俺はどうなったんだ?気を失っていたのか?目を開けてみるとここは密室なのか、狭い空間にいた。近くには二人の救急隊員がいた。するとここは救急車の中だろうか。サイレンの音も聞こえるし間違いないだろう。
自分の状況を判断していると、
「天城君?!目を覚ましたの?!」
「ミヤコさん?」
声の聞こえた方向に首を向けるとミヤコさんもいた。
「大丈夫ですか?自分の名前はわかりますか?」
すると俺が目を覚ました事に気づいたであろう救急隊員の一人が俺にいくつかの質問をしてくる。
俺は質問された事に全て答えた。すると救急隊員は俺にこれから縫合手術をする事と気を失ったのは大量出血ではなく、自分の血を見た事や痛みが、迷走神経?が活性化して、なんやかんやで、心拍数が低下して気を失ったらしい。
正直、医療の知識がない俺には何を言ってるのかよくわからないけど、
自分の血を見て失神した。ということらしい。
思い返してみると、確かに多くないとはいえ、あれだけの血を見るのは初めてだ。少し血溜まりも出来てたしな。
思いだしただけで背筋が凍る思いだ。
それにしても縫合手術もしないといけないとは・・・・マジか。
傷口を治すために縫う事があるのは知っているが、いざ自分がやるとなったら怖い。
縫合することに恐怖を感じていることに気づいた救急隊員は励ましてくれたが、怖いものは怖いよ。
すると間もなく俺は到着した大きな病院に運ばれていく。緊張してきた。
急いで運ばれていく俺。あ、これ心の準備とかさせてくれないやつだ。
と思ってるうちに治療が始まった。
なんでもっと後に目を覚まさなかったんだろう・・。
一時間後・・・・・
待合室で呆けた俺がいた。
「天城君、大丈夫?」
「ア、ハイ、ダイジョーブデス。」
怖い思いをした後の安堵感と傷が塞がったら、今度は抜糸しなければいけないので次の恐怖が待ち構えていると思うと、なんともやりきれない気持ちだ。
「そういえば、アイ達はどうなったんですか?」
自分のことばかりで今日のドーム公演の事をすっかり忘れていた。
「大丈夫よ。社長がアイ達をドームまで送ってくれたから。」
「そうなんですか、ということは今頃・・・。」
「ええ、アイ、B小町は今順調にライブを行えているわ。天城君のおかげよ、ありがとう。アイとみんなの夢を守ってくれて。」
「いえ、俺は・・。」
アイを守れればそれだけでよかった。
「アイを守れれただけでもよかった?」
ミヤコさんに考えを見抜かれてしまった。
「なんで分かったんですか?」
「たった数年だけどあなた達の事、見てきたつもりよ。多少のことならわかるわよ。アイからも天城君の事たくさん聞かされてたしね。」
「そうなんですか。」
「もちろん、天城君がアイに惚れてることもね。」
「え・・・?」
「え?違った?」
「いえ、そういう風に考えたことなかったので。」
俺がアイに惚れてる。
今ミヤコさんに言われたことが、夏の日に出した答えよりも心地よく感じた。
「ごめん。的外れなこと言ったかしら・・。」
「いえ、今言われて、なんとなくですけど、胸の中につっかえていたものと言うか、モヤモヤが晴れた気がしました。」
「もしかして今まで気づいていなかったの?アイに惚れてるって。」
「この思いが惚れてるっていうことなら多分、ずっと昔、小学生の高学年くらいの時にはもう惚れてましたね。」
アイに惚れていると分かった今、俺はいつ頃からアイに惚れているのかは分かる。ずっと抱えてきた不明瞭な感情の正体が分かった。
「じゃあ今までアイに対してどういう風に感じてたの?」
「依存・・・ですかね。小学生の頃、俺にとって唯一の友達で、俺の近くにいてくれた人だったから。」
「なるほどね・・・・。そう感じてもおかしくはないわね。でも、そんな寂しい考え方に囚われなくてもいいんじゃない?もっと図太く、都合のいいように考えたっていいんだから。」
「いいんですか?自分に都合よくだなんて・・・。」
「いいのよ。私なんて結婚する理由が、美少年と仕事出来ると思ったからよ。もちろん、それだけじゃないけどね。」
「欲望丸出し過ぎませんか?」
「それでもアイツとはなんだかんだやれてるもの。」
そう自信満々にミヤコさんは語る。
もし、自分の都合のいいように考えるのであれば、俺はアイのそばに居続けたい。そう思えるこの気持ちは恋なのだろうか?
すると、病院の窓口から呼び出される。
「それじゃあ天城君、行きましょうか。何だか恋愛相談みたいになっちゃったわね。」
「でも、話せてよかったです。」
「ならよかったわ。」
そういって俺とミヤコさんは立ち上がり、俺は受付で次の受診の確認へ、ミヤコさんはタクシーの手配をしに行ってくれた。
ミヤコさん曰く、この後は警察署に向かい、事情聴取を受けることになっている事になっている。アイの部屋の玄関を汚した俺の血もミヤコさんが専門の清掃業者に依頼してくれたので、かえって早々大掃除ということにならなくて助かった。
そして俺は事情聴取の為にミヤコさんと一緒に警察署へ向かった。
俺が被害者側ということでドラマで見るような緊張感に満ちたことはなく、ただ質問に答えていくだけで終わった。アイが襲われた原因は警察側としては、アクアとルビーの事をアイの子供と勘違いをしたリョースケの凶行ということになっている。
理由は、俺が事情聴取に来る前に警察側も色々調べていたそうで、アクアとルビーの戸籍が斉藤社長とミヤコさんの子供ということにしていたということもあり、リョースケの早とちりではないかと思っている。ということだ。
肝心のリョースケは、あの逃走の後、階段を下りている途中で転んだらしく、手に持っていたナイフが急所に刺さってしまったらしく、それが致命傷になったのか、俺が運ばれた別の病院に向かう最中に、亡くなったということだ。
そして、リョースケが言っていたカミキという人物に心当たりはあるか。という質問には素直にないと答えた。
多分だが、リョースケと同じ悪質なファンかアイの事をよく思っていない関係者だろう。
このことは俺もアイの口から直接聞きたいと思っている。
事情聴取が終わった後は俺とミヤコさんは一度マンションの俺の部屋に帰ることにした。さすがに朝御飯と昼食抜きで行動していたのでさっきから腹の虫が頻繁になっている。
早く帰って、朝作っておいたご飯が食べたい。
帰宅後、俺とミヤコさんは遅めの昼食を済ませ、アイのこの後予定を確認する。
アイもドーム公演の後に事情聴取する事になっている。とミヤコさんから聞き、昼公演と夜公演をした後に事情聴取をするとなるとアイは体力を相当消費することになるだろう。と思った俺はアイが帰ってきた後、すぐにリラックスさせてあげられるように、やれることをやっておこうと決めた。
「そういえばそろそろ昼の公演も終わりね。アイに電話してあげたら?」
「いいんですか?」
「いいわよ。アイすごく心配してたんだから、声を聴かせてあげて頂戴。それだけで
も、安心すると思うから。」
「わかりました。ありがとうございます。」
俺が席を立とうとしたら、
「あ、いいわよここで、私はドームにいるアクアとルビーを迎えに行くから。」
そう言いながらミヤコさんは部屋を出て行った。気を使ってくれたミヤコさんに感謝した後、俺はスマホでアイに電話を掛ける。数コール鳴った後アイが電話に出てくれた。
「将也君?!将也君なの?!!」
「ああ、俺だよ。心配かけたみたいだな。」
「ホントだよっ!もう・・・心配してたんだから・・。」
「・・スマン。」
「将也君が悪いわけじゃないんだから、謝らなくていいよ。」
「そうだ、ドーム公演の方は順調か?」
「うん。将也君のおかげで無事に開演できたよ。」
「そうか、それなら何よりだ。」
「そうだ、聞いてると思うけど私、ドーム公演の後、警察の所に行かなきゃいけないらしくて、帰るの遅れると思うんだ。」
「ああ、聞いてるよ。アイも被害者だからな。事情聴取されるのはしょうがないよ。でも・・ちゃんと晩御飯と風呂の用意しておいてやるから、安心して夜の公演も頑張ってこい!」
「うんっ!!楽しみにしてるっ!!」
電話越しでもわかるくらいにハツラツとした返事が聞けた。これならアイも一安心してくれただろう。
「それじゃ、そろそろ切るぞ。」
「えっ?もう?もうちょっとこのまま話してたいよ。」
「俺ももう少し話していたいけどな。今はまだ仕事中だ。いつまでも話してるわけにもいかないだろ?」
「でも・・・。」
「大丈夫。俺は部屋で待ってるから。今日やるべきことが終わったら、たくさん話そうぜ。」
「うん、だったら今夜は寝かさないよ♡」
「使い方間違ってない?」
「あははっ!そうかもね、じゃあまた後でね、将也君。」
「おう、また後でな。」
そう言って俺は電話を切った。
「よしっ!風呂掃除と晩御飯の準備頑張りますかっ!!」
まぁ使えるのは片手だけだけど、負傷した手は利き手ではないほうなので、何とかなるだろう。
それから約一時間半ぐらい経った後、晩御飯の材料の買い出しと風呂掃除を終えた俺は、アイの部屋に来ていた専門の清掃業者から清掃終了の連絡を受け取り、ミヤコさんの代わりにアイの部屋の行き、業者さんに代金を支払った。
業者さんが引き上げた後、掃除をしてもらったアイの部屋の玄関を確認する。
すごいな、俺の血で汚れる前よりキレイになってるじゃん。
なんて感心してる場合じゃないな。他の部屋は俺が掃除するんだから、早く取り掛からないとな。
こうしてアイの部屋の掃除も終えて、俺は自分の部屋に戻り、晩御飯の支度をしていく。
仕込みの途中でミヤコさんがアクアとルビーを連れて帰ってきた。
「天城さんっ!!」
俺の名前を呼びながら、ルビーが勢いよく俺のいる台所に来た。
「おかえりルビー。ドーム公演楽しかったか?」
「うん、楽しかったよ。でも天城さんのことも心配だったんだからねっ!」
そう言うルビーは物販で買ったであろうグッズを大量に身に着けていた。
うん。説得力がないというかぶれないなこの子は。
「その格好で言っても信じてもらえないぞ。」
「アクアもおかえ・・り。」
やはりというかなんというか。アクアも大量のグッズを身に着けていた。聞かずともアクアも相当楽しんできたみたいだ。
まぁ俺に気にして楽しめなくなるよりはいいと思う。
「怪我をしてるのに家事をしてもいいんですか?」
「怪我をしてない手だけでやってるし、今日は総菜も買ってきたから、いつもよりは楽にやらせてもらってるよ。心配してくれてありがとな、アクア。」
俺はそう言いながら、アクアの頭をなでてあげる。
「さぁアクア、ルビー。先に風呂に入ってきな、もうお風呂は沸かしてあるからすぐに入れるぞ。」
「え~~~っ!?ママと一緒に入りたーいっ!!」
「アイは今日帰ってくるのがすごく遅くなるから、今日は我慢しなさい。」
「ブ~~~ッ!」
「むくれてないで早く風呂に入るぞルビー。」
「は~~い。」
アクアがルビーを諭してくれたおかげで二人は入浴を済ませに行ってくれた。
「天城君、私は先に少し横になってくるわ。」
「大丈夫ですか?」
「ええ、気にしないで。今日は朝早かったじゃない。この後も社長とアイが戻ってきたら社長と家に帰らなきゃだから。」
「ここに泊まっていけばいいじゃないですか。」
「はぁ・・。アイと二人っきりの時間を作ってあげるって言ってるの。それくらい気付きなさい。」
「え・・と、その、ありがとうございます。」
「まぁ、アクアとルビーは置いてくから、変な気は起こさないでね。」
「何言ってるんですかっ!?」
「程々にってことよ。それじゃ一時間くらいしたら起こしに来て頂戴。」
「・・・わかりました。」
そう言ってミヤコさんは仮眠室に向かった。
しばらくすると、アクアとルビーが入浴を終えてきたので、そのまま晩御飯の用意をしてあげる。
二人は晩御飯を食べ終えた後、リビングのソファーの上で今日のドーム公演の感想を熱く語り合っていたが、俺が食器の片づけをしている途中に寝てしまったようだ。それだけ二人は疲れていたのだろう。
二人を抱えて、もう一つの仮眠室に連れていき、ベッドに寝かせてあげる。
そして俺はリビングに戻り、ノートパソコンの電源を入れ、事務仕事を少しづつこなしていく。
そういえばそろそろミヤコさんを起こしてあげないとな。
俺はミヤコさんの寝ている仮眠室に向かい、ミヤコさんを起こしてあげる。
「ふぁ~、よく寝た。ありがと、天城君。」
「いえ、晩御飯食べますか?」
「今日はあの人と家で食べるから、お弁当にして包んでもらえるかしら。」
「わかりました。」
俺はそのままキッチンに向かい、斉藤社長とミヤコさんの分の晩御飯をタッパーに詰めていき、すぐに持っていけるようにした後、リビングでミヤコさんと二人、事務仕事を進めていく。
仕事を集中してこなすと時間は早く流れるもので、気が付けばもうすぐ夜の十一時になりそうだった。
すると玄関の方から誰かが入ってきた音がした。大きな足音が近づいてきて、勢いよくリビングの扉が開かれた。
そこには走ってきてくれたのか、息を荒くしたアイがいた。
「おかえり、アイ。」
「ただいま、将也君。・・無事でよかった。」
そう言ってアイは俺の胸に飛び込んできた。
俺はアイを受け止めたときにいつもと違う感覚?感情?を感じた。
いつもだったら多分、特に考えなかっただろう。
でも今は違う。ミヤコさんに言われたことが頭に残っている。
俺はアイに惚れている。
そう思うと、意中の女の子が自分の胸の中にいる。それだけでいつもと違う緊張感や照れや恥ずかしさという感情が込みあがってきた。
そんな俺の思いを知ることの出来ないアイは
「よかった・・無事でよかったよぉ・・・。」
そう言いながら、俺を確かめるように力一杯抱き着いてきた。
「ああ、電話でも言ったろ。もう大丈夫だよ。」
俺はアイを安心させたくて、抱き返してあげる。
俺は今日の事を忘れないだろう。
こんなに俺のこと心配してくれたアイの事を。
・・俺の目の前でめちゃくちゃ二ヤついてるミヤコさんの顔を。
補足というか解説。というか言い訳。
天城君の失神理由は前の話の感想への返信で脳貧血ってことにしようと思ってます。って言いましたが、自分の血を見て気絶したという理由に変更しました。
すみません。
アクアとルビーの入浴に関して
アクアはルビーの事を妹として見ているので一緒に入浴しても特に何も思わない。
ルビーはアクアとアイの三人で入浴する事が多い為、今更アクアと入浴しても何も思わない。というか慣れた。
という設定
リョースケ君に関して
階段で転んだだけで致命傷になるかと言われたら、
傘持って階段転んだら亡くなった人もいるわけで・・・。(別世界の話)
以上です。