未視聴の方でも分かるように頑張っていこうと思います。
【27】年月
……あれからもう九年程になるだろうか。学生時代の夏に河原で皆とキャンプをしたのが、つい昨日の出来事のように思い出せる。
学生時代乗り越えた僕は今までアルバイトとして働いていたアウトドアショップに就職し、しばらくそこで働いた後に社長の紹介で東京の照島にあるショップに転職した。
主にキャンプギアを中心に扱っているこの職場は、敷地面積も広く毎年シーズン問わずたくさんのお客様が訪れる。
現在はこの店のショップマネージャー見習いとして、この店の一角を任されている。特に転勤などもなく固定で働けているので、比較的距離が近い横浜で働いている彼女と会う時間も取れている。
付き合い初めてそろそろ十年が経とうとしている。仕事も安定してきたし、次の段階に進むことを考えなくては。
とりあえず今は就業時間内、しっかりと仕事をこなさなくては。
「よし、完成!」
「各務原さん、終わった?」
「バッチリです!」
テントを店内に設営し終えた様子の各務原さんに声をかける。数年前に見覚えのある名前の子が入ってきたなと思ったが、まさかこんな所で再会するなんて思ってもみなかった。
同じ職場で働く事になった各務原さんは、入社当初から持ち前の人当たりの良さとキャンプに対する愛を存分に発揮し、今ではこの店の看板店員となりつつある。
時が経つのは早いものだな。
「そういえば優太さんも明日のシフトお休みでしたよね?
恵那ちゃんと会うんですか?」
「いや今日仕事終わりに会う予定。恵那は今日が休みで明日は仕事みたいだから今日のうちに会って、二人でちょっと飲もうかって」
「相変わらずラブラブですなぁ〜 ♪ 私は山梨の実家に帰ろうかと思って、お姉ちゃんが久しぶりに帰ってくるらしいので」
「それは良いね、楽しんで来なよ」
「はいっ店長!」
「店長じゃなくてショップマネージャー、そもそもまだ見習いだし」
軽口を言い合いながらも二人の手は止まることなく動き続けている。営業成績をぐんぐんと伸ばしているこの店の要因の一つは彼らである事は間違いない。今日もまた次々とお客さんがやって来る。
「あのぉ、すみません」
「あっ、いらっしゃいませ〜!」
「焚き火台を探しているのですが、夏以外のキャンプもやってみようと思って」
「いいですね〜! これからのシーズンも楽しいですよ!」
笑顔を浮かべながらやってきた親子の対応をする各務原さん。それを僕は自分の仕事をしながら眺めていた。接客も丁寧、お客様のニーズに応えながら適切な商品を紹介する。相変わらず良い接客をするなぁ。
「調子はどうかね」
しみじみと思っていると後ろから突然声をかけられる。
お客様だろうかと振り返って見ると、そこには思いもよらない人物が立っていた。
「っ! 鏑木社長! ご無沙汰しております!」
「そんなかしこまらんでいいわ、ちょっと様子を見に来ただけだ。……あの店員は良いな、ショップ店員としては理想のような姿だな」
今では僕の恩人の1人とも言える鏑木社長。学生の頃からこの人にはお世話になりっぱなしだな。
元々アルバイト先にエリアマネージャーとして訪れていたのは社長の椅子に座る前の視察であったようで、彼は何事も自分の目で見ないと気が済まない性格のようだ。
今働いている職場もこの人の紹介で入社した。どうやら社長同士が知り合いだったようで、転職の話が僕の方まで来たということらしい。お世話になった人の頼みを断るつもりも無かったが、何より新しい経験が出来るという話を聞いて僕は二つ返事で首を縦に振ったのだった。
そんな彼は現在、各務原さんを見て懐かしそうに目を細めていた。
「彼女は良い、君の若い頃とは大違いだな」
「……返す言葉もございません」
「なぁに、冗談だよ。あの時の若造が立派になったもんだな。本当に、アイツに紹介して正解だったよ」
「そう言って貰えるとありがたいです」
「ああいう店員が、これからもこの業界を明るく照らしていくのかもしれないな」
「そうですね」
「……おい彼女、いま他の店の商品を紹介しおったぞ」
「あはは……」
二人が見ている目の前で向かいの店を紹介して見せた。何か言いたげな鏑木さんだったが、うちはあれでいいのだ。
「でも、きっとあの家族はまたうちに来てくれますよ。
その場で商品をただ売りつけるのではなく、お客様の事を考えて商品を紹介する。それが他店のものであろうと構わない、お客様が本当にキャンプを楽しんで貰えることを第一に考えているんですよ彼女は。私はそれを咎めるつもりは毛頭ありません。」
「言うようになったでは無いか」
「それでも、本心です」
真っ直ぐ彼の目を見ながら言った。建前は一切ない、十割本音で話した。それで怒られるなら仕方がない。
「……本当に過去の私の選択は間違っていなかったと思えるよ。また来る。」
生意気に育ったもんだと零しながら去っていく彼はどこが楽しそうだった。なんだか初めて認めて貰えたような気がして、とても嬉しかった。
高鳴る鼓動を抑えながらも、挨拶は欠かさない。
お客様のお帰りだ。
「またのお越しをお待ちしております!」
手をひらひらとたなびかせながら彼は店を後にするのだった。
ーーーー
仕事を終えて横浜駅までやってきた僕は、ホームで待っているらしい恵那を探して辺りを見回す。すると彼女が先に僕の事をを見つけたようで、笑顔を浮かべながら駆け寄ってくる。
「優太! おしごとおつかれ〜」
「ありがとう恵那、ちょっと待たせちゃったかな」
「ぜんぜん! お店予約してあるから行こっ!」
「あぁ」
一週間ぶりの再会を喜びながら腕を組むと目的の店まで歩き出す。こまめに電話やLIMEで連絡は取っているものの、やはり直接会うのが一番だな。
「とりあえず生中とレモンサワー、いつものおまかせ五種盛りをひとつお願いします!」
「あいよ!」
どうやらこの店は彼女の行きつけの店のようで、流れるように注文をしてくれた。届いた料理と酒を談笑しながら平らげていく。
楽しそうに笑っている彼女を見れば、仕事での疲れも吹き飛ぶというものだ。
「そういえば、各務原さんはこの週末山梨に帰るらしいよ」
「へぇ〜そうなんだ。私も今度の休みは久しぶりに帰っても良いかもね〜」
「僕はこの間、名古屋の実家に行ってきたよ。今回の休みは山梨に戻ってみるかな」
「私の家にも寄ってきなよ! お母さんもお父さんも、勿論ちくわだって、きっと喜ぶよ ♪ 」
「そうだな……。なぁ、恵那」
そろそろこれからの事についても話して良いかもな。そう思い、意を決して話題を振ろうとした時だった。恵那と僕の携帯がほぼ同時に鳴る。
ピロン
ピロン
「ん? こんな時間になんだろう?」
「……大垣さんからか」
内容はどうやら大垣さんと志摩さんが名古屋にて二人で飲んでいるらしい。無理やり肩を組んで撮ったであろう自撮り写真がでかでかと表示される。
[リンと手羽先、うまし!]
[タクシーで山梨へ爆走中! メーターやばいぜ!!]
[みんな高下にしゅうごうだ!!]
立て続けに送られてくるメッセージと画像を、僕は複雑な気持ちで眺めていた。大垣さんに悪気が無いのは分かっているのだがタイミングがあまりにも悪かった。
へぇ〜久しぶりに皆あつまるんだ〜、と彼女は楽しそうな雰囲気を出している。
……まぁまた今度でも良いか。
「楽しそうだけど、私あした仕事だから行けないや。優太はどうするの? 行ってくる?」
「いや、恵那が行くタイミングで僕も行くよ。一人で行っても仕方ないしね」
「そっかそっか、それじゃ今度休み合わせて一緒に行こ ♪ 」
「そうだな」
無事に今度会う予定を立てることの出来た僕たちはお酒を飲み進める。明日が仕事という事もあり彼女はだいぶ飲む量を抑えていたが、ずっとシラフという訳でも無い。
へにゃへにゃとしなだれかかってくる彼女を受け止める。
「ゆうたぁ〜」
「あんまり飲みすぎるなよ」
「わかってるってぇ〜」
「仕方ないな」
「そういえばぁ、さっき何か言いかけて無かった〜?」
いきなり核心をついてきた恵那に少しドキッとする。この流れで話すような内容でも無いし、この場はどうにか誤魔化さなくては。
「っ! ……キノセイデハ?」
「あぁ〜! また嘘ついてる! すぐバレる嘘つくのやめようよぉ〜!」
「ごめんて、また今度話すから」
「ほんとにぃ〜? 約束だよ?」
一瞬で看破されてしまったものの、今回は温情がかけられたようだ。
えぇはい僕はチキンですよ、そうですとも。
その後会計を済ませた後、彼女を家まで送り届けて自分も今住んでいる自宅へと帰るのだった。
この時僕は、これからあんなにも大きなプロジェクトが動き出そうとしているとは夢にも思っていなかっただろう。
今後どうなるのか楽しみですねぇ。
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