視点変更 「星野 アイ」
私はケータイの通話ボタンを押す。電話の相手はカミキ ヒカル君。五、六年前、劇団ララライに演技のレッスンをしていた時に知り合った子。私が一度、体を許してしまった相手、そしてアクアとルビーの父親だ。
「何か用?カミキ君。」
私は今までにないくらい冷たく、拒絶を示すかのような声色で、電話に出る。
「久しぶりなのにずいぶんと冷たいじゃないですか、アイさん。」
「お互いにもう関わらないって約束だったよね。」
「ええ、そうなんですけどね、実は折り入って頼みがあるんですよ。」
「何?」
「ぜひ、一度でいいので君と僕の子に会わせてもらえませんか?」
「何で今更?」
「実は僕も最近父親とはどういうものかと興味がわきまして、一目見て実感してみたいんですよ。」
「三年間何もしないで父親面するなんて虫が良すぎると思はないの?」
「思っていますよ。ですから君との約束を破ってまで、君に許可をもらおうとしているんですよ。」
「駄目よ、あの子達には会わせられない。混乱させるだけだもの。」
「そうですか。こういう手段はとりたくなかったんですがね、マスコミに君は子持ちである。とリークしますよ。」
「そんなことしたら君だってただじゃ済まないよ。」
動揺してしまう。でも慌ててしまったらこの子のペースになってしまう。
「僕は大丈夫ですよ。今はどこにも所属してませんし、活動をしてませんから。せいぜい未成年の青年として晒され、非難を受けるのが関の山です。ですが君は違う。ファンから裏切られ、世間から見放され、アイドルではいられなくなってしまうし、君の所属する苺プロが監督責任を問われ、君の周り人たちが路頭に迷ってしまうかもしれない。君と僕では失うものが違いすぎる。
あぁ今君の命運を僕が握っていると思うと僕の命に重みを感じる。」
「君は相変わらず訳の分からない事を言うね。」
「今のは誉め言葉として取っておきましょう。」
本当に何を言いたいのだろう、脅したいならそういえばいいのに。あ、でもさっきのも一応脅しにはなるのかな?
「とりあえず、アクアとルビーに会いたいってことね。なら約束してほしいことがあるの。」
「・・・聞きましょう。」
「まず、あなたが会いに来る日は、私たちのドーム公演の日より後にしてほしい、それと来るときには事前に連絡してを頂戴。後アクアとルビーにあったら今後一切私たちにかかわらないで頂戴。」
「了解しました。ではすいませんが、今の住所を教えて頂けませんか?」
「今は・・・・。」
こうして私はカミキ君と再び会う約束をしてしまった。
彼を傷つけてしまうとも知れずに。
数時間が経ち、その日の夜は新居祝いとついに来週に控えたドーム公演の前祝をすることになった。
将也君と社長とミヤコさんが私の部屋で酒盛りをしている。
私まだ飲める年齢じゃないのに。でも来週には二十歳だし、少し位いいよね。そう思いお酒に手を伸ばす。
「駄目ですよ!アイさんが二十歳になるのは来週。もうちょっと我慢して下さい。」
「ぶー。」
私だって飲まなきゃやっていられないことだってある。まだ飲んだことないけど。
「アイが主演のドラマも視聴率上々!B小町全体の仕事もびっちり埋まって・・・・
いよいよ来週はドームだ!がははっ!」
社長は上機嫌で笑いながら、将也君とアクアに語る。というよりあれは絡み酒なんじゃないかな?
一歩引いたところで私はミヤコさんと三人の様子を見る。
「社長上機嫌だねー。」
「社長はね、自分の育てたアイドルをドームに連れてくのが夢だったのよ。もちろん社長だけじゃなくて、社員皆の夢でもあるけど。」
「そんなにドームって凄いの?」
「他の箱とは意味合いが違うのよ。専門の会社を挟まないと枠すら押さえられない。大人数の観客を捌けるスタッフの練度や実績、ドームに相応しいアーティストか厳重な審査がある。長い時間とスタッフの努力が必要な会場なの、お金があれば出来る場所じゃない。選ばれた一握りのアーティストだけが上れる舞台。ドームは皆の夢なのよ。」
「へぇー。」
珍しくミヤコさんも上機嫌だ。
「大事な時期だ。スキャンダルなんて無いように。」
そう社長にくぎを刺された。言われなくてもわかってる。大丈夫、少なくともドームが終わるまでは大丈夫。私は自分に言い聞かせる。
「くれぐれも父親に会おうとかするなよ。」
「もちろん。」
笑顔で答えた私は嘘つき。いつだってそうしてきた。だから今度も大丈夫。
そう思っていると将也君が私の隣に来てくれた。
「なぁアイ、お前大丈夫か?」
将也君は皆に聞こえないように耳打ちしてきた。
「え?何が?」
「だって、さっきから思いつめた感じじゃないか。」
「そう?気のせいだよ。やだなぁ、将也君しっかりしてよ。」
すごいな将也君。こういう時の私の気持ちに気づいてくれるんだもん。
「だったらいいけど・・。何か協力できることがあれば、何でも言ってくれよ。」
「うん、ありがと。」
その後は皆で私が主演のドラマをみんなで見ながら盛り上がったが、
その日から少しづつ迫りくるカミキ君の影に悩みを大きくしながら数日が過ぎ、
そして今日、ドーム公演の日の朝を迎えた。
「ルビー、起きて~遅刻しちゃうよ~。・・・起きないなぁ。アクア、ルビー起こしてもらっていい?」
「わかった。ほら、ルビー起きろよ。」
アクアはしっかりした子で助かる。さすが私の子だね。そんなことを思っていると家のチャイムが鳴る。
「将也君かな?ちょっと行ってくるね。」
そう言って私はルビーの事をアクアに任せ、小走りで玄関に向かい玄関の扉を開く。
そこにはフードを被った知らない男の人が立っていた。
「ドーム公演おめでとう。双子の子供は元気?」
そう言った男の人は手に持った白い薔薇の花束を差し出してきたと同時に花束の陰から怪しく光る刃物で私を刺そうとしていた。頭ではわかってはいるのに体が追い付かない。
瞬間今での思い出が鮮明に蘇る。
アクアとルビーが生まれてからの思い出、将也君との日々。
ああ、これ走馬灯っていうんだっけ。
でも体が追い付かないのなら、避けられない。
私は覚悟して目を閉じてしまう。
何でこんなことになったのかなぁ。
まだしたいことが沢山あったのに。
そうだ。
きっとこれは今まで嘘をついてきた罰なのだろう。代償なのだろう。
ファンの皆に愛してると嘘をついてきた。心の底から彼に愛してるって言えるようになるために。
私は自分の体を汚してしまった。彼への愛を確かなものにするために。
彼に素直に愛してるって言えばよかったのに、嘘をつき続けてきた私には言えなかった。この気持ちが嘘だと気づくのが怖かったから。
今になって後悔する。私は罪悪感じゃなく純粋に彼のことを愛していた。
今になって分かった。この気持ちは嘘じゃない。彼を愛してる。
今になって伝えたい。彼に伝えたい。私は将也君を愛してます。って
でも、もう無理かな。諦めたくないけど、きっと私は助からない。
ふと気付く。いくら何でも、痛みがいつまで経っても襲ってこない何てことある?もしかして痛む時間すらなく死んじゃったのかな?
「何なんだよお前・・。」
さっきの刃物を持った男の人の声がした。状況を確認するために私は少しずつ目を開けた。
そこには見慣れた背中が私を守るように私と男の人の間に立っていた。
ああ、すごいなぁ、彼はいつも私の為に行動してくれる。
嬉しいなぁ、彼はいつも困ったときに助けてくれる。
いつもそばにいてくれる愛しい将也君が私を守ってくれた。
「俺はアイのマネージャーだ。」
助からないと思った。
死んでしまうかと思った。
だけど、私を危機から将也君が救ってくれた。
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