「えぇ〜?! 四尾連湖でお兄さんに会ってたの?!」
「えぇ、そうよ」
「なんで言ってくれなかったの?!」
「だってアンタ、もうリンちゃんと湖の向こう岸に居たじゃない」
「そうだけどさぁ……」
わたしは怒っていた。四尾連湖でリンちゃんとキャンプをしていた時に、お姉ちゃんは駐車場で、例のお兄さんと会っていたらしい。
どうやらキャンプをしに来ていた訳ではなく、ただふらっと立ち寄っただけのようだ。
それでもっ!一言くらい声をかけてくれても良かったんじゃないかなぁ?!
「お姉ちゃんがいるなら、私たちが居ることだって分かるじゃん……」
「……まぁ、彼そういうの苦手そうだし」
少し気の毒に思ったのか、お姉ちゃんは例のお兄さんについて教えてくれた。名前は瑞浪優太さん。お姉ちゃんと同じ大学に通っているらしい。
「優太さん……」
(また会いたかったなぁ)
思わぬ場所でニアミスをしていた事実を知り軽くショックを覚えていたわたしだが、同じ場所に住んでいることもあり、再会の時はそこまで遠くないだろうと予想して悩むのを止めた。
ーーーー
[聞いてよ、リンちゃん]
[ん]
[わたしたちが四尾連湖に居た時に、あの時助けてくれたお兄さんが来てたらしいんだよ!]
[へぇ、そうなんだ]
[お姉ちゃんは会ってたらしいんだけど、教えてくれても良かったじゃんねぇ!]
[確かに、私もちょっと会いたかったかも]
[でしょー?]
ぷんぷんと怒った様子のスタンプを見て、思わずふっと笑みをこぼす。まぁ彼もそれなりの頻度でキャンプをしているようだし、またいつか会えるだろう。
[たぶん、また会えるよ]
[そうだといいねぇ]
[それじゃ、わたし宿題やらないとだから、またね!]
[うぃ]
話を聞いてもらって満足した様子のなでしこは、自分のやるべき事を成すためにリンとのメッセージを終えるのだった。
(さて、私もそろそろこの本を読み終えるかな)
なでしこからのLIMEで中断されていた文字列の海へ再度旅立とうとするも、それは叶わなかった。
ガチャッ
という玄関が開く音で思考が遮られ、突然の来客に興味が注がれる。父が帰ってくるにはまだ早い、誰か知り合いでも来たのだろうか。
「ただいま」
「お父さん?!」
母親が驚く声が聞こえる。え、おじいちゃん帰ってきたの?! 全然そんな話聞いてないよ!
「おじいちゃん、おかえりなさい」
「ただいま、リン」
久しぶりに会うおじいちゃんは、相変わらず焚き火の匂いを纏っていて元気そうだった。心無しか、なんだか楽しげな雰囲気を感じる。
「おじいちゃん、何かいい事でもあった?」
「あぁ、キャンプ場で、古い友人に出会ったんだ」
「へぇ、そうなんだ」
おじいちゃんの古い友人……。その人もおじいちゃんなのかな? どんな人なんだろう。
「リン」
荷物を下ろし終えたおじいちゃんが私に話しかける。
「この間お母さんから聞いたんだが、浩庵で面白い出会いをしたそうじゃないか」
「うん。なでしことお兄さんのこと?」
「そうだ。私が再会した古い友人というのは、そのお兄さんの事なんだ」
「……えっ、そうなの?!」
まさかの接点だった。おじいちゃんの古い友人ということで、私はもっと年齢が上の人を想像していたため、理解するのに少し時間がかかった。
「彼が色々と話してくれてね、リンたちの事話していたよ」
「お兄さんはなんて?」
「キャンプをすると、君たちのことを思い出すそうだ。もしまた会ったら、声でもかけてやってくれ」
「うん、わかった」
そう言ってコーヒーを啜るおじいちゃんの顔は、いつもより優しげに見えた。おじいちゃんちゃんと彼との間にどんな関係があるのかは分からなかったが、特に断る理由もなかったので、私は快くおじいちゃんのお願いを受諾する
ことにした。
ーーーー
「いらっしゃいませ〜」
キャンプ場での撤収作業を終え、一度家に帰った私は行きに立ち寄ったスーパーに今一度足を運んでいた。
新城さんに言われたことを考えていると、なんだかいつもの店に行くのが気まずくなってしまった。
(別に逃げている訳では無い、少し考える時間が欲しかっただけだ)
そんな誰に向かって言い訳しているのか分からない言葉を並べながら、いつもの材料を買い揃えていく。
会計を終えた私は、レジ袋を片手に駐車場へと向かう。しかし、珈琲を買い忘れたことをふと思い出し踵を返す。
(自販機で良いか)
もう一度店内に入って珈琲だけ買うのもなんだか気が引けたため、とりあえず自動販売機で買ってお茶を濁そうと思った。足を向けた先には先客がいるようだった。女子高生らしき三人組が集まって談笑している。
「やっぱり寒い日にはおしるこやなぁ〜」
「いーや、イヌ子! コンポタこそが至高!」
「ホットレモンも捨て難いよ! あきちゃん!」
飲み物談義を楽しんでいるところ申し訳ないが、私も目的を達成するためだ。申し訳ないが、少しだけ退いてもらおう。
「……すみません、珈琲を買いたいのですが」
「あ、ごめんなさ……、あぁーーー!!!」
私の顔を見ると、その中の一人が大声を上げる。
「あの時のお兄さん!」
「え、まじか」
「ほんまなん? なでしこちゃん」
「そーだよっ! ぜったいそう!」
よく見たらあの時の少女ではないか。ついこの間姉の方と会っていたため思い出すのにそう時間はかからなかった。
「……お久しぶりです」
「久しぶりです! あの時は本当にありがとうございました!!」
勢い良く頭を下げる各務原さん妹。
「ウチの部員が、お世話になりました!」
「ほんまに、ありがとうございます〜」
何故か、残りの二人にも感謝された。今日初対面だよな。
「……お二人に感謝されるようなことは、何も」
「いえ! あなたのおかげで、私たちはなでしこと出会う事が出来たようなものなので!」
「あきの言う通りですわ、ほんまおおきに〜」
「……そうですか」
それから、しばらく私を混ぜてのキャンプ談義をしていた。各務原さんの話から私のことを既に聞いていたようで、大垣さんと犬山さんの両名は、年上の私にも楽しげに接してくれた。
使っているテントの話、新しいギアを買うためにここのスーパーと隣の酒屋でアルバイトをしている話、そんな他愛も無い話をしているうちに日も落ちてきた。
「それじゃあ! 優太さんも気をつけて! またキャンプしようね!」
「さようなら〜」
「ほなな〜」
「……ええ、さようなら」
三人と連絡先を交換した私は、駅に向かって歩いて行く彼女らを見送る。以前までほとんど使っていなかったLIMEの友達欄が、最近急激に色とりどりになっていく感覚に不思議な感覚を抱きながら、自分も家に帰るためにバイクにまたがるのであった。
「……あっ、珈琲」
少女らとの話に夢中になり、珈琲を買うことを忘れた事に気付くのはしばらく後のことだ。
はい、久々の野クルメンバーでした。結局買い忘れるなんて、おっちょこピーですね。どうすれば楽しく読んでもらえるかを常に考えながら書いていますので、引き続き皆様の感想、評価等お待ちしております!