「……自己紹介をしておこう。オレはリゾット、このチームのリーダーだ」
オレが腰を抜かして立ち上がれずにいると、リゾットが手を差し出してくれた。
その手を取って立ち上がる。彼の手はゴツゴツしていて、少し冷たかった。
「ありがとう、ございます……?」
敬語で話すべきかどうか迷いながら礼を言うと、リゾットは「身構えなくていい」と返す。
相変わらず彼は表情一つ変えずに話すので感情が読み取りづらいが、とりあえずオレに敵意はないようだ。
「それで、お前が仕事を教えてくれるのか?」
「いや、教育係はプロシュートが担当している。オレがお前に聞くのは……『何ができるか』、だ」
「な、何ができるって……」
「別の部屋で話そう」
リゾットはそう言うと、リビングの奥にある一室へと向かった。他の人が見ている中では話しにくいと気を遣ってくれたのだろうか。
オレも続いてその部屋に向かう。部屋の中に入ると、大きな本棚が左右の壁に沿って並んでいて、その中には本が隙間なく敷き詰められている。
本棚以外には業務用と見られる端正な机と、その机で作業するための椅子しかない。
「質問の答えを聞こう」
リゾットは部屋に入って早々に本題に入った。
しかし十数年監禁されていた自分に、できることなど一つも浮かばない。
「……分からない」
「無理もないか。お前の境遇はプロシュートから聞いた」
「え!」
情報の伝達が早い、と感激する。
プロシュートは何から何まで仕事ができる人、という印象だ。
「だが、これはそんな難しい話じゃあない。お前はスタンドが使えるだろう」
「スタンド……あの変なやつだよな」
「オレが聞きたいのはそのスタンドの能力、そして活用方法だ。詳しく聞かせろ」
リゾットはオレを指差してそう言った。
本人はそんなつもりはないかもしれないが、無表情のまま淡々と命令するような口調なので、まるで拷問されているみたいだ。
もう少しお手柔らかにしてくれないか……とは言わないでおこう。
オレのスタンドは『死体を操るスタンド』……らしい。
死体に命令を一つ与えて、それを実行させる。命令を与えられた死体はゾンビのように動き回り、例え吹き飛ばされても命令をこなそうとする。
「……そんな感じだったかな」
「なるほど。命令を与える際は死体に触れる必要があるか?」
「確かに死体には触ってるな。感覚でやってたからよく分からねぇけど」
「射程距離は?」
「射程距離!? なんだそれ」
「スタンドで相手を攻撃できる範囲、もしくは効果が発揮できる距離のことだ」
オレが首を傾げると、リゾットは分かった、と頷いた。
「現時点では近距離パワー型の可能性が高い。死体処理向きの能力だが、このチームでもやりようはある」
スタンドという言葉にすら慣れていないというのに、また新たに分からない単語が耳に入り再び首を傾げる。
「そのスタンドっていうのは、みんな持ってるものなのか?」
「いや、一般人はほぼ持っていないだろう。だがパッショーネ……オレたちが所属している組織では、全員がスタンド能力を持っていると考えた方がいい」
「奇妙だな。スタンド能力を持ったヤツしか入れないってルールでもあんのか?」
「なるほど。お前は生まれつきのスタンド使いだから分からないのか」
リゾットは何か意味ありげなことを言ったが、その意味を聞く前に彼が新たな話題を切り出す。
「この仕事に慣れるまでは、プロシュートと共に任務に向かってもらう」
それを聞いて安心する。どうやら突然一人で仕事を任されるわけではないようだ。
やはりここは、仕事を徹底した賢いチームであるということに違いない。
「後は体力と筋肉をつけろ。お前のスタンドは逃亡や殺しに直結するものじゃあない。貧相な体型のままではろくに戦えないだろう」
「事実だけど結構キツい言葉だな! もっとオブラートに包んでくれ!」
「……そうか」
珍しく、ほんの一瞬だけ彼の表情が変わった。
オレの言葉の後、ほんの少し目を開いて固まったような。
「初任務は一ヶ月後だ。それまでに体力と筋肉をつけておけ。何かあればギアッチョ……赤いメガネの男に聞くといい」
「分かった、色々とありがとな。世話になる」
「ああ」
リゾットは机の後ろの椅子に座り、引き出しから書類を取り出す。
オレは彼に背を向けて部屋を出る。
「……はぁ〜〜ッ」
部屋を出てすぐ膝から崩れ落ちると、椅子でくつろいでいたプロシュートが話しかけてきた。
「どうだったよ、このチームのリーダーは」
「最高だったぜ。まるで拷問を受けてるみたいだった」
そう言うと、プロシュートの向かいに座る赤いメガネをかけた男が笑う。
「このチームに入る全員が通る道だなァ」
「そ、そうなのか?」
「全員が通る道の『通る道』ってよォ……本当に道を歩いているわけじゃねえんだよなァ……」
「お?」
なんだか突然彼の雰囲気が変わった気がする。いや、そもそも話題がかなり逸れている気がする。
プロシュートはまたか、と言わんばかりにため息をついた。
「この言葉を作った奴はどういう思いつきでその例えを生み出したんだァ!?」
「ん、んん!?」
「落ち着け、話の途中だろーが」
男が突然怒り出し、何が起こったのか理解できずに唖然とする。
しかしそれをすぐにプロシュートが制した。
その場にいたオレ以外の人間は、その状況に慣れているかのように平然としていた。
そして先ほどのことが嘘かのように、彼の口調は落ち着いたものに戻った。
「オレも最初は『ヤベェ』と思ったぜ。いつ殺されてもおかしくねぇ、ってなァ」
とりあえず彼の言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろす。あの恐怖は自分の心の弱さだけが原因ではなかったようだ。
「まァ、それでも腰を抜かすってのはオレでもやらなかったな」
「あ〜もう、あれはもう忘れてくれよ」
「アレは笑いを堪えるのに必死だった」
初対面の人間に痴態を晒したのはなかなか恥ずかしい。そんなオレを面白がってなのか、赤いメガネをかけた男の隣に座る、紫の髪の男が追い討ちをかけてきた。
「あぁ〜〜〜、本当に初日から散々だな」
今日のことは一生チームでこのネタでからかわれて生きていくのだと悟った。
頭を抱えて大きなため息をつく。
「そういえば、てめーらはまだ名乗ってねぇだろ。仕事に支障を起こす前に名乗るくらいはしておけ」
プロシュートがそう言うと、紫の髪の男が先に口を開いた。
「確かに、任務に支障が出るのは良くない。オレはメローネだ。隣の人間はギアッチョ」
「まァ、よろしく頼むぜ」
「こちらこそよろしく、アフェットだ」
ギアッチョと握手をして、その後にメローネとも握手をする。
しかしメローネの手に触れた途端、彼は舌なめずりをした。まるでオレの手に性的な意味で興味があるみたいだ。
「うわっ!?」
「あ、ああ、悪かった。仕事柄どうしても、な」
「ここのチームはそういう仕事もすんのか!?」
「メローネのスタンドがそういうのってだけだ。このチームでそんな仕事はしねぇ、安心しろ」
ギアッチョがそう補足する。
なるほど、スタンドというものにも色々と種類があるようだ。スタンドを面白く感じると同時に、不可解なものだなと思う。
「お前の性別が男だとハッキリすれば、こういうことも減るだろう。話す気はないか?」
「ねぇよ!!」
メローネがオレの性別を話させるように事を運んでいる気がして、咄嗟に拒否の言葉を投げてしまった。
あまりにも相手が話させようとするので、意地になってしまう。
性別に関しては墓まで持っていこうと心に決めた。
プロシュートが周りを見渡し、思い出したかのようにギアッチョに言った。
「イルーゾォは来てねぇのか」
「アイツがわざわざ新人に会いに来るわけがねぇだろ。来てても鏡の中にいるんじゃあねぇかァ?」
「そうだな。てめーが初めてここに来た時も同じ状況だった」
少し嫌味のように言ったギアッチョに対して、プロシュートは相変わらずだなと呆れている様子だった。
そのイルーゾォという人物は、そんなに新人が嫌いなのだろうか。
「新入りの顔も名前も覚えた。オレはそろそろここを出るぜ」
ギアッチョがそう言って席を立つ。仕事なのかと聞くと、彼は首を振った。
「ただの体力作りだ」
「お、すげぇな……意識が高いぜ」
ギアッチョはスタイリッシュな体型を保ったまま、必要な分だけの筋肉をつけているようだ。それを維持するために訓練を怠らないのだろう。
すごいな、と彼を尊敬しつつプロシュートの隣に座ろうとすると……
「おい、そろそろここを出るぞ」
「へ?」
プロシュートに怪訝な表情を向けられる。
「てめーも体力作りが必要だろうが。お前専用のトレーニングを考えてきた。今からやるぞ」
「オ、オレ専用のトレーニング……!?」
プロシュートはああ、と頷く。
彼は教育者として優秀だ。いや、だからこそ彼が課すトレーニングは、地獄のように苦痛を伴うものなのだと安易に分かった。
「ま、待てよ、まだやっとの一息すらついてねぇんだぜ……?」
「文句垂れてんじゃあねぇ。ここで生きていくと決めたのはてめーだろ」
「だ、だからって! もうちょっとゆっくりさせてくれてもいいだろ!?」
「知らねぇ、黙って来い」
「いやだあああああーーーーーッッッッ!!!!!」
プロシュートに服のフード部分を引っ張られて、ずりずりと外へ連れていかれる。
必死に抵抗したが、オレの力では彼に到底逆らえなかった。
オレがリビングを出る際、オレに向かって軽く会釈するメローネと、リビングの奥の部屋から出てきたリゾットが、オレの状況に唖然とする姿が見えた。