瀬田宗次郎物語ー韋駄天と呼ばれた男ー   作:あずき@

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第5話

宗次郎が赤き翼に加入して約一ヶ月。

 

いくら足が速いとは言え、流石に運び屋との二足のわらじにも限界が生じ始め、現在はもっぱら赤き翼としての慈善活動を兼ねた傭兵稼業に限られていた。

 

そのことを酷く気に病んだ宗次郎は、自らを見つめ直すことにした。

 

そうして導き出した結論は、圧倒的な体力不足であった。

 

「だから皆、頼む‼︎ 」

 

「う〜ん。いきなり僕を鍛えてくれ、なんて言われてもなぁ」

 

宗次郎の突拍子もない願いに流石のナギも困惑の色を隠せない。

 

「そもそも気にし過ぎなんじゃねぇか? 俺から見てもそこまで体力面で劣ってるようには見えねぇぞ?」

 

「ラカンに言われても嫌味にしか聞こえないんだが……とにかく頼むよ!

 

ただ僕に向かって攻撃してくれるだけでいいんだ。な? 簡単だろ?」

 

「で、それをひたすら回避し続ける、と。

 

果たしてそれで実際に体力が付くのかのぅ? もっと効率のいい方法があるんじゃ……」

 

「その点は大丈夫です。玉ちゃんのお墨付きなんで! ね? そうでしょ? 玉ちゃん」

 

『えぇ。まぁそうね。……かなり危険な方法だからあまりオススメはしないけど……』

 

「……急いては事を仕損じますよ?」

 

詠春が険しい表情を浮かべて言う。

 

「覚悟は出来ています」

 

沈黙が流れる。

 

「はぁ……参ったよ。降参だ」

 

ナギが諦めた様子で言った。

 

「それじゃあーーー」

 

「あぁ。俺で構わないならいいぜ。その特訓、協力してやるよ」

 

「あ、ありがとう!」

 

「ただしやるからには、とことんだ。場合によっては、シャレにならないことになるかもしれないぜ?

 

それでもホントにやるのか?」

 

「もちろん。僕にだって譲れないものがあるんだ!」

 

「理屈じゃないんだな……わかった! 俺に任せ「待て待て」…なんだよ師匠…まさかダメなんて言わねぇよな?」

 

「その逆じゃ。ワシも協力してやろうと言うんじゃ」

 

「いいんですか⁉︎」

 

「ワシだって本当は嫌じゃが、ナギがやると言うんじゃ。監督役と言う意味でも参加するより仕方なかろう?」

 

「な、なるほど」

 

「お二人が参加するなら私も参加させてもらいますよ」

 

「イマさん……」

 

「はぁ……仕方ないですね。どうなっても知りませんよ?」

 

「ありがとう! 詠春。………ラカン?」

 

「チッ、わーたよ! やりゃあいいんだろ、やりゃあ。ったく死んでも知らねぇぞ………」

 

「すまない…ラカン。感謝する」

 

こうして全員参加の宗次郎強化合宿が開催されることになった。

 

 

 

 

 

 

「そらそら! ドンドンいくぜ? 魔法の射手 雷の100矢ッ‼︎」

 

「ウォォォォォォオ‼︎」

 

ナギの放った射手を回避しつつもひたすら疾走する宗次郎。

 

現在、彼らは玉ちゃんの内部に設けられた砂漠地帯にいた。

 

足腰に負担をかけると言う意味でこの場はもってこいなのだ。

 

と、そうこうしていると今度は左右の方角から幾重もの射手が飛んできた。姿こそ見えないが恐らくゼクトとアルによるものだろう。

 

それらを何とか回避し終えると今度は頭上から大量のレーザー光線が降り注いできた。

 

どうやらそれは太陽から直に発せられたものらしい。そんなことができるのは玉ちゃんくらいのものだ。

 

「ぐはっ‼︎」

 

だいぶ動きが鈍ってきた宗次郎は、完全に避けることができず光線の余波に巻き込まれ前のめりに吹き飛ばされてしまった。

 

そこへ追い打ちとばかりにラカンの大技、「ラカンWパンチ」が襲いくる。

 

「やられて…やられてたまるかァァァァアッ‼︎‼︎‼︎」

 

そう叫ぶと渾身の力を振り絞ってジャンプする宗次郎。

 

その間も絶えること無く降り注いでいたレーザー光線を以前、玉ちゃんから教わっていた『剃』により難なく回避。

 

着地と同時に迫り来る雪崩のような射手は、逃げ回る際に使用していた『スーパーソニックアタック』により蓄えられた電気エネルギーを利用した『神速(カンムル)』を使用することでどうにかその場を離脱することに成功した。

 

「逃がすか! 雷光剣‼︎」

 

いつの間にか間近に迫っていた詠春による強烈な斬撃が襲い来る。

 

「ッ‼︎ 『二重の極み』‼︎!」

 

宗次郎が放った神脚を利用した『二重の極み』によって地面が大きく爆ぜる。

 

急いでその中に体を潜り込ませることでなんとか事無きを得た。

 

そのまま砂の中を泳いでいき頭上からの振動が止んだ頃に顔を出す。

 

すると目の前にエラくご機嫌な笑顔のラカンが仁王立ちで佇んでいた。

 

「惜しかったな。残念ながらスタートに戻るだ! 『そよ風烈風拳』‼︎!」

 

「グァァァァアッ‼︎」

 

宗次郎はラカンの拳から発せられた突風により勢いよく後方へと吹き飛ばされていった。

 

…………………

………………

……………

…………

………

……

 

 

 

 

「はっ⁉︎ ここは……?」

 

「よう。目が覚めたか?」

 

「ナギ……あっ! 特訓を「特訓なら今は休憩中だぜ」あ………」

 

「ったく。無理し過ぎだぜ。もう二度と目覚めねぇんじゃねぇかと思ったんだぜ?」

 

「ごめん……」

 

「………なぁ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねぇか?」

 

「え……?」

 

「何かきっかけがあったんだろ? お前がそんなに焦るだけの何かが」

 

「うっ……相変わらずナギは変なところで鋭いな。ホントは内緒のままでいたかったんだけど……仕方ないか。ほら、覚えてないか? ちょっと前に帝国の奴らに因縁付けらて一悶着あったこと」

 

「あ〜…なんかそんなことあった気がするなぁ」

 

「そん時にな? 油断してた僕に向かって魔法の射手が飛んできたんだよ。それがどう考えても回避不可能なタイミングだったわけ。

 

射手がスローモーションに見えてきたあたりで僕は死を覚悟した。けどそれは違ったんだよ!」

 

「? 違ったって……何がだ? 今、こうしてお前が生きてるってことは結局避けれたってことだよな?」

 

「そう! 避けれたんだよ! なんてったってその射手ときたらスローモーションどころか完全に停止していたんだからね! 後はそいつをこう〜回り込んでいっちょ上がりってわけだ」

 

「お前…それってつまり……」

 

「時間停止じゃな」

 

「あ、ゼクトさん。やっぱりこれってそういうことなんですね⁉︎」

 

「まぁ断定はできんがのぅ。それしか考えられまい」

 

「でも待ってくれよ。宗次郎は気はおろか魔法すら一切使えないんだぜ? それがどうして時間停止なんて大それた魔法を使えるようになったって言うんだ?」

 

当然の疑問を唱えるラカン。

 

「………魔法じゃないからではないでしょうか」

 

アルがポツリと呟くように放ったその一言にその場にいた全員が一斉に首を捻った。

 

「どういう意味です? アル」

 

たまらず詠春が口火を切る。

 

「私も詳しくは知らないのですが、光速を超えたスピードで動き続けた場合にのみ周囲の時が停止する現象が起こるとか……」

 

「……なるほどつまり射手の脅威に対して宗次郎の肉体が思いもよらぬパワーを発揮して、その結果、一瞬の時間停止を可能にしたと、そう言いたいのじゃな?」

 

「えぇ……とても信じ難いことですが恐らくはそういうことかと」

 

「ハァ……なるほどな。それで合点がいったぜ。どうせお前のことだ。アレだろ? そん時の感覚を忘れないうちに〜、なんて考えたんだろ?」

 

ラカンが溜息混じりにそう指摘する。

 

「うっ……まぁだいたいそんな感じ…かなぁ〜?」

 

「それがあの特訓と銘打った自殺行為というわけですか。呆れて物も言えませんね」

 

詠春も大層呆れ顔だ。

 

「玉も玉だぜ。お前はコイツの考えを全部知ってたんだろ? どうして止めなかったんだよ」

 

ナギが責めるようにそう問い掛ける。

 

『どうしてもこうしても、私だってまさか宗次郎が時間を止めれるようになっているなんてちっとも知らなかったわよ! 後、玉って言うな!』

 

「は? なんでだよ。お前、普段から宗次郎の首にぶら下がってるわけだろ? その射手を回り込んだ時も一緒に体感できてたんじゃねぇのかよ?」

 

「ナギよ。恐らくそれは間違っておる。時間の停止を感じ取れるのは、あくまで高速を超えるという条件を満たした本人のみに限られたことなのではないかのう?」

 

「そういうもんかねぇ〜。まどろっこしいことこの上ないぜ。まったく」

 

「それでどうだったんです?」

 

アルが宗次郎に尋ねる。

 

「へ? どうって何が?」

 

「いえ、先程の特訓で実際に時間を停止することができたのか気になりましてね?」

 

「あ、いや実はまだでして。ははは……もう少しって感じなんだけどね? いやマジで」

 

『「「「「ジト〜〜〜」」」」』

 

「うぅっ……す、すいません。嘘つきました。ホントのところ全然です」

 

「で、結局どうしたいんだよ? まだこんなこと続けるのか?」

 

「それは……方法がないならそうするしか他に……

 

仕方ないんだ! こればっかりは」

 

「だが皆は嫌がると思うぜ?」

 

そんなラカンの言葉に無言で首肯する赤き翼の面々。

 

「た、玉ちゃんは『もちろん私も反対よ』そっか……あ〜、もう! どうすりゃいいんだよ! モォ〜。モヤモヤするなァ!」

 

「いや……諦めるのはまだ早いかもしれませんよ?」

 

「? どういうこと? イマ」

 

「宗次郎は遅延魔法と言うものを知っていますか? 所謂、タイマー魔法と言うやつで、あらかじめ呪文を唱えて時間指定後にそれが発動するようにするというものです。

 

例えば一分後に繰り出す魔法を遅延魔法と組み合わせて唱えれば一分後に魔法を発動することができると言った寸法ですね」

 

「⁇ そのくらい僕も知ってるけど…それがいったいどうしたと?」

 

「こんなのは、どうでしょう?

 

まず予め遅延魔法をかけておいた

複数の雷撃魔法を宗次郎にヒットするように設置しておきます。

 

それからタイマーが切れて魔法が当たった直後にそのエネルギーを利用して神速を使用。神速の状態のまま今度はスーパーソニックアタックへと移行することでその結果、任意のタイミングで時間停止を行うという方法です」

 

「そ、そんなこと本当に可能なの……?」

 

「わかりません。所詮は机上の空論なので。やはり実際に試してみるよりありません。ですがそれには当然、多大なリスクが生じます。

 

……今度こそ本当に死んでしまうかもしれませんよ?」

 

「それは……わかってる。わかってはいるがそれでも僕は……!」

 

「はぁ……一度試してみてダメだったらもう二度とこのような無茶はしないと言うなら考えなくもないがのぅ」

 

『「「「師匠(ゼクト)⁉︎」」」』

 

「仕方なかろう? こればっかりは本人次第じゃし。それにこのまま話し合ったとしても平行線を辿るばかりじゃからのぅ。

 

これで構わないかの?」

 

「ハイ‼︎ ありがとうございます‼︎」

 

「やれやれ。本来、憎まれこそすれ感謝される謂れはないんじゃがのぅ…なんでワシの回りの奴らは揃いも揃って阿呆ばかりなんじゃろ」

 

「「「なははははは。いや〜それほどでも〜」」」

 

「褒めとらんわ!」

 

その後の結果から言えば、実験は成功した。

 

ただし消費するエネルギーの都合上、止めていられる時間は体感にしてほんの2、3秒程度に限られ、しかも一度使用すれば軽く2週間は身動き一つ取れない状態になるオマケ付き。あまりに実戦に不向きな技である。

 

だがそれでも宗次郎本人はたいそう喜んでいた。

 

その際、浮かべた彼の満面の笑みを見た皆が一様に顔を赤らめたことを当人は知る由もない。

 

 

 

 

 

 

一方、宗次郎達が魔法球に籠もっている間、外では大変な事態が起こっていた。

 

元々、連合軍が所持していた拠点の一つ、グレートブリッジが帝国軍の手により陥落してしまったのだ。

 

このことをキッカケに事態は大きく変化しようとしていた………




どうも。あずき@です。

今回、時間停止に関して無茶苦茶な理論を振りかざした感が否めないあずき@です。

あずき@です…あずき@です…あずき@です………

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