感想と評価が来てテンションMAXになった結果生み出されました。
それではどうぞ。
「ご馳走様さまでした。お返しと言ってはなんですが、近所で和菓子買ってきたので皆さんで召し上がってください」
「あらあら〜わざわざありがとうね。もし良かったら上がって行きなさいな、ちくわも喜ぶわ」
「ありがとうございます」
斉藤家のインターホンを鳴らすと、パタパタとスリッパを鳴らしながら奥さんが玄関から顔を出す。前回料理をおすそ分けしてもらったお返しに手土産(ご近所に住んでいるので何処の和菓子かは丸わかり)を手渡した僕を家に上げてくれるそうだ。
昨日は色々あって気まずかったため断ってしまったが、今日は別にそんな理由もない。お言葉に甘えさせて頂くことにする。
「お茶を入れてくるから、ちょっとまっててね」
「どうもありがとうございます」
「ワンッ」
奥さんは僕を居間に案内するとキッチンに消えていった。代わりに現れたのはちくわだ。久しぶりだなとでも言いたげな凛々しい顔でこちらを見上げている。
(そういえば恵那と出会えたのもちくわのおかげか)
あの時偶然サービスエリアで休憩していたから、偶然ちくわが飛び出してやってきたから、そして散歩道で偶然再会することが出来たから。
度重なる偶然によって今の自分があるのだと思うと、このちくわと言う犬に何か特別な力があるんじゃないかと思わせる。何かの神の生まれ変わりだろうか。
「ハッハッハッ、ワフン」
「……気のせいだな」
少し撫でてやると、嬉しそうに腹を見せて寝そべって見せる。威厳もへったくれもないその姿にありもしない考えを霧散させる。まぁ幸せそうな顔をしているし、別にいいか。
「どうぞ〜」
「わざわざありがとうございます、頂きますね」
「そんなに畏まらなくて良いのよ〜。ちくわも遊んで貰えて良かったわねぇ」
「ワンッ」
テーブルに置かれる湯呑みからは、淹れたてのお茶特有の良い香りと暖かな湯気がふわふわと漂っていた。先程僕が持ってきた茶菓子も一緒に出ている。
奥さんに促されるままソファに座った僕の膝にちくわが跳び乗ってくる。ベストポジションを見つけたらしい彼は満足そうに丸くなったと思うとすやすやと寝息を立て始めた。
程よい重さを足に感じながらお茶を啜る。美味い。
「なんか息子が出来たみたいで嬉しいわぁ〜」
「そうですか」
「恵那って一人っ子じゃない? それでも十分幸せなんだけど、息子が居たらどんな風になってたのかな〜って想像することは偶にあるのよ」
ニコニコと笑いながら僕を見る奥さんは本当に楽しそうだった。
「あの子、とってもマイペースだけど可愛くて良い子だがら学校とかでもお友達は直ぐに出来てたのよね。それでも男の子とのそう言う話は今まで一度も無かったのよ。だからこの間君を家に呼びたいって話聞いた時、私とっても嬉しくてお夕飯作りも張り切っちゃった ♪ 」
「あの時は本当にお世話になりました」
奥さんから恵那の昔の話を聞いた。どうやら今とあまり変わらないらしい。休日は昼になるまで布団から出てこないし、平日も毎日眠気まなこで学校へと出ていくようだ。
それらの話を聞いていると、僕はまだ彼女のことをあまり知らないらしい。普段はどんな風に過ごしているのか、好きな食べ物や得意なこと。多分好きな犬はちくわだし、好きな人は僕であると信じたいがどうだろうか。
もっと彼女のことを知りたい。
「奥さん、僕にもっと恵那さんのことを聞かせてくれますか?」
「えぇ、良いわよ! どこから話そうかしらねぇ」
ガチャッ
「ただいま〜! 優太さん来てたんだ!」
「お邪魔してます」
今にも話を始めようとしていた奥さんを遮ったのは帰宅してきた彼女だった。玄関で靴を確認したのだろう、私を見るなり嬉しそうに駆け寄ってくる。ちくわもただいま〜と声をかけながら私の横に腰掛ようとする彼女を奥さんが止めた。
「こ〜ら、まず手くらい洗いなさい」
「は〜い」
「戻ってきたら話の続きをしましょうかね」
「何の話してたの?」
「あなたの子供の頃の話をしようかと」
「ちょっとなんでそんな話になってるの?!」
「えぇ〜いいじゃない少しくらい」
何か話されたら不味いことでもあったのだろうか、慌てた表情を浮かべた彼女は急いで自分の部屋へと僕を引っ張って行った。
と思ったら彼女は、自分が着替えていなかった事を思い出したようでまたすぐに締め出されてしまった。
「お待たせ、入っていいよ〜」
しばらくちくわと戯れていると再び部屋から声がかかる。ドアノブを捻って中へ入ると、私服に着替えた彼女が立っていた。ジーンズにTシャツというラフな姿で再会した彼女の居る部屋をぐるりと見渡す。青で統一された清涼感の有る部屋はとても綺麗に整っており、彼女の性格がひと目でわかるそんな部屋だった。
「お邪魔します」
「ちょっとそこ座ってて、飲み物持ってくるから」
そう言うと彼女は部屋を出て行った。ちくわと共にテーブルの前に座り込む。ふとベッドの方へ視線をやると、クリスマスキャンプの際に皆で撮った写真が立てかけてある。
つい数日前の出来事である筈なのに、随分前の出来事のような気がしてならない。
「お待たせ〜はいこれお茶」
「ありがとう」
「お母さんから私の事何か聞いた?」
「いやほんの触りだけ、詳しい事は何も。何か聞かれたら嫌なことでもあったかな、だとしたら謝るよ」
「そんなんじゃないよ! ……ただ何となく恥ずかしくて。それに! 優太さんに聞いてもらうなら、私のことは私が話したいし……」
もじもじしている可愛い彼女を見ながら微笑む。いつの間にか僕の膝を陣取っていたちくわもどこかニコニコしているようだった。
「それにしても優太さん、良く笑うようになったよね〜」
「だとしたら恵那のおかげだよ。君と出会えたから僕も変われたんだ」
「っ! 結構恥ずかしいことズバズバ言うよね」
事実なのだから仕方ないだろう。後悔ばかりの今までだったからか、これからは後悔する事が無いように行きたいと思っている。そんな気持ちは止められないし止めるつもりもない。
「……でも、ちょっと心配だなぁ」
「? 何が?」
「今まで無口で無表情、愛想もまるで無かった優太さんだから皆君の魅力に気付かなかったんだよ」
(酷い評価だな)
「無口のままでもカッコよかったのに、それが今みたいに笑顔が出るようになっちゃったら、私みたいに好きになっちゃう人も絶対出てくる。……だからちょっと心配」
おかしな事を言う子だな。いくら僕が好意を抱かれたとしても、僕が好きなのは恵那だけだ。何を心配することがあるのだろうか。
それでも寂しそうな顔をする彼女を放っておく訳にはいかない。そっと彼女を抱き寄せると安心させるようにゆっくりと話す。
「心配しなくても僕が好きなのは恵那だけだよ」
「今はそうかもだけど……」
「今までもこれからも、これは変わらないさ」
「……なら証明して」
そう言って少し離れた彼女を見つめる。熱を帯びた瞳を覗くと彼女の言いたいことは自然と伝わる。
それくらいお易い御用だ。望むなら何時でも何度でもしよう、僕にできることなら何でも。
ゆっくりとお互いの顔が近付き、例のカップル用ストローが何だったのかと思える程に簡単に距離を詰めていく……。
短いような長いような、そんな瞬間だった。唇に残るのは柔らかさと僅かな体温の記憶。まるで麻薬のように分泌された幸せが脳に響き渡る。もう一度その甘美な感覚を味わおうと再度顔を近付けるも、それが叶うことは無かった。
そう、奥さんの乱入によって。
「優太くん! お夕飯食べて……お邪魔だったかしら?」
「お母さんっ?!」
「ごめんね〜、ごゆっくり〜」
改めて現状を理解した僕たちは、いそいそとテーブルの対面に離れて座った。そんな状況がなんだか可笑しく思えてきて二人同時に吹き出す。
彼女の顔には先程までの不安や寂しさといった感情は、もう見えなかった。ただ楽しそうに笑う彼女を見てとても安心する。
「お夕飯食べてく?」
「お言葉に甘えさせて貰おうかな」
「それじゃ行こっか」
そう決めた二人と一匹は居間へと続く階段を降りていく。
後ほど奥さんに死ぬほど弄られたのは言うまでもない。
彼女とか連れてくと母親って必ずと言って良いほど昔の話したがりますよね。
それだけで一本論文書けそう。
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