黒金の風〜Sogni Affetto〜   作:ソーニ

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三話 入団

「よくやった」

 

 入団試験を終えて刑務所から出ると、先日屋敷で会った男が目の前に立っていた。

 彼は初めて出会った時よりかは穏やかな表情をしている……気はするが、殺意があるかないかの違いだろう。

 

「わざわざ迎えにきてくれたのかよ」

「ああ、てめーはもうオレたちの仲間だからな」

「ちょっと待て、受け入れるのが早くねぇか」

 

 一昨日初めて出会い、ましてや殺し合おうとしたというのにもう仲間とは。

 切り替えの速さについていけず困惑する。

 

「今日の味方が明日の敵ってこともあンだよ、この世界ではな……」

 

 オレの気持ちを読んだかのように、彼はそう言った。

 今でも自分がギャングになったという実感が湧かず、彼の言葉は他人事のように感じる。

 

「これからオレたちのアジトに案内する。道は早く覚えていた方が楽だぞ」

「お、おう、分かった」

 

 困惑しつつも彼の半歩後ろをついて歩く。歩道が狭いので、横に並んで歩くのは憚られた。

 

「……」

「……」

 

 会話が何一つ生まれない。

 周りの景色を見渡すが、目新しい景色ばかりで情報量が多く頭が破裂しそうだ。視線を下に落とす。

 

 オレが、もうギャングか……。

 

 入団試験はポルポという幹部からライターを受け取り、それを再点火させずに火をつけたまま二十四時間後に彼に返すといったものだった。

 二十四時間付きっきりでライターを見守り、運良く強い風も吹かなかったため難なく試験をクリアした。

 刑務所に出入りする際の身体検査が鬼門ではあったが、鳥の死骸にスタンド能力を使い、ライターを運ばせて事なきを得た。

 

 気になるのは、ポルポが言っていたチームリーダーの存在だ。

 オレはこれから「リーダー」に仕えなければならない、ということなのだろう。

 

 オレの前を歩く男は言い方こそ厳しいが、人を成長させるということに長けた人間だと感じる。実際、オレは彼のおかげで自分の道を切り開くことができた。

 彼がリーダーであるならば、それに越したことはないのだが。

 

 せめて気を紛らわせるために男と何か話そうと話題を必死に探す。

 

「あ、入団試験について聞いていいか?」

「アジトに着いてからにしろ」

 

 せっかく思いついた話題を、低い声で即座に一蹴されて何も話せなくなってしまった。

 男がこちらの方を振り返る。

 

「いいか、オレたちはギャングだ。オレたちは一般人がいるところでそんな話はしねぇ」

 

 確かにそれもそうか、と頷く。そして男はオレの鼻の先まで顔を近づけ、険しい顔で見つめて忠告するように言った。

 

「オレたちは人の恨みを買う仕事をしている、ということを忘れるな。常に緊張感を持って、意識して行動しろ」

「わ、分かったよ」

 

 それは決して説教ではなく、彼の経験から来る言葉のようだった。

 分かったならいいと男は顔を離して、背を向けて歩き出す。

 聞いている限り、ギャングの世界とは抗争や戦いが絶えない世界なのだろう。

 だが彼の顔には傷一つついておらず、美しかった。

 

 ふと、ギャングに関することじゃなければいいのだろうかと口を開く。

 

「あの、お前の名前は? なんて呼べば良い?」

「あぁ、教えてなかったか……プロシュートだ」

「プロシュート、か。よろしくな」

「次はてめーの番だ。名前は?」

 

 そう聞き返されると、心臓が大きな音を鳴らす。

 

 名前、名前……?

 前の主人にはペットと呼ばれていた。

 だがそれよりもっと昔、オレが家族に呼ばれていた名前は……?

 遠い昔の記憶を漁る。

 

「う〜ん、う〜んとな……」

「なんだ、自分の名前すら忘れちまったのか」

 

 右手をあごに当て、ぎゅっと目を閉じて唸るがなかなか思い出せない。

 

「お前、前の主人のことはある程度調べてたんだろ? 初めて会った時、オレの存在も知ってたじゃねーか」

「てめーの存在は認識してた。だが名前までは調べてねぇ。ターゲットじゃあなかったからな」

「……なんでオレを殺そうとしたんだよ」

「姿見られたら殺すしかねーだろ」

 

 簡単にそう返され、ギャング世界の恐ろしさを垣間見る。

 

 ──殺るか殺られるかの世界。

 

 この男……プロシュートには戸惑いがない。

 ただギャングであるために、人の命を奪うことに対してさえ。

 ギャングとして生きることを決断した彼にとって、それが絶対的な正義であるかのように。

 

「……で、本当に名前思い出せねぇのか」

「え、あっ!? そうだ、そんな話だったな」

「まァ、思い出したらでいい」

 

 もう一度記憶を漁る。

 かつて家族に呼ばれていた名前。

 

 ア、から始まったような。その後はなんだっただろうか。

 ア、フェ……?

 

「ア、フェット……そうだ、アフェットだ!」

「アフェットか。いい名前じゃあねーか」

「そうだろ」

 

 オレが自慢げに笑ってみせると、プロシュートの表情は少し柔らかくなった。

 互いに名前を公開しただけなのに、どこか距離が近づいたようだった。

 取り敢えず、これから仲間として過ごすことになるのだから、相手のことは知っておいて損はないだろう。

 オレが他の話題を切り出そうと口を開く前に、プロシュートが立ち止まった。

 

「ここだ」

 

 彼が指差した建物はギャングのアジトにしてはボロボロで、薄汚れていた。

 アジトへの道は細く、ホームレスすらいないような暗い路地裏にあった。

 

 こんなところがアジトなのかよ、と言いそうになるのを手で口を塞いで抑え込む。

 プロシュートが扉を開けて入れと催促したので、オレは恐る恐るそのアジトに入った。

 玄関に入ると狭い廊下が伸びていた。左右と突き当たりに一つずつ扉がある。

 

「まずはリーダーに挨拶するぞ。突き当たりのドアに入れ、そこがリビングに繋がっている」

「やっぱり、お前がリーダーじゃあねーのか……」

「安心しろ、あいつは半端な仕事をする奴じゃあねぇ。『リーダーに相応しいから』なった奴だ」

 

 言われたように突き当たりの扉を開ける。

 壁や床は鋼色のアスファルトのような素材で、部屋の雰囲気も全体的に暗く、まるでガレージの中にいるみたいだ。

 部屋の中心には四角いテーブルの周りに椅子が並べられており、左側に並べられた二つの椅子に一人ずつ男が座っている。

 

「新入りかァ、プロシュート?」

「そうだ。リゾットは今どこにいる?」

「さっき急用つって出て行ったきりだなァ」

 

 プロシュートに話しかけたのは、水色の髪に赤いメガネをかけ、白い服に紺色のズボンを履いた男だ。

 彼はいわゆる三白眼と呼ばれる目をしており、常に相手を睨んでいるように見える。彼は視線を一瞬だけオレの方に向けたが、すぐに離された。

 せっかちなのだろうか、彼は常に貧乏ゆすりをしている。

 

「君」

 

 先ほど赤いメガネの男の隣に座っていた男が、オレの目の前にやってきた。

 突然話しかけてきたと思いきや、ズイッとオレの顔に顔を近づけてくる。その男の髪は紫色で右側だけ長く、ふわりとカーテンのようにオレの左耳を覆った。

 

「えー、っと?」

「女か? 男か?」

 

 淡々とした口調で聞かれて戸惑うが、必死に言葉を選んでその質問の意図を探る。

 

「それ、重要なのか?」

「ああ、とても重要だ。これからの任務の成功率に影響する可能性がある」

「え、ええ?」

 

 なぜこの質問が任務の成功率に影響するのかがさっぱり分からない。しかし、目の前の男は至って真剣な顔をしている。嘘はついていないのだろうか。

 

 どうしたらいいんだとプロシュートに目線を送ると、彼は呆れながら目の前の男をオレから引き剥がした。

 

「おい、その辺にしておけ。てめーのスタンドは理解しているが、仲間に受胎する必要はねぇだろ。コイツがいなきゃ任務を遂行できないと言っているようなものだ」

「確かにそれもそうか。しかし個人的な興味もある。また今度教えてくれ」

 

 男は納得したようにそう言うと、オレから離れて元いた椅子に戻る。

 

「ありがとう、プロシュート」

「気にすんな」

 

 プロシュートは男二人の向かい側にある、二人用の椅子に座る。

 彼はその隣の空きスペースをとんとんと手で叩いてオレを呼んだ。

 そして、その場所に行こうと一歩踏み出したその時だった。

 

「お前が例の新入りか」

「うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

 突然、背後から今まで聞いたことがないほど低い声が聞こえて腰を抜かした。床に手をついて見上げると、二メートルあるかないかくらい大きな身長の男が立っていた。

 黒目がとても大きく、白目がほとんど黒で覆い隠されている。その真ん中にある赤い瞳孔の威圧感に震えが止まらなかった。

 何よりも驚いたのは、オレがこんなに大きな男の気配を全く感じ取れなかったことだ。

 

「悪い、驚かせたか。だがこのくらいは察知できるようにしろ。少しでも油断すれば、その先に待っているのは死だ」

「は、はい……」

 

 誰に何を言われずとも理解した。

 このチームのリーダーは、こいつだ……!

 

 取り敢えず自己紹介をするために立ちあがろうとする。

 

「あ」

「……どうした?」

「腰が抜けた、立てねぇ」

 

 もう、オレは苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 目の前に立つ男はそんなオレを見ても全く動じず、表情一つ動かさない。いや、動じないというより、相手に自分が何を考えているのかが分からないようにしているのかもしれない。

 アジトの中でも常にギャングとしてあり続ける彼は、確かにリーダーとして相応しいだろう。

 

「はぁ……」

 

 後ろにいるプロシュートがため息を吐く。振り返ると彼は呆れたように頭を抱え、その向かい側にいる男二人は口を手で覆って必死に笑いを堪えていた。

 

「や、やめろやめろ! 見るなーッ!」

 

 彼らの反応を見て更に自分の置かれた状況が恥ずかしくなり、顔に熱がこもっていく。

 今すぐにでもここから逃げたいと、両手で顔を覆った。

 




読んでいただきありがとうございます。
感謝のご挨拶とご報告をさせていただくため、後書きの場をお借りしています。
タイトルを少しだけ変更させていただきました。
これからもできる限り原作の解釈を深めていくため、本文の描写などを度々変更させていただく可能性があります。
タイトルの変更はこれからはしないように尽力致しますので、どうぞ最後までお付き合いいただけますと幸いです。

またこちらは自己満の作品ですが、感想などで応援していただけるとこの作品を書いててもいいんだ、と心が楽になります。
どうぞこれからもよろしくお願いします。

暗殺チームが、五部が本当に大好きです。
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