あの夏の日から数か月が経ち、季節は秋から冬に移り変わろうとしていた。
あの日以降、星野は俺の部屋に訪れることはなかった。電話をしても出てくれることはなかったが、メッセージは返信してくれた。だから必要以上の心配はしなかった。何よりB小町の活動を追えば、彼女はB小町の絶対的エース、不動のセンターとして輝いていた。
彼女は今、アイドルとして大事な時期に直面しているのだろうと自分に言い聞かせながら、日々を過ごしていた。
けれど星野が近くにいない日々は、色のない暗闇の世界を彷徨うような感覚、星野がアイドルになると決め、遠くに行ってしまった中学生の時の虚無感を抱えたいた時の感情が再び俺を蝕む錯覚を感じていた。
そんな日々を送っていた日々に終止符を打つかのように、ある日の夜、星野から電話がかかってきた。星野の番号からのコール画面を見たとき、嬉しさと同時に少しの緊張感を感じながら、通話開始のアイコンをフリックする。
「もしもし?久しぶり、天城君。」
「あぁ、久しぶりだな、星野。」
「うん、最近ごめんね、遊びに行けなくて。」
「最近忙しそうだからな、仕方ないんじゃないか?」
「うん、やっぱり優しいね天城君は。」
「そうか?」
「優しいよ。」
「そっか。」
「ねぇ天城君。少し相談してもいい?」
「ああ、いいよ。珍しいな、星野が俺に相談なんて。初めてじゃないか?」
「そういえば、そうかもしれないね。」
「それで相談ってなんだ?」
「うん、すごいあやふやな表現なんだけどね、今までしてきた楽しい事と、目的と憧れの為にその楽しい事を諦めなきゃいけないってなったら、天城君ならどっちを選ぶ?」
「目的と憧れの為に楽しい事を諦めるか諦めないかのどっちかを選ばなきゃいけないって事か。」
「うん。そう、そんな感じ。」
「そうだな、少し考えてみてもいいか?」
「うん。いいよ。」
「ありがと。」
そう言って俺は少し考え、自分の立場で考えてみる。
自分にとって楽しかった事は、春から初夏にかけての星野と一緒にご飯食べたり、雑談をすることだった。
目的といえば競争の約束、「愛」とは何か、この答えを知ることだ。
目的を果たすために恋愛ものの小説や漫画を読み、理解を深めようとしたり、その生活を支えるためにバイトもしている。
高校生活はまぁ、将来の為に行かなければならない物だと思うので、多分この件からは除外してもいいだろう。
憧れ、・・・考えてみれば、憧れなんて俺には思い浮かばない。
強いて言うのであれば、競争の約束を星野より先に果たした時の報酬だろう。
でもこれはどちらかといえば欲望に近いものだ。
自分の楽しい事、目的、憧れを並べてわかった事は一つ。
全て、星野と繋がっているということだ。
俺にとっての答えは出た。だからと言って星野と俺の考えが一致するとは限らない。
だから俺は俺なりの考えでアドバイスすることにした。
「もしもし星野?」
「うん。聞こえてるよ。」
「俺なりに考えてみたけどさ、俺にとって楽しい事と目的、憧れって一つの事で繋がってるんだよ。」
「そうなんだ・・。」
「だから、なんて言うか・・・俺の考えになっちゃうけど、無理してどちらかを諦めなくてもいいんじゃないか?星野も楽しい事、目的や憧れを諦めずに、欲張って、全部つかみ取ってみてもいいんじゃないか?」
「欲張ってもいいの?」
「ああ。いいと思う。でも答えは自分で考えて出すべきだと思う。」
「そっか、そうだよね。」
「おう。俺も何か手助けできることがあれば手伝うよ。それとまた飯食いに来いよ。」
「うん!ありがと。相談に乗ってくれて。」
「役に立てかはわからないけどな。」
「ううん、天城君の考えを聞いたら、答えが見えてきたよ。」
「そうか、それならよかった。」
「それじゃ、そろそろ切るね。今日はありがと!!おやすみ、天城君!」
「ん、おやすみ、星野。」
別れの挨拶をして、通話終了のアイコンをフリックをして、ソファーの背もたれ身を預け、星野との会話を振り返る。
星野が言っていた目的と憧れとは何を指しているのだろうか?
楽しい事はきっとアイドルの事を指しているのだと思う。そう考えながら、窓を開き、冬の冷たい風を浴び、夜景を見る。
ほんの少し、たった十分くらい星野の声を聞いただけなのに、
目の前に広がる夜景と雲一つない夜空は久々に色づいているように感じた。
そんな夜空を見上げながら俺は、
星野が今、何について迷っているのかはわからない。だが星野が自分で決めたことなら応援してあげたい。と決意した。
そして一週間もしないうちに俺は星野が何を悩んでいたのかを知ることになる。