ゆるキャン△ 愛故に   作:狭間です

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【4】浩庵キャンプ場にて /

 

 

 サイドバッグをつけた自転車をこぐお団子頭の少女が一人、本栖湖を横目に走り抜けていく。普段静かな彼女であるが、傾斜がある坂道とワインディングを自転車で走る姿にどこか力強さを感じざるを得ない。最低限の荷物だけを持ち、上半身に比べて少し薄着のように感じる足元だったが、自転車を漕いでいるからか彼女の額には少しだけ汗が滲んでいた。

 

 

 (今日は雲でよく見えないか)

 

 雲が無ければ綺麗に見えたであろう富士山を視界に捉えると、少し立ち止まってみる。この展望台を過ぎればもうすぐ管理棟だ。スマートフォンの時計を確認すれば十四時を回っていた。昼前に出発したが、今日はゆっくり走っていたのでら思ったより時間が過ぎていたようだ

 

 (もう2時だ)

 

 ペダルをこぐ足にいつもより少しだけ力が入る。もうそろそろキャンプ場の管理棟が見えてくるだろうか、そんな事を考えていると、この場に不釣り合いなほど気の抜けた音が聞こえてくる。

 

「ぐぅ〜〜……、すぴ〜〜……。」

 

 (……なんだあれ)

 

 音の主を確認した私は困惑半分、呆れ半分のよく分からない感情を抱いた。そこには公衆トイレのベンチで眠る少女が一人。綺麗な長いピンクの髪をした少女はそこそこ大きな寝息を立てながら爆睡している。

 

 見ず知らずの少女だったので、特に起こそうという気持ちが湧く訳でもなく、一瞥した後私は再度ペダルに足をかける。

 

 (あれは確実に風邪引くな)

 

 再度ペダルに足をかけて前へと進む。間もなくして管理棟についた私は、先客であろうバイクの横に自転車を停めた。

 

「あれ? バイク? 」

 

 そこにはオフシーズンだと言うのに、サイドバッグを着けたバイクが一台停まっていた。この時期にキャンプをする人は珍しいな、などと自分のことを棚に上げながら思ってみる。それにしても……

 

「おじいちゃんのバイクに似てるな」

 

 確か、とらいあんふ? だったっけ。おじいちゃんの乗ってるバイクと同じメーカーかな。おじいちゃん以外で乗ってる人初めて見たかも。まぁそんなに注意して見てないし、そもそも私まだバイクの免許取ってないし。よくは分からないかな。

 

 (原付の免許くらいなら私でも取れるかも。そうしたら今よりもっと楽に、そして遠くのキャンプ場まで行けるようになるな)

 

 バイクに視線をやりながら管理棟に入ろうとすると、ちょうど出てくる所だったお兄さんとぶつかりそうになる。

 

「あ、すみません」

 

「……こちらこそ、すみません」

 

 私は反射で謝罪を口にする。すると彼も結構身長が高い、180はあるだろうか? 見下ろされる形になった私に、彼は軽く会釈をして横を通り過ぎて行った。

 

 (……なんだか静かな人だな)

 

 どことなくシンパシーを感じた私は彼を視線で追う。しかし幸か不幸か、彼がその後振り返ったり、目線を合わせることは無かった。

 

 こちらに一切興味を示さない姿勢に少し引っかかるような気持ちがあったが、こちらも初対面だったので特に気にすることなく管理人さんに話しかける。

 

「こんにちは、明日まで一泊、お願いします」

 

「はい、ではここに、連絡先と名前を書いてください」

 

 必要事項を書き終えた私を見て、管理人さんはチェックアウトの時間と薪は林の中にあるものを自由に使うように告げる。

 

 

 

 湖畔サイトへの道を自転車で下る。炊事場を過ぎればすぐそこだ。

 一面見渡す限りの湖、正面には雲はかかっているものの未だ存在感を主張する富士山。

 

 (ほぼ貸切、シーズンオフ最高)

 

 先程すれ違った彼が既にテントを設営し終え、椅子に腰掛けている。あまり近くても気まずいけど、遠すぎるとなんか避けてるみたいで気が引けるな。

 

 そんな誰に気を使っているのか分からない様なことを考えた彼女は、彼のテントから近くも遠くもないちょうど良い場所に自身のテントを広げた。

 

 椅子を出して、そこに座り、私のお気に入りの本である『超古代文明Xの謎』を開く。ふむふむ、そんな謎があったのか。大体は作り話だと理解しているものの、こういった娯楽は私にとって大切なものだ。現実は小説より奇なりとはよく言うが、山梨に住む平凡な私にとってこの小説に書かれている突拍子の無い謎の方がよっぽど奇に感じた。

 

 

 (……彼は何をしているのだろうか)

 

 しばらくすると興味が移り、自然と視線も彼の方に動く。

 

 (……何もしてない)

 

 ジャケットを着たままの彼は、椅子に座ったままただじっと一点を見つめている。富士山か、もしくは湖の風景でも見ているのだろうか。いやそんな様子はない、ただ何となく前を見つめているだけのように見える。

 

 微動だにせず、ぼうっとし続ける彼から何故だか目が離せない。

 

 

 

 そうして、どれだけの時間が経っただろう。しばらくの間彼を見続けた私はふと我に返り、ポケットの中のカイロが暖かさを失おうとしていることに気付く。

 

 焚き火をするとなると薪を集めないといけないし、煙臭くなるしなど、いくつかの葛藤があったが結局私は寒さに耐えきれず焚き火を起こす準備の為に林の中に繰り出すのであった。

 

 

 

 すっかり日も落ち、辺り一面が闇に覆われる。焚き火の明かりだけでは心許なかったのでランタンを出した。静まり返った湖畔に波の音と焚き火がはぜる音だけが響く。そしてそれは唐突に訪れる。

 

(スープ飲みすぎた)

 

 トイレ、もう少し早めに行っておけばよかったかな。

 




 今回はちょっと短めです。全然進まねぇや! 感想、評価等お待ちしております!
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