俺が駅に着き、ようやく駅の外へ出てまず感じたことはあふれんばかりの人の多さだった。地元では到底目にすることはないであろう人混みだった。
「これはすごいな・・、聞きしに勝るとはこのことか。」なんて先日覚えたての言葉を使うように小さい声でつぶやく俺。
「とりあえず、新しい我が家へ行かなきゃな。」
俺は自分の最初の目的をつぶやきつつ、高校受験が終わった後すぐに買ったスマートフォンの地図アプリを起動し、目的地である新しい俺の家へと歩み始めた。
ちなみに俺はスマートフォンを購入したのは初めてだ。聞いてはいたが、このスマートフォン(以下スマホ)一つで電子書籍で色々な本や漫画を読むことができ、サブスクで過去の映画やドラマ、見逃したテレビドラマを視聴できるので、競争の約束をした彼女、「星野 アイ」に「愛」とは何か。その答えを探す手がかりになるだろう。
動画投稿サイトやSNSを見ることはあまりないかもしれないが、アカウントは一応作っておき、星野アイの公式アカウントと彼女自身が所属しているアイドルグループのB小町のアカウントはフォローしておいた。余談だが、この二つのアカウントをフォローした後、「loveスター」さんというカギマークの付いたアカウントの方がフォロワーになってくれた。この人も最近アカウントを作ったばかり見たいでフォローしているのは俺一人みたいだ。俺は普段からSNSやネットなどは使う習慣がなかったので、SNSであまりつぶやくことなかったのだが、今日の朝「今日から新生活が始まります。」とつぶやいたところ「新生活頑張って!応援してるよ!」と返信してくれた。SNSは怖いところと聞いていたがこういう優しい人もいるんだなと実感することができた。
そんな自分の近況を振り返りながら歩みを進める。画面の地図と自分の位置を照らし合わせながら
「そろそろ見えてくる頃だと思うんだが・・・・。」
一度マンションに内見しに来たとはいえ、あの時は不動産屋の車で案内されていた時と違い、今回は駅から徒歩。案内役もいないので少しの不安を抱えていた。
地図を頼りに歩みを進めているうちに新しい我が家になるマンションが見えてきた。
「よし、あと少しだな。」
先ほどの不安は嘘のように消失し、次に心を支配したのは高揚感と新生活への期待感だ。歩く歩幅が自信に満ちたように広がり、どんどん足早になるのが自分でも感じるくらい俺は浮かれていた。
するとふと視界の隅に小学生の頃に見慣れていたであろう紫掛かった黒髪の彼女を見かけたような気がした。
俺は足を止め振り返る。
「まさか・・・。」
だが周りを見渡してもそれらしき人影はない。
「気のせいか・・。」
星野のことを無意識に意識していた為に彼女の幻でも見たのだろうと思い、俺は足を目的地へと再び歩み始めた。
・視点変更「星野 アイ」
天城君そろそろ新しい家についたかな?そんな思いをしながら苺プロダクションの前で社長の迎えを待ちながら彼のSNSのアカウントを見る。
今朝以降彼はまだSNSで近況を報告しない。元々マメにSNSで近況をつぶやいたりするような人じゃない。けど、それでも気になるものは気になる。移動する空き時間や休憩時間の度についつい彼のSNSアカウントを確認してしまう。
「むぅ・・。」
まったくこっちの気も知らないで。
彼のSNSのアカウントを見つけたのはまったくの偶然だった。
三月になったばかりだっただろうか、私の「B小町の星野アイ」としての公式アカウントの新規フォローの一覧の中に彼の名前があった。プロフィールの写真も彼がよく使っていた筆箱とペンだった。相変わらずのセンスのなさに思わず微笑んでしまった。
きっと彼だと確信した私は社長たちに内緒で新しいスマホを買って、「loveスター」という新しいSNSのアカウントを作り、SNSでの彼の行方を追うことにした。
が、彼は全然SNSを活用せず、むしろつぶやきをしない日も多かった。
だけど彼は今朝、都会に引っ越してくるというつぶやきを見て私は部屋で一人で浮かれていた。
彼は小学生の時の友達?幼馴染?今では私にとっては気になる異性なのだろう。当時の私は彼といるときが一番楽だった。施設の役員さんや学校の先生たちは私を腫物扱いだったし、クラスのみんなともあまり打ち解けていなかった。
だけど彼「天城 将也」君だけは違った。彼は私に対して他の子と同じように接してくれた。
彼は家ではいい扱いを受けていなかったらしい。
らしいというのは彼は自分の家の事を周りに話していないので実際のことは噂レベルでしかみんなよく知らなかった。でも彼とたくさんお話をしているうちに彼のほうから少しずつだけど彼の家族のことを私に教えてくれた。
そんな彼と私は仲が良かった為か学校側は彼に私の相手をしてもらおうと考えたのか、私と彼は六年間ずっと同じクラスだった。
ペアや班を作る時もいつも一緒だった。けど全然嫌じゃなかったし、むしろ彼以外の子と組まされるのは嫌だ。
彼とのお話する時間は楽しかった。私の嫌な気分なるようなことは基本してこなかったし、答えたくない話題を振られたときは「あ、やっぱ今の話題ナシ!・・ごめんね。」と素早く謝ってきてくれる。・・・・私そんなに顔にでてたかな?
今では彼との話してきた内容は思い出せないことが多いけど、とても楽しかったのよく覚えている。だから私は彼との日々が続いていくのを願っていた。
けど私には彼に言えなかったことがある。
私は嘘吐きだということ、というよりも考えるよりも先にその場に沿ったことを話してしまうこと。
そんなことを小さい頃から続けたせいか自分の本心が自分でも分からなくなってしまった。
いつからかそんな私は誰かを愛することが苦手になってしまった。
だけどそんなことを自覚する前もその後も天城君は私のそばにいてくれた。
私が嘘をついても、
少し冷たい態度をとっても、
沢山彼を振り回しても、
そばにいてくれた。
ただその時はそれで嬉しかった。
この気持ちは「愛」なのだろうか?
誰かを愛することが苦手な私には愛がよくわからないし、愛し方もわからない。
だからスカウトされたあの時社長が言ってくれた「愛してるって言っているうちに嘘が本当になるかもしれん。」その言葉を聞いた私はアイドルになることを決めた。
いつか彼に心の底から「愛してる。」って言えるようになるために。
この気持ちが嘘じゃないって思うために。
彼に私の「愛」を教えるために。
私は利用できるものは何でも利用するつもりだ。
「おーーい、早く乗れ。」
彼への思いに浸っていると社長が運転する迎えの車が目の前に停まった。
車の扉を開けたその瞬間、彼の気配を感じた。
気配を感じた方向を見るが誰もいない。
「どうした?誰かいるのか?」そんな社長の問いかけに、
「ううん、何でもない。」と返す。
「そうか。じゃあ出すぞ。」
「うん。」
今日はたしか劇団ララライでレッスンの日だ。
視点変更 「星野 アイ」end
「よいしょっっと。」
目的地の新しい我が家のマンションについた俺は階段を一歩ずつ足を踏みしめて上がっていく。
「ようやく着いたな。」そう言いながら大家さんから預かった鍵をドアの鍵穴に差し、開錠しドアノブを握り、玄関のドアを開く。少し蒸された空気を肌に感じ、中に入る。
「今日からよろしくな。」と俺は新しい自分の部屋に挨拶をした。
って言って終わらせた感出している場合じゃない。備え付けの家具があるからといって、全部が揃っているわけではない。
家から持ってきたのは衣類や筆記用具、スマホと充電器と少ない。
「少なくとも今日中には布団と洗面用具と洗髪用具、昼飯と晩飯・・は外食にしよう。今日はしょうがない。ええと他はメジャーを買って置かないとな。家具のサイズ間違えたら大変だし。ああ、あと引っ越しの挨拶用の菓子折りも用意しなきゃ。」
今思いついた必要なことを持ってきたメモ帳に書き出しておく。
そして地図アプリを不慣れながら、大きいスーパーやショッピングモールを探す。
「まだ、午前中だから少し余裕はありそうだな。まとめて買いに行くより二回に別けて買いに行くか。」
そう予定を立てた俺はまず、菓子折りと布団を買いにくことにした。
二時間後、布団と菓子折りを買ってきた俺は、大家さんとお隣さんに挨拶をし、
挨拶を終えた俺は昼飯を抜いていたことを体が訴えるように腹が鳴った
「とりあえず、次は昼飯だな。」
そうして俺は再び外出する。
食事を手短に済ませたい俺は地元にもあるハンバーガーのチェーン店に入り、お気に入りのチキンカツバーガーを勢いよく頬張り淡々と昼食を終えた。
その場でスマホを取り出した俺は今日何度もお世話になっている地図アプリを開き、周辺の地図や生活に必要になるものが売っている店やスーパーを確認し、土地勘を得るためにこの後は散歩することにした。
そうやって俺は午後の時間を潰していき、気が付けば周りはもう夕焼けになり始めていた。買い物を残していた俺は急いでスーパーに行き、残りの買い物を買うついでに総菜コーナーで晩御飯もついでに買っていく。
「必要とはいえ、さすがにこんなに荷物が多いと大変だな。」と俺はぼやきながら家路につく。
ふと目についた三階建ての建物が目に留まる。その家の駐車場の奥にある入り口近くの壁に「(株)苺プロ 斉藤」と表札があった。
「へぇ・・、芸能プロダクションってこんな感じなんだ。」と感想を小声でつぶやくと目の前で扉が開かれた。
「ごめーん社長、車の中にスマホ忘れてきちゃったーー。」
そういいながら扉を開け視界に飛び込んできた彼女を見た俺は思わず呆然とした。
そこには小学生時代によく一緒にいた彼女がいた。
綺麗な紫がかった長い黒髪、
一番星を宿したような輝く瞳、
聞きなれていた声、
競争を約束した彼女があの時よりも成長した姿で、
テレビや雑誌で何度も見たことある顔でそこにいた。
「あれ?・・もしかして天城君? 天城君だよね!?」
彼女がすぐに俺だと気付いてくれた嬉しさと
再会できた喜びを胸に、
「あぁ、久しぶり、星野。」と答えた。
引っ越し初日の夜、予想より早く俺と星野は三年振りに再会した。