アイ(愛)を求めて   作:頭お菓子いエクレア

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血の真実と決別

 

 アイと温泉旅行に行く約束をした日から、一か月が経った。

そして先週の金曜日の夕方、アイはSNSでB小町を卒業し、女優として活動していくと発表した。

 

当然、世間は大騒ぎになり、SNSやニュースなどでも色々なことを言っている人が絶えなかった。

 

年齢を見れば妥当じゃない?

 

男だ!男が出来たに決まってる!

 

時代が終わったんだよ。

 

女優のほうが給料良いんじゃね?

 

↑ならしゃーなし。

 

・・・・中には真実に近いことを言い当ててる人もいたが、憶測だけで言っているだの人達は放置しておいて問題ないだろう。

 

そしてその次の日の土曜日には記者会見まで開くことになり、沢山の質問をされたが、アイはのらりくらりとうまくかわしていたのでファンや世間の人たちは自分達の知りたい部分は知る事が出来なかっただろう。

 

世の中には知らないほうが幸せなことがある。そういうことだ。

 

 それでも知りたがる人たちはいるので最近はアイの送迎をするときに週刊誌の人たちによく尾行される。前よりもしつこい。

 

そんな暇あるならもっと有意義なことを記事にしてくれよ。人の足を引っ張ることの何が楽しいんだか・・・。でもそれがそいつらの仕事なのだと割り切るしかない。

などと思いながら俺は一人窓の外を見る。

 

一年ぶりの景色、前に見たのは父さんの墓参りの時以来だ。

 

今日はいつもなら父さんの墓参りだけだが、それだけじゃない。先日、母親から電話が掛かってきた。

 

初めてのことに俺は驚いた。

 

なぜ今更連絡をしてきたのだろうと。

 

嫌な予感しかしなかったが、電話に出ると、

 

「久しぶりね。アンタに渡すものがあるの。都合のいい日はある?」

 

電話が繋がるなり、一方的に話してくる母親。だが俺はそれに文句を言うことなく、素直に答える。

 

「明後日なら空いてます。」

 

「ならその日の午後二時ごろに来なさい。」

 

そういった後、すぐに通話は切られた。

 

 だけどそれは俺にとって当たり前だったこと。実家にいた頃、いつも一方的に話をして、家事を押し付けてきた。俺の都合なんて母親には関係ない。返事は「はい。」以外は許されなかった。

 

 そう思うと学校の先生の協力があったとはいえ、高校進学の時に家を出ることを許されたものだ。いやただの厄介払いだったのかもしれない。

なんて昔のことを色々思い出していると、目的の駅に着いた。

 

電車を降り、改札口を出れば去年とはどこか違う一年に一度見る故郷の街並み。

 

「そうか、工事現場が増えてるのか・・・。」

 

小さい声でそうつぶやく俺。でもホントはそれだけじゃないことも気付いている。

 

アイと一緒に行ったことのある文房具屋、買い物に行くときによく利用していた商店街の魚屋や肉屋、八百屋。平日なのにほとんどの店がシャッターで閉まっていた。残っているのはスナックや小さいパン屋、片手の指で数えられるほどの店しか営業してなかった。

 

そんな商店街を見ても俺の心は大きく動揺することない。なぜならこの寂れゆく様を毎年一度見ているからだ。最初こそ寂しさは何となく感じてはいたが、今は時代の流れだとしか感じていない。

 

そんなことを思っているうちに商店街を抜け、いつも左に曲がる十字路まで来た。ここを左に曲がれば、父が眠っているお墓に行くことができる。だけど今日は右に曲がる。理由は単純、嫌なことは先に済ませるのが一番だからだ。

 

俺は母親の住んでいる家に、俺が暮らしていた家に向かった。

 

 そこから十数分間歩き、実家が見えてきた。

 

その家は俺が出て行ったきり庭の掃除をしていないのか、草木が生え放題の有り様だった。枯れ葉を掃除することなく、雑草を抜くことさえしていないのだろう。むしろ育てているのかと思うくらいに俺の身長と同じくらいの高さまで伸びている。

 

数年ぶりの実家はもはや常人が住んでいるとは思えない家になってしまっていた。

それでも俺は実家の敷地内に入って玄関を目指す。目的を果たしたらすぐに帰ろう。母親もそれを望んでいるはず、いやそうに違いない。

 

俺は自分にそう言い聞かせ、玄関にあるチャイムを鳴らす。すると、

 

「はーい。」

 

先日久しぶりに聞いた母親の声が聞こえてきた。すると玄関が開かれた。

 

「おまたせしま・・・・なんだアンタか。少し待ってなさい。」

 

出てきた母親は俺が来客ではなかったと知ったとたん気怠い態度に切り替えた。

そして母親は何かを取りに行ったのか、玄関を開けたまま奥に行ってしまった。

 

汚いな・・・。

 

玄関を開けっぱなしで行けば当然家の中を見ることができる。俺は暇つぶしのつもりで、その場から動かずに実家の中を見渡す。

掃除は手を抜いているのがわかる位、汚く、ゴミは袋にまとめているがゴミ捨て場に持っていくことをせずにそのまま放置してある。

 

ああそうかこれがゴミ屋敷っていうのか・・・。いやその一歩手前だろうか。

 

そう思ってしまうくらいの惨状だった。

 

そう思っていると、母親が戻ってきた。

 

「はいこれ。」

 

そういって無造作に一通の封筒を渡された。

 

「これは・・・・。」

 

「それ、アイツ・・・辰雄から預かってたのよ。アンタが二十歳になったら渡せって私宛の遺書に一緒に入ってたのを思い出したのよ。アンタそろそろ二十歳でしょ?」

 

母親は俺の事に興味がないのは今更だろう。そんなことはどうでもいい。問題なのは何故俺の父さんは二十歳の俺に遺書を残したのだろう。

そう疑問に思っていると、母親は話の続きをする。

 

「それとね、今日からアンタのこと勘当するから。あとこの家と土地は売り払うことになったから、ここに戻ってこようなんて考えないことね。」

 

「・・・・わかりました。」

 

俺は言われたことをただ受け入れる。異論はない。むしろ賛成だ。

 

「じゃ、渡すものも渡したし、伝えることも伝えたからとっとと帰りなさい。」

 

母親はそういうと最後の嫌がらせだろうか、俺の目の前で勢いよく玄関の扉を閉めた。

 

 俺はこの時何を思ったのだろう。解放感?喜び?戸惑い?寂しさ?様々な感情を抱えながら実家を後にする。歩みを進めながら疑問が思い浮かぶ。姉さんはどうしたのだろう?母親は家と土地を売った後どうするのだろう?でも、こんなこと勘当された俺が考えても無駄なことだろう。そう思い俺はスマホを取り出し、母親と姉、実家の連絡先を消去した。

 

 しばらく歩き続け、俺は父親が残したもう一通の遺書を読むために、公園のベンチに座り込んだ。

 

周りには幼い子供たちとその母親達と散歩に来ているのであろう老人など、意外と多くの人が集まっていた。

 

そんな空間に唯一人、遺書を読むために立ち寄った俺は場違いな感覚を感じていた。

 

それでも俺は時間が経って黄ばんだ封筒を開け、中の遺書を取り出す。

 

遺書の内容は俺の知らなかった事、父親の謝罪、詫びの言葉が書いてあった。

 

なるほど、これなら母親と姉の俺に対する扱い、父親がどうして俺に対して微妙な距離感だったのか頷ける。

 

簡単に言えば、俺が今まで父親と母親と思っていた人は血が繋がっていないようだ。実の父親の響助と実の母親の優子はすでに亡くなっていて、二人は婚約関係だったが、結婚式直前に実の父親、響助が交通事故により他界、その後実の母親の優子はその時、おなかの中にいた赤子、俺を出産した後、俺の父親、辰雄と結婚した。

 

父さんは遺書に書いてある通りなら俺の実の母親の優子に惚れていて、実の父親の響助が亡くなった後、猛アプローチして結婚までいったが、その後すぐに、実の母親の優子は病気により他界し、その後母親、いや母親だったあの人と再婚した。とのことらしい。その時の俺は一歳くらいなので何一つ覚えていない。

 

頭の中で簡潔にまとめながら公園を出て、目的地に歩みを進めれば、父親が眠っている墓の前についた。

 

父さん、今更こんな事実を伝えたってどうにもならないだろう?

 

そんな問いかけを言葉ではなく思いで伝える。

 

こんなこと今更伝えられても、実の父親も、実の母親も俺のこと育ててくれた父さんはもうこの世にいないんだよ。許してくれって言われたって、謝罪の言葉を並べられても、俺は父さんの事は恨んでなんかいない。恨むのであれば母親だったあの人と姉だった人だけだ。

 

それでも父さんが許しが欲しいと言うのなら、

 

「父さん、俺、結婚したい人がいるんだ。アイっていうんだけど、そいつには子供がいてさ、結婚したら父さんと同じで血の繋がらない子供ができるんだ。だから俺は父さんが俺にしてくれたこと以上にあの子たちを愛してあげるんだ。それでさ、もしよかったら、見守っててくれる?」

 

そんな問いかけをしても、墓の中で眠っている父さんから返事は返って来るわけがなかった。

 

「じゃあ、そろそろ行くよ。」

 

墓の掃除を終え、立ち去ろうと出口に向かって歩き出すと、

 

 

頑張れよ・・・。

 

 

後ろから聞いたことのある懐かしい声が聞こえた気がした。

 

聞こえるはずがないのに、もう聞くことができるはずのない声が頭の中に響いた気がした。

もしかしたら俺が都合のいいように思い込んでいるだけかもしれない。それとも本当に・・・。

 

振り返ればきっとその答えはすぐにわかるだろう。

 

だけど俺は振り返ることをしなかった。

 

どっちだって構わない。聞こえた声が妄想でも、真実でも、本当でも、嘘だとしても、俺は天に居る父さんに届くように強く思う。

 

 

ああ、頑張るよ、父さん。

 

 

そして俺は再び歩き始める。俺を帰りを待ってくれている彼女のもとへ、あの子たちのもとへ。

 

 

 

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