ゆるキャン△ 愛故に   作:狭間です

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 ゴールデンウィークも始まり、いかがお過ごしでしょうか。私は伊豆に行く予定を立てています。それではどうぞ。


【12】旧友

 

 

 

 あれから小一時間ほど走っただろうか、私は最終目的地であるイーストウッドキャンプ場に到着していた。

 山の上に位置するこのオートキャンプ場、木々の間からは富士山が顔を覗かせる。そんな立地だが、今はオフシーズンだからかほとんど他の客は見当たらない。

 

 テントサイトへのバイク乗り込みが許されているため、良さげな場所を求めて軽く散策する。

 以前両親と共に来た時に設営した場所は、既に先客がいるようだった。ワンポールテントを立て、その横にはバイクが停まっている。どうやら私の乗っている同じメーカーのバイクのようだが、種類は違う。その先客は焚き火をしながら、なにやら料理をしているようだ。スキレットからは湯気が立ち込めている。

 

 何故かその光景から目が離せずじっと見ていると、ヘルメット越しに先客と目が合う。

 

 くいくい

 

 私の姿を見て、手招きをする先客。こちらへ来いと言っているのだろうか。流石に見ず知らずの人をじろじろと見るのは失礼だっただろうか。とりあえず謝ろうと思いバイクのエンジンを止め、ゆっくりと彼に近付く。

 

 

()()肉、食うかい」

 

 予想していたどの言葉とも違う言葉を告げる彼の目は、とても優しいものであった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「見覚えのあるバイクが来たと思ったら、君だったのか」

 

「……お久しぶりです、新城さん」

 

「今日は出会いが多い日だな」

 

 私の他にも誰かに会ったのだろうか。ヘルメットを取った私を見て、どこか懐かしむような顔を見せた彼は、再会の挨拶をするのだった。先客の招待正体は父の旧友である新城さん、会うのはいつぶりだろうか。何度か家に来ていたため、親戚の叔父のような関係でお世話になっていた。

 

 

 

「念入りにカスタムされたボンネビル、そのジャケットも父親のお下がりか」

 

「……はい」

 

「君の父親の若い頃にそっくりだ」

 

「……そうですか」

 

 すぐ隣にテントを設営するように促した彼に、特に逆らうことなくそれに応じる。

 設営を終え、これまた促されるまま新城さんの焚き火のそばに腰掛ける私。しばらく無言のまま薪が燃えゆく様をじっと見つめていたが、お互いに気まずさは無かった。

 

 

 

 

 どれほど経っただろうか、おもむろに老人が口を開く。

 

 

「両親のことは残念に思う、君も苦労しただろう」

 

「……いえ、その節はお世話になりました」

 

「なぁに、私は何もできなかった。どこまで行っても赤の他人だ。旧友の忘れ形見を引き取ることすら出来なかった、ただの老いぼれだよ」

 

 

「……そんなこと、ないですよ」

 

「……」

 

「……あまり、自分を卑下しないでください」

 

「……君に言われては、かなわんなぁ」

 

 弱々しく笑う新城さん、彼のそんな表情を見たのは初めてだった。その後もぽつりぽつりと会話を続ける。他愛も無い世間話だったような気もするし、お互いの近況を報告していただけのようにも感じる。

 

 すると、彼は意を決したように、私に問いかける。

 

「君は、前に進めているかい」

 

「……」

 

 質問の意図が、分からなかった。いや、恐らく心の奥底では分かっているのだろうが、頭でそれを理解するのを拒んでいるようだった。現実から目を背け続けてきたツケが回ってきたようで、なんと答えれば良いのか迷った私は閉口する。

 

「話を聞く限り、君はどこか他人を避けているような気がする」

 

「……そう、かもしれません」

 

 苦々しい顔を浮かべる私に続けて声をかける。

 

「何も、逃げることは悪いことじゃあない。人間誰しも、何かから逃げているものさ。それでも、全てから逃げていたら、本当に逃げたい時に逃げられなくなってしまうよ」

 

 

 

「……それなら、どうすれば良かったんですか」

 

「……?」

 

「……他の人と深く関わってしまったら、別れる時の苦しみもより辛くなる。もう二度とあんな思いしたくないんです。さっき話した少女達のことだって、できればもう関わりたくない、と思っている自分がいます。彼女らは私に必要以上に近付いてくる。どれだけ無愛想に接しても、離れていかない。私は……そんな彼女らにどう接すればいいのか分かりません」

 

「そうは思えないな」

 

「……何故ですか」

 

 必死に考えて紡ぎ出した不安や葛藤を即座に否定する彼に、私は少し恨みがましい視線を向ける。まるで全てを見透かしているような言い方に不満を覚えた。

 

「君は、本当は分かっているはずだ」

 

「……言っている意味がわかりません」

 

 私の言葉を聞いて、ふっと微笑んだ彼はゆっくりと語り始めた。

 

「君の父は」

 

「?」

 

「生前、たくさんの人に愛されていた」

 

 何故ここで父の話が出てくるのか、その時の私には理解できなかった。

 

「それでも、初めからそうだった訳じゃない」

 

「彼が君くらいの歳だった時は、他人を寄せ付けない、抜き身の刀のような男だった。他人と関わろうとせず、何か問題が起こったとしても誰にも頼らず、自分一人で解決しようとしていた」

 

「……そんな彼が変わったのは君の奥さんに出会ってからだ」

 

「人が変わったように丸くなった。私のことをオッサンから新城さんに呼び方を変えた時、翌日は槍でも降ってくるのかと思ったくらいだ」

 

「……それが私に何の関係があるんですか」

 

 未だに彼の意図を図りきれない私は、我慢できずに問いかける。

 

「君も同じだ」

 

「……?」

 

「君は父親によく似ている。特に、無意識で他人に優しくするところなんてそっくりだ」

 

 私は特に他人に対して優しくした覚えなどない。無表情のまま、過去に縋り、ただ時間を浪費していただけだ。本当に、意味がわからない。

 

 

「なんだ年相応の顔だってできるじゃないか」

 

「……え」

 

「悩めよ優太、その葛藤は間違っていないし、必ず自分自信を成長させてくれる。前に進ませてくれるんだ。もっと他人を頼れ。辛かったら寄りかかってもいいんだ」

 

 そう言うと荷物からなにやら袋を取り出し、新城さんは立ち上がる。

 

「ほら、もう暗くなるし、行くぞ」

 

「……どこへですか」

 

「風呂だよ風呂、ついてこい」

 

 このキャンプ場へ来る途中に確かに温泉があった。そこに向かって歩き出す彼に、私は無言で着いていくことしか出来なかった。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 ほっとけや温泉に入り終えた私たちは、隣接している喫煙所に立ち寄っていた。熱で火照った体を、夜風で冷ます。取り出したセブンスターを見た彼は、少しだけ目を見開く。

 

 

「優太も煙草吸うのか」

 

「……えぇ」

 

「そうか」

 

 私は紙巻煙草に、新城さんはシガーに火をつけ煙を燻らせる。葉巻特有の甘い香りが辺りに広がると同時に思考もクリアになる。

 遅い時間で私たち以外誰も居ないようで、静かな空間の中でふたつの光源がゆっくりと燃えている。

 もう話すべき事は話したようで、新城さんは口を開くことは無かった。

 

 

 あれからずっと彼に言われた言葉を考えている。

 

 

 答えは、まだ出ない。それでも、私の中で何かが変わった事だけは、確実に分かった。

 

 




 リンじじまじですき。大塚明夫さんボイスなら何言っても名言になりそうなのが強い。連休のお供になれるように、頑張って執筆していきます! 皆様の感想、評価等お待ちしております!
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