「将也君!デートしたい!」
といきなり言い始めたのは俺の交際相手のアイだ。
「ダメ。」
俺はアイのお願いをすぐに却下した。
「え~~。何で~~~?」
「何でって言われても、アクアとルビーが帰ってきたときに俺たちが家にいないと締め出しちゃうことになるし、何よりアイはこの後、レッスンにいかなきゃだろ。」
「いいじゃん、あと二時間もあるんだから。」
確かに、時間がないわけでもない。だからと言って出掛けるほど余裕のある時間じゃない。
「それに前にデートしたの二か月も前なんだよ。」
それを言われると弱い。四か月前にB小町のオーディションが終わり、晴れて合格した五人の新メンバーを今は集中的にレッスンしたり、体力作りに協力したりしているため、なかなかアイと過ごす時間が取れなかった。
一応付き合い始めてからはほとんど同棲みたいな感じになっているので、俺が遅い時間まで仕事があった日があっても、マンションの自分の部屋に帰れば、アイがアクアとルビーを寝かしつけた後、いつも俺の部屋で待っててくれるので、顔を合わせない日はなかった。
いつも俺の為に待っていてくれるアイの為に何かできることはないのだろうか?
と思い悩んでいると、ふと名案が浮かんできた。
「なら、お家デートってのはどうだ?」
「いつもしてるじゃん。」
あ、お家デートはデートに数えないんですね。わかりました。
「でも将也君の言う通りどこにも行く時間ないからなぁ~。今日はお家デートでいいよ。」
「そうしてくれて助かるよ。」
「あ、そうだ将也君、お姫様抱っこって出来る?」
「え?どうだろう?やってみるよ。」
俺はアイの座っているソファーの近くまで行き、
「それじゃあ、いくぞ。」
「うん、頑張って♪」
俺はアイの膝の裏と腰に手をまわして、抱き寄せる。
「よ・・・っと。」
そして勢いを利用してそのまま立ち上がる。
「おおっ!やるね将也君。」
「まぁ、これくらいならな。それでどうするんだ?」
「え~とねぇ・・・、それじゃあアクアとルビーが帰ってくるまでこのままでいよう!」
「・・・・マジ?」
「マジ♪あ、でも座ってもいいよ。離しちゃだめだけど。」
「なかなか難しい注文だな。」
「ダメ?」
そんな甘えたい顔されたら彼氏として断るわけにはいかない。
「・・・俺の限界までな。」
「やったぁ♪」
こうして俺はアクアとルビーが帰ってくるまでの二時間の間、アイをお姫様抱っこして過ごすことになった。
「あ、将也君。喉乾いたから冷蔵庫まで行って。」
「はいよ。」
俺はアイをお姫様抱っこしたまま、キッチンに向かう。
「着いたけど、どうやって取るつもりなんだ?」
「もちろんこのままだよ。」
そういってアイは上半身を捻り、冷蔵庫の取っ手を掴んで開く。
何かめんどくさいやり方だなぁ。と思っていると、
「将也君は何飲む?」
「じゃあ、お茶頼む。」
「了解。」
アイは自分の分と俺の分の飲み物を取って、冷蔵庫の扉を閉めた。
「それじゃあ、ソファーまで戻ろ~。」
「おう。」
そして俺は再び、アイを抱っこしたまま、ソファーまで戻ってきたわけだが、
「俺はこのまま座ればいいのか?」
「もちろん!」
これはもう徹底的に離すつもりがないな。と諦めた俺はアイを抱えたままソファーに座る。
座ることによってアイは俺の腿の上に座っている状態になったので、支える必要のなくなった腕を解放しようとアイの腰と膝裏から離そうとしたら。
「離しちゃだめだよ。」
と指摘された。
「それじゃあ俺お茶飲めないじゃん。」
「口移し何てどう?」
アイの提案が魅力的すぎる。しかしここで誘惑に負けるわけにはいかない!何故なら!・・・・・この後、仕事だからね。呆けたまま仕事したら危ないからね。いろんな意味で。
「ダメ。飲むとき以外は抱えててやるからそれは勘弁してくれ。」
「しょうがないなぁ。」
何とか口移しは回避できたが、もしそれ以上の誘惑を提案されたら我慢できるかどうか分からないな。とりあえずテレビでも付けてアイが変な提案をしないようにしよう。
「アイ、テレビでも見ようぜ。こうしてるだけじゃ退屈になるだろ?」
「? 全然いいよ?」
う~ん、可愛い事言ってくれるな俺の彼女は。
だが、このままだと意識しないようにしてたけど、手のひらに伝わるアイの体の柔らかさが服越しに伝わってくる。
俺はアイの体の感触を少しでも紛らわせるため、近くにあったリモコンを使いテレビの電源を入れる。
「え~、テレビ見なくてもいいじゃん。」
「まぁ、そう言うなって。」
俺の理性のために我慢してくれ。
「しょうがないなぁ~。じゃあ番組は私が選ぶからね。」
「あぁ、何でもいいぞ。」
そう答えるとアイは俺からリモコンを取り、番組を変えていく。
そしてアイが選んだのは温泉特番だった。
「温泉か~、行ってみたいなぁ。アイドル始めてからあまりゆっくりしたことないし。」
そういえばアイは長期的な休みを取ったことがなかったよな。正確には一度はあったが、それはアクアとルビーを出産する為だったし、オフの日があるといっても外に出れば周りの人にバレないように気を付けなければいけない。家にいる時も母親としてアクアとルビーを子育てをしなければいけない・・・と言っても、溺愛してるし、アクアもルビーも基本しっかりしてるからあまり負担にはなっていないと思うが、一人でのんびり過ごすっていうことはあまりなかった気がする。
そう考えれば、アイは長期休暇を取ってもいいんじゃないか?アイドルも後半年で卒業する予定だし、女優として活動する前に一度長期休暇を取っても罰は当たらないと思う。
「なら、アイドル卒業したら行けばいいんじゃないか?ゆっくり休むの重要だと思うぞ。」
そう言うとアイは俺を睨みながらこう言う、
「私一人で行けってこと?」
「さすがにアクアとルビーを連れて行ったら、週刊誌の記者に見つかっちゃうかもしれないだろ。」
「そうじゃなくて!将也君は来てくれないの?って聞いてるの!」
「俺が行ったらもっと大変なことになるかもしれないだろ。」
「別にいいもん!行くとなった時にはアイドル卒業しちゃってるわけだし、問題ないよ!」
と言われてもなぁ。アイドル卒業してすぐに恋人が出来ました。っていう言い訳は通用しないだろうし、どうしたものか。
「だとしたら人目につかないような場所を探すしかないよなぁ・・・。」
「来てくれるの?」
「まぁ、言い出しっぺだし、それにアイ達三人だけで行かせたら心配だからな、マネージャーとして。」
「彼氏としては?」
「一緒に行きたいと思ってるよ。」
「だったら一緒に行こうよ。」
「・・・・わかったよ一緒に行くよ。」
「やったぁ!将也君大好き!」
「現金な奴だな。」
「えへへ、将也君と一緒に行けるなら何でもいいもん。あ、でもアクアとルビーにはお留守番してもらうつもりだよ。」
「え?じゃあ二人だけで行くつもりなのか?」
「うん、二人っきりだよ。だってデートだもん。」
二人きりかぁ、そう思うと何だか緊張してくるな。
「それで何泊しよっか?」
「それは仕事次第だな。」
「場所は・・・・私が決めていい?」
「いいけど、有名どころや人が人が大勢いそうな場所は控えてくれよ。」
「大丈夫、任せといて。」
アイは行くと決まったら、テーブルの上に置いてある自分のスマホを手に取り、行きたい温泉旅館を調べているようだ。
「ここなんてどう?」
「速いなっ?!」
なんてツッコんだ後、俺はアイが差し出してきたスマホの画面を見る。
「・・・・へぇ、良さげなところだな。」
場所は県外で少し山奥にあるおかげで景色は良さそうだ・・・ん?
浮気デートならここがベスト♡誰にもばれないオススメスポット!というサイト名が目に付く。
なんていう調べ方をしているんだろうこのアイドル。
確かに俺たちは世間や人に見つかってはいけないような関係性だけどさ、浮気って・・・。
「じゃあここで決まりだね。」
俺の気も知らないアイが話を進める。
「そんなあっさり決めていいのか?」
「いいよ~。将也君が一緒ならどこでも楽しいよ。」
「そうか、なら決まりだな。」
「りょーかい!なら予約と休日の申請・・・有給休暇の申請は私がやっておくから将也君は必要なものとか用意しておいてくれる?旅行用のカバンとか。」
「いや予約も休日申請も俺がやっておくから大丈夫だ。」
「ううん、私にやらせて。いつもこういう手配は将也君がやってたけど、私もやってみたいからやらせてほしいな。私だけ何もしないってのは気が引けるしね。」
「う~ん、まぁそこまで言うならお願いするよ。分からないとこがあったなら俺に聞いてくれ。」
「うん。任せといて。」
こうして俺とアイは二人で温泉旅行に行く約束をした。
「あ~あ、早くアイドル卒業したいなぁ~。」
「ファンには聞かせられないセリフだな。」
「でも今度、卒業するってSNSで投稿するからよくない?」
「だとしても時期が来るまで迂闊に言うなよ。」
「は~い。・・・・・ねぇ将也君、キスしよっか。」
「唐突だな。」
「ダメ?」
「ダメじゃないよ。」
そう言って俺はアイにキスをする。
「・・・もう一回♡」
アイがもう一度キスをせがんで来たので、俺は再びキスをした。
すると玄関の方から
「ただいまーーーーっ!!!」
ルビーの元気な声が聞こえてきた。
俺は慌ててアイとのキスを終わらせようと顔を離そうとすると、
「ダ~メ♡逃がさないよ♡」
アイは両手で俺の頭を掴んでキスをする。
アイは普段からレッスンや体力づくり、体系維持などで鍛えているから多分普通の女性よりは力が少し強い。
なので簡単にはアイの拘束からは逃げられない。
長いキスをしている間にもルビーは一歩一歩こちらに向かってくる。
いやいつも通りなら、ランドセルを自分の部屋に置きに行き、その後はうがいと手洗いをしてからリビングに来る。つまりそれまでに何とか
「ママっ!ただいまっ!」
まさかそのままリビングに来るなんて・・・。
俺はそんな子に育てた覚えはないぞルビー。
するとアイはゆっくり唇を離してくれた。
「時間切れだね♡」
「びっくりしたじゃないか。」
「嫌だった?」
「・・・・次からは二人っきりの時だけにしてくれ。」
「しょうがないな~♪」
俺たちはルビーに聞こえないように小声で話すが、隠れていたわけではないのでルビーにあっさり見つかる。
「あ~、ママとパパ何してるの~?」
どうやらソファーの背もたれか俺の背中が壁になっていたのか、ルビーからはキスしていたことが見えていなかったらしい。
「ん~?イチャイチャしてただけだよ~。」
隠せよ。・・・いや隠す必要ないんだけどさぁ。
「いいなぁ、私もママとイチャイチャする!」
「いいよ~、ほらおいでルビー。」
「わ~い♪」
するとルビーは母であるアイのに抱き着く。
でも今は俺はアイをお姫様抱っこしたままの状態なので、ルビーの体重の負荷は当然俺にも掛かる。
「将也君、余裕だよね。」
アイは俺に何を求めているのだろう?でもこの状況ならとりあえず立ち上がる事以外ないだろう。
俺は足に力を精一杯入れ、立ち上がる。
「わ~、さすが将也君。やるねぇ。」
「パパすご~い。」
さすがに大人と子供一人分ずつを抱えるのはキツイなぁ・・。
明日から時間があるときに少しづつ体を鍛えよう。
そう思いながら三人ではしゃいでいると
「何やってんの?天城さん、もうレッスンに行く時間だよ。」
とルビーに続いて帰ってきたアクアの言葉でこの騒ぎは終わり、俺はアイとアクアをレッスンに連れてった。