俺とアイが互いに名前で呼ぶようになったあの日から、約二年の月日が経った。
俺は高校三年生の秋頃からバイトを辞めて、普通自動車運転免許や情報処理検定などの資格を取得し、苺プロへの就職は前々から話が決まっていたので、すぐに内定をもらえた。そのあとは無事に高校卒業し、去年から本格的にマネージャーとして働くことになり、最近までは斉藤社長やミヤコさんについて回ってたくさん勉強させてもらった。
今ではB小町のメンバーや他の所属タレントの送迎は俺一人に任せて貰えているが、アイが送迎は「天城マネージャーじゃないと嫌。」とわがままを言うものだから、結果的にアイやB小町のメンバーの送迎する時が多い。
ちなみに、アイが俺のことをしょっちゅう呼び出しているせいか、俺は苺プロの中でアイのお気に入りマネージャーという扱いになっている。
後はスケジュール管理くらいだが、この仕事は斉藤社長やミヤコさんと相談しながら何とかこなしている。
アイは一昨年に出演した映画の影響か確実に仕事を増やしている。クイズ番組やバラエティー番組、週刊誌の表紙グラビアなどの仕事もするようになり、言わば絶賛売出し中のアイドルタレントといったところだろうか。
アクアとルビーもどんどん大きくなり、三歳になった。今はもう幼稚園に入園しており、送迎は俺とミヤコさんで交代しながら行っている。
ここまで二人の成長を見守っていると感慨深いものがあり、今では年の離れた弟と妹みたい感じている。それを一度アイに話したことがあったが、「こんなに大きい子供は持った覚えないです~。」と機嫌を損ねてしまったことがあった。いまだに理由はわからない。
そして今日は俺がアクアとルビーの送迎をする日だ。
幼稚園まで車で移動し、駐車場に車を停め、アクアとルビーのいる教室まで迎えに行く。ちなみにここでは俺はミヤコさんの弟ということになっている。
「アクア、ルビー、迎えに来たよ。」
「はーい。」
いつも通りに返事をするアクアに対して
「・・・はーい。」
どこか元気がないルビー
「? どうしたルビー?」
質問してみるとアクアが答えてくれる。
「今度のお遊戯会のダンスが嫌なんだってさ。」
「・・そうかぁ。」
俺もどうしたものかと悩んでいるとクラス担任の人に声を掛けられる。
「あら天城さん、こんにちわ。」
「こんにちわ。」
「ルビーちゃんの事なんですけど・・・。」
「ええ、今アクアから話は聞きました。とりあえず家に帰ってから家族に相談してみます。」
「お願いします。」
そう言って元気のないルビーを抱き上げ、別れの挨拶をして駐車場の車に向かう。
アクアには横について来てもらっている。アクアは何も言わなくても、車のロックを解除して、後部座席の扉を開けてくれる。
「ありがとな、アクア。」
「別に。僕も乗るからそのついでだよ。」
口ではそういってはいるが、行動はお兄ちゃんしているなと感心してしまう。
「さぁルビー、今日はとりあえず帰ろうぜ。」
「・・・うん。」
ルビーを後部座席のチャイルドシートに乗せた俺はとりあえず二人の自宅へ戻ることにした。
「「ただいまー。」」
アイの部屋に帰宅させた後も妙案が浮かばなかった俺はスマホを取り出し、アイに電話をかけることにした。
コール音が二、三度なったところでアイが電話に出てくれた。
「もしもし?どうしたの?」
「急に悪いな。すまないけどルビーの事でちょっと話したいことがあるから時間作れるか?」
「オッケー。それじゃあ迎えの車の中で話そう。お迎えよろしくね~。」
「了解。」
そう言って短い電話終え、斉藤社長にも今日のアイの迎えは俺が行きます。と連絡しておいた。
帰ってきた後もリビングのソファーでうずくまっているルビーに声を掛けてみる。
「ルビーはダンスが嫌いなのか?」
そう聞くとルビーは首を横に振ってから答えてくれる。
「嫌いじゃなくて、私ダンス下手なの。」
「そうなのか・・・。」
「うん・・・。」
俺とルビーの間に沈黙が走る。
「う~ん、無理して嫌な思いはしたくないよな。」
そう言って頭を撫でてあげる。
「天城さんはこういう時はどうしてたの?」
「俺?俺は・・・そういう課題みたいのはやらなきゃいけないって思っていたからルビーの感じている事に、正直に言うとルビーの助けになるような答えを持ってないんだ。でもそうだな、結果的に苦手な事をやって良かったと思える事はあったから、ルビーにも苦手なことにも挑戦してみてほしいって思うよ。」
「う~~ん。」
余計に混乱させただけになってしまったかな。と思ったのでもっと簡単にアドバイス言ってあげることにした。
「まぁやるだけやってみようぜ。」
「うん・・。」
それでもルビーは浮かない顔だった。
俺はその後、アイを迎えに行き、車の中で今日あったことをアイに話す。
「そっかぁ、ルビーはダンス苦手だったんだ・・。」
「そうなんだよ、普段から元気に動いてる子だったから、ダンスが苦手っていうのは少し意外なんだよなぁ・・。」
二人で唸りながら帰宅するもいい案は浮かばなかった。部屋に戻るとアイの自主練用の部屋から灯りが漏れているのに気付き、アイと二人で覗いてみるとルビーが一人でダンスの練習をしていた。
ルビー本人が言っていた通りダンスは得意ではないらしく、フラフラとした感じで今にも転びそうな感じと思っていたら、転んでしまった。
俺が助けに行こうとしたら、アイに止められた。
「将也君、ここは私に任せてもらえるかな?」
「・・・わかった。頼むよ。」
「うん、任せといて。」
そういってアイはルビーのもとへ向かった。俺が行ってもきっと役には立てないだろうと思ったのでここはアイに任せてみる。
しばらくして、リビングでお茶を飲みながら、仕事のスケジュールを確認していると、アイがやって来た。
「どうだった?」
と声を掛けると自信満々にアイが答える。
「きっともう大丈夫だよ。」
「そうか。すごいな、さすがはお母さんといったところか。」
「エッヘン!」
と自慢げになるアイ。
その後は少しだけアイと一緒にスケジュールの確認をして、帰ろうとすると廊下でアクアが自主練用の部屋の中を覗いていた。俺とアイもアクアに釣られて中を覗いてみると、さっきとまるで違う、まるでアイように自信に満ち溢れたように踊っていた。
「ね。大丈夫って言ったでしょ。」
「ほんとだな。」
「もっと褒めてもいいんだよ。」
そう言ってくるアイに俺は頭を撫でてあげる。
「えへへ。」
そんなことをしているとアクアがこっちを見ていので、
「アクアもちゃんとお兄ちゃんとしてルビーのこと見守ってて偉いぞ。」
といってアクアの頭を撫でてあげる。
「別にそんなんじゃないし・・・。」
そういってアクアは寝室に戻ってしまう。
「照れてるだけじゃない?」
そうアイにフォローされる。
「そうだといいんだけどな。」
そう言った後、俺とアイは再び元気よく踊るルビーを見守ってから俺は帰宅した。
数週間後、今日はアクアとルビーが通う幼稚園のお遊戯会の日だ。
二人のことを見に来たのは俺とアイとミヤコさんの三人で、斉藤社長は仕事で来られないので俺は斉藤社長から預かったビデオカメラを使い、アクアとルビーの撮影をすることになった。
俺達が席に着き、俺がビデオカメラの使い方を確認しているとお遊戯会の幕が上がり、いろんな子たちの出し物が発表されて行き、ついにアクアとルビーの番がやってきたので、俺は録画開始ボタンを押し、カメラ越しにアクアとルビーを見守る。
隣ではアイとミヤコさんがアクアとルビーの成長に感激しているようだった。
ついこの間ダンスが苦手だと言っていたルビーがあんなに誰よりも輝いて上手に踊っているのを見ていると胸の奥から湧き上がるものがある。これはきっと感動というのだろう。アクアもしっかり練習していたようで難なく踊っていた。
そうしているうちに二人のダンスは終わりを迎えた。
俺は録画終了のボタンを押し、隣にいるアイと感想を話そうとしたら、
「うちの子めっちゃきゃわ~~♡♡♡」
とご満悦の様子だったので、感想を言い合うのは後にしよう。
こうしてアクアとルビーのお遊戯会は無事に終わり、この後はみんなで帰るだけになり、駐車場に止めてある車のもとへ移動しながらルビーに話しかける。
「ルビー、今日はよく頑張ったな。」
と褒めてあげると、エヘヘと笑顔で答えてくれた。
「ご褒美に今日の晩御飯はルビーが食べたいものでいいぞ。」
「ホントっ!?」
「ああ任せろ。」
「えーとねぇ、じゃあオムライスが良いっ!卵トロトロのやつ!!」
なかなか難しい注文がきたが、せっかくのご褒美だし、それくらいはお安い御用だ。
「よしっ!楽しみにしとけよ!」
「わーーいっ!!」
そういってルビーははしゃぎ始める。するとアクアが俺のもとに近づいてきて
「天城さん、僕はデミグラスソースのオムライスでお願いします。」
「おう、わかった。」
アクアからのリクエストも聞いてあげると、今度はアイが
「将也君!私はチーズ入りのハンバーグをつけて欲しいな♪」
「あーーっ!私もーーっ!!」
ルビーも更に追加注文してきた。
「天城君。」
「ミヤコさん・・。」
手伝ってくれるのかな?
「私とあの人の分も頼むわね。」
「あ、はい。」
とどめを刺しに来ただけでした。
とりあえず今日は早く帰って材料買いに行って、早めに晩御飯作らないと間に合わないな。と思いながら俺達は帰路に就くのであった。