私達が戻ってきた頃には既に全員が集合していた。恵那さんも含めて。彼女と目が合うと気まずそうに顔を赤らめながら目をそらす。どうやら完全に嫌われてはいないようだ。
(良かった)
そんな様子に安心感を覚えつつ、穏やかな心で私は彼女のことを目で追っていた。
ーーーー
(どど、どうしよう! 気まず過ぎるよ!)
一方こちらはまったく穏やかではなかった。数日ぶりの想い人との再会で喜びを爆発させていた彼女は、その思いとは裏腹に彼と目があった瞬間に思わず視線を逸らしてしまう。その後もちらちらと相手の様子を伺うが、特に気にしていないようなので、少しほっとした。
先に来ていたリンは少し離れていたところにテントを設営していたようで、みんなでキャンプギアを見に行くことになった。優太さんはお酒を飲んで寝てしまっている先生の付き添いで残ることにしたようだ。
リンのキャンプギアを一通り見終えた私たちは、また優太さんたちの元へと戻っていく。大垣さん、犬山さん、なでしこちゃんの三人は早く焚き火がしたかったようで、足早に走っていってしまった。
「私達も戻ろっか」
「そうだね」
リンと二人でゆっくりと歩き出す。すると隣を歩くリンは、ずっと何か気になっていたようで私に聞いてくる。
「斉藤」
「ん? どうしたの、リン?」
「瑞浪さんと何かあった?」
「……」
バレてたかぁ。どう返事をしたら良いのか分からなかった私は黙ってしまう。
「斉藤がそこまで悩んでるの見るの初めてだからさ、ちょっとお節介かと思ったけど心配で」
「ありがとう、リン。でも大丈夫、私がちょっとうじうじしてるだけだから」
「なら良いんだけど」
突き放すような言い方になっちゃったかな。でも本当の事だし。リンが人の事を深く聞いてくるなんて珍しいこともあるもんだなぁと呑気なことを考えていた。
「リン、本当にありがとうね」
「ん」
そっけない返事だったが、確かに勇気を貰えたのを感じた。リンなりの優しさを確かに感じた私は、心がふっと軽くなった。
このキャンプのどこかで優太さんと二人きりになれたら、今度こそちゃんと返事をしよう。そう決心した私は、リンと二人でみんなの待つテントへ戻って行った。
ーーーー
私の目線の先で彼女らは、ちくわと共にフリスビーで遊んでいた。たまたまキャンプ場で居合わせた知らない子供たちも混ざって元気に走り回っている。
私の隣では先生が相変わらずイビキをかきながら爆睡している。もう最初のしっかりとした人という印象は(今更だが)完全に消え去っていた。
こんな時でも思わず目で追ってしまうのは彼女のこと。距離があるためあちらには気付かれて居ないだろう。
戻ってきた彼女らは、料理を始める前に子供たちから貰ったらしいクッキーと共にココアを入れる。
「ココアには意外とラム酒が合うのよ」
瑞浪さんもやってみます? という先生の誘いを受け、ラム酒入りのココアを飲む。確かにこれは美味しい。冷えた体に、暖かいココアの甘さとラム酒の酒精がゆっくりと広がっていく。
もうちょっと入れてもいいわよねーなどと言いながら、先生はどぼどぼと凄い勢いでラム酒を追加している。もうそれ八割くらいラム酒なのではないか。
「あ、見て! キレイな赤富士!」
恵那さんの声を聞いてみんなが振り返る。そこには夕日に照らされる富士山が赤く輝いていた。どこか現実離れしたその美しさに誰もが目を奪われた。
「キレイやなぁ……」
しばらく皆で同じ方向を見ながらココアを楽しむのだった。
ーーーー
「さて、暗くなる前に夕飯の支度始めるでー」
そんな鶴の一声で始まった調理。今日はクリスマスということですき焼きらしい。
クリスマスということで、すき焼き……?
頭にハテナが浮かんだのは私だけではないようだ。私以外のみんなも理解出来ていないようで、真顔のまま固まっていた。
犬山さんが福引で当てたらしい高級肉はとても美味しかった。皆それぞれ美味しいという感情を表に出しながらすき焼きを食べる。
「なぁイヌ子、どうして晩メシすき焼きにしようと思ったんだ?」
すき焼きの美味しさに思わず忘れかけていた疑問を大垣さんは改めて問いかけた。
どうやら彼女は祖母に突然手に入れた高級肉をどうやって調理しようか聞いたそう。その時にすき焼きは特別な日にみんなで頂くものという理論にゴリ押しされた結果すき焼きを作ることにしたらしい。
ばーちゃんに騙されてる騙されてると笑う大垣さんに各務原さんは笑いながら言う。
「でもこんな風にお鍋囲むの、日本の年末って感じがして
すごくいいと思う」
そんな一言から皆の家のすき焼き談義が始まった。私は家族ですき焼きを食べた記憶はとうに昔なので参加することは出来なかったが、その場の優しげな雰囲気を楽しんでいた。若干一名、すき焼きに合う日本酒を忘れたとすすり泣いていた人がいた気がするがきっと気のせいだろう。
ふと見上げた時にまた恵那さんと目が合う。また視線を逸らされるかと思ったが、今度こそ彼女はふっと優しく笑ってくれた。
「あ! 忘れてた!」
突然立ち上がった恵那さんはゴソゴソと大きな荷物を漁り何やら赤いものを取り出す。どうやらそれは仮装グッズのようだった。
年末戦隊サンタクレンシャー!!(全員レッド)
上から着るだけのそれらを身にまとった彼女らは思い思いのポーズをとった後は満足したようで焚き火の周りへと戻ってきた。私の分もちゃんとあった。
ちくわは先程までつけていた兎の耳の代わりにトナカイの角を装備していた。かわいい。
「なんか仕事終えたサンタが打ち上げしてるみてーだな」
焚き火台を囲む七人の背中はどこか哀愁を漂わせていた。
ーーーーー
おま○け
余談だが、実はサンタクレンジャーは我々の第二形態だったのだ。ということはもちろん第一形態がある。
「みんな、こうするとぬくいですぞ ふひひひ」
「出たな怪人ブランケット」
秘密結社ブランケット
全身をブランケットで覆った各務原さんの真似をして、皆それぞれブランケットに身を隠す。
先生の膝元で毛布にくるまっているちくわはこの秘密結社のトップ、チクワ総帥。ちなみに私はその右腕らしい。
参謀くらいの位置付けだろうか。
怪しげな雰囲気を漂わせる六人と一匹は、夜空に浮かぶ月と満天の星空を眺めながらぬくぬくと丸まっているのだった。
ノンストップです