黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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十二話 壊滅

 二十一時。

 人気のない狭く暗い路地を明るい街灯が道を照らす。

 オレはサレルノにある敵のアジトの玄関裏から、アジト内の様子を確認していた。

 

 オレたちのアジトとは打って変わって、オレンジがかった明るい照明に可愛らしい外観のアジトだ。オレは明るすぎるのは眩しいので好きではない。

 

──暗殺対象は合計八人。

 

 オレたちを襲った男のチームのメンバー。

 それをオレ一人で壊滅させるのが今回の任務だ。

 

 玄関裏にある窓ガラスの付近に耳を当て、その窓の内側に人の気配がしないことを確認する。

 

「『ドリーム・シアター』、窓をぶち破るぞ」

 

 意を決して、スタンドでアジトの窓ガラスを叩き割った。

 

 持ってきた瓶を出す。そこには猛毒を有した生き物の死骸たちが入っている。

 その中のいくつかはメローネのツテでもらったものだ。

 デスストーカー、クロドクシボグモの二体を瓶から取り出し、能力を使う。

 

「アジトの中にいる人間を全て殺せ」

 

 そう命令すると、生き物たちは窓からアジトの中に入っていく。

 アジトの中が騒がしくなったのを確認して、表の玄関側に回る。

 瓶からアスプクサリヘビを取り出し、「アジトから出てきた人間を全て咬む」ように命令し、玄関前に設置する。

 

──ドン、ドン。

 

 六人の足音が大きく響いているのが分かる。残りの二人はアジトにいないのか、それとも動いていないだけか。

 

 考察しながら様子を伺っていると、一人の男がアジトから出てきた。

 

「ナメてんじゃあねぇぞ、あぁ!? どこにいるんだッ、絶対にブッ殺してやるからなァッッ!!」

 

 その男は資料に載っていた内の一人だ。

 激昂している彼に近づき、目の前で姿を表す。

 

「よお、すげー機嫌が悪そうだな?」

「テメェかァッ!! クソガキが、殺してやるッッ!!」

 

 男が懐から拳銃を取り出そうとしたところを、スタンドの『ドリーム・シアター』で彼の顔をぶん殴る。

 男の体は吹っ飛び、玄関の扉のすぐ横の壁にべちゃりとぶつかる。

 

「おう、オレもそのつもりで来たんだよ!」

 

 姿勢を持ち直そうとする男の足元に、先程仕掛けた蛇が這う。

 

「……あ? 蛇? なんでこんなところに蛇なんているんだよッ! よせ、やめろッッ!!」

 

 ガブリと蛇が男の足に噛み付いた。

 玄関の奥から別の人間の足音が近づいてきたことに気づいて、玄関からは死角になる位置に隠れる。

 

「オ、オイ、大丈夫かッ!?」

「う、ぐ、ぶぶ……」

「おいッ! もう二人がやられちまったぞッッ!!」

 

 玄関から出てきた男が玄関の奥に向かって叫ぶ。

 二人ということは、窓から仕掛けた生き物たちが既に一人を殺害したということだろう。

 

「パッショーネ……パッショーネの暗殺チームだッッ! 警戒しろ、むやみに一人で行動してはいけないッ!」

 

 男の言葉に強い口調で返したのは女の声だった。

 資料には、このチームのリーダーはこのチームでただ一人の女であると記載されていた。

 つまり、今の声の主がリーダーだ。

 

 足音に耳を澄ませると、玄関側に三人、玄関裏の窓からは人間の足音が聞こえない。

 人数的な不利を避けるため、玄関裏の割れた窓からアジトの中に入り込む。

 ガラスの破片で身を切ったが、だからといって止まるわけにはいかない。

 

 窓は洗面所に繋がっていた。

 窓から入ってすぐ男が一人、そして洗面所から廊下につながる扉の側でもう一人の男が倒れている。

 扉側にいる死体から、デスストーカーが現れる。それは勢いよくオレの方へ向かってきた。

 

「『アジトの中にいる人間を全員殺せ』って命令しちまったからか」

 

 頭を掻き、一旦スタンドを解除して気を取り直す。ただの死骸となったデスストーカーを回収する。

 

──現状、合計二人の人間の死体を操ることができる。

 

 二つの死体に対して、「このアジトのメンバーを殺せ」と命令する。

 死体たちは一斉に廊下を出て、玄関の方へ走り出した。

 

 上手くいったと安堵し、叫び声や銃声が聞こえるのを待つ。

 だが、どれほど待っても何も聞こえなかった。

 

──何が起きている?

 

 耳を澄ませると、フシューという聞き覚えのある音が聞こえた。

 

「これは……酸が物を溶かす音かッ!?」

 

 嫌な予感が頭を過ぎる。

 オレの『死体を操る能力』は、死体は死なない。動ける限り、解除されるまで命令された行動を続ける。

 

 しかし酸で溶かされてしまったならば、死体は動くことができない。命令を実行できなくなる。

 

「パッショーネのネズミ。よく来たな」

 

 気がつけば、目の前に女が立っていた。

 彼女の背後から出たスタンドに蹴られそうになるのを、『ドリーム・シアター』の腕で防いだ。

 相手のスタンドは足が長く、女性らしさを押し出した姿をしている。

 スタンドの本体もそれに近しい姿をした、長い金髪の女性だ。

 

「よくも私の可愛い部下たちを殺してくれたな。相応の覚悟はできているんだろうな?」

「てめーのスタンドだったのか。こっちには借りがあんだよ……てめーの方こそ覚悟しやがれッッ!」

 

 運良くパワーはこっちの方が上だ。相手のスタンドを押し切り、もう片方の腕で殴りかかる。

 

──ドロリ。

 

 その瞬間、左腕に激痛が走った。

 じわじわと腕から酸が溢れ出し、皮が剥がれ肉が見えた。

 

「『予想通り』だ。お前は無邪気な子どものように殴ってくると分かっていたッ」

「あぁッ、あああぁぁッ! い、いってぇッッ!」

「これが私のスタンド、『デフ・レパード』だ、ネズミ野郎」

 

 女に腹を蹴り上げられ、口から唾液が垂れる。

 

「さぁ、攻撃をして来い。無駄だろうがな」

 

──『他人を酸に変えるスタンド』?

 

 いや、違う。

 これには何か条件がある。

 そうでなければ、今すぐにでもオレを酸で溶かして殺してしまえばいい。

 だが現状、彼女はオレの行動を待っている。

 

 イルーゾォの鏡の中。

 男は酸となる直前、自分たちの目的がパッショーネの殲滅だと言った。

 

 それを言うメリットはなんだ?

 

 あの場面で兄貴だけ殺せたとしても、オレとイルーゾォは離れていたから必ず生き残ったはずだ。

 無駄に敵に情報を流すわけがない。

 

 ……まさか、それが条件なのか?

 

「お前……見た顔だと思えば、新入りじゃないかッ!」

「あ?」

「お前には助けられたと言っていたぞ。私たちに協力したパッショーネの一人がな……誰も新入りのお前は信じないから罪を着せやすいと!」

 

 そう言って、彼女は笑いながらオレのことを再び蹴った。

 

「知りたくはないか、誰がお前に罪を着せたのか」

「……なるほどな。それで、オレに何を言って欲しいんだよ?」

 

 酸で溶けた方とは逆の腕で相手の顔面をぶん殴る。相手は怯み、殴られた頬を抑える。

 

「おーおー。今回はオレの腕、溶けなかったな」

「……よくも」

「あ? ハッキリ言わねぇと聞こえねぇだろ。オレに何を言って欲しいんだ、答えろよ」

 

 この女のスタンドは、『スタンドの本体が指定した条件を、スタンドをかけられた対象が満たすと酸と化す』……ややこしいが、そういう能力だ。

 

 イルーゾォの鏡の中に入った男は『自分たちの目的を話すこと』が条件で、オレの腕が酸で溶けた時は『殴ること』が条件であったと考える。

 今殴ったにも関わらず腕が溶けていないのを見るに、恐らく一つの対象につき一つしか条件を指定できないのだろう。

 おそらく今の条件は、『パッショーネを裏切ったのは誰だ』と口にすることだ。

 新たにスタンド能力を使用されると厄介なので、相手から距離を取りたい。

 しかし、この狭い洗面所ではそれも困難だ。

 

「スタンドが理解されたのなら、ここからは脳みその戦いだ。私の能力は、細かい条件であればあるほど威力が上がる……」

「なるほど、下手に動けねぇな」

「さぁ、私が指定する条件を推理してみろッ!」

 

 右足を前に出して、『デフ・レパード』の蹴りを『ドリーム・シアター』の右拳で受け止める。

 すると、右拳と左足から酸が沸き立った。焼けるような痛みが襲う。

 

「あぁぁッ!!」

「『予想通り』。私の攻撃を受け止めると分かっていた。そしてお前が殴る拳とは逆の足を出すということも」

「ハッ、脳みそもクソもねぇじゃねぇか……ッ!」

 

 右拳と左足の肉がドロドロと溶け落ちる。まだ元の形は保っており、辛うじて動かせる。

 だがもう一度スタンド攻撃を喰らえば、どちらも失う可能性がある。

 

──その前に、何か起点を作らなければ。

 

 デスストーカーを取り出し、女の目の前に差し出す。

 

「玄関、まだお前の味方が残ってるよな?」

「ああ。お前だけがここに来ているとは限らん。アイツらには警戒してもらっているよ」

「コイツはすげえ強い毒を持ったサソリだ……コイツに刺されれば大体の人間は死ぬ」

「なるほど、お前のスタンドについては予想がついている。私の部下を人質にするという訳か」

 

 それを聞いていいやと否定すると同時に、女の前でデスストーカーにスタンド能力を使う。

 

「デスストーカー、この女にへばりついて殺せッ!!」

 

 そう言ってデスストーカーを彼女の顔に投げつける。

 

「しばらくそいつと遊んでろッ!」

「なッッ!?」

 

 女が悲痛な声で叫ぶ。その隙をついて彼女を殴り飛ばし、玄関の方へ走る。

 あの状態でデスストーカーを酸にすれば顔全体が溶けてしまう。だが酸にしなければアイツは猛毒で死ぬ。

 

──さぁ、どちらを選ぶのだろうか。

 

「ぐっ……『デフ・レパード』ッッ! サソリを酸で溶かせ、条件は『私を殺そうとすること』ォォォッ!」

「うわ、アイツ思い切りがいいなッ! 予想外だぜ」

 

 背後にある洗面所から呻き声が聞こえた。

 

 玄関には拳銃を持った男が二人いる。男たちの手前の足元ではドロドロの液体と化した酸が床を溶かしていた。

 

 男たちがオレの足音に気づき、こちらを振り返って発砲した。一発が左足に命中したが、走り続ける。

 

 液体を手で掬い上げ、手が爛れるのを無視して男たちに酸を振り撒く。

 彼らの目や口、腕に酸が降りかかり、彼らは拳銃を地面に落とした。

 

 男二人をスタンドで殴った後、左足の痛みに耐えられず、玄関の外で倒れる。地面に落ちていた蛇が視界に入った。

 どうやら、この蛇のスタンド能力も解除されていたようだ。

 蛇に『オレ以外のアジトから出てきた人間を殺せ』と命令して、男二人に噛みつかせる。

 そして死体となった男二人に触れスタンドをかけた後、落ちた二つのうち一つの拳銃を手に取る。

 その瞬間、声が響いた。

 

「ハァ、ハァ……ゲームオーバーだ」

 

 オレの目の前に女が立っていた。顔は爛れ、片目は潰れている。

 彼女の足元にいた蛇は酸で溶かされ、みるみるうちにドロドロの液体と化してしまった。

 

「て、てめーッ!」

 

 構える前に腕を蹴られ、拳銃が手から離れた。

 

「『デフ・レパード』、コイツを酸で溶かせ。条件は『拳銃を手に持つこと』」

 

 そう聞こえて拳銃を掴むのを諦め、拳を握り締める。

 

「相手が悪かったな、同情はしてやろう。悪くないスタンドだったよ、ネズミにしちゃあなッッ!」

 

 足で背中を踏まれ、背中にぐりぐりとヒールの部分が食い込む。

 

「クッ、ソ……離せ……ッ!」

「最後に負け惜しみを聞かせてくれ」

 

 そう言って女はオレの髪を掴み、目を合わせるように持ち上げられた。

 

「ああ、負けたぜ……てめーの、脳みそが、な……」

「それは『予想外』だな。命乞いをすると楽しみにしていたのに。命乞いをするまで虐めてやろうか?」

「お前の行動……オレは予想通りだぜ」

 

 オレの近くで倒れている二つの死体が動き出す。女はそれに気づかず、一つの死体に羽交締めにされる。

 

「お、お前たちッ!?」

「オレが持った拳銃に怯えて……見えて、なかったか……? そいつらはもうオレの人形だ」

「離せッッ!! 私が誰分からないのかッッ!?」

「お前のスタンドには自分の体を拳銃から防御する手段がないッ! だからオレに怯えた、だからスタンド能力をかけられた死体が『見えなかった』ッ!」

 

 女の足が背中から離れ、ふらりと立ち上がる。

 彼女の顔面にデスストーカーを投げたのは良い判断だったようだ。彼女が視界の半分を奪われて冷静さに欠け、油断したからこそ生まれた隙だ。

 

「オレは『死体を操るスタンド使い』。オレはここに武器を増やしに来たんだ」

「なッ……!!」

「一人は『女を羽交締めにしろ』、もう一人は……『女を拳銃で殺せ』と命令した」

 

 女はこの状況では男を酸に変えることもできないだろう。

 なぜならば、彼女自身も巻き込まれて溶けてしまうからだ。女はスタンドで死体を振り解こうともがく。

 死体が女の体から離れる前に、別の死体が彼女に銃口を向けた。

 銃を持つ死体は、女からは離れている。スタンド能力である「条件」を課すための射程距離内にいない。

 

「オレは、拳銃の使い方なんて知らねぇよ」

 

──そして、静かな街中に銃声が響いた。

 

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