望ではなく、モノクマが精巧に作った人形だった。
清掃員モノクマは、希望の首も黒いゴミ袋に入れると、袋の口を縛って池に放り込んだ。
そこで画面がルーズになっていき、画面には巨大なモノルナが映る。
巨大なモノルナは、コップの水を飲み干したかと思うと、鼻水と涎を垂らし、目は上を向いて舌を垂らし、恍惚とした表情を浮かべる。
近くにあった薬剤の瓶のラベルには、『飲みすぎるとバカが感染ります。用法用量を守りましょう』とかかれていた。
『『エクストリィィィイイイイイイイイイイム!!!!』』
モノクマとモノルナは、薬師寺が殺されたのを笑いながら見ていた。
「うわぁああああああああん!!!!」
「リョウカぁあああああっ!!」
「何でだよ…!!何でまたこうなっちまうんだよ!?クソォっ!!!」
「いやっ!もう嫌ですわ!!」
「この下衆がぁっ…!!」
「あっ…あああっ…あああああ…!」
神無月と樺戸は、薬師寺が殺される光景を見て大泣きし、酒蔵は悔しそうに証言台を叩き、リーゼはもうこれ以上見たくないと言わんばかりに首を横に振り、安室はモノクマに向かって怒鳴っていた。
氷川に至っては、顔を真っ青にして今にも失神しそうになっていた。
「君達本当に悪趣味だね」
「本当。見てて不愉快」
「やくしじ……」
消灯寺と打田はモノクマとモノルナに冷ややかな視線を向けていて、六道は呆然とモニターを見上げていた。
すると梶野が、珍しくポーカーフェイスを崩してモノクマに尋ねる。
「あなた方、こんな酷いやり方で私達を殺して、何がしたいんですか。敗者を処刑したいだけなら、ここまでする必要はないでしょう?こんな、まるで見せ物にでもするような…」
『ん?何の事かな?ボクはただ薬師寺サンが悪い事したからおしおきしただけだよ?』
梶野の質問に対し、モノクマは白々しく答える。
だが前回と違ったのは、モノクマの言葉にはまだ続きがあった。
モノクマは、腹をポリポリと掻きながら話を続ける。
『…と言いたいところだけど、もう勘付いてる人はいるだろうし、ぶっちゃけちゃうとね。このコロシアイ、実は全国放送されています!』
「…はあ!!?」
俺は、思わず声を上げてしまった。
モノクマは、いきなりとんでもない爆弾を投げ込んできた。
全国放送だと…!?
だからあんなにカメラがあったのか…!
あれは、俺達の行動を監視する為のカメラじゃない。
コロシアイの様子を生中継する為のカメラだったんだ。
『うぷぷぷ、オマエラが無様に泣き喚く様は、全国の皆さんにちゃんと見てもらってるからね。おかげで視聴率バッチリですわ〜』
「てめぇ…!何て悪趣味な事しやがる!?人の命を何だと思ってるんだ!?」
「何故そんな事をする?返答によっては発砲するぞ」
モノクマがゲラゲラ笑いながら言うと、酒蔵はモノクマを指差して怒鳴った。
打田も、モノクマに向かって殺気を放ちながら銃を抜いていた。
ほとんど全員が、衝撃の事実に困惑しつつも、仲間の死を娯楽にしているモノクマに対し怒りを抱いていた。
だがそんな中、的凪は至って冷静な表情で、腕を組んだままモノクマに尋ねる。
「…ふぅん。まあ、そんな事だろうとは思ってたよ。でもさ、ボクが知りたいのはそんな事じゃないんだよね」
『ほぇ?』
「薬師寺さんの動機映像を見て、ようやく点と点が繋がったよ。ところで、
的凪は、唐突に意味のわからない質問をした。
すると、モノクマは数秒間固まる。
そして口元に両手を当て、不気味に笑った。
『うぷぷぷ…気付いちゃいました?神風クンと薬師寺サンに仲良くコロシアイをしてもらう為に用意した映像とはいえ、流石にちょっと無理がありすぎたかぁ。それじゃあ、答え合わせをするとね。実は、オマエラが希望ヶ峰学園に入学してからもう10年経ってるんだよ!』
「「「「はあ!!!?」」」」
今度は、ほとんど全員が声を揃えて驚いた。
最長でも1ヶ月くらいは経ってると思ってたけど、10年だと…!?
…いや、惑わされちゃいけない。
そんなの、誰が証明できる?
これも、本当だなんて証拠はどこにも無いじゃないか。
「じゅ、じゅじゅ、10年!?は!?待って!?ちょ、信じらんないんだけど!?」
安室は、驚きが勝ったせいか口調が素になっている。
「10年も経ってる?そんな話、信じるわけない」
「そ、そんな話信じねえからな!」
打田と酒蔵も、モノクマの話には懐疑的だった。
すると梶野が口を開き、モノクマに尋ねる。
「なるほど…入学から10年経っているなら、あの映像も矛盾しませんね。ですが、そうすると新たに疑問が出てきますね。私達の10年間の記憶はどこに行ったんです?それに入学から10年経っているとすると、あまりにも外見に変化が無さすぎやしませんか?体格や髪型はともかく、服装まで全く同じというのは一体どういう事なのでしょう?」
『その辺は、アレだよ!サザエさんやちびまる子ちゃんだって歳を取らないでしょ?それと一緒です!』
「あーそうですか、って納得できるかあ!!」
梶野の質問に対してモノクマがあまりにも無理のある返答をすると、安室がツッコミを入れる。
『ああもう面倒臭いな!最近の若いもんはわからない事があるとすぐに答えを聞こうとするんだから!ちょっとは自分の頭で考えなよ!裁判は終わったんだからとっととお帰りやがって下さい!』
『キャハハハ!無事学級裁判を生き残ったアンタ達には、モノクマメダルを差し上げますので、お好きに使いやがってください!じゃ〜ね〜!』
そう言ってモノクマとモノルナは、強引に話を終わらせて消えていった。
するとその時、空気を読まずに口を開く奴がいた。
「はあーあ、やっと終わった。それじゃ、帰ろっか千春ちゃん」
「うっせえだまれきえろ一人でかえれ」
的凪は、まるで他人事のように笑いながら六道に声をかける。
すると六道が毒を吐いてきたので、的凪はニコニコ笑いながら無言でエレベーターに乗り込み、一人で帰っていった。
的凪が帰った、その直後だった。
「う、うぅ…療香ちゃん…うぁあぁあああぁあ…!」
神無月は、その場に膝をついてボロボロと泣いた。
神無月は、前から着物の着付けをしてもらったりと、何かと薬師寺に優しくしてもらっていた。
たとえ殺人の罪を着せてきた相手でも、神無月にとっては大切な友達だったんだ。
大切な友達を失って、今になって感情が溢れ出したんだろう。
俺も、あんな風に感情を表に出す事ができたら、少しは楽になれたんだろうか。
その後、他の皆も、ホテルに帰っていった。
俺は、薬師寺の為に祈っている消灯寺に声をかけた。
「消灯寺。お前には今、あいつらはどう見えてるんだ?頼む、教えてくれ」
「……薬師寺さんは、ずっと神風くんに謝ってる。『ごめんなさい』って。神風くんは…薬師寺さんを抱き寄せて背中を摩ってる」
消灯寺は、しばらく薬師寺の証言台の近くを見つめた後、ポツリと呟いた。
「…凄いなぁ。普通、誰かに殺された人は、殺した相手の事を恨むものなのに。神風くんにとって薬師寺さんは、本当に大切な人だったんだね」
「大切な人、か…」
俺にとっても、あいつらは、大切な友達だった。
でもあいつらにとって俺達は、大切な友達だったのかな。
俺は、あいつらの事を知った気になって、何も知らなかった。
もしこんな形じゃなく、普通にクラスメイトとして出会えていたら、何も隠し事をせずに笑い合える、本当の友達になれていたのかな。
帰り際、ふと振り向くと、消灯寺の言う通り、蹲って泣いている薬師寺に、神風が寄り添っているのが見えた気がした。
Chapter.2 希望のためなら死ねる ー完ー
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《アイテムを入手した!》
『星空のイヤリング』
Chapter2クリアの証。
薬師寺の遺品。
神風がかつて薬師寺にプレゼントしたもの。
二人で過ごした思い出が詰まっている。
ーーー 生存メンバー ーーー
【超高校級の小説家】
【超高校級のオルガニスト】リーゼロッテ・ベルゲングリューン
【超高校級の原型師】
【超高校級の心霊学者】
【超高校級のディーラー】
【超高校級のカルタ師】
【超高校級のグラシエール】
【超高校級のソムリエ】
【超高校級のカバディ選手】
【超高校級の狙撃手】
【超高校級の幸運】
【超高校級のゲームプログラマー】
ノコリ12人
ーーー 死亡メンバー ーーー
【超高校級のギャル】
【超高校級のプロレスラー】
【超高校級の絵本作家】
【超高校級のヒットマン】
【超高校級の司令官】
【超高校級の軍医】
以上6人
推しがいたら教えてくんなまし
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東野潤_小説家
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暗野斬良_???
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殉前詩乃子_ギャル
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神風大和_司令官
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薬師寺療香_軍医
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リーゼロッテ_オルガニスト
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安室明日奈_原型師
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消灯寺霊庵_心霊学者
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山脇ゆか_絵本作家
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梶野運命_ディーラー
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神無月椛_カルタ師
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氷川みるく_グラシエール
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酒蔵飛露喜_ソムリエ
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樺戸ラムジ_カバディ選手
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内闘力也_プロレスラー
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打田清美_狙撃手
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的凪梢_幸運
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六道千春_ゲームプログラマー
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モノルナ_引率教師