黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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今回はしっかりストーリーに関係する部分ですが、オリジナルキャラクター同士の会話が多くなっております。
苦手な方はご注意ください。

↓今回出てくるオリジナルキャラクター、
 「イノセンテ」のイラストです。

【挿絵表示】



十五話 無垢

「お、女を口説けつったって……どうやってやんだよ……」

 

 アジトから出たはいいものの、何をすればいいのか分からず街の中を彷徨う。

 いつも布で隠している右目が太陽の光に晒されていることに慣れない。

 いつもより視界は広いが、右目は視力が落ちているので、右側の視界がぼやけている。

 

「話しかけるキッカケとかがあればいいんだけどな……そんなうまい話もねえんだよな」

 

 任務は明日だ。

 それまでになんとかしなくてはいけないのに、昼を過ぎても進展がないままだ。

 このままではまずいと思い、通りすがりの女に声をかける。

 

「お、おい、お前」

「え、なんなの?」

 

 茶髪で背が低く、可愛らしい印象の女だ。

 一応話しかけはしたが、何をどのように話せばいいのか分からない。

 必死に言葉を絞り出す。

 

「あ、いやその……オレと、デート? をしてほしくて……」

 

 自分が何を言っているのか、何を言えばいいのか分からず言葉を続ける。

 

「ふざけんじゃあないわよ! あなたみたいな下品で貧相な奴とデートなんか考えられないわ!!」

「うっ!!??」

 

 相手の女はオレの足を鋭利なヒールで思いっきり踏みつける。

 痛みに悶えるオレをよそに、彼女はスタスタと早歩きでどこかへ行ってしまった。

 

「いってえーーッッ!! あーもう、何も上手くいかねえじゃあねえかッ!!」

 

 周りにいた街の人間たちは、女にフラれてその場に一人取り残されたオレを見て嘲笑う。

 今すぐにでも女を口説くのを諦めてアジトに帰りたいが、兄貴ならそんなカッコ悪いことはしないだろう。

 

「甘えたこと言ってらんねえよな」

 

 自分を鼓舞するようにそう言って、立ち上がる。

 

 先ほど失敗した理由は、オレが下品で貧相なヤツに見えてしまったからだ。

 ならば、上品に見せればいいのだろうか?

 ……どうやって?

 

 兄貴のようにと意識しても、兄貴が女を口説くところなんて見たことがないし、想像もつかない。

 

「あああ! もう分かんねえーッ!!」

 

 居ても立っても居られず、人目も気にせず叫び声を上げる。

 すると、突然後ろから肩を叩かれた。

 

「賑やかで面白いヤツだね」

 

 驚いて振り返ると、そこには燃えるように赤く長い髪の女がいた。

 彼女は上品というより、とてもラフで動きやすそうな服装をしている。

 

「キミが良かったら、アタシとデートしようよ」

 

 彼女はニカッと歯を見せて笑う。

 

──これはオレが口説くどころか、口説かれてしまっているのか……!?

 

 自分が情けない。

 しかし、この機会を逃せば明日に間に合わないかもしれない、と焦燥感にも襲われる。

 

「あ、頼む……!!」

 

 こういう時にどうすればいいのか分からず、頭がひどく混乱している。

 動き、表情、言葉の全てが硬くなっていることが自分でも分かった。

 

「よっしゃ、きた! キミ、名前は?」

「ア、アフェット」

「素敵な名前! アタシはイノセンテ。よろしくね!」

 

 イノセンテは笑顔でオレに手を差し出す。それに応えて握手をすると、彼女はオレの手を握ったまま歩き出した。

 突然手を引っ張られて体勢を崩す。

 

「うわぁっ!」

「あははは! 本当に女の子慣れしてないんだね、珍しい〜ッ! アタシはそっちの方が面白くて好きだけどさ」

 

 彼女の言う通り、オレは女に慣れていない。

 十数年主人としか話してこなかった上、今いる暗殺チームのアジトに女はいないからだ。

 だがオレが戸惑っているのは、イノセンテが女だからというだけではない。

 

──こうして優しく触れられるのが、気持ち悪いほど新鮮だったからだ。

 

「お前はこういうの、慣れているのか?」

「いーや、アタシはいつもフラれてばっかだからね〜。上品に立ち振る舞うなんてできないし、下品な女ってよく言われるよ」

 

 イノセンテは「アタシはそういうの苦手なのに」と頬を膨らませる。

 それを聞いて、女性らしい立ち振る舞いを学べと言われているのに、学習元がコイツでいいのかと不安が過ぎった。

 

「女に慣れてないだけじゃあないんだ。こうやって人に触れるとか、触れられるとか……そういうのも、オレは慣れてねぇ」

「え? マードレにしてもらわなかった?」

 

 マードレという単語を聞くと、何も言い返せなくなる。

 イノセンテは「訳アリか」とだけ言い、それ以上言及してこなかった。

 

「ここ、アタシのお気に入りのカフェなんだ。ここでお茶しない?」

 

 彼女は小さな店を指差す。今となっては少し古臭い、アンティークを基調としたカフェのようだ。

 ガラス越しに店内を見ると、客は少なく席がガラガラだ。

 

「ああ、大丈夫だ。人があんまりいないところの方がオレは好きだしな」

「へぇ、どうして?」

「オレは耳が良いらしくてな。色んな人の会話が頭に入ってきて、気持ち悪くなっちまう」

 

 暗殺チームに入ってから数ヶ月経つが、オレは歯医者に行く時以外、一人で街に出ることはほとんどなかった。

 その理由は、自分の聴力が良いことにあった。

 

 視力が良くない代わりに聴力に優れたようで、屋敷で足音を聞き分けて暇を潰すくらいだった。

 暗殺には役に立つが、日常生活では困ることの方が多い。

 

「そうなんだね。実はアタシも人が多いところは好きじゃあないんだ。アタシはアタシでいたいだけなのに、下品な女だのなんだの、好き勝手言われるからね」

「人の目を気にしちまうんだな。大変そうだ」

「人の言葉を気にするアフェットと人の目を気にするアタシ。やっぱ気が合うと思うんだよね!」

 

 イノセンテはそう言いながら店の中へ入っていく。彼女に続いて店に入り、適当にコーヒーを注文して席につく。

 

「そういえば、さっき女の子をナンパしてたよね? 女の子に慣れてないのにナンパするなんて、何かきっかけがあったの?」

「きっかけ……きっかけかぁ……」

 

 彼女の質問に頭を抱える。

 任務に必要だから……はダメだ。

 オレがギャングだということは知られてはいけない。下手なことは言わない方が無難だろう。

 

「言いにくいことだったかな、ごめんね」

 

 イノセンテは申し訳なさそうに視線を逸らす。

 罪悪感が掻き立てられる。頭の中で必死に言い訳となる言葉を探った。

 

「い、いや違う! オ、オレはただ、女のことをよく知らなきゃいけないと言われて……」

「ああ、そっか。確かにここじゃあ浮いちゃうくらい、女の子慣れしてないもんね」

 

 悪いなと頭を掻く。

 とりあえずは誤魔化せたようだ。

 

 イノセンテは美人だ。

 切長な目に凛々しい眉が、彼女の芯が強い性格をよく表している。

 

 「女らしい」というのは、チームのメンバーにはないところ……だろうか。

 目の前で頬杖をつく彼女は、他のメンバーと比べて内股気味……そのくらいしか参考にならない。

 

「女の子を知りたい、かぁ……じゃあアタシ、ちょっと演技してあげようか!」

「い、いいのか!? オレは助かるけど、お前自身はそういうの好きじゃないんだろ?」

「いーよいーよ! デートに付き合ってくれたお礼だから」

 

 イノセンテはそう笑うと、足を組むのをやめて姿勢を正し、両手を重ねてふわりと机に乗せた。

 彼女は歯を見せずに口角を上げ、こちらを静かに見る。

 

 そんな彼女の仕草は、お淑やかという言葉がよく似合っていた。

 見惚れていると、彼女がふふと笑いながら小さく口を開く。

 

「アフェット、どうかしら」

「うおッ!? お、おう……なんていうか、淑やかだよ」

「ありがとう。このあたりで男の子に理想とされる女の子はこんな感じなの。少しは参考になったかしら?」

「おう、すっげえ参考になったぜ!」

 

 オレがそう言うと、イノセンテはニシシと歯を見せて笑った。

 

「あはは、やっぱ変な感じ!! アタシはこっちの方がずっと向いてるね!」

 

 先ほどの淑やかな彼女の面影はなく、あまりの温度差に風邪を引きそうだ。

 一人の人間を前にしているはずなのに、先ほどの淑やかな人とはまた別の存在が、そこにいる気がしてしまう。

 任務ではオレもそうならなくてはいけない。

 

「すげーなぁ! オレもそんな風にできるようになりてぇよ」

「え?」

「あっ」

 

 彼女は首を傾げる。

 しまったと口を塞ぐが、もう手遅れだった。

 

「アフェットって女の子なの!? 確かに体つきは中性的って感じだけど……」

「あ、え、えっと……!!」

 

 パニックに陥る。

 イノセンテの問いにどう答えればいいか分からない。

 このまま下手に言い訳をしようと言葉を発してしまえば、任務のこともぽろりと口に出してしまうような気がする。

 

「か、金はここに置いてくッ!! 今日はありがとな、またなッ!!」

「ちょ、ちょっと、アフェットッ!?」

 

 兄貴に渡された金を机の上に残して、逃げるようにその場から走り去る。

 

「うわああああああッッッッ!!」

 

 口には出さないが、心の中でそう叫びながら街の中を走り続ける。

 息が切れ、肺が痛くなっても無視して走り続けた。

 気づけばアジトに辿り着いていて、玄関の扉を開けるとすぐさまその場に倒れ込んでしまった。

 

「ああ〜〜ッ、何してんだオレ!! かっこ悪ぃ〜〜〜ッ!!」

 

 顔を手で覆い、バタバタと左右に暴れ回る。

 一応目的は達成できたものの、とんでもない恥をかいてしまったことがとてもショックだ。

 兄貴なら絶対にこんな失敗はしないだろう。

 

 しばらくオレは玄関で自己嫌悪に陥っては叫び、頭を抱えてひたすらに悶え続けた。

 その現場を兄貴に見られ、みっちり事情聴取をされた後に説教を食らった。

 

 女に声をかけるときに「お前」って言うんじゃあねえッ、とか……有金全部置いて逃げて帰ってきたってどういうことだ、とか……。

 

 任務直前のために説教は長く続かなかったものの、それでもオレの精神は情けなさと恥ずかしさですり減り、ボロボロになった。

 




今回もお読みいただきありがとうございます。

8/19追記 : 多忙のため、更新ができなくなっており申し訳ございません。その代わりに、アフェットの新規イラストを用意させていただきました↓


【挿絵表示】


また、ブックマークや感想などもありがとうございます!
最近は日常生活で「リゾット・ネエロ(28)……」「スゲーよく分かる」など発言することが多くなり、暗殺チームに狂わされているオタクになっています。
ここまで数年前と同じ気持ちで同じ作品を好きで居続けられるのは、ジョジョという作品が偉大であることはもちろん、アニメ放送時に触れていた数多の二次創作のおかげでもあります。
私の作品が誰かの創作意欲に繋がることを祈って、これからも連載を頑張ります。
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