「本当に一人で大丈夫? 忘れ物はない?」
「大丈夫だって! 朝ごはんもしっかり食べたし、持ち物も…あ!提出書類忘れてた!!」
「ほら言わんこっちゃない! 早く準備していってきなさい!」
どたどたと大きな足音を立てながら急いで玄関を飛び出していく。
「それじゃ、行ってきます!」
晴れ渡る空の下、私、東雲空音の新しい生活が始まる!なんか自分でいたたまれなくなってきちゃった…。
もともとの隅っこに住んでいた私たち家族は都内高校の合格を機に、晴れて東京での生活が始まった。しかも私が合格したのは私が生まれるよりも後にできた新設校、「霄庭学園」。施設の新しさもさることながら、都内のほかの私立高校と引けを取らないほど教育も高水準なのです。どうです、すごいでしょう、私。しかし哀れな東雲、彼女は都会の人の多さを知らなかったのだ。
「な、なんなんですか…なんで都会にはこんなに人が多いんですか…」
ようやく学校の最寄り駅に着いた頃には彼女は疲労困憊であった。それもそのはず、慣れない都会の電車かつ人生の初めての満員電車だ。無理もない。なんとか落ち着きを取り戻し学校へ向かい歩き出したとき
「あ、あの…大丈夫ですか?」
突然見知らぬ少女に声をかけられてしまった。ふと顔を上げるとそこには絵にかいたような美少女が。それはまるでアイドルのような…。
「あの…?」
見とれてしまっていた。だ、大丈夫ですと急いで返事をする。よく見ると少女は同じ制服を着ている。今日は入学式の日、ここにいるということはきっと彼女も一年生なのだろう。ココは仲良くなるチャンスなのではと考えて少し話しかけてみる。
「えっと一年生ですよね…? 私と同じく…」
「そ、そうですよ…? それより体調の方は大丈夫ですか?」
「あ…もう大丈夫です! この通りバリバリ元気で…」
ふと目に腕時計が目に入る。時刻は入学式が始まるギリギリを指していた。
「た、大変です!時間が!時間が!」
「え…? あ!ほんとだ!ど、どうしましょう…」
「とりあえず全力でダッシュしましょ!」
言い終わるよりも前に二人は急いで走り出した。幸いなことに学校は駅からそう遠くない。急いで走ればまだ間に合う時間帯だった。初めてであった同級生と六に話す時間もなくとにかく走り続けた。無事に学校に着いた時にはまだ入学式は始まっておらずまだ一年生全員が体育館に集まっていたころだった。
「あ!あなた東雲さんね? こっちよ!」
おそらく担任であろう先生の指示を聞きながらそそくさと移動する。そうこうしているうちに入学式が始まった。主に校長先生の話や来賓の話など長い長い入学式は誰にとっても退屈であった。むろん東雲も例外ではなかった。彼女たち一年生が楽しみにしているのはこの後に行われる部活紹介であった。ようやく長い入学式が終わり、そのまま部活紹介が始まることになった。 霄庭学園にはおよそ20の部活がありその規模も大小さまざまだ。一番人気があるのは吹奏楽部や陸上部であるだろうか。新入生たちの拍手もひときわ大きかったように思える。そんな中一番最後に登場したのはきれいな金髪の少女一人であった。
「こんにちは、アイドル部部長の真陽綴です。」
アイドル部、それこそが東雲がこの学校を志望した一番の理由であった。もともと小さなころからアイドルにあこがれていた東雲、しかしアイドルは遠い雲の上の存在、ましてや自分がなれるなんて思ってもいなかった。そんな中ふと目に入ったパンフレットに書いてあったのは
『 部活動もさまざま! 去年からは新しくアイドル部も成立しました! 』
直感でこれだ!と感じた。それからというもの受験勉強をひたすらにこなし、無事に合格をつかみ取ったというわけだ。そしてそのあこがれのアイドル部が今目の前のステージに立っている。
「私たちアイドル部は衣装の製作から曲の製作、ステージの運営まですべてを担当しています。主な活動は火曜日と金曜日、ステージは不定期に開催しています。去年出来たばかりの部活ではありますがこれからもっと盛り上げていきます。今日の放課後歓迎ライブを行います。もしよかったら見に来てください。以上です。」
そういい終わると彼女は一礼してステージを去った。新入生の間ではアイドル部の存在を知らなかったものもちらほらいたらしく少しざわついていた。そんな中東雲は燃えていた。
「私もついにここまで来ました! 私がアイドルになる日が!」
部活紹介も終わり生徒たちが各教室に戻る中、再び声をかけられた。
「さっきぶりですね、まさか同じクラスだったなんて」
そこにいたのは駅で出会ったきれいな少女がいた。どうやら同じクラスだったらしい。急いでいたからか全く気付かなかった。
「あ!あの時の!さっきは助かりました…。私、東雲空音って言います。よろしくお願いしますね!」
「東雲さん…こちらこそよろしくお願いします。私は赤槻吉乃って言います。同じクラス同士仲良くしてくださいね。」
まさか最初に出会った一年生が同じクラスメイトだったとは、何か運命的なものを感じざるを得ない。都会で初めてできた知り合いとも仲良くなれそうだ。ここで一つひらめいた。この後のライブにも誘ってみてはどうだろうか。きっと喜んでくれるに違いない。
「そうだ赤槻さん! よかったら放課後アイドル部の…」
「あ…ごめんなさい、私アイドルとかはそこまで好きじゃなくて…」
拝啓、家で待ってるお母さん…私、東雲空音は初日早々玉砕しました。