黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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二十四話 理由

──『運命』が存在するなら、オレがどんなことをしても意味はない。

 

 オレは「生き抜きたい」と願ったからこの場所に来た。

 でも『運命』という存在を知って、その願いさえ失ってしまった。

 何も残せず、何も変えられず、全ては『運命』が定めた結末に収束するだけ。

 

 もう、『運命』に縛られた人間の生死を見ることに疲れた。

 なのにオレはなぜ、まだここにいるのだろう──?

 

 

 

 前回の任務から一週間が経った頃、オレはリゾットから書斎に呼び出された。

 

 

「アフェット、調子はどうだ」

「……」

「最近のお前は、何かに失望したかのような表情を浮かべている。思い悩んでいることがあるだろう」

 

 

 流石、このチームのリーダー。

 彼の観察眼は大したものだから、彼の前で嘘をつくことはできないだろう。

 だが何を言われようと、何を聞かれようと、それに答える気はなかった。

 この絶対的な『運命』という存在……これは、誰にも言わない方がいい。

 こんなことは、知らない方が幸せだ。

 

 

「話す気はない、か」

「ああ」

「構わない。だが、その代わりに任務に復帰できるようにしろ。このままでは、組織内でのお前の立ち位置が危うくなる」

 

 

 彼の言い方に疑問を覚える。

 どうして、わざわざそんな回りくどいことを言うのだろうか。

 

 

「組織内でサボってるヤツなんてもっといんじゃあねーか。言えよ、オレがチームの足枷になってるって。ハッキリそう言ったらいいだろッ!」

 

 

 そう返して、唇を噛み締めた。

 彼は悪くない、悪いのは何もできなくなったオレなんだ。

 それを聞いても彼は表情一つ動かさず、淡々と答えた。

 

 

「……オレたちヒットマンチームは、組織内で不当な評価を受けている……つまり、ボスに厳しい目を向けられている」

「え?」

「ボスからすれば、オレたちは簡単に足切りできる存在だ。チーム単位とはいかなくても、個人となれば命を狙うことは容易いだろう」

「そ、そんな、嘘だろ!? オレはともかく、お前たちはいつも上手くやってんじゃねーか!」

 

 

 ありえない。

 だが、彼がオレを励ますために優しいウソをついているなんてことはないだろう。

 言われてみれば、任務を達成して与えられる報酬について、ギアッチョが文句を言っていたことがあった。

 

 

「むしろ、ボスはオレたちの中の誰かを始末したいとすら思っているだろう。実力のあるヒットマンチームのメンバーがボスによって簡単に殺されたとなれば、誰もボスには逆らおうとしなくなる。見せしめには丁度いい」

「そ、そんな……」

 

 

 リゾットは淡々と話しているが、ヒットマンチームは危ない状況に陥っているのかもしれない。

 彼が言っていることが本当なら、メンバーの誰が命を狙われてもおかしくないということだ。

 

 

「お前の状況も理解している。せめて目立つ行動は控えるようにしろ。『殺してもいい理由』をボスに作らせるな」

「……忠告、助かるぜ」

 

 

 そう言って書斎から出る。

 リビングに出ると、ソファに座るメローネに声をかけられた。

 

 

「アフェット、今のおまえの健康状態は良好とは言えない。睡眠不足、食欲不振……自律神経の乱れによる症状が見られる」

「そうか」

 

 

 彼は入団した時から変わらず、勝手にオレの体調を診察しては話しかけてくる。

 最初は不審に思っていたそんな彼の行動に、今は慣れてきていた。

 

 

「冷蔵庫にギアッチョが作ったパスタがある。それを食べてしっかり眠った方がいい。ああ、無理に腹に詰め込むようなマネはするんじゃあないぞ」

 

 

 彼はその注意を強調するように、オレに指を差しながらそう言った。

 いつも通り、論理的に物を語るばかりだ。彼の表情からは感情の動きを感じない。

 彼の感情が動くのは、実験欲が掻き立てられている時だけ……そんな気がしている。

 

 

「いつもメンバーの体調を気にかけて、疲れないのか?」

「問題ない、職業病だ。だがアフェット、お前は他のメンバーと違って少し『特別』だ。『母胎』になれる可能性がある者は、常に健康な状態でいなくちゃあならないからな……」

「は、はぁ……」

 

 

 彼が言う『特別』とは、決して恋人の意味などではない。彼の言う『母胎』になれるかどうかの基準は性別だ。オレはその点で中途半端だから、『特別』という言葉で表されているだけだ。

 

 『母胎』云々の話は、彼のスタンド能力に関わる話題だ。以前から彼のスタンドに関するヒントはいくつか出てきているが、それを詮索するのは……やはりやめた方がいい気がする。

 

 

「セクハラはそこまでだ。他の話をしねーか」

「他の話……何の話だ?」

「メローネ、お前のことを聞きたい」

「突然だな」

「……頼む、付き合ってくれ」

 

 

 彼と向き合う形でソファに座る。

 

 

「お前はこのチームのメンバーのみんなのことを、どう思ってる?」

「どう……か。難しい質問だな」

 

 

 常に頭が回る彼にしては珍しく、この質問に頭を抱えていた。

 

 

「メンバーと過ごすこの場所が、居心地良く感じているのは確かだ」

「意外だな」

「おれは昔から一人で実験に没頭することが多かった。他者からの批判や視線は気にしなくてもいいものと思い実験を続けていたが、物理的な邪魔をされて困ることがあった」

 

 

 彼らしい困りごとだな、と思いながら相槌を打つ。

 

 

「だがこのチームに所属していて、奇妙な目で見られることはあっても、邪魔をされることはない」

「まぁ……奇妙な目では見られるだろうな」

「それで困るわけではないが、どうにか理解してもらえないかと考えることはある」

 

 

 真剣な表情を浮かべる彼に対して、それは難しいと思う……と言うのはやめておいた。

 

 ギアッチョに聞いた話だと、彼が女性に向ける視線はかなり特殊だそうだ。

 「スタンドがそういうものだから仕方ない」、とのことだ。まだ彼のスタンドを見たことがないが、あまり見たいとも思えない。深く彼のスタンドについて詮索したくないのも、なんとなくどういうスタンドなのか予想がついてきたからだ。

 

 聞いた話から考えるに、彼が実験的な興味を抱いている対象が、女性の体なのかもしれない。

 だからオレは、初対面の時に性別を問われたのだろう。

 

 

「話が逸れたな。おれの仕事のやり方に文句をつけるわけでもなく、時によっては楽しく話せる。だからこのチームのメンバーと一緒にいることは、おれにとって居心地がいい」

 

 

 このチームの仕事で一番見られるのは、「始末した」という結果だ。

 その結果さえあれば、よほどのことがない限り手段に文句を言う者はいない。

 だからこそ、彼にとって居心地がいいのだろう。

 

 

「これで答えになったか?」

「おう、ありがとな」

 

 

 席から立ち上がってその場を後にしようとした時、メローネは再び口を開いた。

 

 

「ああ、それともう一つ……最後に言っておくと」

「ん?」

「君……アフェットも例外ではなく、チームのメンバーだ」

「お、おう!?」

 

 

 意外な彼の言葉に驚いて、頭が混乱する。

 彼からそんな情があるような言葉を聞くのは初めてだ。

 いや、オレが意識しすぎているだけで、メローネにとっては「普通のこと」、なのだろうか……?

 

 真意は分からないまま、礼を言ってそそくさとその場を後にする。

 メローネに「飯はどうするんだ」と呼び止められたが、それを無視してリビングを出た。

 階段を登って自分の部屋に入り、閉めた扉の前でへたり込む。

 そして、メローネの言葉を思い出した。

 

 

「オレもこのチームのメンバー、か……」

 

 

 メローネだけじゃない。

 オレが裏切りの疑いをかけられた事件の後から、みんながオレをメンバーとして認めてくれていたのには、なんとなく気がついていた。

 それを言葉で伝えられた時、ひどく動揺してしまうほどに嬉しかった。

 

 

──このチームのメンバーと一緒にいることは、おれにとって居心地がいい。

 

 

 メローネの言葉を聞いて、オレは自分自身の気持ちを理解することができた。

 何もできないくせに、どうしてここに居続けているんだろうと考えていた。

 

 

 ……オレも、メローネと一緒の気持ちを抱いている。

 オレにとってここは居心地がいい。

 みんなと過ごすことは楽しくて、安心して、幸せだ。

 このチームは、このチームのメンバーたちは、オレの生きる力だ。

 だから今、こうしてこの場所にしがみついているのだ。

 

 だがそう考えれば考えるほど、怖い。

 いつその『運命』が、チームのみんなに降りかかるのか分からないからだ。

 

「……死んでほしくない。みんな無事に、幸せに、生きていてほしい」

 

──そして、みんなともっと一緒にいたい。

 

 『運命』が、怖い。

 みんなを大切に思うことも、怖い。

 それでも、みんなと一緒にいたい。

 

 その願いを叶えるためには、オレは『運命』を受け入れなければならない。

 その覚悟を、オレは持てるのだろうか。

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