斉藤社長にアイドルマネージャーに興味はないかと聞かれてから二週間程経った日曜日、今日はB小町のミニライブが開催される日であり、俺が斉藤社長の誘いで、マネージャー業の内容を見学させてもらう日だ。
「天城、一応お前は見学扱いだが荷物運びくらいは手伝ってもらうぞ。」
「了解です。」
俺は今、斉藤社長の車に乗せてもらい現場まで連れてきてもらったところだ。
「よし、行くぞ天城。」
「はいっ。」
そこからは目まぐるしい勢いで色々な仕事を手伝わされたが、斉藤社長の的確な指示のおかげで何とか仕事をこなすことが出来た。
「斉藤社長、荷物運びって言ってたのに結構いろんなことさせてくれましたね・・。」
俺は疲れながら、斉藤社長に皮肉を言う。
「ははっ、せっかくマネージャー業を体験させてるんだ。色々やらなきゃわからんだろ。」
「・・それもそうですね。」
言いくるめられている気がするが、せっかく体験するならやっておいて損はないだろう。
「ほれ、今日の労働の褒美だ。」
と斉藤社長は一枚のチケットを俺に手渡す。
「これは・・・、いいんですか?」
渡されたチケットを見てみると今日のミニライブのチケットだった。
「ああ、お前確かアイのライブを生で見たこと無かったろ。せっかくだし見て行ってくれ。」
「ありがとうございます。」
そういって俺は客席の中に入っていく。少し進んでいくと見覚えのある後ろ姿とベビーカーを見つけた。
「あれ?ミヤコさん?それにアクアもルビーもどうしたんですか?ライブ会場に来るなんて。」
「えっ!?あ、天城君?!!ど、どうしてここに?!」
何故か滅茶苦茶うろたえるミヤコさんだが、どうしたのだろう?
「今日は斉藤社長の手伝い?で連れてきてもらったんですよ。ミヤコさんは?」
「あ、あ~その~私は・・、そう!この子達にアイさんのライブを見せてあげようって思って関係者としてここに・・・。」
「ああ、なるほど。そうなんですか。よかったなぁアクア、ルビー。」
アクアとルビーは喜んでいるように見えたが、どこか愛想笑いをしているようにも見えた。緊張してるのかな?
でも、アクアとルビーの為にライブに連れてきてあげるなんてミヤコさんはいい人だなぁなんて思っていたら、ライブが始まった。
視点変更 「星野 アイ」
はぁ~、気分が乗らないなぁ~。
ライブが始まる直前にもかかわらず、気分はだだ下がりである。理由は二つ、一つ目は給料の事。これは最近までは特に気にならなかったけど、アクアとルビーの将来の為にはたくさんお金がいる事に気づいた。わかってはいるがこれは私がもっと売れて、バシバシ稼がなきゃいけないんだ。
もう一つの理由はこの間SNSでエゴサをしていた時に、
「アイの笑い方って良くも悪くもプロの笑顔なんだよな。
なんか人間臭さがないっていうか。。。いまいち推しきれない。」
と書き込まれたことだ。痛いとこ突くなぁ・・・・。
そんな憂鬱な気分な私をよそに今日のライブが始まった。
歌い踊りながらもSNSの書き込みを思い出す。
「良くも悪くもプロの笑顔なんだよな。」
そんな事言われたってなぁ・・私、プロだし・・。
「人間臭さがないっていうか。。。」
それ よくわかんないし、人間ぽくないのを求めてるのはそっちじゃん?
鏡見て、研究して、ミリ単位で調律。目の細め方、口角、全部打算。
いつも一番喜んで貰える笑顔を「やってる」
私のほとんどは嘘で出来てるし。
わずかな本当の私は彼への思いと愛したいと思う私の子達への思いだけ。
そんなことを思いながらいつも通りの歌と踊りをしていると、客席のなかに彼がいた。
彼がいることを認識した瞬間、私はいつもより頬が緩むのを感じた。
彼が手を振ってくれた、私は嬉しくてウィンクで返した。
すると周りファンやメンバーが少しざわつく。やばっ彼に露骨にアピールしすぎたかな?と心配になったが違うらしい。
「「バブ! バブゥ! バブッ! バブッ!!」」
騒ぎの中心は彼に近くにいる私の子、アクアとルビーだ。二人はペンライトを持ってヲタ芸してる。当然回りは騒然としてる。
「なんだあの赤ん坊?!ヲタ芸打ってるぞ!!」
「乳児とは思えないキレだ!!」
「わっ 何あれすっごー・・・」
親心からだろうか、私は懸命にヲタ芸をするアクアとルビーを見て思う。
うちの子きゃわ~~~~~♡♡♡♡♡
二人のおかげでさっきのくだらない悩みはどこかに行ってしまった。
今はあんな悩みよりも彼とアクアとルビーの為にライブを頑張ろう!
視点変更「星野 アイ」end
ええぇ・・・。
アクアとルビーがヲタ芸してる・・。
賢い子達だと思ってはいたし、子供の成長は早いと聞くけどここまでとは、驚きを隠せない。星野も俺とアクアとルビーに気づいたようでライブ開始直後よりいい表情になっている気がする。
ステージに立つ彼女を見て思う。
いつもと少し違う彼女。
一緒にご飯を食べたり、雑談をしている時の普段の彼女とはまた違う一面、アイドルとして歌い踊る彼女。
そんな彼女を誰よりも近くで見ていたい。そんなの思いが芽生えたとき、苺プロでアイドルマネージャー、ひいては彼女の専属マネージャーになりたいと思った。
自分の進路に対する決意を決めたときにはライブは終わり、俺は斉藤社長に合流するためにミヤコさんとアクアとルビーに一旦別れを告げ、斉藤社長の元に向かう。
「おう天城。ライブどうだった?」
合流した斉藤社長に質問される。
「そうですね・・、とても楽しいというか星野を応援してるファンの気持ちが何とな
くですがわかった気がします。それに・・・」
「それに?」
「星野を支え続けられるのなら、マネージャーになりたいって思いました。」
「そうか、頑張れよ」
そういって俺は斉藤社長に乱暴に頭を撫でられた。
「さっ、もう一仕事頑張るぞ。」
「はいっ!」
そう返事をして俺は斉藤社長についていき、最後の仕事を手伝った。
手伝いの後、斉藤社長はB小町のメンバーを自宅に送るとのことなので、俺は晩御飯の買い出しもする必要があった為、最寄りのスーパーまで公共交通機関を使い、スーパーからは徒歩で帰宅することにした。
星野の部屋に戻ってくると先に帰ってきていた皆がミヤコさんのスマホを見ていた。
「お邪魔しまーす。皆さんどうしたんです?」
「天城君おかえり。ねぇねぇこれ見て。」
そう星野に言われ、荷物を台所に置いてミヤコさんのスマホ画面を覗いてみる。そこにはSNSでアップされた動画が再生されていた。動画の内容は今日のライブでヲタ芸をしていたアクアとルビーの動画だ。
「21万リツイート・・・転載動画も既に200万再生・・・・赤ちゃんコンテンツはバズりやすいとはいえ・・・これはさすがに・・・」
確かに今日のアクアとルビーはすごかったからなぁ・・と遠い目をしていたら
「ちょっと来い・・・」
と斉藤社長がミヤコさんの首根っこを掴んで廊下に連れ去っていった。
そんな二人をよそにスマホに注視する星野に目を向けると
「なるほど・・・これがイイのね、覚えちゃったぞ~~~。」
といたずら顔で何かを閃いたようだった。
「どうかしたのか?星野。」
「ううん、何でもないよ。」
「・・・まぁ、程々にな。」
「は~~い。」
まったく何を思いついたんだか。そう思っていると斉藤社長が扉を開けて、俺を呼び出す。
「天城、ちょっと来てくれ。」
「はい。」
俺は斉藤社長とミヤコさんのもとに向かう。
「ミヤコ、天城の事なんだが、こいつはウチの事務所のマネージャーになりたいそうだ。」
「えっ?!天城君そうなの?!」
「はい。と言っても知識とかは全然ないんで、戦力になるかわからないですけど。」
「それはこれからだって言ったろ。そういう訳でミヤコ、俺とお前でこいつを教育することにする。」
「・・わかったわ。厳しくいくわよ、天城君。」
「よろしくお願いします。」
こうして俺は苺プロのマネージャーを目指すことを決めたのだった。