俺とアイが交際を始めて三年が経ち、俺とアイは今年で二十三歳に、アクアとルビーは六才になり、今日は二人の小学校の入学式だ。
入学式には、保護者として斉藤社長とミヤコさん、親戚として俺とアイが出席することにした。
正直バレないかと緊張していたが、他の親御さんは自分の子に夢中で、俺たちには興味がわかないようだ。
まぁバレなきゃ何でもいいか。
そんな具合で、大きなトラブルもなく、二人の入学式は終わり、その日の夜、皆でお祝いをするためにアイの部屋に集まった。食事も終わり、そろそろ解散する時間になったが、アイがいきなり、
「あ、私アイドル辞めるね。」
と言い出した。
当然皆固まってしまったのだが、
「アイ、理由を聞いてもいいか?」
と俺が聞くと
「う~ん。そろそろアイドルとして稼ぐよりも、女優として稼いだほうがいいかなぁって思って。」
「そういうことだったのか、先に理由を言ってくれよ。びっくりしただろ。」
「あはは、ゴメンゴメン。」
でも考えてみれば、当然のことなのかもしれない。
アイドルとして頂点にいられる期間は決して長くはない。人気が落ち始めてから女優に転向するのは遅いのかもしれない。
そう思うとアイが稼ぎ続けるためという点では、アイドルから女優に転向するのは賛成だ。
だけど、斎藤社長としてはどうなんだろうと思い、顔を斉藤社長に向けると、斉藤社長も悩んでいるようだった。
「ママ、アイドル辞めちゃうの?」
ルビーは今にも泣きそうな顔で、アイに尋ね、ルビーの隣にいるアクアは落胆していた。
「ごめんね、ルビー。ママはもうアイドルとしていられる時間が少ないんだ。だから、引退する前に女優になって、たくさんお給料もらえるようになって、ルビーとアクアがやりたいことやしたいことを諦めてほしくないようにしてあげたいんだ。
それにね、もしもルビーがアイドルになった時に、一緒に番組出たりとかできたら楽しそうだよね。そういうのも出来るようになるには、私も長く芸能界にいないとだからね。」
「私がアイドルになって、ママと一緒に・・・。」
「うん。出来たらいいね。」
「私なるっ!アイドルになってママみたいになって、ママと一緒に活躍するっ!!」
うんうん、いい話だな・・・あれ?話が脱線してない?
「・・・・はぁぁぁあああ。」
先程まで沈黙していた斉藤社長が大きい溜息を吐いた。
「天城、お前はどう思う?」
「俺ですか?!」
「ああ。」
皆が俺に注目する。
答え方や俺の意見でアイの今後が左右されるのであれば責任重大だ。慎重に答えよう。
「まず、賛成か反対かで言えば、賛成ですね。理由としてはアイも自分で言ってましたが、アイドルで終わることなく、女優として活躍するのであれば、人気が高いときに転向したほうが、すぐに人気女優になれる可能性があると思います。それにアイは映画やドラマの主演も経験してますから、転向しても大丈夫だと思います。」
「そうか、ミヤコは?」
「私も賛成だけど、本格的に女優に転向するのであれば、今後は演技のレッスンをしたほうがいいと思うわ。今はまだ人気アイドルのアイとして見てくれるけど、女優のアイになったら皆の評価は変わってくるだろうから、演技力は高めたほうがいいと思うわ。」
「なるほど。・・・・アイ。」
「何?社長?」
「今アイドルを辞めるだけにしておけば、すぐにとはいかないが、今まで隠してきたアクアやルビーと三人で出かけられるし、天城と付き合うことを隠す必要も無くなる。だが、女優になって芸能界に居続けるというのであれば、これからも隠し続けなければいけなくなるが、それでもいいのか?」
「うん。この子達の為だもん。平気だよ。今までだってバレなかったし、それに・・・。」
「それに?」
「将也君と付き合ってることは、いつか結婚するときに世間に言うつもりだよ。」
「結婚って・・・はぁぁぁ。わかった、アイの思うようにやってみろ。それと、おい、天城!」
「え?あ、は、はいっ!」
アイの結婚するという言葉に気を取られ、返事が遅れてしまった。
「お前、アイと結婚するのはいいが、時期を見誤るなよ。下手したらアイの人気がガタ落ちになるからな、頼むぞ。」
「はいっ!わかりました!」
「やったね将也君!結婚していいって!結婚しよっ!」
「「時期を考えろって言っただろっ!!」」
俺と斉藤社長のツッコミが見事に重なった。
でもまぁ、いつかちゃんと俺からプロポーズしよう。
その為にはしばらくは頑張らなきゃな。
「あー、ルビー。」
「? なぁに社長。」
俺が自分の次の目標を決めていたら、斉藤社長はルビーに話しかけていた。
「お前はさっきアイドルになると言ってたな。」
「うんっ!私、アイドルになるっ!」
「大変だぞ?」
「大丈夫!私がんばる!」
「・・・そうか、ならもう少し大人になったときにまたアイドルになりたいか聞く。その時までは学校を楽しんどけ。」
「わかった!」
なんてルビーが本当にアイドルになりたいかどうか聞いていたようだ。
その後、俺は斉藤社長に
「ルビーがアイドルになるのは反対しなくていいんですか?」
「まぁ、ガキの言うことだからな。あまり期待はしていないし、反対する必要もない。だが、ルビーは顔がアイに似ているからな。アイドルになればアイと同じくらい売れる可能性がある。だったら今のうちに俺たちの事務所のアイドルになるようにしておいたほうがいいだろ?」
「ああ、そういうことでしたか・・・。」
そんなことしなくてもアイが好きなルビーのことだ、考えなしにうちの事務所に所属するだろう。
なんて思っていると、
「ミヤコ、ちょっと来てくれ。」
「はーい。」
と斉藤社長がミヤコさんを呼んでいたので、
「俺は外したほうががいいですか?」
「いや、今後の話だ。お前もここにいろ。」
「わかりました。」
そう答えて、俺は上げかけた腰を下ろした。
「さて、たった今、アイが女優になると決めたわけだが、卒業は今の仕事を断る訳にはいかないからな、来年の春頃を予定とする。」
「わかりました。」
「ええ、わかったわ。」
「来月までには俺がB小町の今後のことを考えておく、ミヤコ、ちょうどいい機会だから、この間の提出した企画書、そのまま進めてみろ。天城は必要になったら声をかける。その時までミヤコを手伝ってやってくれ。」
「「わかりました。」」
気が付けば、アクアとルビーのお祝いからすっかり仕事の話になっていた。
まぁ、アイたちはこちらのことを気にせず、三人で楽しんでいるようなので、大丈夫だろ・・・・いや待て。よく見たらアクアは二人の近くにいるだけで、微動だにせず座っている。まるで三年前のアイとの交際を伝えた時のように。
気になった俺は、社長の話が終わった後、アクアの元に行く。
「アクア、大丈夫か?」
「・・・・・・・」
反応がない。あの時と同じだ。
「・・・・・たい、・・・と・・こん。・・・」
ん?何か小さい声で何か言っている。
俺はアクアにさらに近寄る。すると、
「アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと結婚。アイがアイドル引退、天城さんと・・・。」
ええぇ・・・・。
そんなにショックなの?
まぁ確かに、アクアはずっとアイのファンでもあったからな。赤ちゃんの時にヲタ芸してたし、引退するとなったら相当なものだろう。それに加え俺とアイの結婚の話が出てきたら、こうなってもおかしくはないのかもしれない。
とりあえずアクアを正気に戻さないと、
「おい!アクア!しっかりしろ!」
思いっきりアクアの肩を揺らして意識をこっちに向けさせる。
「あ、天城さん。この度はご結婚おめでとうございます。」
「アクア!まだだから!まだ早いから!」
「はっ!!僕はいったい何を言って・・・。」
何とか正気に戻ってくれたアクア。
でもこのままじゃいけないよな。将来的にも。
何かいい方法はないものか?
多分アイのこと以上に夢中になれるものがあればいいんだが・・・。
「ねぇ、天城さん。」
「ん?どうしたアクア。」
「お願いなんだけど、役者の仕事を沢山入れてくれる?」
「仕事?」
「今はとにかく仕事がしたい気分なんだ。」
これ、どこかで聞いたような状態だな。
失恋したOLだっけ?
「今のところ五反田監督からアクアにオファーはないから、オーディションを受ける事で仕事をもらうことになるよ。」
五反田監督とはアクアがよく出演する映画の監督であり、アクアを役者の世界に導いた人だ。アクアのことをすごく気に入っていて、色々な事をアクアに教えてくれている。
「うん、それでいいよ。」
まぁでも落ち込んでいるより、何かにやる気を出して、行動しようとしているアクアの熱意が冷めないようにもう一つ提案してみる。
「それと、どこかの児童劇団で基本でも学んでみたらどうだ?」
アクアは五反田監督のところでしか仕事をしたことがなかったので、他の場所で仕事をするなら一度基本を学んだほうがいいだろう。
「・・・・そうだね。いい機会だからやってみるよ。」
「よし、そうと決まれば明日、アクアが学校から帰ってくるまでに、候補を探してくるよ。」
「わかった。」
そう言ってアクアはアイのもとに向かった。
さて、今のうちに少しでもやれることはやっておくか。
とりあえず、斉藤社長にアクアのことを報告する前に、スマホで候補を探してみるか・・・。
一番近くの児童劇団は劇団あじさいか・・えーと他は・・・。
そういった感じで、検索サイトを使って、調べていき、過去に事件があったかどうかも調べていく。少し心配しすぎかな?
候補五つまで絞り込んだので、アクアが児童劇団でレッスンを受ける事と仕事をするためにオーディションをこれからは積極的に受けていくことを斉藤社長に提案すると快諾してくれた。
意外と早く決まったので、今からでもアクアに劇団の候補を見せに行こうとしたら、アクアとルビーの姿はなかった。
するとアイが丁度どこからか戻ってきたみたいなので、アクアとルビーのことを聞いてみると、
「え?アクアとルビーなら今寝かせてきたよ。」
「そうだったのか。気が付かなかったよ。」
時計を見れば、二人はもう眠っている時間だ。もうこんなに時間が経っていたのか。
「アイ、天城。俺たちもそろそろ帰るぞ。」
「お疲れ様。」
斉藤社長とミヤコさんも帰宅することになったので、玄関まで見送った後、俺とアイは二人で片づけをすることにした。
「へぇ~。アクアもレッスン始めるんだ。」
「ああ、五反田監督以外のところで仕事するなら、ある程度は基礎とか必要になるからな。今までは、五反田監督が必要な分だけ教えてくれてたけど、ほかの撮影現場ではそうはいかないだろうし、いつまでも五反田監督にお世話になるのは違うと思うからな。」
「そうだね~。でも監督はアクアのことすごく気に入ってるみたいだし、そこまで考えなくてもいんじゃない?」
「そうか?」
アイにアクアのこれからの事を報告しておいた。
特にアイも反対ということはなく、むしろ協力的な姿勢だった。
「でも、言ってくれれば私が教えてあげるのに・・・。」
「今回は基本を学びに行くんだから、ちゃんとしたところで学ばせてやろうぜ。」
「そうだね。でも、もしアクアが分からなくて困ってるようだったら私が教えてあげるからね。」
「その時は頼むよ。」
アイはアクアがやりたいことを見つけたのが嬉しそうだった。
まぁ、事の発端がアレなのは黙っておこう。
「ねぇ、将也君。」
「ん?どうした、アイ。」
「あの約束覚えてる?」
「・・・ああ、覚えてるよ。」
あの約束、アイと交わした競争の約束、どちらが先に目的を果たせるかという約束。
「なら、私の言いたいこと。わかるよね?」
「ああ。」
俺は手を止めてアイと向かい合う。
「何でも言うこと聞くよ。」
「うん。私のお願いはね・・・・まだ内緒♪」
「内緒なのかよ!いや、まぁいいけどさ。」
「えへへ、ごめんね~。せっかく何でも言うこと聞いてくれる権利を勝ち取ったんだし、大事に使いたいなぁ~って。」
「はぁ・・、負けた俺は何も言える立場じゃないが、いつでも言っていいからな。」
「は~い♡」
いつでもいい。そうは言ったが、ここまで待たされると逆に怖い。何をお願いされるのだろう?
でも、俺の愛してる恋人の願いなら何でもいいか・・・。