推しの子-偶像になる少女と空想に生きる少年- 作:アルトサックス
藍方石という宝石がある。
それはラピスラズリの主成分で、ラピスラズリは和名で瑠璃というらしい。
ラピスラズリの宝石言葉には永遠の誓いというのもある、何時か二人がそうなれたらいいね。
「今日はカレー~、瑠璃君のカレー本当に美味しいよねぇ」
そんな事を口遊みながら、私は苺プロダクションの事務所へと足を向ける。
瑠璃君のご飯はとっても美味しいし、一緒に囲う食事は楽しいし、何より温かい。
……施設に預けられる前、お母さんと一緒に居た時はそんな事を思う事はなかった。
ご飯の中にガラスが混じっていたりした事もあったし、そのせいで私は一時お米を食べるのが苦手だった。
それを見かねた瑠璃君は昔、お米を使わない料理を私によく作ってくれた。
彼の料理のレパートリーはかなり豊富だ。
何でも、お婆ちゃんが亡くなる前に徹底的に仕込まれたのだとか。
「…それにしても、私がアイドルに、かぁ。昔誰かに、向いてるんじゃない?とは言われた事あったけど」
今日の夜ご飯に期待を膨らませながら、そう言葉にする。
人の顔を覚える事が苦手だから、それが誰なのかは思い出せないけれど。
アイドルへのイメージは、皆に笑顔を振りまいて、皆を笑顔して、愛を贈る、純粋で輝いた存在。
……私は何かを愛するのが苦手だ。
私とは真逆で、だからこんな私は到底アイドルなんて向いてないと思ってた。
―――人を愛した記憶も、愛された記憶も無い、私にはアイドルなんて出来ないと。
そんな私ではきっとファンを愛せないし、愛されない。
佐藤?社長は、それでも良いんだと言った。嘘でも愛してると言っても良いと。
「アイドルは偶像、完璧な嘘を客は求める」
社長に言われた言葉を反芻する。嘘を吐ける事も才能なのだと。
スカウトされた時にした言葉のやり取りが脳裏を過る。
「色々言っているけど、君も人を、誰かを、愛したいって思ってるんじゃないか?」
「それに皆に愛してるって言ってる内に、嘘が本当になるかもしれん」
そう社長が言った言葉が、最初は断ろうとしていたアイドルへの階段を上る事を決めた。
「…嘘が本当になる」
―――私は誰かを愛したい、心の底から誰かに、愛してると言いたい。
「―――もしもそれが」
冗談めかして、君と良く愛してるとやり取りをするけど。
何時の日か、本当になるのだとすれば。
「……私にとってのそれが、君だったらいいなぁ」
―――〇●〇
「美味いか?」
「うん!やっぱり瑠璃君のご飯は美味しいよねぇ、毎日でも食べたい位」
「ほぼ毎日食べてるだろ、お前は。……ハァ」
夜、二人で食卓を囲む。今日の夕飯はアイの要望通りのチキンカレー。
それを心から美味しいと食べてくれる事は、作ってる側からしたら幸せ冥利に尽きる。
だというのにそれとは別に、思わず溜息が出てしまう。
「…瑠璃君、大丈夫?少し疲れてる様に見えるけど」
「大丈夫。想定外の事で体力を使ったというか、まあ、うん」
「……他の女の匂いがする」
逡巡する瑠璃の思考をアイは女の感というべきか、そう直観的に察知する。
「ノーコメントで」
アイの怪しく光る瞳から逃げる様に俺は視線を逸らす。
気分は妻に浮気がバレた夫の様な気分。
付き合っている訳でも、ましてや結婚している訳でもないが、何処かバツが悪い。
「…まあ、いいや。瑠璃君?今日は夜更かししないでちゃんと休んでね、倒れたりなんてしたら私も悲しいし」
「そうする。今日はどうだったんだ、事務所に行ったんだろ?」
自愛してというアイの真摯な言葉に頷き、そう返す。
「―――今日はね」
アイは語る。規約違反になる為に、部外者の俺に深い所までは語れはしないが。
社長が施設から引き取ってくれるのだとか、グループとしてデビューするのだとか。
そうして、何時もと変わらない柔らかな夕食の時間が流れてゆく。
それから三日後。
「……瑠璃、君?」
何時もの時間を過ぎても、全然起きてこない彼を不思議に思いアイは部屋の扉を開いた。
そこで見たのは、床に倒れこみ、動かない瑠璃の姿であった。
4000文字位でガチガチに文章を詰めるより、1500から2000位で楽に読める位が丁度いいじゃないかなぁ、と思ってきた。
感想等、お待ちしております。