推しの子-偶像になる少女と空想に生きる少年-   作:アルトサックス

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アイ視点で見た瑠璃君と、始まりの季節。



春の始まり

 

 

 

 

 

―――嘘というものがなければ、人間は絶望と退屈で死んでしまうであろう。

                                              アナトール・フランス

 

 

 

瑠璃君と出会った時の事は今でも、生涯絶対に忘れる事はない。

小学5年生になった、4月の半ば。桜ももう散ってしまった、過ぎた春の日。

 

母親が窃盗で逮捕され、施設に預けられた私は通っていた小学校から彼の通う小学校に転校してきた。

 

母親に一つだけ感謝をするとすれば、彼と巡り合わせてくれた事だろう。

 

「星野アイです、よろしくお願いします」

 

「じゃあ星野さんは夜川くんの隣の空いてる席に座ってください。夜川くんは星野さんに色々と教えてあげてくださいね」

 

私が自分の席を探していると、彼はこっちであると手招きしてくれた。

第一印象は中々に整った顔立ちをした、大人びた男の子という印象。

 

「よろしくね、えっと…与川くん?」

 

「うん、夜川ね?夜川瑠璃。よろしく、星野さん」

 

 

それが彼と話した最初の会話だった。

そしてそれ以上に、彼に目を惹かれたのは綺麗な瑠璃色の星の存在。

 

 

 

 

―――○●〇

 

 

 

 

 

 

それから少しして、直ぐに私と瑠璃くんは友達になった。

前の学校でも仲の良かった友達なんて一人もいなかったので、彼が私にとっての初めての友達。

 

私の嘘に気付いて、こんな嘘つきな私でも友達になってくれた、優しい人。

 

そんな瑠璃君は常に本を片手に持っている。

文字の羅列だらけで私は直ぐに頭がパンクしそうでダメだったけれど。

 

きっと、本の虫というのは君みたいな人の事を言うんだろうね。

…ううん、瑠璃君のそれはその域を越えていた。

 

本を読む君の姿はとても絵になって、穏やかで優しくて、それを良いという女の子もいる。けれど。

私にはその姿が何処か悲しそうで消えてしまいそうで、そう聞くと君は私と同じ様に嘘を吐く。

 

 

「ねえねえ、瑠璃君今日はどんな本を読んでるの?」

 

 

その事を君は頑なに話してくれないし、それが少し悲しい。

だけど私と君、何時までも、二人で居るこんな日々が続けば良いなぁと心から願う。

 

 

 

 

―――〇●〇

 

 

 

 

朝、いつもと同じ時間にふと意識がデスクの上で覚醒する。

 

 

「……体が痛い」

 

伸びをするとバキバキと、体の悲鳴が上がる。

昨日も遅くまで夜更かしをして、一人空白の世界、自分自身と、対峙していた。

 

積まれ、倒れた栄養剤の数々。

部屋の中には乱雑に散らばり、折り重なった作文用紙、そして何度何度も読み返した為にページが捲れ上がった一冊の本。

 

―――良い作品とは有機体である、まるで生命の様な形をしている。

 

死んだ父が良く俺に言った言葉だ。

それがどの様な物であれ、継ぎ目等ない、一つの完全な有機体としての生命である、と。

 

幼少期その言葉と共、俺は彼から多くの生命を受け取った。

―――それが、夜川瑠璃という幼い文学者の歩む道を定めた。

 

どれだけ辛くても、どれほど過酷でも、人に理解されずとも、狂人と、人の枠組みに置かれ無くとも。

何十、何百と、描かれた物語には世に出ればそれなりの層の人間に受け、支持される物もあるだろう。

 

けれど、そこには己を納得させるだけの生命が宿っていない。

 

 

「まあ、人はそれをスランプというのだろうが」

 

 

良い作品というのは楽にして描けるものではない、殆どが自分の精神との戦いである。

…そう言い続けて、迷子になって、どれだけの時間が経っただろうか。

 

 

 

 

―――〇●〇

 

 

 

 

「おはよう」

 

「おはよう瑠璃君!相変わらず眠そうだねぇ、あんまり夜更かしばっかりしてちゃダメだよ?」

 

 

リビングに入り、そう何時もの様に朝の挨拶をする。俺の挨拶に声を返す少女の声が響く。

何時からだっただろうか、返って来なかった挨拶が返ってくる様になったのは。

 

冬の寒さの様だった、この家が温かさを取り戻したのは。

キッチンで二人分の朝食を用意して、それをアイと食べる。それが当たり前になったのは。

 

他愛無い会話の中、ふとアイが思い出したかの様に言った。

 

 

「そうだ瑠璃君、私アイドルやる事になりました」

 

「…ん、アイ。それなんかに騙されてない?それとも俺を騙す為の嘘か?」

 

「騙されてもないし、騙す為の嘘でもないよ?ほら、名刺だってちゃんと貰ったし」

 

 

味噌汁を飲みながら、そう返す。日々、美しくなって行く彼女はそう言う。

彼女の嘘は日々本当なのか、それが嘘であるのか、見分けが付かなくなっていく。

 

確かに、こいつは見てくれは超一流の容姿をしているし、嘘を吐く事に関しては其処らの詐欺師よりも遥かに上だ。

 

案外、アイドルという仕事は向いているのかもしれない。

 

 

「…苺プロダクションね。まあ、応援はしとくよ」

 

「じゃあ、瑠璃君は私にとってのファン第一号だね!」

 

「はいはい、さっさと食べろ。そろそろ出る時間だからな」

 

 

朝食を食べ終え、食器を流し台で水に付けて一人玄関へ向かう。

後ろから待ってーと慌ただしい声が届く。それを待ち、二人揃って学校に行くのに家を出る。

 

 

「行ってきます」

 

 

 

春、出会いと別れの季節。二人が出会った刻。ひらりと、桜が空へと舞ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想とかあれば、欲しいなぁと思ってしまう。
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