広い世界を歩く話   作:ヴラドミア

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新アニポケが思った以上にドツボにはまってしまったので書き始めました。他作品もちょいちょい書いておりますのでよろしくお願いします。


漂着

「ホント、すっごい雷雲だね」

「海の荒れ方も酷いもんだ。収まるまではこの島にいた方がいいだろうな」

「賛成。少なくともこんな荒れた天候には逆らうもんじゃないよ。」

 

ライジングボルテッカーズの飛行船は悪天候によって目的地から遠くの孤島に緊急着陸することとなった。頭上には渦巻くような厚い暗雲が広がり、荒れ狂う海原が岸壁に波を打ち付け、大雨が音を立てて降りしきる。

 

「少なくとも数日分の食料はある。これだけ雨が降っていればすぐに晴れるだろうよ。」

「そうだな。よし、一応俺はこの辺りを見回ってくる。他のみんなはここで待機。何かあったら知らせてくれ。」

「わかった。あんまり遠くまで行くなよ。」

「わかってるよ、マードック。よし、行くぞキャップ!」

 

 

 

空から見えたこの島は一周回るのにそう時間はかからないだろうという小さな島だ。いくらか整備された道らしきものがあって、その石畳は苔むしていたり根が這っていたりと相当古いものだと察することが出来る。

人が住んでいた形跡はあれど、今現在は人の気配などせず。鳥ポケモンが散見されるが、それ以外のポケモンは見当たらない。 

 

「なぁキャップ。何か見つかるか?」

 

傘もささずに歩くフリードとその相棒のピカチュウことキャップは辺りを見回しながらゆっくりと歩みを進めていた。

相棒すらも首を横に振るほど、一帯には茂った草木以外がない。

 

そんな道を歩いていると、やがて石の柱が見えてきた。それに近付くと何やら文字が掘られているのがわかる。手で絡まった蔦を千切り、書かれた文字を読む。

 

「クナト、坂?」

 

地名がしっかりと掘られていることから、ここに人が住んでいたことは明らかなようだ。どこかで見たような地名にフリードは少し眉を潜めた。

 

クナト坂はそこまで長いものではなく、その終点は既に視界に映っている。それまでとは違って開放的な場所になっていることに気づいたのは坂を上りきった後だった。

 

「なんだこれ……」

 

開けた広場のようなところに、朽ち果てた住居が幾つか建っていた。それらは一様に左手に見える山に向いており、壁には何やら楽器のようなものが描かれている。

 

「これはシタール、か?ちょっと違う気もするが……」

 

シタールとはインドの弦楽器の1つ。ギターのように持って演奏するもので、弦を張る棒状の部分と音色を響かせる半球状の部分で構成されている。

そんなものを各々の家の外壁に描くくらいなのだ、音楽を信仰する民族でも住んでいたのだろうと推察する。

ここに書かれているものは少し形が違って、丸いはずの胴が四角い。バイオリンのような弓が描かれているものもある。いずれにせよ、この島には音楽があったのだろう。

 

朽ち果てた扉はすでに外れていて、中に侵入することが出来た。家具の幾つかには近代的なものもあり、錆び付いたPCすら置いてある。冷蔵庫や電子レンジの旧型があるあたりからも生活感が漂う。

 

さらに奥の部屋は寝室だったようだ。ベッドだったんだろうとすぐにわかる木の台があって、さらに奥には机と椅子がある。

引き出しの一番上段を引いてみると、そこにはノートが幾つか置いてあった。厚紙で出来た安っぽい表紙でページは多少黄ばんでいるが、中を開くことは出来る。

 

「えー……5月5日、私たちの待望の第一子が産まれた。身体が弱く、中にいないと生きることも儘ならないらしい。この子が健やかに生きることを祈る……育児日記か。」

 

ぺらぺらと捲るフリードの顔は面白いものを見つけたとかでも、ヤバいものを見つけたとかでもなく、ただただ普通だった。

 

「7月20日、第二子が……第二子!?おいおい、二ヶ月で!?今までの記録を見ても、一年経ったような記述はないぞ!?」

 

ページを捲るごとに驚愕に変わり、やがて眉を潜め、眉間に皺が寄る。

 

そのノートはフリードの言う通り、育児日記である。ただし、普通の育児でないことは明らか。第三子、第四子と順調に、二ヶ月から四ヶ月程度の周期で産まれ、同様の周期で死んでいく様が記載されていた。

 

一冊目は五子まで。二冊目は十二子、三冊目は十八子。周期はバラバラだが、その死亡記録は少しずつ延びている。この記録がずっと続くのだろうと思って、それ以降は読むのをやめた。

 

視点を動かすとベッドサイドのテーブルに置いてある手帳が異様に目に入った。茶色い革の装丁でそれまでのものと違ってやけに豪華である。

近寄ってみてわかったのは表紙に付着した血痕と、更に壁にもそれらしき染みがあること。手にとってパラパラとめくってみる。

 

「おいおい、マジか……」

 

ここにいたのは研究員らしい。先ほどの日記の意味も、この手帳が補完する。

 

かつてカントー地方にはフジ博士という人物がいた。ミュウの化石を用いて新しいポケモンを作るという研究をして、ミュウツーというポケモンが生まれた。

 

その研究を流用したのがここで行われていた、人間とポケモンの融合実験。人の遺伝子とポケモンの遺伝子を人為的に混ぜ合わせ、ポケモンの能力を持った人間もしくは人間の知能を持ったポケモンを産み出せるか。

 

第一子としていたのは、彼らが生み出した生物は人間の身体がベースだからなのだろう。遺伝子の調整やら培養用の液体の栄養組成など、その実験の過程が事細かに記されている。

第一一八子という成功例は順調に育ち、死亡記録は見当たらない。つまるところ、この記録の年代によっては今ここで生きている可能性があるのだ。

 

フリードは廃村の探索を再開しようと手記を置いて振り返る。そこには家の入り口に佇む影があった。

 

「バクフーン!?」

 

威嚇するように敵意を見せ、その背からゆらりと立ち上るのは紫の炎。首回りにも暗い色の体毛があり、そこからも火が出ている。フリードからすれば初めて見る個体だ。

 

キャップも臨戦態勢をとってしばらくにらみ合い、その場を一陣の風が吹き抜ける。するとバクフーンは戦意を失くし、その炎を収めた。キャップもそれに釣られたのか、驚いたように固まってしまう。

 

「お、おい、キャップ?どうかしたか?」

 

フリードの問い掛けにも応じず、キャップは茫然自失といった様子だ。対してバクフーンは背を向けて歩き出した。のそのそと進みつつ、フリード達を一度だけ、ちらりと振り返る。その様子を不思議そうに見ていたフリードの裾をキャップは引っ張った。

 

「着いていけって?」

 

キャップは頷くとバクフーンの元へ走っていく。仕方ないと小さく溜め息を吐いてフリードも歩き始めた。

 

 

 

クナト坂を見て右手、彼らが歩く先はウメバチソウやゴゼンタチバナといった高山植物が繁殖する丘だった。この島は航路上、シンオウ地方に近いはずなので気候条件としてはおかしくないとフリードは納得する。

そんな小さな草花が敷き詰められた丘の頂上で、バクフーンが待ち構えている。フリードとキャップがそこまでたどり着くと、足元に何やら機械の扉がある。

 

「ここに入れと?」

 

バクフーンはフリードの問いかけに頷くとその入り口を開けた。下へ繋がる梯子の先は螺旋階段になっていて、近未来的な内装が広がっている。

ここがあの手記に書かれていた研究を進めていた場所に違いない。では、なぜこのバクフーンはここに連れてきたのか、キャップもそれに従ったのか。浮かぶ疑問に警戒心を強めながらフリードは先行する二匹を追いかけた。

 

 

 

ぐるぐると、途中にある部屋を全て無視してひたすら下へと向かっていく。どのくらいの深さまで降りただろうか、バクフーンはある部屋の前で立ち止まる。最下層ではないらしく、まだまだ先に続いている。

ガラガラと鳴るドアのスライド音に視線を戻すと、バクフーンが器用に動かして中に入っていた。その先は無機質で白一色の空間であることは変わらず、ただ一本だけの道がある。首元から紫の炎を出し、通路を照らしてくれているようだ。

電気系統が死んでいるのだろうか。照明そのものは設置されている。先ほどの螺旋部分にはしっかりと電気が供給されていて、明るかったのだが。一本道はそう長くはなく、奥のドアにすぐ辿りつく。

 

「いらっしゃい。ようこそ、花の浮島、レプン島へ。」

 

扉を開いたその先で待っていたのは、少年とも青年とも見える人間だった。




悪天候によって緊急着陸:アニメでは雷雲に突っ込むなんてことをしていましたが、あれはあくまで緊急時の対応。通常はそんなところに突っ込まないはず。

クナト坂:岐坂。外敵や悪霊の侵入を防ぐ岐(くなど)の神が由来。くなどとは来な処=来てはいけないところという意味だそうな。塞の神とも言われ、それが転じて幸の神でもあるそうな。

シタールのような楽器:モンゴル楽器のモリンホール。この場では馬頭琴(ウマトンコリ)と呼ばれる。

花の浮島、レプン島:北海道の北東部にある小さな島、礼文島をモチーフに。シンオウ地方マップには描かれていない。
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