事実は小説よりも奇なり__誰の言葉かは知らないが、俺はその言葉に同意する。
俺は今、来月から通う高校がある都会へ向かう電車に乗っていた。
何故俺が今、先の言葉を頭に浮かんだかという理由は一つ。これまで十五年生きてきた短い人生を思い返すと俺は、あまりにも物語めいた人生だということを実感したからである
俺には父親、母親、七つ上の姉がいる。父親は超が付くほど寡黙である。返事はしないし必要以上に俺に干渉してこなかった。だが、家族の中で唯一俺を気には掛けてくれていた家族だった。母親はいわゆるネグレクト、育児放棄という表現がおそらく似合うだろう。家事や炊事を俺が怠ると癇癪をおこし、殴る蹴るはあまりしては来ないが、機嫌が悪いと殴られることもある。姉は「弟は奴隷だ。」と言わんばかりにこき使ってきた。まるで母親と姉はシ〇デレラに登場する意地悪な母娘そのものである。
俺は最初からこの家族からの不当な扱いを当然だと思っていて、当たり前のことと受け入れていた。だがこれは時間の経過と学校の道徳の授業で俺の家族はひどい関係だと気が付いた。だが学校には彼女がいた。似たような境遇の彼女がいた。
俺と彼女の関係は友達だと俺は思っている。ずっと六年間同じクラスメイトだったが、下校後に遊びに行ったり、土日は偶然でもなければ顔を合わせることはなかったからだ。
それでも俺たちはいつも登下校のときや休み時間の時に二人で雑談をしていた。無駄な内容が大半をしめていたが、それでも俺にとっては楽しい時間だった。小学生が男女二人でいれば周りのみんなからはからかわれたり、いじられたりして不快にも思ったが、我慢すればどうということは無かったし、何より唯一の友達である彼女とつながりを俺は嘘でも否定したくはなかった。
そんな彼女は施設から通ってきていた。幼い頃、窃盗の犯罪で捕まった片親の母が出所後も迎えに来なかった為そのまま施設暮らしと彼女から聞いたことがあった。それでも俺にとってかけがえのないたった一人の友達だった。きっと中学でも同じ生活をすると思って中学生になった矢先、彼女は転校することになった。
二人で中学校から下校しているときに彼女は
「私、アイドルになるから。」
といつもの雑談をするときより笑顔で、瞳に綺麗な一番星の輝きを宿して俺に宣言をしてきた。
驚愕だった。それと同時に心にひびが入ったような錯覚を感じたが、俺に彼女の目標を妨げる理由なんてない。だから俺は
「・・すごいじゃん。頑張れよ、応援する。」と、
どこかで見たテンプレートなセリフで彼女の背中を押した。
「前にも話したことがあったことあるけど私と君って、どこか似ている気がするんだよね。 私って誰からも愛された記憶ないし、誰かを愛した記憶もない。そもそも人を愛するってよくわからないし。
君も確かそうだったよね?」
「ああ。そうだな。・・でも、もっと言えば俺は「愛」そのものがよくわからないんだ。」
「ふーーん。」
彼女は無関心そうに答え、少し沈黙の後、彼女は俺に提案をした。
「それじゃあさ、競争しようよ。」
「何の?」
「君が「愛」とは何かわかるのが先か、私が嘘じゃない気持ちで誰かを愛して、その人に愛されるのが先か。」
俺は少し悩む、この競争に意味はあるのか?と。その考えを阻むように彼女は続ける。
「もし君が勝ったら、私は何でも君の言うこと聞いてあげる。
私が勝ったら、君は私の言うことを何でも聞く。
この条件でどう?」と彼女は笑顔で提案する。
「・・・・わかったよ。」
と俺はその競争を受けて立つことにした。
「約束だよっ! あっでも実は私、必勝法があるんだよね。」と彼女は思い出したように言う。
「はぁっ?!おま、それはズルいって・・・。」
「ずるくないもーーん。」
彼女は髪をなびかせ、笑顔で俺を見つめた。
俺は夕焼けを背にしたそんな彼女を綺麗だと思いつつ、残り僅かになってしまった彼女との下校を楽しんだ。
彼女のアイドルになるという宣言から二日が経ち、彼女は学校のクラスに軽い別れを告げ、一限目が始まる前に俺のいる中学校から去った。一昨日の競争の約束がまるで嘘だったのでないかと思うくらい簡単に別れた。
きっとその時までが俺にとっての幸せの時間だったのだろう。だが彼女との約束の為に「愛」とは何かこの答えを見つけるための行動を起こすことにした。
だが俺の家族の事を考えると約束のために費やせる時間は多くはなかった。せいぜい学校の図書室、市の図書館で恋愛小説を読むことしかできなかった。
そんなある日、父親が死んでしまった。くも膜下出血と医師は言っていた。俺も母も姉もこの時は誰も涙を流さなかった。
父親の死後、父の自室から遺書が出てきた。その内容は俺、母親、姉それぞれに一通ずつの手紙と保険金や貯蓄、土地や家の遺産の分配について書いてある用紙が数枚だった。
遺産については土地、家、百数万のお金を母親と姉に、保険金の受取人は俺にという感じで分配されることになった。
父からの遺書の手紙にはこう記してあった。
「君に渡すものはきっと目のくらむような大金だろう、だがこれを安易に使うな。このお金は君が将来進学や新生活やいざというときに使える時のために残しておきなさい。 君には必要なものしか買い与えるだけの父だけでしかなかった私をどう思おうと構わない。だけど君には自分で自分の道を選び、進める人になりなさい。
父より」
俺は父からの手紙読み
「ありがとう、父さん。」と小さくつぶやき、父へのありがたみを父が亡くなって初めて実感した。
そこからの日々は何てことはない、いつもの日々だった。
炊事家事をこなしつつ母と姉にいじめられる日々だ。
だがあと少しで抜け出せる。高校への進学は都会の高校を選ぶことにした。ここから抜け出すため、何より都会に行けば、彼女との競争の約束を果たすため、何よりアイドルデビューを果たした彼女に会えるかもしれないと思ったから。
俺は中学の三者面談の進路相談の機会を利用したり担任の先生や学年主任の協力してもらい、学費や生活費も父の遺産で工面すると母親に告げることで、何とか説得することができた。
そして志望校には何とか合格、新しい新生活を送るための安くはないが、最低限のセキュリティのあるマンションを借りることもできた。そして
今日の早朝、日が昇り始める時間に、俺は必要最低限なものを全て詰め込んだ大きめのカバンを肩に掛け、誰にも見送られることなく家を出て、始発の電車に乗り込んだ。
ここまでが俺の思い出・・。
不思議なことに思い出を振り返るのはわずか数分の出来事なので、一駅も止まらずに俺の短い思い出は終わる。
そこから数時間が立ち、俺はようやく目的の都会についた。
駅の中を歩いて出口へ向かっていると、いかにも売り出し中のアイドルの広告を見つけ、立ち止まる。そのアイドルユニットの名は「B小町」その中に競争の約束をした彼女が写っていた。
彼女の名は「星野 アイ」
「俺も頑張んないとな・・。」
そうつぶやいたのは「天城 将也」
俺の名前だ。
これはそう、俺が「愛」をみつける物語だ。