インフィニティダンガンロンパ6 ようこそぼくらのコロシアイ強化合宿 作:M.T.
side HK
わたしは、ずっといじめられてばっかりだった。
誰かに愛された事なんて、一度もなかった。
「お前は外を出歩くな。外に出すのも恥ずかしい」
お父さんとお母さんには、『家の恥だ』と罵られて、外に出る事も許されなかった。
「おらぁ!くらえ!ブサイクメスオーガひっさつパーンチ!」
小学生の頃、クラスの男子には毎日のように殴られた。
「ほら、可愛くしてやったぞ。ありがたく思えよクソブス」
「これで少しは綺麗になったかしらぁ、メスオーガちゃん」
中学生の頃、クラスの女子には顔に落書きされたり、トイレの上から水をかけられたりした。
わたしは、病気のせいで生まれつき筋肉が肥大化していて、そのせいか『ブサイク』『オーガ』とあだ名をつけられていじめられてきた。
勉強や運動はいっつも下から数えた方が早くて、気が小さくて鈍臭くて頭も良くないから、友達なんて1人も出来なかった。
家が貧乏で、それなのに普通の人よりも多く食べるから、お父さんとお母さんからも疎まれて、誰からも愛されなかった。
「あんたさ、メスオーガみたいな見た目してるくせして何でそんなにヘタレなの?見ててイライラするんだけど」
そんな中、隣のクラスの神無月さんに出会った。
最初は、他の皆みたいに、わたしをいじめてくる怖い人だと思ってた。
でも、神無月さんだけは違った。
「あんた、何してんの?あんな事言われたくらいで死ぬとか、バカじゃない?」
わたしがいじめに耐えかねて自殺しようとしていた時、神無月さんが声をかけてきた。
神無月さんは、自殺しようとしていたわたしに身の上話をしてくれた。
「あたいさ、クソ親父が他所で作った子供だから家族によく思われてなくてさ。奴隷みたいにこき使われてんだよね。あたい、カルタの大会で優勝しまくってお金いっぱいもらって、いつかあんなクソ家出て行くんだ」
その話を聞いて、初めて気がついた。
神無月さんは、他の皆とは違う。
彼女も、こっち側の人だったんだ。
「みるくちゃん、いっつもうじうじしててホントイライラするからさ。あたいが人に舐められない方法教えてあげる!」
神無月さんは、おばあちゃん以外の誰からも愛されずに育ったから、わたしの事を誰よりもわかってくれた。
言い方や態度は怖いけど、わたしをいじめっ子から守ってくれたし、いっつも友達のいないわたしに構ってくれた。
本当は誰よりも優しい人。
別々の高校に進学してからも、わたし達は友達同士だった。
二人だけの関係が、ずっと続くと思ってた。
…あいつが現れるまでは。
「神無月さん、わたくしで良ければお手伝いしますわ」
コロシアイ生活が始まってから、リーゼさんが出しゃばってきた。
今まで安室さんや消灯寺くんと仲良くしてたくせに、いきなり神無月さんに絡んでくるようになった。
神無月さんも神無月さんで、すぐにリーゼさんに懐くようになった。
それを見る度に、わたしは目の前が真っ赤になった。
許せなかった。
わたしが17年かけてやっと見つけた居場所を、あいつはたったの数日で簡単に奪い去っていった。
わたしが欲しいものを、全部持ってるくせに。
神無月さんの苦しみを、わかってあげられないくせに。
いじめられて、疎まれた事なんかないくせに。
生きやすく生まれただけのくせに。
「ふ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
許せない…殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロス!!!
◆◆◆
side L
「どうせ審査員を買収したんだろ?」
「お金持ちのお嬢様だもんね、どうせ私達の事見下してるんでしょ」
私の家は、公爵家を起源に持つ音楽家の一族で、私自身も音楽家として幼い頃から厳しい教育を受けてきました。
ベルゲングリューン家の娘として生を受け、人生を音楽に捧げてきた事、それ自体は誇りに思っています。
ですが、私がコンクールで最優秀奏者に選ばれる度に、『家の力で優勝した』などと噂されるのが苦痛でした。
『ガラス細工のお人形』、それが私に対する皮肉でした。
丁重に扱わないといけない、昔から級友にそう思われてきました。
お父様やお母様から愛されて、自分の実力を最大限磨ける環境に身をおきながら、贅沢な望みだとはわかっているんです。
ですが、家柄や財力が一切通用しない、私自身の実力だけが物を言う世界に身を投じてみたかったんです。
そんな私に、奇跡が舞い降りました。
それが、希望ヶ峰学園からのスカウトです。
希望ヶ峰学園は、富豪も貧民も分け隔てなく、世界中の才能豊かな生徒が入学してくる。
生い立ちや肩書きに関係なく、実力が試される場所です。
希望ヶ峰学園からのスカウトが来た時は、私という一人の人間が認められた気がして、本当に嬉しかったんです。
ここに来て、クラスメイトになるはずだった人達を何人も失いました。
それでも、私と同じ入学生とお友達になって一緒に過ごした時間は、私にとってはかけがえのない青春でした。
「〜♪〜♫」
ふぅっ、生き返りました。
モーテルのシャワーの調子が悪かったので、どうしようかと困っていたのですが…
よく考えれば、プールにもシャワールームがあるんでしたね。
的凪さんに言われるまで、忘れていました。
「ふぅっ」
ふぅ、さっぱりした。
そろそろモーテルに戻ろうかしら。
身体の泡を綺麗に流して、シャワールームから女子更衣室に移動する。
タオルで水気を拭き取り、髪を高い位置で括ってタオルを巻き、新品の下着を身につけ、そのまま服を着ようとした、その時でした。
「あら、氷川さん。お忘れ物ですか?」
氷川さんが、更衣室に入ってきました。
私が氷川さんに声をかけようとした、その瞬間でした。
バチバチバチッ!!
「っ!!?」
突然氷川さんが詰め寄ってきて、何かを首に押し当ててきました。
す、スタンガン…!?
氷川さん……どう……し………て………
「………ぅ」
私は、誰かが話している声で目を覚ましました。
まるで何者かに身体を弄られているような感覚を覚え、目を開けようとした、その時でした。
「っ!?ガハッ、ゲホッ…!ガフッ…」
突然、衝撃と共に喉に激痛が走った。
苦しい…息ができない…!
「……ガフッ…カヒュッ………」
薄れゆく意識の中、私の目には二人の人影が映った。
一人は氷川さん、そしてもう一人は……
………誰…?
◆◆◆
side SH
「………?」
何だろう。
今、リーゼさんの霊圧が弱まった気がする。
……もしかして、彼女に何かあったんだろうか。
一人じゃ不安だけど…様子を見に行こう。
僕、そもそも頼れる人いないし。
僕は、リーゼさんの魂を頼りに、リーゼさんを探しに行った。
僕がバックヤードに辿り着いたその瞬間、信じられない光景が目に飛び込んできた。
「リーゼさん…!?」
リーゼさんが、首とお腹から血を流した状態で倒れていた。
僕がリーゼさんに駆け寄ろうとしたその時、誰かが勢いよく僕に突っ込んできた。
僕は咄嗟に受け身を取ろうとしたけど、間に合わずにそのまま突き飛ばされた。
「がはっ…!」
突き飛ばされた僕は、近くにあった機械に思いっきり脇腹を打ちつけて血反吐を吐いた。
痛い…多分これ、今ので内臓破裂したかな…
僕が顔を上げると、そこには刃物を持った氷川さんが水着姿で立っていた。
氷川さん…どうして君が……?
氷川さんがそのまま僕に襲い掛かろうとしてきたので、僕は咄嗟に彼女を金縛りにした。
「ふぎいいいいいっ!!?な、何よこれ!?」
僕は、氷川さんが動けない間に、脇腹の激痛で思うように動かない身体に鞭打ってリーゼさんに歩み寄ろうとした。
だけど、その時だった。
「ぎぃいいいいいっ!!!」
「がっ…!?」
突然、お腹に衝撃と共に激痛が走った。
氷川さんが、刃物の刃を上に向けて持った状態で僕に体当たりを仕掛け、刃物が僕のお腹に深く刺さった。
力が弱まっていたとはいえ、金縛りを無理矢理解くなんて…なんて馬鹿力なの…!?
僕が刺された拍子に躓いて転ぶと、氷川さんはさらに畳み掛けるように僕の背中を刺してきた。
「ふ゛ぅ゛う゛う゛!!ふ゛ぅ゛う゛う゛!!」
「あ゛…がっ……!」
僕は、氷川さんに何度も刺され、血を大量に失って、意識が朦朧とした。
薄れゆく意識の中、僕は悟った。
…そっか。
僕、死ぬのか。
別に、死ぬ事は怖くないし、死にたくないとも思わない。
小さい頃から、人はいつかは死ぬものだと教えられてきた。
今回は、僕にその番が回ってきた、たったそれだけの事だ。
だけど、今になって初めて気づいた事がひとつだけあった。
僕は、リーゼさんの事が好きだったのかもしれない。
それが友情だったのか、恋愛感情だったのかは僕にもわからない。
だけど、目を輝かせながら僕の話を聞いてくれて、僕の知らない事を教えてくれた彼女が、僕にとってはすごく眩しくて、ここにいる誰よりも大切な人だったんだ。
「リーゼ…さん……」
僕は、最後の力を振り絞って、リーゼさんのところへ這いずった。
僕が死ぬのはいい。
だけど、彼女が苦しみの中で死んでいって、成仏できないまま現世を彷徨い続けるのだけは嫌だ。
こうなったら、最後の手段を使うしかない。
僕は、リーゼさんの唇に、自分の唇を重ねた。
大切な人に自分の命を分ける、僕の家に代々伝わる禁術だ。
望みは薄いけど、ほんの少しでも生き永らえさせる事ができれば、誰かがリーゼさんを助けてくれるかもしれない。
僕は、残りの命を全部彼女に注ぎ込もうとした。
だけど、術が効果を発揮する事はなかった。
リーゼさんは、最後に一筋だけ涙を流して事切れた。
死んでしまった人には、術は使えない。
僕ももう、じきに死ぬ。
…ごめんね、リーゼさん。
助けてあげられなくて。
今、そっちに行くからね。
◆◆◆
VOTE
氷川みるく 9票
リーゼロッテ 1票
『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級のオルガニスト】リーゼロッテ・ベルゲングリューンサンと【超高校級の心霊学者】消灯寺霊庵クンを殺した殺意MAXクレイジーサイコキラーは、【超高校級のグラシエール】氷川みるくサンでした!』
『キャハハハ、三連続正解なんて、アンタ達やるぅ〜!そして今回は、なんとクロのみるくチャン以外全員正解でした〜!…ああでも、リーゼチャンに投票したみるくチャンは、どういうつもりなのかしらん?』
「わたしじゃない!!わたしは悪くない!!全部あの女が悪いのぉぉぉ!!!」
氷川は、泣きながらリーゼの証言台を指差した。
どうして氷川は、こんなにもリーゼの事を恨んでいるんだろうか。
あんなに優しかったリーゼが、氷川に恨まれるような事をしたっていうのか?
「全部リーゼちゃんが悪いって…何言ってんのみるくちゃん!ちゃんと説明してよ!リーゼちゃんに何されたの!?」
「ひかわ、おまえ……なんでリーゼとしょーとーじを殺したの?別に、見立て殺人をする為にターゲットを選んだってわけでもないでしょ?」
「ボクもそれ気になるなぁ。氷川さんはやたらとリーゼさんを目の敵にしてるみたいだけど、彼女にどんな因縁があったの?」
神無月と六道と的凪は、氷川にリーゼと消灯寺を殺した理由を尋ねた。
だけど氷川は、皆の質問に答える事はなく、顔を掻きむしりながら悲鳴を上げた。
「う゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!ふ゛ぅ゛う゛う゛う゛う゛う゛!!!」
「いや、『ふ゛う゛う゛』じゃなくてさ。ちはるちゃんが質問してるんだから、発作起こしてないでちゃんと人語で説明しろよ」
発作を起こして泣く氷川を、的凪は冷淡に責め立てる。
的凪…お前、何か氷川に対して冷たくないか?
『うぷぷぷ、本人が語れる状況じゃないみたいなので、ここからはボクが説明しますよっと』
「うん、是非ともそうしてもらえるとありがたいかな」
「てめぇ…!」
モノクマの発言に対し、的凪が腕を組みながら笑顔で答えると、酒蔵が的凪を睨む。
『ではでは、こちらのVTRをご覧ください!』
そう言ってモノクマは、別の映像を再生し始める。
モニターには、幼い少女と、夫婦と思われる男女が映し出された。
◇◇◇
昔々、あるところに氷川和三・玉子という夫婦がいました。
二人ともパティシエで、専門学校卒業後に念願だったスイーツ店を開いたのですが、二人とも経営センスが絶望的にクソだったので店はあっという間に赤字になり、新婚早々貧乏生活を強いられる事になりました。
店を続けながらギリギリのところで生活していた二人は、子供が産まれれば生活に希望が持てると思っていましたが、なかなか子宝に恵まれずに30代後半に突入してしまいました。
ですが17年前の5月、ようやく二人の間に念願だった女の子が産まれました。
二人は、娘にみるくと名前をつけて可愛がりました。
ですが二人の娘は、成長するにつれ筋肉が肥大化し、醜悪な見た目へと変貌を遂げました。
彼女は、生まれつき不治の奇病を持っていたのです!
おまけに娘は頭も要領も悪く、両親は次第に娘に失望するようになりました。
幼い少女の悲劇は、これだけにとどまりませんでした。
彼女のクラスメイトは、少女の醜さや要領の悪さをバカにして、彼女をいじめたのです。
家では厄介者として疎まれ、学校では壮絶ないじめを受け、少女の性格は屈折に屈折を重ねていきました。
そんな中彼女が出逢ったのが、神無月椛という少女でした。
神無月サンは、少女とは性格は正反対でしたが、妾の子という理由で家に居場所がなく、家では少女以上に酷い扱いを受けていました。
神無月サンが自分と同じ、人に愛されなかった哀れな存在であると知った少女は、神無月サンに傾倒するようになりました。
少女は、唯一自分と分かり合えた神無月サンとの関係を守り続ける事に執着し、それを引き裂こうとする人間を殺さんと暴走する哀しきモンスターへと成り果ててしまいましたとさ!でめたしでめたし!
◇◇◇
『キャハハ!みるくチャンは、リーゼチャンが椛チャンと仲良くしてたのが許せなかったみたいなんだよね!』
「は……!?」
モノクマとモノルナが氷川の動機を発表すると、自分が今回の事件の原因であると知らされた神無月は、目を見開いて放心した。
そして安室は、氷川に対して殺気を剥き出しにしながら睨みつけた。
「なっ…!?貴様、そんなくだらない理由でリーゼロッテと消灯寺を殺したというのか!?」
「くだらないって何ですか!!!!」
安室が氷川を責めると、氷川はバンッと思いっきり証言台を叩きながら怒鳴った。
「わたしがどれだけ苦しかったか…何度死にたいと思ったか、どれだけ自分の身体を恨んだか、知らないくせに!!見放されて、いじめられて、奪われて、犯されて…っ、醜く生まれる事がどんなにつらい事か、考えた事もないくせに!!」
「なっ…そ、それとリーゼやレイアンは何の関係も無いだろうが!!」
「貴様の憂さ晴らしに、二人を巻き込んだのか!!」
氷川が涙ながらに恨みを吐き捨てると、樺戸と安室が反論する。
すると氷川は、血走らせた目をひん剥きながら叫んだ。
「だってあの女は!!神無月さんに馴れ馴れしく話しかけて、わたしの居場所を奪おうとしたのよ!?」
居場所を奪ったって…
確かに、ここ最近神無月とリーゼは、一緒にカルタをしたり、お菓子作りしたり、仲良くしてたけど…
それだけで殺したっていうのかよ…!?
「生きやすく生まれたくせに…神無月さんの苦しみを、何一つわかってあげられないくせに…お金も、美貌も、友達も、わたしが欲しいもの、全部持ってるくせに!!何であいつはまだ欲しがるの!?わたしがやっと手に入れたものを、どうして奪っていこうとするの!?世の中、お金と見た目が全てだとでも言いたいの!!?」
「氷川ちゃん…」
「だから殺してやったのよ!!わたしの受けたのと同じ苦しみを味わわせなきゃ、気が済まなかった!!」
氷川…
そういう事か。
だからお前は、リーゼが許せなかったのか。
氷川がリーゼを殺した理由、それは嫉妬だ。
家が貧乏で、不幸な人生を歩んできて、自分の事を醜くて劣っている人間だと思っている氷川にとって、金持ちで、容姿や能力に恵まれて、皆に愛されて育ってきたリーゼは、到底受け入れられない存在だった。
自分と同じように不幸な人生を歩んできた神無月に出会って友情が芽生えたのに、氷川が長い時間をかけて築いてきた絆を、リーゼはたった数日間で築いてしまった。
それで自分が完全否定された気分になって、リーゼに殺意を抱いたんだ。
真相を知ってしまった今、俺は氷川を恨む事ができなくなってしまった。
これは、氷川の一方的な嫉妬による、哀しい事件だ。
「…うん!とりあえず最後まで黙って聞いてみたけど、ほんっとくだらないね」
的凪は、腕を組んだまま笑顔で言い放った。
的凪は、そのまま自分の考えを氷川に話す。
「要は、『自分が神無月さんの最高の理解者でありたい、神無月さんと二人きりで傷の舐め合いをしていたい、それを邪魔する奴は認めない』って事でしょ?ひとつ聞くけどさ、氷川さんは、リーゼさんが神無月さんや他の皆と仲良くなった理由は、お金と容姿が全てだと本気で思ってるの?」
「へ…ぁ……?」
「氷川さんは脳味噌の出来が猿以下だからわからないようだけど、神無月さんがリーゼさんに懐いた理由はたった一つだよ。『求めるものが同じだった』、ただそれだけ」
「神無月さんが求めるもの…?それは、カルタで見返して大人に復讐する事でしょ…?」
「はぁ…本当にキミは何もわかっちゃいないんだね。大人に復讐したいだけなら、もっと手っ取り早くて効率的な方法はあったよね?神無月さんがカルタに没頭した本当の理由は、復讐なんかじゃなかったんだよ。彼女が本当に欲しかったものは、『対等』だよ」
「対等…?あの女も神無月さんも、『対等』が欲しかったとでも言いたいの!?そんなわけないじゃない!!わたしの大切なものを奪っていくあいつが『対等』を欲しがってた!?バカな事言わないで!!」
的凪が言うと、氷川が目を血走らせながら反論する。
するとモノクマが呆れ気味に話し始める。
『はぁ〜…まったく、そうやって自分が正しいと思い込んで人の話を聞かないから人に嫌われるんだよ氷川サン!的凪クンの言う通り、神無月サンとリーゼサンが欲しがっていたものは『対等』。それ以上でも以下でもなかったんだよ』
『リーゼチャンは、音楽の名家に生まれて、家族や使用人から愛されて、好きな楽器の道に没頭して、コンクールを総ナメして、一見順風満帆な人生を送ってたんだけどね。リーゼチャンがコンクールで最優秀奏者に選ばれる度に、こんな噂が立ったんだよ。『審査員を買収した』、『家の力で優勝した』ってね。信じてた友達にあらぬ噂を流されたリーゼチャンの心は、次第に荒んでいったのよ』
『うぷぷぷ、リーゼサンもバカだよねぇ。そんな苦し紛れの負け惜しみを真に受けちゃってさ。周りが本気でそんな事を思ってたわけないのに』
『あの子は、行き過ぎた家庭環境と才能のせいで周りから恨みを買って、自分の努力が認められない事を歯痒く思ってたんだよ。ま、必要以上に恵まれすぎたが故の弊害よね』
俺は、モノクマとモノルナの言う事に納得してしまった。
リーゼだって、決して氷川が思っているほど楽しい事ばかりの人生を送ってきたわけじゃない。
いい結果を残そうと努力すればするほど、それをよく思わない奴等にあらぬ噂を流されてきた。
噂を流した奴等だって、本当はリーゼが家の力になんか頼らず努力して結果を出してきた事くらい、わかってたはずなんだ。
だけど、あいつ自身の才能が、ライバル達に素直に努力を認めさせる事を許さなかった。
『本物の天才は努力を努力と思わない』って事を認めちまったら、自分の人生が無駄だったと思い知らされる気分になるから。
だから周りの奴等は、あいつが『家の力を使って優勝した』と思い込む事にした。
少しでもあいつを下げないと、やってられなかったんだ。
だけど、リーゼは周りの僻みを真に受けて、音楽の道で勝ち続ける事に嫌気が差してしまった。
だからこそ、『家の力を使った』なんて言い訳が通用しない対等な関係を望んだ。
対等な関係を望んでいたからこそ、金や名声に興味がない消灯寺や、職人気質の安室と、自然に惹かれ合った。
境遇は違えど求めるものが同じだったからこそ、家で奴隷のように扱われたから対等な関係を望んだ神無月と、打ち解ける事ができたんだ。
「そんな…あの女と神無月さんが、対等…?そんなわけない!!そうでしょ、神無月さん!?」
氷川は、神無月に縋るように尋ねる。
すると神無月は、ポロポロと涙を流しながら話し始めた。
「みるくちゃん。あたいさ、みるくちゃんにあたいの事わかってほしかったわけでも、召使いになってほしかったわけでもなかったんだよ。みるくちゃんの事友達だと思ってたの、あたいだけだったんだね」
「か、神無月さん…」
「リーゼちゃんさ…カルタは下手くそだったけど、負ける度に『もう一回やる』って言ってきてさ。あたいから一枚取るまで何回もやって…その時あたい、本当に楽しかったんだよ。リーゼちゃんと霊庵ちゃんを殺したみるくちゃんなんか、大っ嫌い!!この人殺し!!」
神無月は、涙ながらに氷川を責めた。
すると安室も、氷川を睨みながら責める。
「黙って聞いていれば、本当にくだらない理由だな…!!自分の不幸に人を巻き込みたかっただけか!?ふざけるな!!貴様の受けた傷と犯した罪は、何の関係もないだろうが!!」
「うぐぅううっ…!!」
神無月と安室が氷川を責めると、氷川は仲間に嫌われた絶望で顔をグシャグシャにする。
するとそこへ、的凪がさらに追い打ちをかける。
「恵まれなかったが故に『対等』を望んだ神無月さんと、恵まれすぎたが故に『対等』を望んだリーゼさん。お互い境遇が正反対だからこそ、同じものを求めたんだよ。可哀想に…一番神無月さんの事を理解してなかったのは、氷川さん、キミだったんだね」
「ぎぃいいいいっ!!!何で的凪くんまであいつの味方をするのぉおお!!?」
「リーゼさんの味方?アハハ、まさか、違うよぉ。ボクはただ、キミの敵ってだけだよ」
「は……?」
「キミは、たかだか動機の為だけに、関係ない千春ちゃんを襲って殺そうとしたよね?これは赦されない大罪だ。何度でも言ってやるよ、氷川さん。ボクは、キミの事が、ここにいる誰よりも大嫌いだよ」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
的凪が満面の笑みを浮かべながら言うと、氷川は大粒の涙を流して泣いた。
すると、他の皆も次第に何の落ち度もないリーゼと消灯寺を殺した氷川への恨みを募らせていく。
「…確かに、安室様の言う通りですね。いじめられたから何をしてもいいなんてロジックは、存在しませんよ」
「あの世で二人に詫びるんだな…!!」
「こいつ、絶対コロシアイが無くても同じ事してたじゃん。引くわ」
「みるく、オマエふざけんなよ!!!そんな理由でリーゼとレイアンを殺しやがって!!」
「…ごめん、氷川ちゃん。女の子いじめるようなマネはしたくねえけど、こればっかりは擁護できねえわ」
「モノクマ!こいつさっさと処刑しちゃってよ!もう顔も見たくない!!」
「う゛ぇ゛っ、あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」
俺と六道以外の皆が、氷川を責めた。
特に大切な友達を殺された神無月と安室は、氷川の処刑を望んでいた。
氷川は、いじめの記憶がフラッシュバックしたのか、証言台に何度も頭を叩きつけ、その場で激しく嘔吐した。
…もう、見ていられなかった。
俺達の絆は、こんなに脆いものじゃなかったはずだろ…?
頼むから、死ねとか処刑しろとか、そんな酷い言葉、簡単に言わないでくれよ…!
「みんな、もうやめろよ!!」
俺は、我慢ならなくなって、証言台を叩きながら叫んだ。
「確かに、氷川は自分勝手な理由でリーゼと消灯寺を殺した。これは、絶対に許しちゃいけない事だ。でもさ…氷川がそこまで追い詰められてたって事を、どうしてわかってやれないんだよ…!?氷川の心の溝を取り払ってやれなかった俺達にだって、責任はあったはずだろ!?処刑しろなんて…そんな簡単に言うなよ!!」
俺が言うと、皆が静まり返る。
すると六道も、眠そうな目をこすりながら口を開く。
「確かに…生きて償わなきゃいけない罪も、ある…と思う。自覚がないなら尚更だ。………ただしくそなぎ、テメーはダメだ」
六道…最後の一言が無ければ、いい事言ってくれてたのに。
俺と六道の言葉で、皆がようやく冷静さを取り戻した。
だけどそこへ水を差すかのように、モノクマとモノルナが口を挟んできた。
『うぷぷ、バッカみたい!東野クンと六道サンってば、何いい人ヅラしちゃってんの?そいつは何の落ち度もない二人を殺した最低最悪の殺人犯だよ?皆に恨まれながら死んでいく、それでいいじゃん!』
『しかも千春チャンに至っては、危うくみるくチャンに殺されるところだったんだよ?庇わなくていいじゃんこんな奴!』
「お前ら…!!」
『はいはい、今回尺取りすぎて早く進めろよって声がどっかから聞こえてきてるので、そろそろアレいっちゃいますよ!』
「っ!?おい待て、やめろ!!」
『今回は、【超高校級のグラシエール】氷川みるくサンのために!!スペシャルな!!おしおきを!!ご用意しました!!!』
『それでは張り切っていきましょう!!』
『『おしおきターイム!!!』』
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」
モノクマとモノルナの声が響く中、氷川は発狂して泣き喚いていた。
モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。
ボタンに付いている画面に、ドット絵の氷川をモノクマとモノルナが連れ去る様子が映っていた。
ーーー
GAME OVER
ヒカワさんがクロにきまりました。
おしおきをかいしします。
ーーー
氷川は、首に首輪をつけられると、そのままチェーンでどこかへと引き上げられた。
氷川はそのまま、海の家を模した処刑場へ連れて行かれる。
麦わら帽子を被ったモノクマが、海の家に『氷』と書かれた旗を下げる。
そこで画面上に文字が現れる。
ーーー
いちごみるくのかき氷
【超高校級のグラシエール】氷川みるく 処刑執行
ーーー
処刑場に連れて来られた氷川は、そのまま巨大な冷蔵庫に放り込まれる。
モノクマは、勢いよく冷蔵庫の扉を閉めると、外側から鍵を閉めた。
氷川は、内側から冷蔵庫の扉を何度も叩くが、冷蔵庫は分厚い鉄の扉で出来ていてびくともしない。
海の家では、モノクマが巨大なかき氷機でかき氷を作っていた。
店の前には、客と思われるモノクマ達が大勢押し寄せている。
そんな中、最前列に並んでいたモノクマが、『いちごみるくのかき氷』を注文する。
それを聞いたモノクマは、かき氷機のハンドルを回して氷を削り始めた。
透明なカップには、削られた氷の山ができる。
一方で、冷蔵庫に閉じ込められていた氷川は、極寒の中で身を縮こまらせて凍えていた。
氷の山が三分の一ほどできたところで、かき氷を作っていたモノクマは、一緒に海の家で働いているモノルナに声をかける。
するとモノルナは、冷蔵庫を開けて氷川を引っ張り出した。
モノルナは、氷川をステンレスでできた拷問用の椅子に無理矢理座らせる。
氷川が座った瞬間、椅子の座面や背もたれから無数の剣が飛び出す。
剣がさほど長くない上に氷川の筋肉で止められ、血を流しこそしたものの致命傷にはなり得なかった。
だが身体中に剣が刺さった氷川は、激痛のあまり泣き喚く。
氷川の身体から流れた血が、削られた氷の山の上に降りかかる。
モノルナは、今度は氷川の椅子についたハンドルを思いっきり回した。
すると氷川の座っていた椅子が高速回転し、気分が悪くなった氷川は胃液をぶちまけ、吐瀉物が氷の上に降りかかる。
氷川を痛めつけたモノルナは、氷川を拷問用の椅子から解放し、再び冷蔵庫に放り込んだ。
全身を刺された氷川は、冷蔵庫の中で凍えて蹲る。
モノクマは、再び氷を削り始める。
氷の山が三分の二ほどできたところで、モノクマは再びモノルナを呼んだ。
モノルナは、再び氷川を冷蔵庫から引っ張り出して椅子に座らせた。
そして不気味な笑みを浮かべながら、手元のスイッチを押した。
すると氷川の両腕と両脚に鉄製のカバーのようなものが取り付けられ、ウィィィィンと機械音が鳴り響く。
氷川の両腕と両脚はカバー型の機械の中でプレスされ、さらには切断される。
両腕と両脚を失った激痛で、氷川は涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら泣き喚いた。
氷川の四肢から流れた血と、ミンチになった四肢が、氷の山に降り注ぐ。
モノルナは、今度は巨大な木槌で氷川の腹を思いっきり殴打する。
すると氷川は、大口を開けて血の混じった吐瀉物をぶちまけ、吐瀉物が氷の山に降り注ぐ。
モノクマが合図を送ると、モノルナは再び氷川を解放して冷蔵庫に放り込んだ。
四肢を失い極寒に晒された氷川に、もはや正常な意識は無かった。
モノクマは、再び氷を削り始める。
やがて、全ての氷を削り終え、透明の容器にこんもりと氷の山ができた。
モノクマがモノルナを呼ぶと、モノルナは再び氷川を冷蔵庫から引っ張り出した。
そして氷川を、鉄の処女のような拷問器具の中に放り込む。
モノルナは、満面の笑みを浮かべながら、扉を勢いよく閉めた。
扉が閉まる寸前、氷川はモノルナの満面の笑みを見てかつて自分をいじめたいじめっ子の顔がフラッシュバックし、絶望の表情を浮かべて発狂した。
そして…
バタンッ
鉄の処女の扉が、勢いよく閉まった。
氷川を閉じ込めた鉄の処女は、ウィィィィンと機械音を立てながら激しく振動する。
鉄の処女の台座に設置されたランプは赤く点滅しているが、やがて、ピーーーーーという機械音と共にランプが緑色に点灯する。
その瞬間、台座の底部に設置された蓋が開き、大量の血と肉塊が氷の山に降り注ぐ。
モノクマは、血まみれの氷の山に練乳とホイップクリームをかけてお客に提供した。
だが客モノクマは、かき氷が出てくるのが遅い事に腹を立て、束になって海の家のモノクマに襲いかかった。
大勢のモノクマが暴れた事で、海の家は文字通りペチャンコに潰れ、モノクマが作ったかき氷も無残に踏み躙られた。
『『アイスクリィィィイイイイイイイイイイム!!!!』』
モノクマとモノルナは、氷川が殺されたのを笑いながら見ていた。
誰も、声は上げなかった。
『いやぁ〜、これまで以上に救いようのないクズでしたねぇ』
『キャハハハ!そうねお兄ちゃん!というわけで無事学級裁判を生き残ったアンタ達には、モノクマメダルを差し上げますので、お好きに使いやがってください!じゃ〜ね〜!』
そう言ってモノクマとモノルナは去っていく。
「ふんっ、ざまーみろいい気味!」
「やめろ神無月!」
神無月は、モニターに映る氷川の亡骸に向かって暴言を吐いた。
神無月…お前、さっきまで友達だった相手になんでそんな事言えるんだよ…
俺が困惑していると、今度は安室が怒りを露わにしながら氷川の証言台を何度も蹴り付けた。
「このクソアマぁっ!!!よくも…よくもリーゼを!!あれぐらいのぬるい裁きで許されたと思うなよ!!お前なんか、地獄に堕ちろ!!二度と這い上がってくるな!!」
「おい、もうやめろよアスナ…!」
「安室ちゃん…!氷川ちゃんが処刑されたの、今見ただろ…?あの子だって散々人に傷つけられてきた被害者だったし、犯した罪の分はちゃんと裁かれたんだ。それでもういいじゃねえか!」
安室が涙を流しながら氷川の証言台を何度も蹴っていると、樺戸と酒蔵が止めようとする。
すると安室は、二人の方を振り向きながら言った。
「『あいつだって被害者だった』、『処刑されたから水に流せ』…?…ははっ…貴様ら、バカにしてるのか?」
安室は、失望したように乾いた笑い声を上げながら言った。
「被害者ってのは、人を殺しても許されるほど偉いのか?罰は受けたから、人殺しを許さなきゃいけないのか?ふざけるな!!そんな事くらいで、私の親友を殺した罪が消えていいわけがない!!たとえ世界中がこいつを許す日が来ようと、私は絶対にこいつを許さない!!」
そう言って安室が、拳が砕ける勢いで氷川の証言台を殴ろうとした、その時だった。
安室の周りに、光の粒が舞い降りた。
すると安室は、その場で膝をついて涙を流す。
「リーゼ……なのか…?」
安室は、何もないところを見つめてポツリと呟く。
もしかして、安室にはリーゼの姿が見えているのか…?
「………そっか。そうだよなぁ………魔界騎士団団長ともあろう者が、これしきの事で…無様を晒すなど……」
先程まで殺気立っていた安室は、その場で静かに涙を流した。
もう、安室の表情からは氷川への憎しみは感じられなかった。
幽霊を信じていなかった安室にリーゼが見えているのはきっと、二人が友情以上の絆で結ばれていたからなんだろうな。
「…あたい、何で忘れちゃってたんだろう。みるくちゃんに、いっぱい良くしてもらってた事…」
神無月も、氷川の証言台の前で膝をついて、涙を流して泣き始めた。
「みるくちゃん、ひどい事言ってごめんね…あたい、本当はみるくちゃんの事、恨みたくなかったんだよ…!うっ、うぅっ…うわぁあああああああん!!」
裁判場には、安室と神無月の泣き声が響いた。
もうすっかり、誰かを恨むという空気ではなくなっていた。
するとその時、的凪が口を開く。
「うーん…で、結局誰だったんだろうね?」
「誰って…何の事だ?」
俺が的凪の発言に反応すると、六道も顔を上げて口を開く。
「あれ…もしかしてひがしの、気付いてない…?」
「え、何がだ?」
「なぁんだ意外。東野くんならとっくに気づいてると思ってたよ。あんなトリックを使うなんて、氷川さんには出来っこないって事くらい」
え……?
「氷川さん、何故かゲームクリアの報酬を狙ってたみたいだからさ、このままだと千春ちゃんが殺されちゃうと思って…ボク、わざと氷川さんを挑発して殺されに行ったんだよね」
◆◆◆
side M
ボクは、ゲームのダイジェストを見終わった後、ある目的のためにとある人物を尾行していた。
氷川さんだ。
氷川さんは、千春ちゃんがゲームをクリアした後、やたらと千春ちゃんの部屋の前をウロチョロしていた。
まあ欲しいのは十中八九動機の報酬だろうし、こいつ放置したら千春ちゃんを殺してでも報酬を奪おうとするだろうから、一応手は打っておかないとね。
「やあ、探し物かい?氷川さん」
「っ…!?的凪くん…」
ボクは、千春ちゃんの部屋の前で空き瓶を持って待ち伏せしている氷川さんに声をかけた。
ははっ、わかりやすく態度が変わったなぁ。
「もしかして、千春ちゃんが手に入れた報酬が目当てなのかな?」
「っ……なっ、何の事ですか…?」
「ははっ、とぼけても無駄だよ。千春ちゃんがゲームをクリアしたって聞いた時、キミだけ目の色が変わったからね。そんなキミに悲報。千春ちゃんは、キミが探し求めているものをもう持ってないよ。だって報酬は、今ボクが預かってるからね」
「……!!」
ボクが言うと、わかりやすく氷川さんの目の色が変わった。
あはっ、やっぱりバカって操りやすくて良いね。
「このままだと、報酬目当てに千春ちゃんを殺そうとするバカが現れるんじゃないかと思ったからさ、ボクがこっそり拝借しておいたんだ。あ、言っとくけど、どこに隠したかは言わないからね?ボク、キミの事嫌いだし。だってキミ、バカでドブスでクズなんだもん。あと、そもそも体臭がキツいんだよ。キミなんかが千春ちゃんを殺そうだなんて烏滸がましいからね?」
ボクは、わかりやすく氷川さんの地雷の上でタップダンスをして彼女の殺意を煽った。
あーあ、もう人殺しの目しちゃってるよ。
ほんっとバカだねぇ。
ボクの命になんか、一銭の価値も無いってのに。
「あ、そうそう。ちなみにリーゼさんは今プールのシャワールームにいるから。じゃ、せいぜい頑張りなよ。
「ぬ゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛っ!!!!」
ボクが背を向けた瞬間、獣のような叫び声と共に、頭に鈍痛が走る。
薄れゆく意識の中、ボクは千春ちゃんの為に死ねる悦びに胸を躍らせた。
ボクが死ねば、氷川さんはあと一人しか殺せなくなる。
リーゼちゃんと千春ちゃん、どちらか一人しか殺せないなら、彼女は迷う事なくリーゼさんを選ぶ。
これで、千春ちゃんに危害が及ぶ可能性を排除できた。
ボクのような無価値な人間でも、千春ちゃんが生き残る為の礎になれた、こんなにも嬉しい事はない。
◆◆◆
side HG
「……というわけだよ」
全てを話し終えた的凪は、ヘラヘラと笑っていた。
「お前、何でそんな事…」
「だって、ボクが氷川さんに殺されれば、
こいつ…!
氷川がリーゼを憎んでいるのを知っていて、わざと放置したのか…!
「的凪…お前、そんな事の為にリーゼを生贄にしようとしたってのか…!?」
俺が尋ねると、的凪はキョトンとした表情を浮かべながら口を開く。
「え?逆に聞くけど、勝つためにしちゃいけない事なんてあるの?」
「お前…!!」
俺が的凪に殴りかかろうとしたその時、六道が俺と的凪の間に入った。
「ひがしの…こいつには何言っても無駄」
「…ああ、わかってるよ」
…わかってる。
いくら的凪が最低だからって、暴力で解決するわけにはいかない。
ここは冷静にならなきゃ…。
「でもさ、今のでわかったよね?ボクの安い挑発に踊らされて危うく大事な残機を一個減らしかけるくらいに、氷川さんは頭が悪い。そんな彼女が、あんなトリックを実行できたとしても思いつくはずがない。誰かが入れ知恵したって考えるのが自然だよ」
「それに、シャワールームで気絶させて、バックヤードで殺すなんて…ひかわはなんでそんな事したんだろうね?」
「え…?そりゃあ、マリンブルー・シンドロームの見立てをして俺達を撹乱する為じゃないのか?」
「だとしても回りくどすぎんだよ。シャワールームで殺して血を抜いて軽くしてからバックヤードに運んだ方が、どう考えても効率良いだろ。風呂場やシャワールームは、人を殺すのに最適の場所だって相場が決まってるしな」
「思うに氷川さんは、シャワールームでリーゼさんを殺せなかったんじゃないかな。彼女には、とある目的の為に手を組んでいる共犯者がいた。だけど共犯者の目的を達成する為には、リーゼさんをシャワールームで殺すわけにはいかなかった。共犯者は、女子のシャワールームに入れない人物…男子だった可能性が高い」
そんな…
氷川には、リーゼの殺害を手助けした共犯者がいた…だと…!?
神風と薬師寺の時みたいに、被害者と加害者が納得した上での共犯じゃない。
自分の手は汚さず、氷川にリーゼを殺させた。
そんな奴が俺達の中に紛れ込んでいるって言うのか…
「あとボク、氷川さんの言葉で気になってる事があるんだよね。『わたしの受けたのと同じ苦しみを味わわせなきゃ、気が済まなかった』…彼女、たしかいじめで暴行を受けてたんだよね?彼女の言葉を素直に捉えるなら、リーゼさんにも同じ事をしようとしたと考えるのが自然じゃないかな?」
「………!!」
的凪の言葉を聞いた瞬間、俺は全身から血の気が引いた。
もし的凪の言葉が真実なら、全ての辻褄が合う。
リーゼを殺す事自体は女の氷川に出来ても、自分が受けたのと同じ苦しみを味わせる事は男にしかできない。
そして氷川は、自分が犯人だとバレないようなトリックを考えられる自信がなかった。
だからあいつは男子を共犯者に選び、殺人計画の立案を共犯者に依頼していたんだ。
氷川は長年の憂さ晴らしができて、共犯者は溜まった欲の捌け口を手に入れた。
Win - Winというやつだ。
頸動脈を避ける形でリーゼの喉に刃物が刺されていたのも、大声を出して助けを呼ばれるのを防ぐためだ。
…正直、こんな最低な推測、当たっていてほしくない。
だけどこの推測が本当だとするなら、今までハマらなかったピースが怖いくらいにピッタリとハマり、思わず背筋に寒気が走った。
「…っていうのはあくまでボクの妄想で、多分間違いだから、聞かなかった事にしてよ」
は……?
自分から話しといて、なんなんだこいつ…
「ひがしの…言ったはずだろ。こいつには何言っても無駄」
「…ああ、そうだったな」
的凪が去って行った後、俺と六道は一緒に裁判場を後にした。
俺は、あいつらのクラスメイトだったのに、何もできなかった。
わかっているつもりになって、何もわかっちゃいなかった。
…俺達の絆って、一体何だったんだろうな。
◇◇◇
全員が去っていった後の裁判場に、いるはずのない二つの人影が浮かび上がる。
消灯寺とリーゼだ。
安室の証言台の前に立っているリーゼに、消灯寺が声をかける。
「優しすぎだよ、リーゼさん。安室さんを救う為に現世に留まったばかりか、君にあんな事した氷川さんをそんな簡単に許しちゃうなんて」
「でも消灯寺さんだって、わたくしのわがままに付き合って残ってくれているのでしょう?」
「………」
リーゼが言うと、消灯寺は唇をモゴモゴさせる。
そんな中、リーゼは氷川の証言台を見つめながら口を開く。
「…あの、氷川さんはどうなるのでしょうか」
「まあ間違いなく成仏できずに永遠の苦しみを味わう事になるだろうね。彼女の過去には同情するけど、当然の報いだよ」
消灯寺が言うと、リーゼは悲しそうな表情を浮かべる。
そして消灯寺の方を振り向いて尋ねる。
「…消灯寺さんは、これからどうされるおつもりですの?」
「僕はしばらく現世に残るよ。生きてる人間には興味ないけど、仮にもここで一緒に過ごした人達だし、ちゃんと彼らの行く末を見届けなくちゃね。これも職業病ってやつかなぁ」
そう消灯寺がポツリと呟くと、リーゼはそっと消灯寺の横へと歩み寄った。
「あなたが残るなら、わたくしもここに残りますわ。霊庵さん。これからは、ずっと一緒です」
そう言ってリーゼが手を差し伸べると、消灯寺はその手を取った。
二人はそのまま歩幅を揃えて歩き出し、どこかへと消えていった。
Chapter.3 マリンブルー・シンドローム ー完ー
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《アイテムを入手した!》
『いちごのベレー帽』
Chapter3クリアの証。
氷川の遺品。
氷川がスイーツ店の売り上げで買ったもの。
氷川がグラシエールとして成功する為に流した血と汗と涙の結晶。
ーーー 生存メンバー ーーー
【超高校級の小説家】
【超高校級の原型師】
【超高校級のディーラー】
【超高校級のカルタ師】
【超高校級のソムリエ】
【超高校級のカバディ選手】
【超高校級の狙撃手】
【超高校級の幸運】
【超高校級のゲームプログラマー】
【サポートAI】アルターエゴ・Ω
ノコリ10人
ーーー 死亡メンバー ーーー
【超高校級のギャル】
【超高校級のプロレスラー】
【超高校級の絵本作家】
【超高校級のヒットマン】
【超高校級の司令官】
【超高校級の軍医】
【超高校級のオルガニスト】リーゼロッテ・ベルゲングリューン Chapter.3 シロ
【超高校級の心霊学者】
【超高校級のグラシエール】
以上9人
推しがいたら教えてくんなまし
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東野潤_小説家
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暗野斬良_???
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殉前詩乃子_ギャル
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神風大和_司令官
-
薬師寺療香_軍医
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リーゼロッテ_オルガニスト
-
安室明日奈_原型師
-
消灯寺霊庵_心霊学者
-
山脇ゆか_絵本作家
-
梶野運命_ディーラー
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神無月椛_カルタ師
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氷川みるく_グラシエール
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酒蔵飛露喜_ソムリエ
-
樺戸ラムジ_カバディ選手
-
内闘力也_プロレスラー
-
打田清美_狙撃手
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的凪梢_幸運
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六道千春_ゲームプログラマー
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モノルナ_引率教師