一応着地点は見えてる。
初夏の真夜中に自問自答をしたあの日から、猛暑の夏を超え、太陽の日差しが落ち着きを見せた晩秋の少し手前くらいのある日の夕方。
俺は苺プロの事務所で今月使った電気代や交通費などの必要経費をパソコンの中にある経理を管理する事務作業をしていた。ミヤコさんも向かいの席で同じようにパソコンを使った事務作業をしている。アイは近くのソファーに座り、SNSでエゴサをしているようだった。
「将也君見て見て~、もうすぐフォロワー数100万人超えるよ~。」
「おーすごいなー流石だねー。」
と話しかけてきたアイに対して生返事で返す俺。
「も~ちゃんとこっち見てよ~。」
「今は大事なお金の計算してるんだからあまり話しかけないでくれよ。」
「む~、私と仕事どっちが大切なの?」
どこかで聞いたようなセリフで問いかけてくるアイに対して俺は
「アイが大事に決まってるだろ。」
と即答で返しておく。仕事のことで何か失敗しても俺が責任を取るだけで済むが、アイに何かあってからでは遅いのだ。そう思えばどちらが大事かなんて質問は考えるまでもなく答えは出ている。
と自分の頭の中で理由を述べているといつの間にかアイはソファーの上でうずくまっていた。少し遠くで分からないが、耳が赤くなっているようだった。
「アイ?大丈夫か?」
少し心配になって声を掛けると、
「大丈夫・・・。」
とか細い声で答えてくれた。でも心配な気持ちはぬぐえなかった俺はとりあえず仕事を早く終わらせ、アイを早く自宅に送り届けてあげようと思い仕事のスピードを上げようとした所、ミヤコさんに話しかけられた。
「天城君。」
「はい、何でしょうか?」
「あなたたち、いつもそんなやり取りしてるの?」
「?」
質問の意味が理解できていない俺がどういう意味だろうと考えようとしたところに斉藤社長が部屋に入り込んできた。
「おーうアイ、待たせたな・・ってどうしたんだ?」
俺は首を傾げ、ミヤコさんは肩をすくめ、アイは俺を恨めしそうに見ていた。
「まぁとにかく。アイ、ドーム公演の打ち合わせ始めてるぞ。」
「は~い。」
そこからは各々の仕事をしていき、二時間ほど経過した頃、俺の仕事が終わったのでミヤコさんに報告をする。
「ミヤコさん、経費の仕事終わりました。」
「ええ、ありがとう。こっちももうすぐ終わるわ。そしたら今日は終わりにしましょう。」
「了解しました。片付け先にしてしまいますね。」
「頼むわね。」
そういってミヤコさんへの報告を済ませ、手元の領収書や伝票をファイルにまとめてしまっていく。
「お、ミヤコと天城は終わるのか。じゃ俺たちもそろそろキリにするか。」
「は~い。」
俺とミヤコさんが仕事が終わるのを見て、アイと斉藤社長も打ち合わせを終わらせる。
「そうだ天城、お前そろそろ誕生日だったろ。」
「そういえばそうですね。」
と斉藤社長に俺の誕生日の話題を上げられ、カレンダーをみて日付を確認する。
「あ、今日ですね。」
「って今日かよっ!?」
16歳まで誕生日を祝われたことが無かったので、俺は自分の誕生日に対する興味が薄い。一応小学生の時は学校でアイから祝いの言葉はもらっていたし、17歳の時からはアイがプレゼントを用意していてくれてはいた。
「ほんと将也君って自分の誕生日に関心がないよね~。私の誕生日はしっかり覚えてるくせに。」
「俺にとってはそっちのほうが重要だからな。」
「またそんなこと言う・・。」
そういってアイはそっぽを向く。何がいけないんだ・・。
「ということは天城は今日から二十歳ってことだな!よしっ!成人祝いだ、酒を飲みに行くぞっ!!」
「ダメですよ斉藤社長、俺は今からアクアとルビーの晩御飯用意しなきゃいけないんですから。」
ちなみにアクアとルビーは今事務所の上にある斉藤社長の自宅で留守番してもらっている。
「だったらアイの部屋で飲めばいいだろう。」
「そういう問題ですか?」
と斉藤社長にツッコんだ後、アイが
「私は別にいいよ~、将也君の酔ったところみてみたいし。あ、でもアクアとルビー
が途中で寝ると思うから、あんまりうるさくしないでね。」
「わかってるって。それじゃあミヤコ、酒買いに行くぞっ!」
「はいはい。程々にしてくださいね。」
そう言いながら斉藤社長とミヤコさんは立ち上がり事務所から出ていく。
「それじゃあアイ、俺達も行こう。」
「うん、アクアとルビー連れてくるね。」
そして俺達も事務所から自宅のマンションのアイの部屋に帰ることにした。
一時間後、俺が晩御飯とおつまみになりそうな料理を作り終えた頃、お酒とおつまみになりそうなお菓子を大量に買ってきた斉藤社長とミヤコさんが到着した。
「お、天城の飯は相変わらず旨そうだな。」
そういって斉藤社長は我先にと椅子に座りお酒をテーブルの上に並べていく。どれだけ飲むつもりなんだろう。
「将也君、先にこれを飲んでおきなさい。」
そう言ってミヤコさんから手渡されたのは二日酔い防止の薬だった。
「ありがとうございます。いただきます。」
俺はもらった薬をすぐに服用する。
「初めての飲酒なんだから絶対に無理して飲まないこと!いいわね?」
「わかりました。」
俺はミヤコさんに感謝をした後、自室にいるアイ、アクア、ルビーに晩御飯の用意ができたことを伝え、リビングに戻る。その後はみんなで晩御飯を楽しみながら、俺は斉藤社長に勧められたお酒を味わっていく。
「どうだ天城?気に入った酒はあったか?」
「え・・と、そうです・・ね、日本酒・・は結構・・好きですね。」
頭の中が浮遊感で満ちている。この感覚がお酒で酔うということなのだろう。
「わぁ、将也君顔真っ赤だよ。」
「もう、社長!飲ませすぎですよ。」
「そうか?すまないな天城。今日はお開きにするか。」
「いえ、・・ごちそうさまでした。」
俺は自分の誕生日を祝ってくれた斉藤社長とミヤコさんにお礼を言った後、二人は自宅に帰宅し、俺とアイはソファーで寝てしまったアクアとルビーを寝室に運んであげて、布団の中で眠らせてあげた。そして今は晩御飯の片付けを俺とアイの二人でしている。俺と斉藤社長がお酒を飲んでいる間にミヤコさんが大体終わらせてくれていたので、やることは多くないのだが、アイが酔っている俺を見て心配だからと言って、手伝ってくれた。
「ありがとなアイ、おかげで早く片付いたよ。」
「いつもやってくれてるんだもん、こういう時くらい手伝うよ。」
片付けが終わった後、俺はソファーで一休みさせてもらう。
「将也君?大丈夫?」
アイが心配してくれたが、
「すまんこのままだと寝落ちしそうだから、今日は帰るよ。」
そう言って立ち上がろうとしたら足にうまく力が入らずに転びそうになる。
「あ、危ないっ!」
アイが慌てて俺を支えようとしてくれたが、俺はアイを巻き込んで一緒にソファーの上に転んでしまった。
「ってて、アイ大丈夫か?」
「・・・・・うん。」
俺は体を起こす前にとっさに閉じてしまった目を開いていくとそこにはアイの顔が目の前、いや至近距離?もっと近い。五センチ程の間しかないくらいに近くに彼女の綺麗な顔がそこにあった。長いまつげ、一番星を宿したような輝く瞳、整った顔立ち、少し赤く染まっている頬、魅力的な唇、いつも見ている彼女の顔を今までこんなに近くで見たことはなかった。
見惚れていたのか、魅了されていたのかお互いに見つめ合ったまま微動だにできないまま数十秒が経った。俺はようやく理性をたたき起こして、顔と体をアイから退く。
「すまん。」
「ううん、大丈夫だよ・・・。」
その後数分間、お互いに口を開かずに静寂な時間が流れた。
するとアイが俺に一つ提案をしてくれた。
「将也君。今日はうちに泊まっていきなよ。」
「いや、悪いよ。」
「転んじゃうくらい酔っぱらった私のマネージャーを放っておくほどひどい人間じゃないよ。」
「そうか、ありがとう。助かるよ。」
「それじゃあお布団持ってくるから待っててね。」
そういってアイはリビングから出て行った。
視点変更 「星野 アイ」
きゃああああ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄。
将也君に押し倒されちゃった~~~~~~♡♡♡♡♡♡♡
めっちゃヤバい、胸の高鳴りがまだ収まらない。
将也君に聞かれなかったかな?顔もきっと真っ赤だよぉぉ~~~。
勢いでうちに泊まってくように行くように言っちゃったけど、どうしよ~~~。
ってアクアとルビーがいるんだもん、そういうことはしちゃダメだよね。
でもあの子たち寝つきいいからなぁ~~~。今まで夜泣きとかしたことないんだもん。ということはこれはチャンスじゃないのかな?そうチャンスだ。そうと決まったら早くお布団持ってって、思いを伝えてそのまま二人で・・・なんて♪
私は急いで布団を一式、将也君のいるリビングに持っていく。
「将也君、お待たせ♪」
だが彼からの返事はなかった。彼の様子をうかがってみると安らかな寝息を立てて眠っていた。
「も~う、せっかくのチャンスだったのに~。」
だが眠ってしまった彼を起こすのも可哀そうだ。なのでソファーでうなだれた姿勢の彼をゆっくり横に寝かせてあげて、持ってきた布団をかけてあげる。
そういえば彼の寝顔を見るのは久しぶりな気がする。前に見たのは確か二年くらい前だったかな?
あの時は社長に無断で彼の部屋に泊まりに行ったんだっけ。誰にもバレなくてよかったなぁ。と思いながら、あの時に彼にした間接キスのことを思い出す。
またしてみたいなぁ。そう思い、私は彼の寝顔をのぞき込むと心地よさそうに寝ている彼の顔を見るとキスをしていいのかわからなくなる。せっかくのファーストキスなんだし、もっとロマンチックな雰囲気でしたいと思うのは私の我が儘だろうか?
悶々と考えていると、ふと頭の中で過ってしまうあの時から引きずっている私の過去の過ち。あの夏の日、私はあの子に抱かれた。身を許してしまった。全ては将也君への愛を確かにするための手段の一つでしかなかった。あの時の私は子供を授かり、母親になることで愛を知りたかった私は焦ってしまった。きっとこの罪悪感は一生消えないだろう。けど後悔はない。例え私の体が汚されても、アクアとルビーを生んだことも、彼に愛おしいという感情を持ったことに後悔はない。
私がきっと彼に「愛してる」を伝えることにためらうのは彼に対する罪悪感からだろう。この「愛」が罪悪感と混ざり合った不純な嘘の感情なのだとしたら、私はきっと、嘘だけでできた人になってしまう。
それが怖くて前に進めない。
愛してほしい。
許してほしい。
嘘だらけの私を受け入れてほしい。
そんな都合のいいことを彼の優しさに甘えている私はいつか罰を受けるのかもしれない。
いつか彼に見放されてしまうかもしれない。
怖い。
怖くてたまらない。
彼と離れたくない。
ならどうするべきか、私の答えは彼に「愛してる」と伝え、一緒になること。
そして考えは振り出しに戻る。
私はどうすればよかったのだろうか?今更どうしようもないことに悩みながら
「おやすみ、将也君。」
そういいながらリビングの電気を消して寝室に向かおうとする。
「あ、そうだ大事なことを忘れてた。」
そういえば今日は将也君の誕生日だ。何かプレゼントをあげないとね。
私は自分の人差し指と中指にキスをして、キスをした部分に彼の唇を当てる。
あの時とは逆の間接キスをしてあげた。
このくらいなら少し恥ずかしい程度なのになぁ。そう思いながら、今度こそリビングを後にする。
寝室に来た私はアクアとルビーの近くに敷いてある私の布団に入り目を閉じながら考える。
そうだ。もうしばらくすれば私も誕生日を迎えて二十歳になる。その時にはドーム公演も終わって大きな仕事もひと段落してるし、私と将也君のオフの日が一緒になるように社長に頼んでみよう。それができたら将也君をデートに誘ってみよう。彼は素直に来てくれるかな?デートの最後に聞いてもらおう。私の思いを、私が犯してしまった過ちを、私の愛を。
心の中で決めた予定に胸を期待と不安があふれ、どうにかなってしまいそう。
ごめんね将也君、こんなわがままな私で。
それでも私は将也君と一緒にいたい。
ずっとずっとこの先も一緒にいたい。
許してもらえるかはわからない。
私はあの日の彼の言葉を思い出す。「欲張って、全部つかみ取ってもいい。」
私にとって都合がよすぎるのは分かってる。でも、
私は将也君が欲しい。
だから、あと少し、
少しだけ待っててね。
どこにも行かないでね。将也君。
彼への思いを膨らませながら私は眠りに落ちた。
視点変更 「星野 アイ」end