季節は春から夏に移り変わり始めたある日、俺はアイの週刊誌の巻頭グラビアの写真撮影の為にスタジオにアイと一緒に車で向かっていた。
「ふぅ~、熱いね~。」
とアイは俺が用意しておいたお茶を飲みながら後部座席でぼやいていた。
「あぁ、そうだな。」
俺もここ最近の気温の急上昇にやられたせいか少しだるさを感じていた。だが、スタジオに到着すれば、俺もアイも仕事モードに入る。
「到着したよ、アイさん。」
「今日もよろしくね!マネージャー♪」
そういって俺とアイはスタジオの中に入っていき、関係者の方々に挨拶をしてから控え室に入る。中には沢山の水着が置いてあり、今回はアイが水着を選んで着て、撮影するという流れだ。
「へぇ、いろんな種類の水着があるんだな。」
水着だけでなく撮影に使うであろう小道具まである。
「ホント~、どれにするか迷っちゃうね。」
そう言いながら、手際よくハンガーラックにかけてある水着を見ていくアイ。
「マネージャーはどれがいいと思う?」
「俺か?」
「うん。参考にしたいんだ〜。」
「そうか、じゃあ俺も見てみるよ。」
そういって俺も水着を一緒に見ていく。アイは既に何着か候補を見つけて取って鏡の前で水着を自分の体に当てている。
どれも似合いそうだなぁ。と思いつつ俺もアイに似合いそうな水着を探していく。
十数分後、この手に取った水着を見ながらアイに似合いそうと思いつつ俺の趣味丸出しではないか?と葛藤に悩んでいると、隣からアイに話しかけられる。
「どう?いい感じの見つかった?」
「これなんかどうだ?」
そう言いながら俺は白を基調としたパレオ付きのビキニを渡す。
「へぇ~、マネージャーはこういうのが好きなの?」
アイはにやけた顔で俺に問いかけてくる。
「・・・まぁ、はい。好きです。」
ごまかしても意味はないので素直に答えた。
「いいこと聞いちゃった~♪」
「俺の趣味を聞いても仕方ないだろ。どうする?これにするか?」
にやけているアイをそのままにしても仕事は進まないので、仕事の話に戻す。
「う~んそうだね~。これにしよっかな。」
そう言ってアイが手に取ったのは白色の胸元にフリルが付いたワンピースタイプの水着だった。
「それにするのか。」
「うん。これにする。」
「そうか、あまり参考にならなくてすまんな。」
俺は軽く詫びながら、自分の選んだ水着をハンガーラックにかけなおす。
「そんなことないよ~。」
そうフォローされるが、言動と行動が一致してないぞ。と内心で言っておき、話を進める。
「それに決めたなら更衣室で着替えて来てくれ、俺は先にカメラマンさんのところに行くからな。」
「うん、了解♪マネージャー♪」
そう言ってアイは上機嫌で更衣室に向かっていった。
その後、俺はカメラマンさんに挨拶をし、着替え終わったアイもやってきて撮影が始まった。撮影が始まれば、俺はアイを遠くから見守るだけだ。
数時間後、特に難なく今日の撮影の仕事を終えることができ、俺とアイは車に乗り、苺プロの事務所に一度報告に戻ることにする。
今回の撮影を行ったスタジオは少し遠くの場所だったという事と今が退勤ラッシュの時間と被ったという事もあり、帰るのに少々時間が掛かっている。俺とアイは車の中で雑談をしながら渋滞の退屈な時間を潰していた。
日の傾きが七年前の約束をした時と同じくらいに傾いていた時、アイもその夕焼けを見て思い出したのか、俺にあの約束の事を聞いてくる。
「ねぇ将也君。あの約束の事なんだけど、将也君は「愛」が何か解った?」
「・・・いや、まだ解らないな。でも・・。」
「でも?」
「きっと誰かに恋をして、その思いの先にあるものが「愛」なんだと俺は思うよ。」
「将也君は誰かに恋してるの?」
「ん~・・。それも解らない。かなぁ?好きな人たちならいるけどな。」
「えっ?! 誰っ!!?」
すごい勢いで興味を示したアイに驚いたが、俺はアイに答える。
「誰ってそれは、アクアにルビー、斉藤社長にミヤコさんだろ。それにアイのことだって好きだよ。」
「そ、そうなんだ。そっちのことだったんだ。」
運転中の俺は後部座席に座っているアイの様子は分からないが、俺は今言ったことを思うと何か誤解を与える言い方だったと思い、慌てて弁解する。
「今言った好きってのはあくまで人として好きってことで、恋愛とかの意味で好きってことじゃないからな!・・勘違いさせたならスマン。」
「わかってるよ。っていうかまだ小さいルビーに結婚してるミヤコさん、男のアクアに社長にそーいう意味で好きって言われたら困っちゃうよ。」
「・・・・それもそうだな。ところでアイはどうなんだ?誰かのことを愛せるようになったのか?」
「私はもう少しかな?あと少しで確信が持てそうだよ。」
「そうか・・。」
今の答えを聞いたとき、俺はまた心のどこかにひびが入るような錯覚を感じた。でもアイが誰かを愛せるようになるのはいい事なんだと自分に言い聞かせる。
「それじゃあ俺も負けてられないな。」
「別に今のままでもいいんだよ~。」
「そりゃこのままだとアイの勝ちになっちゃうからな。」
「えへへ、バレちゃった。」
その後、俺とアイは雑談を再び楽しむことにした。楽しいことをすれば、渋滞の待ち時間や移動する時間さえあっという間だ。
今は苺プロのガレージに車を駐車し終え、エンジンを切ったときに、アイからお願いされる。
「ねぇ将也君。いつか私が愛したい人に愛してるって伝えるときに少しだけ背中を押してもらってもいい?」
「ああ、いいよ。」
俺は二つ返事で了承する。
「ありがと、将也君。」
「おう。」
そういって俺は車から降りて、事務所に入ろうとする。
「・・・・・・・・・・・・・・もう少しだけ待っててね、将也君。」
「ん?今何か言ったか?」
「何も言ってないよ?」
「気のせいか・・。」
何か聞こえたような気がするがアイが言っていないというのであれば俺の気のせいだろうと思い、仕事の報告のためにミヤコさんのもとに向かっていった。
報告が終わった後は、俺とアイはマンションに帰り、いつも通りアイの部屋で俺とアイとアクアとルビーで晩御飯を食べて、俺は自分の部屋に帰った。
帰ってきた後は風呂に入り、明日の仕事とスケジュールの確認をして明日に備え、寝るだけという状態になったが、少し考え事をしたい俺は、ベランダに出て、夜風に吹かれながら考える。
何故俺はアイが誰かに愛しているを伝えることを考えた時と七年前、アイがアイドルになると言った時、心のどこかにひびが入るような錯覚を覚えたのだろう。
何故俺は今まで誰かに恋をしてこなかっただろう、振り返れば中学生の時、高校生の時、アルバイトをしていた時のお客さんやマネージャーとして働いているときだって異性との交流がないわけではなかった。
何故俺は未だに「愛」を知らないのだろう。
輝く夜空を見上げれば答えが書いてあるわけでもなく、馬鹿な自分なりに答えを考え出そうとする。
一人で考え出した答えは都合のいいものでは無く、自分の勝手な寂しさやアイに対する依存なのではないのだろうか。という答えにたどり着いた。
過去の俺の家庭環境を振り返れば、母と姉からの扱い、父さんの思いは最後に知ったけど生前は必要以上の交流がなかったこと考えれば、唯一の友達であったアイに依存していてもおかしくはない、アイが遠くに行ってしまうこと、誰かを愛して他の人の元に行ってしまうことに寂しさを感じてしまった。と考えれば自分の中で納得ができた。
自分なりの答えが出てきたところで時計を見れば、もうすでに日付が変わっていたので、俺は自問自答することに区切りをつけて、寝ることにする。
何故この時の俺はアイに対して寂しさを感じてしまったのか、依存と捉えてしまったのか、もっと単純な答えがあるのに、その答えにたどり着けなかった俺は愚か者だった。と近い将来で知ることになる。