推しの子-偶像になる少女と空想に生きる少年-   作:アルトサックス

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かなり久しぶりの投稿ですね、暫くの間全然上手く文章を纏められなかった。
この話も自分が書きたい事をちゃんと形に出来たのか、どうなのか。

感想等お待ちしております。




想いは廻る

 

 

 

 

「やっほー瑠璃君、来たよー」

 

 

病室の扉を開くと、心地よい風が頬を撫でて吹き抜けた。

 

開けられた窓から、そよ風が吹いて真っ白なカーテンを楽し気に揺らす。

陽と桜の花弁が舞い込んで、白い室内に色を齎してゆく。

 

柔らかな黄昏色が差し込む昼下がり、読書に勤しむ彼は此方に気付いていない。

整ったその姿に背景が混じり合う。絵になるとはこういう事をきっと言うのだろう。

 

 

「二日振り。随分と機嫌が良さそうだね、瑠璃君?」

 

 

倒れてからはどこか憑き物が落ちて、前より穏やかな表情を多く見せてくれる様になった。

けれど今まで一緒に居て、ここまで機嫌が良さそうな彼を見る事自体が珍しい。

 

見舞いに訪れなかった数日の間、何があったのか正直に気になる。

 

 

「おーい、瑠璃君ー?」

 

 

問い掛けるが本の世界に旅立っていて、返答は返ってこない。

 

それが面白くなくて、手持ち無沙汰だから。

離れている間に不足したルリニウムを補給する様に、私は彼の腰に抱き着いた。

 

 

「……ああ、数日振りの瑠璃君だぁ」

 

 

彼の良い匂い、感じる温かい体温に安心する。不足してた成分が身も心も満たしてくれる。

細身だけどちゃんと男の人の体で、私とは違うんだと否応にも理解させられる。

 

 

「…二日振りだな、アイ。ちゃんと規則正しい生活は出来てるか?そろそろ一人暮らしが始まった頃だよな」

 

「それ、普通こっちのセリフだと思うんだけどなぁ。それが出来なくて瑠璃君倒れたんだからね?」

 

 

視線が交差する。

頬ずりをして瑠璃君を堪能していると、やっと気付いてくれた。

 

 

「…そう言われると、流石に耳が痛い」

 

 

読んでいた本を閉じて誤魔化す様、頭に手を置いて優しく撫でられる。

 

 

「えへへ、瑠璃君に撫でて貰うの好きー。…ああ、レッスンでの疲れも何処かに飛んでいくー」

 

「それは重畳な事で」

 

 

……凄い、癒される。

 

思わず、自然と顔が綻んでしまう。

瑠璃君には私を癒すリラックス効果があるのだと、錯覚する程に疲れが飛んで行く。

 

 

「そんな事より、何かあった?」

 

「何か、とは?別段何もなかったけど」

 

「嘘。だって瑠璃君凄い機嫌良さそうな顔してたもん、何かあったんでしょ?」

 

 

その言葉に、瑠璃は数日を振り返る様に思考する。

 

 

「んー、強いて言えば文学を語れる友達が出来た事ぐらいかな」

 

「……もしかして、女の子?」

 

 

アイの女としての直感がそう確信を持った。

 

 

「そうだけど…って、何か不機嫌?」

 

「べつにー、相変わらず瑠璃君はおモテになるなぁーと思っただけ」

 

 

……相変わらず、ちょっと目を離すとすぐ女を引っ掛けてくるんだから。

 

胸にドロっと黒い物が流れ込んでくる。これが嫉妬という感情なのだろう。

会って数日の子が瑠璃にこんな顔をさせた事に、嫉妬した。

 

これからずっと一緒に居ると約束したけど。

私と彼が過ごした数年をたった数日で上塗りして行くみたいで、凄く嫌だった。

 

 

「いや、モテるとかじゃ…そういえば、こんなやり取り前にもしたよなぁ」

 

 

確かな既知感を瑠璃は覚えた。倒れる前、姉と再会した日の事だっただろうか。

それが、もう少し遠い日の出来事の様に感じられた。

 

 

「ともかく、俺も向こうもそんな感情は持ってない。健全な友人関係だよ」

 

「それは瑠璃君の主観でしょ、女の子なんて胸の内で何を考えてるか解んないんだよ?」

 

「仮にそうだったとしても、アイがそこまで気を張る理由が解らないんだが」

 

「……それは、うん。やっぱり、瑠璃君を会って数日の子には任せられないからね。うん、そう」

 

 

言われて、自分の事なのに心内を上手く言語化する事が出来なかった。

 

私が彼を大切に思う様に、きっと彼も同じ様に思ってくれている。そこに疑問はない。

だからこそ、彼を盗られたくないという嫉妬心が胸に確かにある。

 

それと同時。もう一つ、自分でも解らない感情が胸中を占めた。

 

……この想いは、一体何なんだろう?

それを認識すると、焦がれる様に胸が熱くなってくる。

 

……解らないけど嫌じゃない。温かくて、心地いい。

 

だからこそ誤魔化す様に、アイは自分に嘘を言い聞かせた。

今はまだ胸の奥にある、その想いが何なのか自分でも解らないから。

 

 

「アイは俺の母親か何かなの?」

 

「ふふん、私の事ママって呼んでもいいんだよ瑠璃君?」

 

 

その言葉にふと、存在しない記憶が脳内を過る。

瑠璃君が私の事をママと呼び、私無しでは生きていけない程にズブズブに依存する姿が。

 

……良いかもしれない。

 

 

「ねぇ瑠璃君、試しに一度でいいから私の事ママって呼んでみて?」

 

「同い年をママ呼びする、そんな特殊性癖は持ってない」

 

「一回、一回だけ!…先っちょだけでいいから!」

 

「……アイドル以前に、女の子としてどうかと思うセリフを言うな」

 

 

何をトチ狂ったのかと目を輝かせて、思春期男子みたいな事を口走るアイに引く瑠璃。

 

これからアイドルになろうとしている人間として完全にアウトな発言だと思いつつ。

きっと言うまで、この問答は終わらないと悟った瑠璃は深く溜息を吐いた。

 

 

「ハァ、一回だけだぞ。……ママ」

 

「―――~~~!!」

 

 

その言葉に悶絶する様に、口元を押さえて打ちひしがれるアイ。

 

 

「……マ、ママの破壊力エグっ!」

 

「…満足したか?おーい、アイ?」

 

 

余韻に浸っているアイは僥倖とした表情を浮かべ、瑠璃の言葉は耳へと届いていない。

そんな彼女を現実へと引き戻す為、壊れたテレビを直す様に頭部に手刀を入れる。

 

 

「痛っ!瑠璃君が私にズブズブに依存して沼から抜け出せなくなる良い所だったのに~」

 

「人で変なトリップを起こすな。お前の願いを一つ聞いてやったんだ、俺の願いも一つ聞いてくれないか?」

 

「うん。今の私は結構ご機嫌だからね、私で叶えられる範囲でなら」

 

「ならさ、さっき話した子と友達になってやってくれないか?」

 

 

その言葉にアイの動きが一瞬止まった。

様々な色が混ざり合ったその表情にはどんな思いが込めれているのか。

 

到底、瑠璃には読み解く事が出来なかった。

 

 

「…瑠璃君は、随分とその子に入れ込んでるんだね」

 

「そうなのかも知れないな。その子にとって俺が人生で初めての友達だって言うしさ、それに昔のアイに似てると思ったから」

 

「昔の私?」

 

「出会った当時の不明瞭で、まるで今にも消えてしまいそうなお前に」

 

 

嘘という仮面を被り、誰にも本当の自分を見つけて貰えなかったアイに。

儚くて、まるで今にも消えてしまいそうだと感じたから。だからこそ、繋ぎ止めたいと瑠璃は願った。

 

その思いが通じたのか、アイは確かに頷いてくれた。

 

 

「…うん。その子に会わせてくれる、瑠璃君?」

 

 

この世界で独りでいる、その孤独と辛さを知っているから。

瑠璃に見つけて貰った事で救われ、この世界の美しさを知ったから。

 

 

 

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