俺の誕生日から数日たったある日、今日はアイの引っ越しの手伝いをしている。
ドーム公演をする程にまで仕事が順調に進んでいるアイの稼ぎは増え、今の環境で過ごすよりもアクアやルビーが少しでも広々とした生活を送れるようにするために、新しいマンションに引っ越すことになったので、今はアイの部屋の荷物をまとめているところだ。今日の夕方に引っ越し業者が荷物を受け取りに来てしまうのでなるべく早く作業してしまう。
とは言うもののアイ自身の私物はあまり多くはなくファンからの贈り物やファンレターをまとめるのが殆どだ。家具も俺の部屋同様に備え付けのものが多いので大きい家具を運び出す必要もない。
ルビーはまだ子供なので私物はあまり多くはないが、アクアは本をたくさん読む子なので、アクアの荷物は結構重かったりする。
ちなみにアイは今は俺と一緒に引っ越しの作業、アクアとルビーは幼稚園、ミヤコさんは役所で住所の変更、ガスや電気、水道の契約等の手続、斉藤社長はまだ不動産屋で何か手続きをしているみたいだ。これを機に斉藤社長も事務所ごと引っ越すのかな?なんて考えながら引っ越しの作業を続ける。
「お、これキレイだなぁ。」
「ん?どうしたの?」
そういって近くで作業していたアイが近寄ってきたので、手に持った物をアイに見せる。
「確か星の砂って言うんだっけ?」
「うん、そうだよ~。ファンの子からもらったんだ~。名前は確か・・・リョ・・なんだっけ?」
「俺に聞かれてもなぁ・・。」
「でも、B小町の事をデビューして間もない時から応援してくれてて、握手会とかよく来てくれてた人だったんだ。最近はよく見かけないけど。」
「きっとどこかで応援してくれてるよ。」
「うん。そうだといいな。」
「おっと、雑談してる場合じゃなかったな。作業に戻ろう。」
「話を始めたのは将也君でしょ~~。」
「そうだったな、すまない。」
そういって俺たちは再び引っ越しの作業に戻る。
数時間後、朝から始めたことと荷物が少ないというのもあり、お昼前にはアイの引っ越しの準備は完了してしまった。あとはこの後来る引っ越し業者に荷物の運搬をお願いするだけだ。
「将也く~ん。私もうおなかペコペコだよぉ~。」
「そうだな、朝からずっと作業してたからな。俺の部屋で昼御飯食べようか。」
「わ~い。」
もう明日にはここは空き部屋になる。そう考えるともうアイと一緒に過ごせる時間は今までより少なくなりそうだな。と感傷に浸る。
「どうしたの?早く行こうよ。」
「ああ、悪い。今行くよ。」
もしかしたらご飯を作ってあげられる回数も少なくなってしまうのかな?そんな不安を抱え、アイと共に俺の部屋に向かうのだった。
だが、この不安は意外とすぐに解消されるのだった。
「「ごちそうさまでした。」」
昼食のミートパスタ、サラダ、スープを完食し、俺は後片付け、アイは今収録中のドラマの台本を確認していると斉藤社長から電話が掛かってきた。
「お疲れ様です。どうしました?斉藤社長。」
「おう天城。今どこにいる?」
「今は自宅の自分の部屋ですよ。アイも一緒です。」
「そうか、今から話がある。そこで待ってろよ。」
「わかりました。」
そういって斉藤社長との通話が終わり、アイから話しかけられる。
「どうしたの?」
「斉藤社長から話があるからここで待ってろ。ってさ。」
「ふ~ん、なんだろうね?」
「さぁ?仕事の話だとは思うけど。」
そう言って俺は残りの片付けを済ませ、ソファーに座っているアイの隣に座り、仕事のスケジュールを確認していく。するとアイが俺の肩にもたれかかってきた。
内心びっくりしたが平静を装いつつ、アイに問いかける。
「どうした?」
「うん。もうすぐ一緒のマンションで生活出来なくなっちゃうな~。って思ったら、寂しいって感じてる。」
「そうか。」
「そうか。って、将也君は寂しくないの?」
「そりゃ寂しくなるし、残念だよ。でも会えなくなる訳じゃないし、これからもアイを支えるに変わりはないからな。」
「でもお喋りや気軽に会いに行けなくなるのは寂しいよ・・・。」
「しょうがないよ。」
「しょうがないのかなぁ~・・?。」
俺とアイは寂しさをお互いに感じているとアイが提案する。
「だったら一緒に住む?」
「住まないよ。もう少し注目されているアイドルという自覚を持ってくれ、スキャンダルになったら大変だぞ。」
アイはたまに短絡的な事を提案してくる。それができたら苦悩はない。
そうしているうち俺の部屋にチャイムが鳴る。きっと斉藤社長だろうと思い、俺は玄関まで出迎えに行く。
「お疲れ様です、斉藤社長。・・とミヤコさんも一緒だったんですね。」
「おう、お疲れ。まぁ今回の話にはミヤコにも協力してもらったからな。」
「お疲れ、天城君。少し急ぎになると思うから早く中で話しましょ。」
「わかりました。どうぞ。」
そういって俺は斉藤社長とミヤコさんをリビングに通す。アイにも聞いてほしい話みたいなので、俺とアイ、斉藤社長とミヤコさんはテーブルの椅子に座り、斉藤社長から話を切り出された。
「早速だが天城、お前にはこれから社宅に引っ越してもらう。」
「・・・はい?」
「ええ?!将也君どっか行っちゃうの?!」
俺も驚いたが、一番驚いたのはアイだった。それもそのはず、社宅に引っ越すということは今の住まいでは通勤が困難になる場所で勤務をするということ。つまりは人事異動ということなのだろう。
「まぁ待って二人とも。社長、あまり説明を省くと理解してもらえませんよ。」
「あぁ、悪い悪い。」
ミヤコさんは今回の異動について何か知っているようだ。
「私から説明するわね。まず、天城君に使ってもらう社宅の資料がこれよ。」
ミヤコさんから資料を手渡され、俺はその資料を見ていく。
「見せて見せて。」
そういってアイも資料を覗き込んできた。
「あれ?ここって・・・。」
「アイが引っ越す新しいマンションですよね?」
「ええ、そうよ。天城君、あなたにはそこに引っ越してもらうわ。」
ということは、俺はまたアイと同じマンションで暮らせるのか。そう思うと胸の中に喜びの感情がわいてくる。だが、
「いいんですか?!ここの家賃、結構高いところですよね?!」
当然の疑問が思い浮かんだが、その疑問には斉藤社長が答えてくれた。
「まぁ確かにそこそこいい値段はする。一応天城に出してもらう家賃は今と同じ分だけ出してもらう。足りない分は会社が負担する。そして当然天城には足りない分の対価を出してもらう。」
「対価ですか・・・。」
「まず一つ、事務所に入りきらない荷物や衣装、過去の資料などの置き場所にさせてもらう。そして天城にはそれらの管理をしてもらう。それともう一つ、俺とミヤコの仮眠や休憩場所として使わせてもらう。ここのマンションより新しいマンションは少し遠くになるからな。少し楽をさせてもらう。最後に・・天城、お前はアイのマネージャーだ。そしてマネージャーになる前からもアイのことを支える。手助けする。そう言っていたからな。だからお前にはそれを最後まで果たしてもらう。以上が天城に求める対価だ。 出来るか?」
「はいっ!!」
俺は決意を新たに大きくうなずく。
「やったね将也君!離れ離れにならなくて良かったね!」
「ああ、これからもよろしくな。」
こうして俺とアイは離れずにまた近いところで生活することになった。
「そういえば、契約とか引っ越しはいつするんですか?」
と質問すると
「明後日だ。アイ達と一日ずれて引っ越してもらう。」
「明後日ですかっ?!」
「すべての手続きを終わらせてから言おうと思ったんだけどな。中々手こずってなぁ、言うの遅れた。スマンッ!!」
「大丈夫よ天城君、手続きや電気やガス、水道の更新もアイさんの分と一緒に済ませておいたから。」
そういう問題でもないと思う。
「ということは業者も明後日に来るということですか?」
「いや、経費削減のために今日取りに来る業者に天城の分の荷物も運んでもらう予定だ。」
「もう時間がないじゃないですかっ!」
そこからは四人で俺の部屋の荷物を大慌てでまとめていき、アイの部屋に荷物を運び込んだ。元々俺の荷物が少ないこともあり、一時間半程で作業は終わった。
その後は、ミヤコさんに明日役所に行き、住所の変更をするように言われ。斉藤社長は仕事に戻っていき。アイとミヤコさんは引っ越し業者に荷物を預けるためにアイの部屋で待機、俺はアクアとルビーを迎えに行き、アイの部屋に帰した後、大家さんや隣の部屋の住人に別れの挨拶を済ませに行った。
そして三日後、俺とアイは新しいマンションに無事引っ越しを終えることができた。ちなみにアイの部屋は最上階、俺はアイの部屋の二階下の部屋に住むことになった。斉藤社長は何とか隣同士にしようとしたらしいが、当然のことながら先に住人がいると思うようにはいかなかった。
急な引っ越しで大変だったがあと少しでアイのドーム公演という大仕事が始まる。
ここで気を抜かずにもうひと踏ん張り、頑張ろう。
視点変更「星野 アイ」
今日も撮影と打ち合わせ大変だったな~。
新生活が始まって数日、私はどんどん充実した日々を送っていた。仕事は順調、SNSのフォロワー数も100万人を超えた。世間は私を見てくれている。だからこそ今の生活の秘密もばれないように気を引き締めないとね。
家に帰ってきたらリビングでアクアとルビーが何か話しているみたい。私がいないときはどんな事を話しているのかと、興味が湧いたので少し盗み聞くことにした。
「なるべく考えない様にしてるけど・・・、俺たちの父親ってやっぱり天城さんなのかな?・・・・あ、考えるだけで心が沈む。」
アクアは将也君が父親だったら嫌なのかな?ルビーはどうなんだろ?
「馬鹿ね。そんなレベルの低いことで落ち込んでるの?天城さん位ママに尽くしている人は他にはいない。つまり天城さんだけが私たちの父親になりうる存在なのよ。そうじゃなかったら処女受胎に決まってるでしょ。」
ルビーは極端な結論に至っててなんだかヤバイと感じた。
「ほんとにそう思ってるのか、ルビー?」
「正直天城さんの料理めっちゃ美味いから好き。父親になってくれたら毎日毎食料理食べられるじゃない。」
「それが本心だろお前。」
「でもママと天城さんあれで恋人とかじゃないって言ってるから不思議なのよね。」
「俺としては現状維持が一番なんだけどな・・・。」
「でもいつかはママと天城さん結婚まで行くと思うよ。あんなにママと仲のいい人ほかにいないでしょ。」
「そうなんだろうけど、あまり考えたくないな・・・。」
「お兄ちゃんもしかして天城さんに嫉妬してるの~?」
「するわけないだろっ!!」
その後の二人を眺めていると後はじゃれあっているだけなので私は一旦自室で着替えることにした。
結婚かぁ・・。将也君とずっと一緒にいたいと考えてたけど、確かにルビーの言っていることを踏まえたら、将也君と結婚する。
そんな未来が待っているのかもしれない。そういう未来に向かっていけたら良いな。そう思うと私の胸は高鳴りを始めた。
でもアイドルのまま結婚はよくないよね。ファンのみんなを怒らせかねないし。だとしたら引退?でもお給料がなくなるのは痛い。アクアやルビーの将来のことを考えれば、将也君のお給料だけじゃ大変だし、もし結婚すれば将也君と私の間に子供ができると思うし、そうなったらもっとお金が必要になる。そうなると仕事は辞められない。だったら女優に転向しようかな?今よりお給料上がりそうだし。そうしたら今度は広い豪邸とか建てて、将也君と私とアクアとルビーの四人で暮らして、夜には将也君と毎晩イチャイチャ・・・キャ~~~~♡♡♡♡♡
妄想が暴走していると私のプライベート用のケータイに電話が入る。
もうせっかくいいとこだったのに~~。せっかくの妄想を邪魔された私は少し不機嫌になるが、すぐに気分を切り替え、ケータイを手に取る。発信元を見た私は一瞬でさっきの幸せの妄想が消え去るのを感じた。
「今更、何の用なの?」
正直、電話に出たくなかった。関わりたくはない。それでもこの電話には出なければいけない。過去の過ちというのは切り離せないものなのか。
確かめるように、もう一度ケータイの画面に表示されている発信元の名前を見る。
「カミキ ヒカル」
私は意を決して通話ボタンを押した。
視点変更「星野 アイ」end