「……つか、れたな」
死体と血だらけの地面に膝をつく。
こんな静かな時間に発砲させてしまった。
きっと近所の住人が通報しているだろう。もうすぐ警察が来てしまう。
分かってはいるが、左足に力が入らない。
──情けねぇ。
いくらターゲットを殲滅できたと言っても、アジトに帰れなくなる傷を負っては意味がない。
──頑張ったけど、兄貴のように強くはなれなかったな。
地面に尻を着いてうずくまる。
「アフェット」
どこからともなく、オレの名前を呼ぶ声が聞こえた。
「……ん? んえぇぇ!?」
夢か? それとも走馬灯ってヤツか?
声の主を探してきょろきょろと周りを見渡すと、オレの後ろにリゾットが立っていた。
「リゾット!? なんでここにいんだよ!」
「お前が裏切り者ではない証拠を探しに来た。安心しろ、既に見つかった」
頭を傾げる。
いつの間に?
というより、先程までどこにいた?
そう疑問を抱いている間に、リゾットは俺の左足を布切れで手当てした。
「お、おお、ありがとな」
「まだ立てないだろう。オレの肩に掴まれ」
リゾットはオレの左側に立ち、身を屈める。彼の左肩にオレが腕を回すと、彼はその腕を掴んで一気に立ち上がった。
「イテテテテテテテッッッ!!!」
身長差で左肩が引っ張られて外れそうになり、両足がつま先立ちになる。
忘れていたが、彼はオレより十センチ以上背が高い。こうなるのは必然だった。
「悪い。背負って行こう」
彼はそう言って軽々しくオレを背負う。人を一人背負っても全くバランスを崩さない、安定した筋力と体幹に感動する。
それと同時に、彼におぶられていると意識すると自然と体が強張ってしまう。まだ彼への警戒心が解けていないからだろう。
「よくやった、アフェット」
リゾットにそう告げられる。褒められたのは心の底から嬉しい。しかし、今回の任務は暗殺チームの仕事として良かったのか、と疑問に思う。
「オレ……足取りとか気にせずに派手にやっちまったんだ。こんなんじゃお前に迷惑がかかるだろ」
「気にするな。このアジトには大量の麻薬があった。警察に介入されるとまずいのはアイツらの方だ。勝手に事件を処理してくれるだろう」
そこまで考えて行動していたのか、と感動する。
人が多く通る道路にたどり着くと、リゾットはタクシーを呼んだ。
タクシーが目の前に止まると、彼は優しくオレを後部座席に乗せた。
その後彼もオレの隣に乗り込み、運転手に目的地を伝えた。
リゾットは身長が高い上に肩幅も広い。そんな彼にとって小さな車内は窮屈そうだ。
「帰るぞ」
そう言われた瞬間、一抹の不安が襲った。
任務は達成したものの、ギアッチョとイルーゾォはオレを認めてくれるのだろうか。
オレたちは、また仲良くなれるのだろうか。
そんな俺の不安を察したかのようにリゾットが告げる。
「お前が不安がることはない。オレたちの方こそ、疑って悪かった」
「でも、オレが疑われるのは当然のことだったろ」
女の話によれば、オレは元から利用される予定だったようだ。
仲間たちがオレを疑っても仕方がないと理解はしている。
「むしろありがとな、リゾット。お前がリーダーじゃあなかったら……」
死んでいた、言う前にリゾットに視線を向けられた。
彼が何を言おうとしているのかに気づいて、口を抑える。
──そうだ、オレたちは一般人の前ではこういう話はしないんだった。
しばらく沈黙の時間が流れ、アジト付近に到着する。タクシーから降りると再びリゾットにおぶられ、そのままアジトに帰ることになった。
その途中で、リゾットは口を開く。
「仲間を殺すというのは良い気がしない。そいつが冤罪だったのなら尚更だ」
それだけのことだ、と彼はいつも通り淡々と話す。
でもその言葉の節々からは仲間を思う気持ちが感じられた。
「……なんだ。人間らしいところもあるんだな」
彼はそれ以上何も言葉を返さなかった。
オレはだらんと体中の力を抜いて、リゾットの背中にもたれる。
任務以外のことに目がないヤツだと思っていた。
何を話していても感情の起伏が感じられない。スタンド使いなのか、何が好きで何が嫌いなのか、いつ寝ているのか……オレはリゾットのことを何も知らなかった。だから怖かった。
でも、彼が嫌だと思うことを一つだけ知ることができた。
ただそれだけのことだが、大きく距離が近づいたように思えた。
しばらくしてアジトに着いた。リゾットはオレをおぶったまま玄関の扉を開ける。彼はそのまま真っ直ぐにリビングへと向かう。
「オイ、待て待て!!」
「どうした?」
「このまま入るのか!? というか、まだ心の準備が……ッ!」
慌てふためくオレに対して、彼は至って平然としていた。
何度説得されても、ギアッチョやイルーゾォはオレを許してくれるのか不安だった。
「オレがやれることは全てやった。あとは、アイツらがオレを受け入れるかどうかだ」
「受け入れられなかった時が辛い、か」
「ああ、アイツらは初めてできた仲間なんだ……拒否されて平気でいられるほど、オレは強くねぇ」
いつまでも未熟な自分に吐き捨てるようにそう言った。
するとリゾットは足を止め、少し間を置いて言った。
「プロシュートなら、堂々と振る舞うはずだ」
「……そうだよな。兄貴なら、きっとこんな情けないこと言わねぇよな」
降ろしてくれ、とリゾットに頼む。
彼がゆっくりと腰を下ろした後に、オレは地面に足をつく。
なんとか歩くくらいのことはできそうだ。
リビングに繋がる扉のドアノブに触れる。
しかし手が震えてしまって、動けない。
「この期に及んで、まだ覚悟できねぇのかよ……クソッ」
自分のあまりの弱さに失望していると、後ろから言葉を投げかけられた。
「お前はお前自身が思っている以上に強い。今回の任務でそれは証明されたはずだ。胸を張れ」
「リゾット……」
その言葉に背中を押される。
まるでエンジンがかかったかのように、体が動き出した。
「ああ、そうだよな」
オレはドアノブを握りしめ、扉を開いた。リビングの中にいたギアッチョ、イルーゾォ、メローネがこちらを向く。
へらり、と苦笑いしてしまいそうになったのを抑える。
何を言えばいいのだろうと戸惑った後、兄貴のことを思い出した。
「……帰ったぜ」
リビングは静まりかえっている。ソファに座っているイルーゾォ、メローネ、ギアッチョは唖然としていた。
「マジか……本当に帰ってきやがった」
イルーゾォは開いた口が塞がらないという様子でそう呟く。
ギアッチョは一人ソファから立ち上がり、オレの目の前に来た。
「本当に敵アジトを殲滅してきたのかァ!? あァ!?」
ギアッチョはぐぐぐ、と拳に力を入れている。その拳がいつオレの顔面に飛んできてもおかしくはない。
彼にとって、オレはまだ裏切り者だ。このまま半殺しにされてもおかしくないだろう。
いつも無機質な物に向けられる彼の拳は大変力強く、以前殴られた際には顔が丸三日腫れた。
暴力には慣れているため、ある程度ならば平気だが……流石に半殺しは勘弁して欲しい。
「安心しろよ、しっかり全員殺してきた」
「……証拠は」
ギアッチョは静かにそう言った。
ヤツらを殺した証拠なんて持っていない。
狼狽えていると、リビングに入ってきたリゾットがオレの隣に立った。
「アフェットの任務達成はオレが見届けてきた。そして、アフェットが無罪だという証拠も見つけた」
リゾットはそう言って一枚のディスクを取り出す。
「アフェットは裏切り者じゃあない」
「それは確実なのか?」
「じゃあ裏切り者はどこのどいつなんだァ!?」
イルーゾォとギアッチョが前のめりになって彼を問い詰める。
「ここには音声ファイルが入っている。パッショーネの『情報処理チーム』とプリマベラのメンバーの会話だ」
「な、なんだってェ……ッ!?」
それを聞いた途端、ギアッチョは行き場のなくなった拳を思い切り机に叩きつけた。
「
「アフェットは情報処理チームに冤罪を着せられていた……認めたくないがあり得る話だ」
イルーゾォはそう言って大きなため息をつき、ドサリとソファに座り直す。
『情報処理チーム』という言葉を聞いた途端、イルーゾォとギアッチョの様子が変わった。
オレはそのチームのことなど何も知らないし、聞いたこともない。
リゾットに疑問を投げかける。
「『情報処理チーム』ってなんだ? いつも情報を集めているのはリゾットじゃあなかったのかよ?」
「ああ、その認識で合っている。だが『情報処理チーム』には、集めた情報の答え合わせに協力してもらっていた。それくらいアイツらが集める情報は正確だ」
いつもリゾットが渡してくれる情報が正確なのは、情報処理チームの協力もあってのことのようだ。
「だが、アイツらは偽の情報を生み出すのも上手い」
「リゾットはお前に伝えていなかっただろうが、この一週間でお前が裏切ったという証拠がいくつか出てきていたんだぞ」
「え!?」
リゾットの言葉に、イルーゾォが補足する。
オレに対するギアッチョやイルーゾォの当たりが強かったのは、その証拠があったからなのだと納得する。
「リゾット。証拠があったのに、どうしてオレを殺さなかったんだよ?」
「情報の発信源は情報処理チーム……先ほども言ったように、偽の情報を生み出すことも得意な連中だ。慎重に判断するべきだと考えた」
オレは新たな主人……いや、上司に恵まれたようだ。
リゾットが冷静に物事を考える人間で良かったと心から思う。
それと同時に、自分が面倒な連中に目をつけられていたのだと自覚し、頭を抱えた。
「アイツらの出す情報は質がいい。だがパッショーネのチームでありながら、他のチームとも内通しているのが実情だ」
「は!? そんなことをしてボスから殺されないのか!?」
「あれほどの人材を失うことは組織にとってのデメリットになる……だから今まで見逃されてきた」
リゾットの言葉から察するに、情報処理チームの実力はボスの折り紙付きのようだ。
「だが、見逃されるにも限度がある。本人たちもそれを分かっているからこそ、お前に罪を着せようとしたんだろう」
「そうか……オレはこれからどうしたらいいんだ?」
「オレがお前が無罪である証拠をボスに提示し、ボスの指示を待つ。その指示が出るまで、お前はゆっくり休んでいろ」
そう言って、リゾットは書斎に消えていった。
リゾットの姿が消えると、ギアッチョはオレに背を向ける。
「……悪かったな」
彼は絞り出すように言う。
仲間に疑われて傷ついた。でもオレが裏切っていた証拠があった以上、彼らがオレを疑うのは当たり前なのだと頭では分かっている。
「わ、悪いのは情報処理チームだろ。オレは……気にしてねぇよ」
「嘘つくんじゃあねぇよ、ボケがッ」
図星をつかれて驚いていると、ギアッチョが大きく足音を鳴らしながらオレの方に近づいてきた。
そしてオレの頭を乱暴に握り拳で小突くと、そのままアジトを出ていってしまった。
「オレはこの目で証拠を見るまで、お前を信じない」
イルーゾォは低い声でそう言った後、静かに立ち上がって書斎へと消えていった。
リビングにはメローネとオレだけが残る。
「イルーゾォも証拠を見れば納得するだろう。もうお前を疑うヤツはいない」
「メローネ、ありがとな。お前が手助けしてくれなかったら、オレは任務に失敗してた」
「どういたしまして」
メローネだけはいつものように平然な様子で話す。
彼の冷静さは、何があっても自分の仕事に支障はない、といった自信から来るものなのだろうか?
「リゾットが言うように、お前には休息が必要だ。休んできた方がいい」
「ああ、そうだな」
軽く返事をしてリビングを後にしようとドアの方へ向く。
その瞬間、 撃たれた足に鋭い痛みが走る。
ガクンと足の力が抜け、その場に倒れてしまった。
「いっ……てぇ……!」
「!」
メローネが駆け寄り、オレの体を抱えてソファまで運ぶ。
彼は布切れが巻かれたオレの左足を見て、なるほどと呟いた。
「足を撃たれたのか」
「ああ。ごめん……ちょっと、ここで眠ってもいいか」
「何も問題はない、その間に適切な処置をしておく。多少痛むかもしれない」
「大丈夫だ……頼んだ、メローネ……」
ソファに寝転ぶ。
すると左足の痛みすら忘れるほどの猛烈な睡魔に襲われ、そのまま眠りに落ちてしまった──
更新が遅れてしまい、申し訳ございません。
今回は悩みに悩みながら書きました。
自分の中で解釈がまた散らばり始め、自分が書いたものに対して解釈違いを起こし、書き直すのも日常茶飯事です……
この話は黄金の風において、ジョルノがギャング入りする四年前から話が始まっています。
なので、ギアッチョやメローネがまだ若さを残したような行動を取ることもあるかもしれません。
成長したら本編のようになるんだと逆算しながら書くつもりです。
評価、ブックマーク、しおりなど、全ての読者様の反応が嬉しいです。
いつもお付き合いいただきありがとうございます。どうぞこれからもよろしくお願いします。