グランピングだよ!
ピンポーン
朝から真夏の太陽とアスファルトで熱波のサンドイッチを食らっている現在、けたたましく鳴くセミの声をBGMに、僕は斉藤家の前に立っていた。家の前にバイクを停め、ヘルメットを片手にインターホンを鳴らす。
恵那は今年受験生ということもあり、勉強を頑張っている時間が多かったが、流石に根を詰めすぎていたようで疲れが目立っている。そこでなんとかリフレッシュさせてあげようと思い、こまめに通話を重ねていると、その中で二人で小旅行にでも行こうかという話が上がった。
無論遊んでばっかりで勉強が疎かになってしまってはいけないが、最近頑張っている事実を知っていたので良い息抜きになるだろう。
当初は日帰りでの旅行にする予定だったが、斉藤夫妻のゴリ押しによって一泊二日の日程へと変わったのだった。そして恵那直々の要望でバイクに乗せて欲しいとの事だったので、荷物が少なくて済むグランピングに行き先が固定された瞬間でもあった。
そうこうしていると、最低限の荷物だけを持った恵那が玄関から慌ただしく出てくる。
「おまたせー! 今日も暑いねぇ」
「全然待ってないよ、それじゃ行こうか」
彼女に続いて夫妻も玄関から顔を出す。
「恵那のことよろしくね!」
「二日間娘さんをお預かりさせていただきますね。しっかりと無事に送り届けることを約束します」
「うん、楽しんでおいで」
「ちくわ、今日はお留守番頼んだよ」
「ワン!」
「「行ってきます!」」
荷物をサイドバックに入れ、恵那用に買っておいたメッシュジャケット、グローブ、ヘルメットを装備させいざ出発。今日の目的地は長野県。川のほとりに位置するグランピング場だ。インカムも繋いであるので道中で退屈することも無いだろう。今日は彼女のを全力で楽しませなければならないという決意を胸にアクセルを回すのだった。
ーーーー
「とりあえず目的地に向かいながら途中こまめに休憩挟むけど、疲れたらすぐに言ってね」
「うん、わかった ♪ 」
出発した僕らは直ぐにインカムのスイッチを入れて会話を始めた。タンデムする際には前後のコミュニケーションが必要不可欠であるため、声でのやり取りがしやすいインカムはとても便利だと最近知った。バイクは後ろに乗る側の、特に普段乗り慣れていない人が乗ると疲れが溜まるのが早いのだ。
「優太さん、今日はありがとうね! 私のわがままに付き合って貰っちゃって」
「こちらこそ、恵那と二人で旅行に行けるなんて願ったり叶ったりだし。それに、受験勉強を頑張っている恵那にはこれくらいのご褒美は必要だからね」
「だったら合格したらもっとご褒美欲しいなぁ〜」
「もちろん、その時はいくらでも付き合うよ」
「ほんとに! 今から色々考えとかないと!」
あそこも行きたいし、あれも食べたいね、と案を次から次に出していく。今まで一緒に居られなかった時間を埋めるように、次の予定を考えていく。インカム越しではあるが、彼女の楽しげな声が耳に入る度に僕も嬉しくなる。
今日は距離がそこまで遠くないのもあり、高速を使わずに下道で行くことにした。高速に乗ったとしても、結局降りてからかなりの割合で下道を走ることになるので、どうせなら全て下道でいいだろうというのも決め手の一つである。
その後も運転が疎かにならない程度に恵那との会話を楽しんでいると、最初のチェックポイントである道の駅に到着した。
「わぁ〜! 結構おっきいね!」
「有名な道の駅で、何度かテレビの取材も来てるらしいよ」
「何があるのかな? 早くいこ!」
僕は彼女に手を引かれながら道の駅に入る。
「ねぇねぇ! コレ見てよ、めっちゃ可愛い!」
うん、立ち止まるのが早いね。もう初手でいちばん入口手前のお土産コーナーに直行したよね。
「確かに可愛いね、りんごを被ったクマか」
「あるくまって言うんだって! ねぇこれ買ってこうよ!」
「決断が早いね」
「もう目に入った瞬間ビビっと来たんだよ。二人でお揃いのやつ買おうよ!」
「いいね。とりあえずそれは決定として、ほかのも見て回ろうか」
「うん ♪ 」
入店するなり見つけたお土産グッズコーナーに小走りで向かった僕らは、リンゴを被った緑のクマというゆるキャラの魅力に抗うことが出来ず購入を決意した。お揃いのキーホルダーを手に売店を物色する。その間もずっと手を握りっぱなしだったので、空調が効いているはずの店内でもずっとドキドキしていたせいか手が少し汗ばんでいるのを感じた。それでも彼女は手を握り続けていたので、少なくとも不快感は与えていないようでほっとした。
その後、日持ちしそうなお土産と今日のグランピングで食べられそうなものをいくつか買うと、僕らは再度バイクにまたがるのだった。
ーーーー
軽い昼食を道中の蕎麦屋で済ませ、何度かコンビニ休憩を挟んだ後に、今日の目的地であるキャンプ場にたどり着いた。一人で行く時より時間をかけて進んでいたつもりであったが、楽しい時間は早く過ぎるというように気付いたら到着していた。夕方近い時間と標高の高さも相まって、真昼の肌を焼くような暑さは身を潜めていた。
バイクから降りた二人は凝り固まった体を伸ばしながらヘルメットを脱ぐ。
「ふぅ〜、着いたねぇ〜」
「お疲れ様、大丈夫だった?」
「ちょっと疲れたけど全然平気だよ。でも真夏に長袖着ると暑いねぇ、よいしょっと」
「流石にメッシュと言えどジャケットは暑……」
「ん? どうしたの急に黙っちゃって?」
「……恵那、……あの……前」
「前って? おろ?」
真夏のツーリング、ジャケット、下に着ているのは薄着。つまりどういうことかお分かりだろうか。そう、汗で張り付いたTシャツが彼女の健康的な身体のラインをくっきりと表に晒してしまっている。咄嗟に目を逸らしたものの、その光景が強烈に焼き付いてしまった為しばらく黙り込んでしまった。
気まずい雰囲気が二人を包む……と思いきや、何かを思いついたらしい恵那は笑顔を浮かべながらゆっくりとこちらに近付き、耳元で囁く。
「……えっち♡」
もうどうにかなってしまいそうだ。
「……本当に心臓に悪い」
「乙女のこんな姿を見ちゃったんだから、責任取ってよね ♪ 」
「勘違いされそうなこと言わないで」
「いーじゃん、別に勘違いじゃないんだし」
「そういう問題では……」
「ほらほら、チェックインの時間過ぎちゃうからはやくいこ!」
そう言ってもう一度ジャケットを羽織り素早く背中側に回り込んだ彼女は、僕をぐいぐいと押しながら受付へと促す。うるさいくらい早鐘を鳴らす心臓をなんとか押さえつけながら僕は歩みを進めるしか無かった。
「ねぇ、このジャケット、旅行の最後にそのまま優太さんに返そっか?」
「プレゼントだから! その装備一式プレゼントだから! 僕の負けです!」
後に駐車場でその一部始終を目撃していた人の証言によると、甘すぎて吐きそうになった、誰だ俺のコーヒーに砂糖ぶち込んだやつは、何らかの税金かかりそう、てぇてぇ、お幸せに、爆発しろ、等のコメントが寄せられており、今後の関係について期待が寄せられています。
ステイ、ステイ、まだだ、抑えろ。