飼い猫だが野良猫に拾われ駄目猫にされてしまうかもしれない(仮) 作:猫猫猫猫猫←
個性社会、ヒーローの暗殺にも慣れている。というか、慣れた。辛いことなど感じず、全てはただ任務のままに。
公安直属のヒーローというのは、そういうものだと自分に言い聞かせていた。
慣れるのは簡単だった。麻痺するのも簡単だった。そういう気質だから素性がバレ辛い自分が、それに選ばれたというのは、よくわかる。
表の顔はあまり売れておらず、そもそも「暗殺ヒーロー(※殺していません! ただただ怪しい見た目なだけなんです! 本当なんです信じてください!)」とか大変不名誉な呼ばれ方をしてるのだ。……カッコの中を含めて全部正式としてヒーロー名鑑に載っているので、俺の扱いは色々お察しだ。
見た目もそれに合わせて、行動もちょっと怪しく見えるようなものを増やして、イメージ戦略でコントロールするのを指示されている。
裏で本当に暗殺しているかどうかについては、公安が指示したレベルのものならばある程度もみ消されるし、本命は俺ではなくもっと後の後輩だ。
筒美先輩が収監されて公安の暗部にあの子が追加され、仕事を教えながらの今はさらにその色が濃い。
こんな未来ある少年に汚れ仕事を任せるのはどういうことかと思わなくもなかったが、それでもこの子は熱意を持っている。
だからと彼に押し負けて、そして未だに仕事を教え続けた俺だ。
将来的には俺が表向きのスケープゴート、裏は啓悟少年が担当するというのが一番すんなりと話が進むだろう。
未来ある若者の為、才能ある若者の為。使いつぶすにはそれなりにうってつけな性格なのだろう。そう判断されているのだ、俺は。
だからこそ、そんなことを思っていたからこそ、失敗したのかもしれない。
啓悟少年もすっかり成長し、公安らしい仕事も心配いらなくなってきた頃。
とあるプロヒーローの暗殺の際、手元が狂った。
そのヒーローには子供がいた。
子供は、父親に斬りかかる俺を恐ろしいものを見るような目で見ていた。
公安として活動する際の俺は、普段のヒーロー姿とは異なる恰好をしている。なんなら武器すら色々手を変え品を変え切り替えているくらいだが、それでも子供相手に一瞬動揺し、隙をつかれた。
公安には強い暗示で記憶操作をするヒーローもいる。だから、肝心の違反ヒーローを「殺した後は」特に問題はないのだが。
その際、こっちも冗談にならないくらいの重傷を負わされた。
ボロボロのまま歩き、人目のつかないところへ。いくら公安とはいえ日中はプロヒーロー、下手に見つかって運び込まれれば方々に要らぬ迷惑をかけかねない。
携帯端末も相手の個性で破壊されているため、啓悟、いや、ホークスに助けを求める暇もない。
血は、止まらない。雨も止まない。
まるで幼少期の自分を、両親が
そんなセンチメンタルなことを考えてしまうくらい、空は白く、そして俺は赤黒く。
まあこんな所で死ぬのもお似合いかと。こういう場所で死ねば、それこそヴィランでもなく
こつ、こつ、と。耳に聞こえる速度で迫ってくる音。
いよいよ俺の命運も終わりかと、何か最後にホークス相手に言っておくんだったかと。とはいえ特に遺書を残す相手はいないのだ、送られても向こうも迷惑か。
こつ、こつ。
足音はしっかり、一歩一歩、段々と大きくなっている。
そしてその音が止まった。
目の前には、赤系のブーツ。膝の当たりが擦り切れたジーンズの布のようになっているのが見える。
視線だけうっすらと見上げると。そこには、ショートカットに派手な衣装をした、目立つ格好の女がいた。
「たしか、『暗殺ヒーロー(※殺していない)』のダーク・ロー? ……えっと、大丈夫?」
これが、ある意味で事の始まりにしてほぼ終わり。
司令塔ヒーロー「マンダレイ」こと送崎信乃と、暗殺ヒーロー「ダーク・ロー」影崎
ボロボロの黒猫がお節介焼きの白猫に拾われたという、ただそれだけの話。
※ ※ ※
意識が回復した時点で、俺はベッドに寝かされていた。
個性による
上半身を起こすと、包帯まみれ。明らかに手馴れた処置がされていたが、見た限りここは病院ではない。
どこかと言えば…………、マンションの一室だが、ハンガーにかけられている複数のヒーローコスチュームらしい派手なそれで色々と察した。
さてどうしたものかと一度伸びをしようとして、しかし傷口の痛みにその場でのたうち回る。
「――――っと、これで大丈夫かな? ……って、あら。駄目じゃない君、まだ全然治ってないわよ? 身体」
現れた女の顔は、夢か何かで見ていたもの。おそらく意識が途切れる寸前に、俺に声をかけた女。ショートカットにタンクトップ、七分丈のジーンズと恰好は適当だった。首にタオルを巻いて、少しだけ上気しているように見える。
向こうは俺のことを心底心配そうに見ており、その視線に負けて俺は諦めて立ち上がるのを止めた。
「よろしい。……あっ、心配はしなくても良いわ。君のことは他の誰にも話していないから。
「…………何だ、その呼び方」
「えっ? でも、ダーク君でしょ? ダーク君、ダーク・ロー君。本名、影崎瞠。女の子みたいね……。身長 181 cm、体重70kg、出身地誕生日血液型非公開、個性『
「……世話になったな。行くぞ『アンク』」
いきなり毒気を抜かれかけた。これ以上ここに居ると「仕事モード」が解けてしまいそうだ。こちらに話しかける彼女、どう見ても俺より年上のくせに、自然体で楽しそうだ。まるで学生が学園祭でテンションアゲアゲにしてる時の様な、底抜けなキャラクター性が透けて見える。
はっきり言って影キャの俺には天敵だ。
全身に鳥肌が立つよりも前に個性「黒影」を発動。俺の影から一瞬顔を除いた黒猫が、その全身を溶かしまとわりつく。
黒いコンバットスーツ風の恰好、日中の活動コスチュームだ。顔面にもフルヘルム状のマスクが装着される。
おお、と俺を見て、女は何かを感心したように笑った。
「…………ネコミミついてるね」
『……そこは放っておけ』
彼女の視線は、「黒影」が変化したフェイスマスクの頭部に注目していた。……俺の個性が黒猫型であるせいか、装着する際にどうしても身体的に猫っぽいデザインが残ってしまう。暗殺時のマフィア? 風の恰好ですら、頭部に猫耳が生えているくらいだ。
そんな俺を見て、ふぅん、とか、へぇ、とか、興味深そうにしげしげと見る女。フルヘルム越しとはいえ胸元が色々ギリギリなので、視線を逸らして指摘した。
「へ? あ、あぁ……。えっと、ごめんなさい。ウチのチームって女所帯だから、あんまり意識する機会がなくて…………。あとお風呂上がりだから」
『目に毒だから、何か対策を考えてくれ。それでは――――』
「あっ、でも通しはしないわ」
わずかに照れたような反応をしていたが、その横を通り過ぎようとした瞬間に腕を掴まれた。振り払おうと思えばいくらでも振り払えそうだが、唐突に頭の中で「じゅげむじゅげむごこうのすりきれかじゃりすいぎょの――――」とか古典落語のそれが大音量で聞こえて来て、思わず頭痛を覚えた。
それと同時にふらつき、「黒影」が解除される。
「ほら、このくらいの
ちゃんと弱ってるんだから、先輩ヒーローの言う事はしっかり聞きなさい」
めっ! と、まるで小学生くらいの子供でも注意するような振る舞いを前に、思わず失笑してしまった。
それでも立ち上がろうとする俺を、無理やりベッドに押し倒して馬乗りになるような状態へ。
「…………そもそも何でアンタの家で匿ったんだ? 女一人、しかも自宅で」
「理由はいくつかあるけれど、一番は…………、何か尋常じゃない様子だったから」
下手に色々なところを通すと拙そうだし、応急手当くらいは私でも出来そうな範囲だったもの。
そう返してくる彼女が頼もしいやら恐ろしいやら。先ほどの頭への「攻撃」や、こちらの対処の仕方を見るに、色々と観察眼も優れているのかもしれない。
いや、色っぽい状況云々を意識する余裕が俺にはない。連絡せず自分で手当てをしてもらったのは色々助かったが、だからといって長時間ここに居ても怪しまれる。GPSで場所の確認をされることはないだろうが、時刻は壁時計で見るに既に昼前。昨晩の連絡をしてこない俺に不信感を抱き、後輩がわざわざ関東まで探しに来るだろう。
それに、母校である雄英のリカバリーガール程ではないが、公安にも治療系の個性を持っている人間はいる。
だがそのことを色々と話せば、所謂身バレにつながる。だからといって振りほどける状況でもなく、こちらをじっと観察する間近の美人の顔に、反射的に視線を横に動かした。
「…………派手なコスチュームだな。アンタが着ると、むしろ浮くレベルで」
「えっ? あ、あー、それはね。ヒーローは目立って何ぼだし。そこ行くと、君とは対極かしら」
俺の上から退くと、彼女はその場でキビキビと踊るようにポーズを決めて、最後に女豹のポーズじみたそれをとってウインクしてきた。
「煌めく眼でロックオン! 猫の手、手助けやって来る!! どこからともなくやって来る!!! キュートにキャットにスティンガー!!!! ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!! のマンダレイよ」
「フルバージョンの名乗りをドーモ。……こう、色々恥ずかしくないのか?」
「…………急に指摘されるとちょっと、マジになっちゃうと思う所はあるかしら。でもまだ大丈夫、大丈夫。まだ二十代だし、ウン……」
後半、声が尻すぼみになっていった姿が色々笑えなかった。
咳払いをしてポーズを変え、ついでに動きのせいで丸見えになったへそやら胸元やらを隠すと、真剣な顔をして俺を見るマンダレイ。
「とにかく今日、一日くらいは安静にすること。君の実力ならボロボロでも病院とかには行けるでしょう? 行って無いってことは、それが出来ない理由があったってこと。……犯罪行為とかじゃ、ないわよね?」
「違う」はずである、少なくとも国家としては。
「なら、大丈夫。私が少し匿っても、大したことにはならないはずだもの」
そう言ってにこりと微笑まれると、少しだけ育ての親を思い出す。親も決して美人と言う訳ではないが、こう、妙に安心させられるというか。
目つきは少しキツめだと思うが、微笑んだ目元は柔らかく。
なんとなく気恥ずかしさを覚えて、視線を逸らした。
「…………なんでそんな、見ず知らずの相手を助けるんだよ」
「余計なお世話はヒーローの本質、らしいし? 後は猫つながりかしら。同じ猫仲間なら、助けてあげたくなるものじゃない?」
ウチのチームって仲良し四人組だけどチームテーマが野良猫だから、と。両手を伸ばしてテキパキと動き、独特なポーズで快活な笑顔を向けて来るマンダレイ。
やはり毒気を抜かれて、とりあえずホークスにだけは連絡を入れたいと携帯端末を借りた。
なお、彼女の手料理は可もなく不可もなくだったことを一応明記しておく。
普通だな、という感想に対して、少しだけ笑顔が固まり青筋が浮かんでいたが、こちらがけが人だからか手をあげることは無かった。
ヒーローネーム:ダーク・ロー
肩書:暗殺ヒーロー(※殺さない)
本名:影崎
個性:
変幻自在な影のようなモンスターを身に宿し、操作しての戦闘が可能! モンスターは黒猫のような姿をしており、気まぐれだが瞠の意志に逆らわないくらいには空気を読むぞ!
瞠の場合、補助以外のヒーローコスチュームは「黒影」で代用しており、コスチュームや武器も全てモンスターが変身している! その代わり、必ず装備品に猫っぽいアクセントが付いてしまうのだ!
ちなみに肩書については、その見た目から忍者とか暗殺とかやってそうという偏見と本人の怪しげな行動、クールに物を言わない言動のせいで色々誤解されがちなことに由来している!
名前が売れるまで何度かヴィランとして通報されているので注釈は必要なのだ!
次回、意外と律儀な飼い猫と一緒に、野良猫がディナーしちゃう!?