俺が高校生になって、初めての冬休みが始まった。
先日、斉藤社長から星野の体調不良の真相を聞いて、一週間が経った今日、俺は星野に会いに行く。アルバイト先の火野社長達には申し訳ないが、四日間の休日申請を提出して、休みを貰った。その代わり「年末年始はたくさん働いてもらうからな。」と言われたが、星野のことを思えば、何の苦にもならない。
そして俺は斉藤社長との待ち合わせの場所に向かうために家の戸締りを済ませ、少し大きめのカバンを肩にかけ、家を出た。
斉藤社長から星野は今、少し遠い病院に入院してもらっている事とせっかくの遠出になるなら一、二泊くらいしていけ。と言ってくれたので、素直に甘えることにした。本心を言えば滞在する時間が増えれば、その分星野に会える時間が増えると思ったから泊まり掛けにすることにした。
俺は電車とバスを乗り継ぎながら、斉藤社長との待ち合わせ場所の空港に、集合予定時刻の二十分程前に到着した。
だがそこにはすでに斉藤社長が到着していた。
「すみません。お待たせしました。」
「いや、俺もついさっき到着したところだ。少し早いが手続きを済ませるぞ。」
「はい。」
合流した俺たちは、搭乗手続きを済ませ、空港ラウンジで搭乗時刻まで待つことになった。
「そういえば斉藤社長、星野は今どこの病院にいるんですか?」
「今あいつは宮崎にいる。それとあいつの話は外ではあまりするな。誰が聞き耳を立てているかわからないからな。」
「そうでした。すみません。」
「いや事前に詳細を伝えなかった俺にも原因はある。今からはあまり口を開くなよ。」
「わかりました。」
俺と斉藤社長はそこから互いに口を開くことなく、飛行機に搭乗し、目的地である宮崎に向かった。
数時間のフライトの後、宮崎の空港に着いた俺たちは、タクシーに乗り、さらに数時間後、星野が入院している病院に到着した。
ここに星野がいるのか、そう思いながら俺は病院を見上げた。
「天城!何してるんだ!行くぞ!」
「はいっ!」
斉藤社長に急かされ、俺は後を追う。
「そういえば天城、ここではアイは偽名を使って入院してるからな、むやみにアイの名前を病室の外で呼ばないようにな。」
「わかりました。」
そうして俺たちは面会手続きを終え、ついに星野がいる病室の前まで来た。
「天城、お前は先に入ってろ。俺は一時間ほど一服してからまた来る。」
「はい。ありがとうございます。」
斉藤社長なりの気遣いなのだろう。俺は頭を下げてお礼を言った。
軽く深呼吸して、ノックをする。
「はーい、どーぞー。」
扉の向こうから聞こえてくるのは紛れもなく、星野の声だ。
俺は早く星野に会いたいという気持ちを抑え、扉を静かに開けた。
そこにはベットの上で上半身を起こした状態の星野がいて、聞いていた通り星野のお腹は妊娠していることを主張しているかのように下腹部のあたりが膨らんでいた。
俺は星野の状態を目で確認した後、入室して扉を閉める。
「よう。星野」
「天城、君?何でここにいるの?」
星野は目を大きく見開いて驚いた顔で俺に問いかけてきた。その疑問に俺は答える。
「まぁ、簡単に言えば斉藤社長から聞いてな、今日は連れてきてもらったんだ。」
「そーなんだ・・。」
「最初はびっくりしたよ、SNSで体調不良って言ってて、その後斉藤社長が俺の家に来て、事の真相聞いてみたら、妊娠したっていうんだから。」
「うん・・。」
星野はうつむいていた。が、俺は星野に聞かなければいけないことを問う。
「星野、相手は誰か聞いてもいいか?」
俺は先に斉藤社長から質問してほしいと言われた質問を星野に問う。
だが、次の瞬間、星野のきれいな瞳の輝きが一瞬でドス黒い輝きに変わった。
その瞳の見た俺は思い出した。この瞳の輝き方をしたときの星野は「その問いには答えたくない」という一つの意思表示だと。俺はこれを小学生の時に何回か見たことがあった。
「・・・悪かった。今の質問は忘れてくれ。」
「私、そんなに顔に出てた?」
「小学生の時に何となくだがわかるようになったからな。」
「へぇ、天城君私のことわかっちゃうくらいずっと見てたんだぁ。」
「まぁな。」
「そ、そうなんだ・・。」
何故か星野は照れていた。
「また質問してもいいか?」
今度は斉藤社長に頼まれた質問ではなく、自分の聞きたいことを質問しようとする。
「次はなぁに?」
星野の目はいつもの一番星のような輝きに戻っていた。
「星野はお腹にいる子は産むつもりなんだよな?」
「うん。」
「アイドルは辞めちゃうのか?」
「辞めないよ。」
「そっか。」
「うん。私、天城君に相談した時に出してくれた答えが一番だと思ってる。」
「じゃあ、子供を産む事とアイドルを続けることは、星野にとって目的と憧れ、楽しい事に繋がっているんだな?」
「うん。」
「・・じゃあ俺のやることは決まったも同然だな。」
「? 天城君は何かするの?」
「言っただろ手助けするって。星野一人じゃアイドルと子育ての両立は大変だろ。」
「いいの?」
「ああ、任せろ。」
「ありがと、天城君。じゃあいっぱい頼りにするよ!」
「おう!」
そう言って俺たちはしばらく見つめ合ったが互いに照れてしまい、思わず笑ってしまった。
「あ、そうだ星野、帰ってきたときに食べたいものあるか?」
「食べたいもの?うーん、あ、そうだ天城君の作った卵焼きが食べたい!」
「おう、準備しとくな。他は何かあるか?」
「あとはねー、・・・」
そんな感じで真面目な話の後は、いつもの雑談で盛り上がる。
そうしているうちに面会時間も終わり、星野と別れ、斉藤社長と合流して予約していた宿に向かう。
宿の中で斉藤社長に質問するように言われていた事を隠さずに報告し、これ以上は探らないようにしましょうとだけ言っておいた。
斉藤社長は渋々だったが、了承してくれた。
翌日も俺は星野に会いに行き、雑談を楽しんで、一日を終えた。
そして最後の日、今日また別れれば、しばらくは会えなくなるだろう。寂しいとは感じたが、一生の別れではない。だから俺たちは最後の日もいつも通りに雑談を楽しんだ。
「それじゃあ、星野、双子の出産大変だろうけど、がんばれよ。」
「うん、大丈夫だよ。」
星野が双子を妊娠したのは昨日聞いた話だ。
「ねぇ天城君、聞いてもいいかな?」
「何だ?」
「天城君は何でそんなに優しく・・ううん、何でいつも私のことを気に掛けてくれるの?」
いつもとは少し違う真剣な表情で星野は俺に問いかけてきた。
「うーん・・・。」
そう言われてみると、あまり深く考えたことはなかった。だから俺は頭に浮かんだことそのまま伝える。
「友達ってのもあるし、競争の約束にまだ決着がついていないからな。それに・・・」
「それに?」
「離れたくないし、大事な人だから・・・かなぁ?」
「~~~~~~ッッッ!!?」
次の瞬間、星野は布団で顔を隠した。
「ほ、星野?!大丈夫か?!!」
「だ、大丈夫!ごめん天城君!そろそろ検診の時間だからっ!今日はもう終わりにしよ!」
「わ、わかった。・・・じゃあな、星野。 帰ってくるの待ってるからな。」
「・・うん、待っててね天城君。」
そういって別れの挨拶をして、俺は星野の病室を後にした。
・視点変更「星野 アイ」
「大事な人だから・・・かなぁ?」
さっきの彼の言葉がずっと頭の中で回り続けている。
今の私の顔はきっと誰にも見せられないくらいに真っ赤になっているだろう。
胸の中からあふれる位の熱い思いは何なのだろう?
でも何となくだけど、その思いの正体がわかる気がした。
・視点変更「星野 アイ」end
こうして星野に会うため宮崎に滞在する日は終わり、俺は自分の住む都会へ帰っていった。
帰り道、斉藤社長から、「今後の事は俺が考えておく、お前はしばらく学業にでも集中しておけ。」と言われ、星野の近況も斎藤社長を通じて連絡してくれることになった。
そして時間は流れ、春になり、俺は高校二年生になった。
星野も母子ともに無事に出産を終え、今日、俺と星野が住むマンションに戻ってくると連絡が入った。
俺は斉藤社長に星野の部屋の掃除をしておくようにいわれ、星野の部屋の鍵を預かった。
「今日から子供と一緒に暮らすのに埃まみれはだめだからなぁ・・。」
と独り言を言いながら、星野の部屋の掃除を済ませていく。
掃除が終わったころ、玄関の方から人の気配を感じた。すると
「わー、久しぶりの我が家だー。」
と聞きなれた彼女の声が聞こえた。
俺は迎えに行こうとリビングと廊下をつなぐ扉開けるとそこには、
出産の影響だろうか、前よりも少し大人っぽくなった彼女が赤ん坊を二人抱えていた。
話したい事、言いたい事はたくさんあるが、最初にかける言葉は決まっている。
「おかえり、星野。」
「ただいま。天城君」