「そろそろ具材追加しない? もうお肉しかないよ?」
「いや、こっちのはもうおしまいや」
すき焼きを堪能していた我々だったが、まだいくらかの肉を残してとうとう具材が底を尽きてしまったようだ。
「え、でもまだお肉こんなにあるよ?」
「こっからはこいつでお色直しや!!」
各務原さんの心配を払拭する元気な掛け声とともにトマトを取り出した犬山さん。トマト、たまねぎ、バジルを投入してあっという間にトマトすき焼きを錬成してしまった。
「「「「トマトすき焼き?!!」」」」
犬山さんの機転により、普段は味わえない一風変わったすき焼きを堪能することが出来た。
これまた若干一名、ワインが合うのにとすすり泣く声が聞こえるがきっとこれも気のせいだろう。……やめてください、寄りかかって来ないでください、持ってませんから私も。いや恵那さんがすごい笑顔でこっち見てるから本当にやめて。笑ってるはずなのに絶対笑ってない事だけはわかるから。
その後カセットコンロのガスが切れてしまい換えのガス缶も無いことに気付き、大人組は飲酒していたためリンちゃんがそれを買いに行く際に『みんなでキャンプするのも悪くないかもな』と思う一幕があったが、それは別のお話で。
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「楽しかったよちくわ……! また遊ぼうね!!」
「もう聞こえとらんでなでしこちゃん」
「チワワって寒いの苦手だったんだ……」
「うん、だから一泊泊まるのはちょっとね」
流石にちくわは師走の夜に耐えられないようで、迎えに来た恵那さんの父親が引き取られて行った。最後に各務原さんが別れの挨拶をするも、既に鼻ちょうちんを膨らませているちくわには届いていないようだった。
トマトすき焼きも食べ終わり、そろそろ一区切りをつけて風呂に入った方が良い時間だろう。
「……私が焚き火の番をしますから、どうぞ皆さん先に入ってきてください」
「ええの? ありがとうな〜」
「それなら私も残るよ、一人で番させるのも可哀想だしね」
「そうか、ならよろしくな! ほら、先生も行きますよ。酔い覚ましてからって言いながらお酒を注ごうとしないでください」
もう最初の頼もしい姿は見る影もない。生徒に引き摺られながら風呂へと向かう鳥羽先生を見ながら、ちびちびと残りの酒をあおるのだった。
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大浴場の方へと歩いて行った大垣さんとその他大勢を見送った私と恵那さんは、テントの横にある焚き火の元へと帰ってきた。
しばらく私たち二人は無言で焚き火を眺めていた。時折、新しい薪を追加しながら火を絶やさないようにゆっくりと燃やしていた。ゆらゆらと揺れる炎を見ていると心がとても安らぐのは何故だろうか。
ふと、どちらからともなく空を見上げる。そして思わず口から出た言葉は、その光景を見て漏れるようにして出たものだった。
「……月が、綺麗ですね」
……あ。言ってから気付いた。これはまずい。純粋に月が綺麗だと言いたかっただけなのに、ド定番の言い回しのようになってしまった。一度真っ直ぐな言葉で告白をしたばかりなのに、これではまるで催促するようにもう一度伝えているようではないか。
引かれて居ないだろうかと、まるで壊れたブリキの玩具のようにゆっくりと隣に座る恵那さんに恐る恐る顔を向ける。
しかし、そこには月明かりに照らされる恵那さんの笑顔があった。
「死んでもいいわ」
「……」
「なーんてねっ ♪ 」
「……」
びっくりした。本当に驚いた。心臓が口から飛び出してしまうのでは無いかと思えるほど早鐘を打っている。
小悪魔のような表情を浮かべる彼女を見ているとなんだか許せてしまうのが不思議だ。私の反応を見て彼女は満足したのか、ブランケットを横に置きすくりと立ち上がる
「二回も言われて、返事を返さないのも可笑しいしね。だから、一回目の返事も、ここでするね」
「私も優太さんのことが好きです、
私とお付き合いして下さい」
「はい、喜んで」
感極まったような表情で胸に飛び込んでくる恵那さんをそっと抱きしめると、お互いの体温が交差する。先程より、一際早く鼓動を刻む私の心臓の音を、彼女にも聞こえているだろう。
何故なら、私も恵那さんの鼓動の音がうるさいほど伝わってくるからだ。
しばらく抱き合っていた私たちだったが、そろそろ他のみんなが上がってくる頃だろうと、名残惜しいながらもお互いの体を離す。
少し恥ずかしそうにはにかむ彼女を見つめながら、私もそれに答えて笑顔を返す。私はちゃんと笑えているだろうか。
彼女の反応を見る限り、大丈夫そうだ。
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帰ってきた先鋒組と交代した私たち二人は大浴場に向かった。元々ここは研修施設らしく、まるで林間学校のような雰囲気を感じる。
当然男湯と女湯は別れているので、出口付近で待ち合わせをして別れるのだった。
大人数が一気に入ることを予想して作られている大浴場は、私一人で入るものとしてはいささか広すぎるものだった。
焚き火でついた煤や煙の香りを備え付けのシャンプーで丁寧に落としていく。頭と体を洗い終えた私は湯船に浸かる。
冷えて凝り固まった体を優しく包み込むようなお湯の感覚に全身を脱力させる。
(新城さん。貴方の言っていた意味、今ならわかる気がします)
直近でお湯に浸かる体験をした時のことを思い出して、私はゆっくりと一日の疲れを癒すのだった。
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先に上がった私は待ち合わせ場所で待つ。随分ゆっくりしてしまったと思い足早に出口へと向かったものの、まだ彼女の姿は無かった。やはり女性の入浴は男が思っているよりも長いものらしい。
想定外の時間が出来てしまった私はいつものクセで、ポケットから煙草を取り出す。
(もう、こいつは要らないな)
どこか吸う気にならなかった私は、中に何本か煙草が残っていたソフトケースをくしゃりと丸めるとゴミ箱へ放り投げた。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、僕も今出たところだよ」
「そっか! それなら良かった ♪ 」
恵那さんの前でなら、ありのままの自分でいられる。流石の僕もそれには気付くことは出来た。
「恵那さん、実は今日のキャンプ行こうかずっと迷ってたんだ」
「恵那さんじゃなくて恵・那、もう付き合うことになったんだからさん付けなんて寂しいじゃん! それで? なんで迷ってたの?」
「ごめんごめん。このあいだ恵那に告白した時、泣きながら走っていくもんだから嫌われちゃったかと思ってさ」
「うっ……それはごめんなさい……。でも! いきなり言われて私だってびっくりしたんだから! そんな風に想ってくれてたなんて知らなかったし……」
「それもそうかもな」
お互いの気持ちを確かめるように会話を続けていると、なにかに躓いてしまったのだろうか、急に彼女が蹲った。
「? どうした、恵那。大丈夫?」
彼女を心配してゆっくりと近付く、するとこちらを向いて小さく手招きをしている。なにか見つけたのだろうか。暗いからあまりよく見えないな、彼女の前にしゃがんで顔を覗き込もうとする。
僕が近くまで寄ったのを確認して、彼女は顔を上げる。
闇夜を照らす月明かりから伸びた二つの影が、そっと重なった。
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目の前には、少女達が焚き火を囲む暖かな風景。マシュマロを焚き火に近付ける子もいれば、ココアを飲んでいる子もいる。皆それぞれ自由に過ごしている。とても楽しそうだ。
僕は、こんな光景を見られるなんて、数ヶ月前には夢にも思わなかっただろうとコーヒーを飲みながら思いふけっている。
すると、こちらを見ていた恵那と目が合う。彼女は輪の中から抜け出し、僕のそばに来てこう言った。
「優太さんと会えて、私本当に幸せだよ ♪」
「……あぁ、僕もだよ」
という事でひとまず完結です。いい感じに纏めることが出来た気がします。お付き合い頂きありがとうございました!