黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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今回は日常パートかつ、少し長めの回となります。
どうぞお楽しみください。


九話 手鏡

 初めての任務を任務を終えた次の日。

 再びオレとプロシュート兄貴はリゾットがいる書斎に呼ばれた。

 

「よくやった、二人とも。証拠隠滅も上手くいっている。後始末の必要はないだろう」

 

 相変わらずリゾットの口調は淡々としているが、きっと褒められているのだろう。

 

「そうだろ、ちゃんと計画通りにやったからな!」

「アフェット。お前はプロシュートを無視して勝手に行動したと聞いているぞ」

「は、はぁ!? 誰がそんなことを言ったんだよ!」

 

 バッと隣に視線を移すと、プロシュートは目を伏せ、ポケットに手を入れて凛々しく立っていた。

 端正な顔つきに青い瞳。そのあまりの美しさに見惚れてしまう。

 

「何やってもイケメンなのかよ……ってそうじゃなくて! 兄貴、なんでリゾットにチクったんだ!」

「あ? オレは事実を報告書に書いただけだ」

 

 彼はお前が勝手なことをしなければその旨を書く必要もなかったとこぼす。少しくらい見逃してくれてもいいじゃねぇかと頬を膨らませるが、無理だと一蹴された。

 

「報告書はメンバーの行動の癖、傾向、得意不得意を分析するためのものでもある。それを分析した上でどの任務に向かわせるかを決める。嘘は吐かない方がお前の身のためだ」

 

 リゾットが細かく報告書に事実を書くことの大切さを説いてきた。

 難しいことは分からないが、取り敢えずリゾットに嘘は吐かない方がいいということだけは理解した。

 

「それなら仕方ねぇな……でも、任務のことはしっかり反省してるぜ。みっちり兄貴に説教くらったからな」

「それならオレから言うことはないな。ご苦労だった」

 

 部屋を出ようと踵を返す。

 しかし、珍しくリゾットがオレを呼び止めた。

 

「……なぜ、プロシュートを『兄貴』と呼び始めた」

「へ? お前、興味があるのか?」

「興味……そうだな、興味がある。メンバーのことはできる限り知っておきたい」

 

 リゾットも任務に関わること以外でメンバーに興味を持つことがあるのか、と驚く。

 彼から何かしらの感情をほとんど感じ取ったことがなかったので、垣間見た彼の人間らしさに安心する。

 

「兄貴を兄貴と呼び始めた理由か……『強くて優しくてかっこいいから』だな!」

「そうか」

 

 これでもかと言うくらい誇らしげに言ってみたが、リゾットは何も動じないまま言葉を返してきた。

 それに返す言葉が見つからず、沈黙が生まれる。

 リゾットは赤い瞳でオレのことをじっと見つめている。彼の体中から滲み出ているオーラがとても怖い。

 沈黙の長さと比例するように体中から大量の冷や汗が流れた。

 

「も、もういいな!? オレは失礼するぜ!」

 

 プロシュートとリゾットを置き去りにして部屋から出ると、リビングの椅子でくつろぐギアッチョがいた。

 

「なんなんだよッ! あっちから質問してきたくせに、どうして一言しか返さないんだよッ!」

「今日も騒がしいなァ。またリゾットにいじめられたかァ?」

「ギアッチョ、オレ……リゾットと話してる時に静かな時間が流れるのが耐えられないんだ。威圧感といい、アイツの感情の見えなさといいキッツいぜ……」

 

 彼はうなだれるオレを見て「退屈しねぇ奴だな」と笑った。

 

「そういやお前、イルーゾォと会ったはことなかったよなァ?」

「イルーゾォ……新人嫌いなヤツか?」

「ああ。近いうちにオレとアイツで任務に行くことになった。今日はここに顔を出すはずだぜ」

 

──なんだか、顔を合わせるのが楽しみなようで不安だ。

 

 顔も合わせようとしないほどの新人嫌いということは、イルーゾォにとってオレの印象は最悪なのだろう。

 そう考えると何をされるか分からない。

 

「なぁ、ギアッチョ。イルーゾォってどんな奴なんだ?」

「どんな奴、か。オレより前からこのチームにいる。それでいて任務に失敗したことがないって聞いたなァ」

「へぇ、性格はどうなんだ?」

「オレもまだチームの中では新人だ。だからオレもいいイメージはねぇんだよなァ……」

 

 意外だ。ギアッチョはずっと前からここにいるのだと思っていた。

 言われてみれば確かに、ギアッチョとメローネの二人は若い印象だ。彼らがよく一緒にいるのは、二人が同時期にここに来たからなのかもしれない。

 

「アフェット、アイツがアジトにいる時は絶対に()()()()()

「鏡?」

「ああ、何されるかわかんねぇぞ」

 

 鏡……?

 どうしてだろうと頭を捻るが、理解することができなかった。

 ふと、テーブルの上に乗せられた手鏡に目が行く。

 

「鏡ってこの鏡のことか?」

「そうだ……っておい、なんでリビングに鏡があるんだァッ!?」

「あ、確かに。どうしてこんなところに……」

「オイ、鏡を覗くなッッ!」

 

 ギアッチョの言葉の意味を理解する前に、オレは鏡を覗いてしまった。

 オレの姿が鏡に映る。そして、もう一人……

 

──()()()()()()()()()()()()()()

 

「な、なななんだこれぇぇぇッッッ!!」

 

 恐怖のあまりに目を閉じて鏡を投げ出す。

 カラン、と大きな音が鳴ったと同時に目を開けた。

 

「ギアッチョ、今誰か映ったぞ!? なぁ何が起きてん……」

 

 思考が止まる。

 オレはギアッチョがさっきまでいた椅子に目を向けたが、そこに彼がいない。

 

「お、おい……冗談よせよ、ここはどこなんだよッ!」

「まんまと引っかかったな。せっかくギアッチョが忠告をしてくれたというのに」

 

 声の方に振り向く。

 そこにいたのは……

 

「お前、さっき鏡に映った幽霊!?」

「幽霊? それは違うな、オレは生きている」

 

 目の前にいるのは髪を六本に分けて結った高身長の男性。彼の身長は下手をすればリゾットを超えるかもしれないほど高い。体型は、リゾットほどではないががっしりしていた。

 

「新入り、任務の方ご苦労だった。『死体を操るスタンド』、だったか?」

「テメェ……どうやって知ったんだよ」

「お前が任務を遂行する様を見せてもらった。この『鏡の世界』の中からな」

 

 『鏡の世界』……?

 オレが今いる場所はアジトのはずだ。だが確かに『何かが違う』。

 ギアッチョどころか、すぐ後ろの書斎への扉からもプロシュートやリゾットの気配はしない。

 

「完全に二人っきりってことかよ。ここまでロマンもクソもねぇ状況を作るってのは才能だぜ」

「口だけは一丁前だな。まぁいい、そう言ってられるのも今のうちだ」

 

 目の前の男はニヤニヤと何かを企んでいるかのように笑う。

 なんだコイツと身構える。

 しかしさっきの口ぶりとギアッチョの発言から、コイツがみんなの言う「新人嫌いのイルーゾォ」なのかもしれない。

 

「『マン・イン・ザ・ミラー』、オレだけが鏡の外に出ることを許可しろッ!」

「へ!?」

 

──消えた。

 

 目の前の男が、テーブルの上にある手鏡に吸い込まれるように消えた。

 

「ハ、ハァ!? おい、置いていくな!! オレを元の世界に戻せーッッ!」

 

 手鏡を手に取ろうとしても、手鏡は机にピッタリとくっついていて、ぴくりとも動かない。その上に男の気配はもうない。

 

「アフェット、アイツがアジトにいる時に鏡を覗くな」

 

 ギアッチョが言っていたのは、こういうことだったのか。

 オレ、閉じ込められたのか……?

 

「あの野郎ッ! ようやくオレの前に顔を出したと思いきや何しやがんだッ!!」

 

 何かできないかとスタンドを出そうとするが、スタンドすら出ない。

 

「はァーーーッ!? スタンドも出せないのかよ!?」

 

 誰か助けてくれー!!と必死に声を上げるが、もちろん返事はない。

 

「畜生、やられたーーッッ!!」

 

 何もできず暇になったので、ソファに横たわり大の字でぐっすりと寝ることにした。

 それからしばらくして、男の声で目が覚めた。

 

「お、お前……この『鏡の世界』で涎を垂らして寝ていたのか……ッ!!」

「ん……?」

 

 男はオレの側でわなわなと怒りに震えている。

 怒りたいのはこっちの方だ。

 

「あーーッ!! テメェ、こんなところに閉じ込めやがってッ!! 早くここから出せよ!!」

「出して欲しいのにその言い方は無いだろう。お願いしますと言えば、出してやらんこともないぞ?」

「マジでいい性格してるな、お前……」

 

 フンと鼻で笑う彼に対して、苦笑いを浮かべた。

 なぜコイツに敬語を使わなくちゃならないんだよと歯を食いしばる。

 しかしオレはこの後、プロシュート兄貴に稽古をつけてもらう予定だ。遅れたら何を言われるか分からない。

 

「畜生……出してください、お願いしますッ……!」

「いいだろう。望み通り、お前が外に出ることを許可するッ!」

 

 オレが懇願すると、イルーゾォは満足げに笑った。

 気がつくと、オレは鏡の世界からアジトに戻っていた。

 書斎から出てきたギアッチョがオレに声をかけてきた。

 

「帰ってきたかァ」

「ああ、酷い目に遭ったぜ……アレがアイツのスタンドってことかよ」

「そういうことだ。アイツの『鏡の世界』は無敵……」

 

 そこまで言うと、ギアッチョはピクリと眉を動かした。

 

「『鏡』ってよォ〜、向き合って左手を上げると、鏡の中の自分は右手を上げるよなァ〜……」

 

 ああ、この雰囲気はいつものヤツだ。

 一ヶ月間、彼と一緒にいて気づいたこと。それは彼が「キレてもしょうがないことにもブチキレてしまう性分」だということだ。

 そして一度キレてしまうと、彼は物に当たる。

 その代わりに人に当たることはないが……物を壊されるのは嫌だと、兄貴やリゾットが止めていた。

 しかし今回は、彼の怒りを止められる人間がいない。オレは彼の怒りの止め方を知らない。落ち着けと言葉を発するが、ギアッチョの大きな声でかき消されてしまった。

 

「それって納得いくかァ〜〜? 左手を上げたら左手を上げろよッ!! ボケがッッ!!」

 

 彼の怒りが沸点までいく。

 これはテーブルや椅子に殴りかかるぞ、と目を瞑る。

 

──しかし、途端にギアッチョの気配が消えた。

 

「あの野郎、このオレの『マン・イン・ザ・ミラー』がなければ、アジトが半壊していたぞ」

 

 消えた彼の代わりに目の前にイルーゾォが現れる。

 気に食わないヤツではあるが、スタンドの使い勝手は良さそうだ。

 

「すげぇ! そのスタンド、便利だな!」

「そうだろう。やはり教養が足りていないヤツにも、このスタンドの素晴らしさは理解できるか」

 

 言い方は腹立つが、どうやらオレの言葉に喜んでいるようだ。口角が上がっている。

 

──もしかして、意外とチョロい奴か?

 

 興味本位で彼のことを手当たり次第褒めてみることにした。

 

「なぁ、お前がイルーゾォで合ってるか?」

「なんだ、まだ分かっていなかったのか? そうだ、このオレこそがイルーゾォだ」

「お前、髪が綺麗だな! ちゃんと手入れしてんのか?」

 

 丁寧に結ばれた髪を指差して言うと、彼は嬉しそうに返事をした。

 

「よく分かっているじゃあないか。オレはオレ専用の高級シャンプーを使っている上に、毎日丁寧なケアを心がけている」

「すげぇ〜! 触ってみてもいいか?」

「フン、少しだけなら許可する」

 

 彼の髪に触れる。確かに指通りが良くサラサラだ。それに比べて、俺の髪はガシガシですぐに絡まってしまう。

 

「オレもお前みたいに綺麗な髪になりたい! 何から始めればいい?」

「まずはシャワーを浴びた後に髪を乾かすところからだな。それとお前、コンディショナーは使っているか?」

「こんでぃ……? なんだそれ」

「ハァ〜〜〜、そんなことも知らないのか」

 

 すごく大きなため息だ。しかし、それとは裏腹に彼はとても誇らしそうに語る。

 彼はオレの横髪を人差し指で巻き取る。

 

「髪をダメージから守ってくれるものだ。……いや、お前の髪は先にトリートメントが必要だな」

「と、鳥……?」

「トリートメントだ。髪のダメージを補修してくれる」

 

 彼は毛先までじっくりと眺めた後、オレの髪を離した。

 

 最初はとっつきにくい人だと思っていたが、褒めると調子に乗るチョロいタイプなようだ。

 オレのことを見下している様子は変わらないが、悪いイメージは払拭できた気がする。

 

「仕方ない、このイルーゾォの愛用しているトリートメントを一度だけ使わせてやる」

「え、いいのか!?」

「今回だけだぞ。このイルーゾォが許可するんだ、感謝しろ」

「おう、ありがとう!!」

 

 その後はイルーゾォが事細かくトリートメントの使い方を教えてくれた。

 褒めると口数が途端に多くなり、話に乗ると彼は大変嬉しそうにする。そんな彼は見ていて面白かった。

 しばらく語りたいように語った後、突然彼は「あ」と何かを思い出したように言った。

 

「どうかしたのか?」

「……ギアッチョを『鏡の世界』に閉じ込めたままだ」

「ええ!?」

 

 イルーゾォはしばらく頭を悩ませた後、「後は頼む」と言ってリビングを出て行ってしまった。

 直後、ギアッチョが机の上の手鏡から現れる。

 

「おいアフェット……イルーゾォの野郎、何してた」

「えーっと、な……オレと喋ってたぜ」

「お前……いや、悪いのはイルーゾォだ。長ぇ時間閉じ込めやがって」

 

 ギアッチョがいつもと違って静かにキレている。このキレ方は初めて見た。何が起こるのだろうと、恐怖と興味が同時に芽生える。

 

「アイツはどうせ今頃鏡の中だろうなァ……クソッ、クソがッ!」

「こういう時はどうするんだ?」

「あ? 決まってんだろ。アイツの部屋を荒らすんだ」

 

 おお、とことんやるんだなぁと感心する。部屋を荒らせば、イルーゾォはそれを止めるために鏡から出てくるだろう。

 ギアッチョは大きな足音を立てながら二階へ上がっていく。

 

「うーん……なんか悪いことしたような気になるな」

「アフェット! テメェさっきまでどこ行ってた!」

「あ!!」

 

 ギアッチョと入れ違いで、プロシュート兄貴がリビングに入ってきた。

 

「いや、違うんだって兄貴! オレ、イルーゾォに閉じ込められてて……って寒っ!?」

 

 弁解をしている途中、突然室内の気温が下がった。確かに今の季節は冬であるが、この寒さはどこか異常だ。

 

「これは、ギアッチョの『ホワイト・アルバム』……アジト全体に発動してるってことは、だ。イルーゾォの野郎、懲りもしねぇでまたギアッチョを怒らせたな」

「また?」

「ああ。アイツは筋金入りの新人嫌いでな。ギアッチョがこのチームに来た時からずっとちょっかいをかけてはキレられてる」

 

 兄貴は面倒だ、と舌打ちをする。

 話を聞けば聞くほどあの二人の相性は良くなさそうだ。なぜリゾットは次の任務で二人を組ませることにしたのだろうか。

 

「この調子じゃオレらまで風邪を引く。ギアッチョを止めに行くぞ」

「ぶぇっくしゅ! ああ、確かにこれはシャレになんねぇな!」

 

 気づけば、アジトの壁が凍りつき始めていた。早くギアッチョを止めなければ。

 

 オレと兄貴は二階へ向かい、暴れ回るギアッチョを兄貴がぶん殴って制裁を下した。オレたちが行った頃には既に、イルーゾォの部屋は氷漬けになっていた。

 それを見たイルーゾォの失望した顔は……かなり言いづらいが、芸術的だった。

 

 その後凍っているアジトを見たリゾットが、ギアッチョ とイルーゾォに対し激怒した。「アジトは大切に使えと何度言えば分かる」、とドスの効いた声で言うため怒られていないオレでも背筋が凍った。

 何も反論せず反省した様子のギアッチョ に対して、イルーゾォは大変不貞腐れた様子だった。

 リーダーは大変だなというリゾットを労る心と、絶対に彼だけは怒らせたくないという気持ちが同時に沸き立った。




最近は筆が乗っており、書きたいものを延々と書き続けています。
しかし日常編はそこそこに、物語の本格的な始まりも描かなければ……とも思っております。
イラストが表紙のみというのもなんだかなので、いつかアフェットのキャラクターデザインを掲載しようかなと考えています。
どうぞこれからもよろしくお願いします。
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