黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

27 / 30
二十五話 事実

──とは言え、誰にこんなことを話すっていうんだ?

 

 薄暗い部屋の中で、長い時間途方に暮れていた。

 みんなと一緒なら、『運命』を乗り越えられる。

 そう思ったが、どうすればこの感情を分かってもらえるのだろう?

 

──プロシュート兄貴に相談したら、どうなるだろうか。

 

 兄貴は何に対しても自分なりの答えを導き出している。だが、オレにはその答えが理解できないことがある。

 人の死に関して、兄貴の考え方に至ることができなかったように。

 

「……このまま何も変わらないよりマシか」

 

 そう思い立って、兄貴がいる部屋へと向かう。扉をノックすると、扉の向こうから低い声が響いてきた。

 

「何の用だ」

「兄貴、相談したいことがあるんだ」

「入れ」

 

 扉を開けると、ほんのり爽やかな匂いを感じた。

 

「お、なんかほんのーり匂いがするな。これは食べ物……じゃねえな、何の匂いだ?」

「ほんのり……本当に鼻は悪ぃな。香水の匂いだ。数があるからそれなりに匂うはずだがな」

「ほへー」

 

 そんな他愛のないことを話しつつ、本題に入る。

 

「なあ兄貴……人の死が『運命』で決められていたら、どうする?」

「何を言い出すかと思えば、そんな頓珍漢なことか」

 

 兄貴はため息をつく。

 なんだかいつもより機嫌が悪い気がする。

 いや、違う。彼は機嫌が悪いところをあからさまに見せることはない。

 それなら、何かあって疲れているのだろうか。

 彼の様子を見つつ、口を開く。

 

「真剣に聞いてくれ。もし大切な人の、死の『運命』が既に定まっていて、それは変えることができないものだとしたら……オレたちは何のために生きているんだ」

「アフェット、おれは前に言ったぜ。『大切なものがあればあるほど、傷つくのはお前だ』と」

「覚えているけど……だからなんだよ」

 

 彼の言うことが理解できずそう言うと、彼はこちらに向き直り言った。

 

「作るな。誰のことも大切だと思うんじゃあねえ。もちろんおれのこともだ」

 

 低く突き放すような冷たい声。オレは気づけば、大きな声で反論していた。

 

「大切に思わないなんてできるわけないだろッ!? オレはみんなを家族だと思ってる、兄貴たちだってそう思ってくれてるんじゃねえのかよッ!」

 

 兄貴は後ろを向き、顔を見せてくれなくなった。彼はオレの言うことを、ただ黙って聞いていた。

 それに納得がいかず、更に捲し立てるように言った。

 

「リーダーだってオレの誕生日に写真をくれたじゃねえか! それも全部、オレの勘違いだったのかよッ!!」

 

 それでも、彼は黙ったままだった。

 そこでようやく、彼に理解を求めても無駄なのだと悟った。

 

「……兄貴に相談したオレが悪かったよ」

 

 そう言って踵を返す。部屋を出てすぐに座り込んでしまった。

 

「なんでそんなことを言うんだよ、兄貴……オレはみんなのことが、お前のことが……」

 

──心の底から、大切だったのに。

 

 視界がぼやける。

 

「いいや、やめよう」

 

 他の人に相談してみよう。

 そう思っていると、何やら一階が騒がしい様子だと気づいた。

 丁度いいと思い、リビングへ向かう。

 

 階段を降りて、扉越しに声を聞く。

 ソルベとジェラート以外のメンバーたちがリビングに集まっているようだ。

 

「新人!? この状況で、何のためだよッ!?」

「……理由はただ一つだ」

 

 何やら重苦しい雰囲気だ。

 ここで入るのは躊躇われるな、と思い扉の前で聞き耳を立てる。

 

「アフェットが、裏切り者だと判断されたからだ」

 

 ……え?

 リゾットの声だ。

 彼が悪い冗談を言うタイプではないことを、オレはよく知っている。

 

「アフェットが、殺される」

 

 背中からぞわりとした感覚が走る。

 

「おいおい、マジかよ……もうそこまで話が進んだのか」

「アフェットには話したのか?」

「まだだ。それに関してはプロシュートが……」

 

 堪らず、その言葉を遮って扉を開けた。

 

「どういうことだよ、リゾット」

「アフェット……!」

「どうしてオレが、オレが何をしたって言うんだよ……ッ!!」

「……」

 

 リゾットは口を噤む。

 それを見かねて、メローネが口を開いた。

 

「アフェット。君が付き合っていた女性、イノセンテは……」

「メローネ」

 

 リゾットがメローネを制した。

 

「リゾット、おれは話すべきだと思うぜ」

「おれもそう思うぜ。ここまでデカい問題なんだ」

「……」

 

 メローネとギアッチョにそう言われて、リゾットは頷いた。

 

「……イノセンテは、敵組織に所属する暗殺者だった」

「は……?」

 

 イノセンテが、暗殺者……?

 そんなはずがない。

 あんなに無垢で、生きることに一生懸命だったイノセンテが?

 

「そ、そんなの……」

「事実だ。続けるぞ」

 

 リゾットが言うからにはそうなのだろう。しかし、認めたくない感情がせめぎ合う。

 

「お前と出会ったのは偶然だったらしい。任務でも何でもない、お前に興味を持って近づいた」

「それなら、オレが命を狙われたのは……?」

 

 頭の中で、どんどん点と点が繋がっていく。否定したいが、否定しようもない。

 その事実を、リゾットは告げた。

 

「パッショーネだ。イノセンテと関わるお前を危険視したパッショーネが、命を狙った」

「……ッ!!」

 

 『運命』……オレがイノセンテと出会っていなかったら、その『運命』すらなかった?

 ……いや、違う。どっちにせよ変わらなかったんだ。

 『運命』が如何に変わらないかを、抗おうとする無意味さを、オレは思い知ったんじゃないか。

 

「お前はイノセンテを守り、パッショーネの人間を殺した。だからボスが本格的にお前に目をつけるようになった」

 

 書斎でリゾットが言っていた、「ボスはオレたちの中の誰かを始末したいとすら思っている」というのは、オレにこの事実を隠すための嘘だったのかもしれない。

 

 リゾットの話を聞いて、胸の内にある何かが剥がれ落ちていくような感覚がした。

 

「……もういいぜ、疲れた」

 

 立ち上がってリビングのドアノブに手をかけると、ギアッチョに声をかけられた。

 

「オ、オイ、どこ行くつもりだよッ!?」

「殺すならさっさとしろって言ってくんだよ」

「待て、アフェット」

 

 リゾットの制止の声を無視して、扉を開く。

 

 生きている意味はない。

 『運命』が定まっている、こんな無駄な人生にもう興味はない。

 

 そう思い、一歩足を踏み出そうとした時だった。

 足の中に異物が入っているような感覚がした。

 その直後、激痛が走る。

 

「ああぁぁぁぁッ!?」

 

 左足から血が吹き出す。よく見ると、カミソリのような刃物が血と共に溢れ出していた。

 

「待てと言ったはずだ」

 

 これは恐らく、リゾットのスタンド能力だ……!

 立つのもままらなくなり、転倒する。

 

「……ッ、どうして止めんだよ。兄貴が言ってた、ギャングは大切なものを作らないんだろうが!!」

「プロシュートがそう言ったのか?」

「ああ。ついさっき、そう言われたぜ」

「……まさか」

 

 リゾットは何やら驚いている様子だ。

 オレが何かおかしなことを言ったのだろうか。

 いや彼が反応したのは、「プロシュート兄貴が言ったこと」に対してだ。

 

「アフェット、お前は部屋で大人しくしていろ。できる限りの対応はおれとプロシュートがやる」

「そ、そんなの……これはなんとかできる問題じゃあねえだろ……!?」

「それでも、お前を無駄死にはさせねえ。イノセンテのことは……知っていたのに言わなかった、おれたちの責任だ」

 

 そう言って、リゾットは部屋の外へ消えていった。

 

「応急処置をしよう」

 

 医療道具を持ったメローネが近づいてきて、足の出血を止める処置をしてくれた。

 

 それにしても……

 知っているのに、言わなかった……?

 リゾットも兄貴も、元からイノセンテの正体を知っていたのか?

 なら、それを言わなかったのはなぜだ?

 二人の考えていることが分からない。

 二人はきっと、まだオレに何かを隠しているんだ。

 どうして、何のために……?

 

「アフェット、部屋まで連れていくぜ」

 

 ギアッチョに軽々と抱えられる。

 部屋まで連れて行かれる途中、彼はボソリと呟くように言った。

 

「『ギャングは大切なものを作らない』、なァ」

「違うのか?」

「そういう考え方のヤツもいるだろうとは思うぜ。だがなァ、プロシュートの野郎が言うのは違和感がある」

「……え?」

「どう考えても、自分のことを棚に上げた発言だ。お前のことを散々可愛がってるくせによ」

 

 自分のことを棚に上げている?

 可愛がっている?

 

「そ、それって、どういう……」

「着いたぜ。ベッドまで一緒じゃあなくてもいいよなァ〜? 片足あれば行けるだろ」

「あ、ああ……」

 

 部屋に入ってベッドになだれ込む。

 どういうことだ?

 分からないことだらけで頭が痛い。

 

 リゾットも、兄貴も、何がしたいのだろう。

 任務に就かなくなった、そして裏切り者と関わったオレなんか、すぐに切り捨てるべきだ。

 でも、彼らにそうする様子はない。

 

──彼らは、一体何を考えているのだろう……?

 




25/6/30 矛盾点があったため、修正を行いました。作者のプライベート多忙により更新が遅くなり、大変申し訳ございません。次回更新までしばらくお待ちください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。