ゆるキャン△ 愛故に   作:狭間です

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 明日から連休の方もそうでない方もお疲れ様でした。それではどうぞ。


【18】夕飯

 

 

 

「いらっしゃい! 優太さん!」

 

「……お邪魔します」

 

 約束の日である土曜日の夕方、インターホンが鳴ったのを聞いた私は足早に玄関へと向かい彼を出迎える。

 いつもの革ジャンにブーツというライダーズ仕様ではなく、ジーンズにニット、コートを身につけた彼はいつもよりカッコよく見えた。

 もちろんいつもがカッコよく見えないって訳ではなくて今日は一段と……って私は誰に言い訳をしているんだ。

 

「もう完成するから、入って入って!」

 

「……ありがとうございます」

 

 彼が脱いだダッフルコートを受け取った私はパタパタとスリッパを鳴らしながらリビングへと彼を案内する。彼のコート、ちょっといい匂いするかも。

 

「よく来たね」

 

「いらっしゃ〜い、久しぶりねぇ」

 

「……お邪魔します」

 

「まぁ座りなさい、もうすぐ夕飯もできる」

 

「……それでは、失礼します」

 

 既にテーブルに座っていたお父さんが彼を対面に座るように促すと、恐縮しながらも彼は椅子に腰かける。私はお母さんの手伝いをするためにキッチンへと戻る。

 元来お喋りな訳では無いお父さんと、普通に無口な彼を一緒に放置して大丈夫だろうか。少し心配して顔を覗かせると、案の定無言のまま向かい合っていた。

 え、あの状況気まずくないの。お父さんも何か話しかけてあげたらいいのに。

 特に進展する様子も無さそうなのでさっさと料理を持っていくことにする。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

「……」

 

「……」

 

 こういうときは、どうすればいいのだろう。私の目前には初めの一言以外なにも言葉を発さず、こちらを見ている恵那さんの父親が一人。

 恵那さんと話す時は彼女の方から話題を振ってくれていたので、いざ沈黙が訪れると何を話せばいいのか分からなくなってしまう。

 

 (とりあえず自己紹介でもしたほうが良いか)

 

 口を開こうかと思った時、ちょうど恵那さんと奥さんが料理を運んできてくれた。

 肉じゃが、煮物、豚のしょうが焼きが大皿で、小鉢にはほうれん草のおひたし、漬物と次々に並べられていく色とりどりの料理を目で追う。

 

「はい! これ優太さんの分ね!」

 

「……ありがとうございます」

 

 最後に盛られたご飯から湯気が立ちのぼる茶碗と豚汁が目の前に置かれ、準備が整ったようだ。

 

「それでは。優太さんと斉藤家の再会を祝して、乾杯」

 

「「かんぱーい!」」

 

「……乾杯」

 

 料理が揃ったところで旦那さんが音頭をとって食事が始まった。

 久しぶりの大人数との食事、どれもこれもが絶品だった。並べられた料理に舌鼓を打ちながら奥さんから投げかけられる質問に次々と答えていく。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

 

 

「それじゃ私は洗い物してくるわね、恵那も手伝って」

 

「え〜、私もっと優太さんとお話したーい」

 

「いいから、こっち来て手伝いなさい」

 

「はーい……」

 

 奥さんに連れられて恵那さんはキッチンへと消えていった。また私は二人残されたわけだ。今度こそ私の方から話題を振らなくてはと意気込んでいたが、旦那さんはいつの間に持ってきたのか日本酒の瓶とおちょこを二つ設置して私に問いかける。

 

「優太くんは、もう成人済みだったね」

 

「……はい」

 

「お酒は飲めるかい?」

 

「……人並みには」

 

 それを聞いた旦那さんはおちょこに日本酒を注いでいく。こういう場合の作法などは分からなかったが、とりあえず私も注いだ方が良いのだろうかと手を差し出す。それを旦那さんは制して私にも酒を注ぐ。

 二人分の日本酒を注ぎ終わった旦那さんは、ゆっくりとおちょこを持ち上げて微笑む。

 

「「……乾杯」」

 

 静かにそれを合わせた私たちは日本酒に口をつける。すっきりとした飲み口の日本酒はまるで水のようにするすると体に入っていった。一口で飲み終えた旦那さんは、もう一度酒を注ぎながら私に声をかける。

 

「君の話は恵那からよく聞いているよ」

 

「……そうなんですか」

 

「いつもあまりにも楽しそうに話すもんだから、私も少し妬けてしまってね。どんな男なのかずっと気になっていたんだよ。以前会った時はほんの少ししか顔を合わせなかったからね」

 

 いつの間にか空になっていた私の器に注がれるお酒。

 

「そこの扉を開いて入ってきた君を見た時、本当にあの時の彼だったのか少し疑問に思ったよ。雰囲気があまりにも変わっていたから」

 

「……そんなに変わっていましたか?」

 

「あぁ、変わっていたとも。さっき食事の前に座っていた時だって、ずっと何を話そうか迷っている様子だったし、ずいぶん分かりやすかったよ」

 

「私もあまり話す方では無いから、君の気持ちも何となく分かるんだ。今だって結構頑張って話してるんだよ?」

 

 おどけて見せた旦那さんに暖かさを感じた。酒のせいか私は少しふわふわする頭で彼の話を聞いていた。ここからが本題だと言わんばかりに姿勢を正した彼に釣られて私も背筋を伸ばす。

 

 

「単刀直入に聞くんだけどね、君は恵那のことが好きかい?」

 

「はい、私は恵那さんの事を愛しています」

 

 迷うことは無かった。驚く程簡単に口から出てきた言葉に自分でも驚いたが、自身の気持ちに嘘をつく事は出来ないし、つくつもりも無かった。

 

 

 

「……そうか」

 

 真っ直ぐに彼の目を見ながら言い切った私に満足したようで、そこから彼は先程までの無言の状態に戻ってしまった。

 

 

「ようやくおわったよ〜」

 

「……お疲れ様です」

 

「あ! 優太さんお酒飲んでる! お父さんずる〜い」

 

「恵那はまだ未成年でしょう? 我慢しなさい」

 

 洗い物が終わったようでテーブルへと戻ってきた彼女は私たちがお酒を飲んでいるところを目撃し駄々をこねる。そんな彼女を窘める奥さん。

 そろそろいい時間だ、見上げた時計の針は十時を指していた。

 

「……そろそろお暇させていただきます、今日はご馳走様でした」

 

「あらもう帰っちゃうの? もっとゆっくりしていけばいいのに」

 

「……いえ、あまり迷惑かけられませんから」

 

「それなら私、家まで送っていくよ!」

 

「あぁ、そうしなさい」

 

 お土産にと日本酒を渡された私は斉藤さん夫妻に見送られながら、恵那さんと一緒に家へと帰っていく。

 酔いが回り火照った体を冬の夜風が冷ましていく。二人きりで夜道を歩く間は珍しく会話が無かった。

 

 

 

 

「……今日は、ありがとうございました。久しぶりの賑やかな食事でとても楽しかったです」

 

「私も楽しかったよ! また一緒にご飯食べようね!」

 

 エントランスまでたどり着いた私は改めて今日の感謝を伝える。少し別れが名残惜しいが、また会えるだろう。そう思えるくらいに今日はとても楽しかった。

 

「それじゃ! またね優太さん!」

 

「……えぇ、また。恵那さん」

 

 来た道を引き返して行く彼女を見送る。

 

 

 その時、私は無意識に彼女の手を掴んでいた。

 

「! ど、どうしたの? 優太さん?」

 

「恵那さん」

 

 なぜ引き止めてしまったのかは分からない。それでも私は、本当は理解しているのだろう。

 

 

 

「私は、あなたのことが好きです。愛しています」

 

「っ!!」

 

 

 突然の告白に驚きで声が出ないのか、私の顔を見上げる彼女は動きが止まってしまった。月明かりに照らされた彼女の瞳は涙で潤んでいた。

 しまったと思った時にはもう遅い。私の手を振り払った彼女は駆け出して行ってしまった。

 

 

 確かに誰だっていきなりそんな事を言われては困るだろう。彼女には申し訳ないことをしたな、と自戒しながら私はゆっくりと玄関へと続く階段を登るのだった。

 

 そこからどうしたかはあまり覚えていない。シャワーを浴びた気もするし、浴びなかったような気もする。

 

 気が付いた時にはもう朝になっていた。スマホの通知には各務原さんからクリスマスキャンプに行かないかという文言のメッセージが来ていた。特に断る理由も無いので、

 

[恵那ちゃんも来るよ!!]

 

 

 ……ちょっと今の私には断る理由になるかもしれないが、彼女に会う機会を減らす理由にはならないと思った私は、参加の意思を伝えるのだった。

 

 初めて持った両親以外への好意、どう消化すれば良いのか分からなかった私はもやもやとした気持ちを抱えながら一日を過ごした。

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 (やっちゃったぁぁ!!! 私のバカァ!!!)

 

 彼からの突然の告白に動揺して、返事をするどころか手を振り払って家まで全力疾走してしまった私は布団の中で悶え狂っていた。あまりの嬉しさで感情を制御しきれなかった私は、あそこで考え得る最も悪手な、その場からの撤退という道を選んでしまったのだ。

 

「ワフゥ」

 

「うぅ……」

 

 呆れたような鳴き声を出すちくわを恨めしそうに見つめながら、私は呻き声をあげることしか出来ない。

 

 (今度会えた時は、ちゃんと謝って返事をしなきゃ……!)

 

 そう心に決めた私は布団を被って寝ることで現実から逃げたのだった。

 

 

 

 そこから数日間、今まで出会えていた事が嘘のように散歩の道で二人が遭遇することは無かった。

 

 




 いっぱいすち
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