それではどうぞ。
そうこうしているうちに現場へと到着した。見るからに老朽化している建物の横に車を停めて外に出る。今日は天気も良く、山の向こうから富士山が顔を出しているのが見える。
「よぅしお前ら、まずはこれだっ!」
何やら大きな荷物を取り出してきた大垣さんは、我々の前に現れるとそう言い放った。彼女が手に持っているのは人数分の作業着と長靴。これは久しぶりにあれをやるのか。
着替え終わった我々はいつかの日のようにいそいそと配置に着く。
「週末戦士……」
「「「「「作業着レンジャー!」」」」」
「手袋と道具もあるぞ!」
懐かしい感覚を味わいながらポーズを取る。あの頃はまだ皆は高校生で僕は大学生、今となっては二十代半ばと三十路だ。彼女らはまだ行けるかもしれないが三十路には少々クるものがあるけれども今はそんなこと忘れてしまおう。
「そうだ、優太あれ持ってきてよ」
「りょーかい」
恵那に言われたアレを取り出すと机の上に設置する。
「おっ? なんだそれ?」
「記録動画を撮っておこうと思って、何かに使えるかもしれないし」
「おぉー、流石広報担当!」
マウントを取り付けたアクションカメラに皆は興味津々のようで、全員でインタビューごっこを始めてしまった。大垣さんがカメラを持ち、出演者は犬山さんと恵那、各務原さんは証明係のようでスマホのカメラで彼女らを照らしている。
「それでは恵那さん、今の意気込みをお聞かせください!」
「ぼちぼちがんばりまぁ〜す」
「……何やってんだ」
それを見ていたのが僕と志摩さん。どうやら志摩さんは彼女らが遊び始めたことに少し呆れているようだったが、僕はどこか微笑ましく感じた。
大人になるとこんな茶番一つやることも出来なくなってしまう人が多いからこそ、こうやって遊び心を忘れない彼女らを見ているとどこか安心するのだろう。ずっと見ていたいのは山々だが、今日は目的があってここに来たことを忘れてはならない。
「そろそろ始めようか」
「「「「はーい」」」」
当初の予定通り、アクションカメラを作業場全体が見渡せる位置に設置すると各々が持ち場へと散っていく。
「あれぇ?」
「なかなか切れないよぅ」
ギコギコ……ギ……コギ……コ
「う……むぅ、取れない」
僕らが考えるより自然は厳しかったようで、順調にスタートを切ったと思われた草刈り作業だったがなかなか難航しているようだ。
鎌で草を刈ろうにも上手く切る事が出来ず、小さな枯れ木を鋸で切ろうとするも歯が止まって抜ける事態にもなっている。
「案外難しいねコレ」
「普段草刈りなんて全然やらんしなぁ〜」
「薪なら飽きるほど割っているんですけどね……」
かく言う僕もそのうちの一人。普段から仕事でで薪を割り続けていた経験が活きるかもしれないと意気込んだものの、皆と同じように作業ペースは鈍足であった。
自信を砕かれて少ししょんぼりしながらも作業を続けていくと、建物の裏に隠れていたスペースへと目が行く。
「……これは」
「うわ、ゴミだらけやん」
「これらも片付けないとですね」
「だね〜」
この施設がまだ稼働していた時のものだろうか、そのには使われなくなった簀子やドラム缶、木々の端材から何が入っているかわからない黒ゴミ袋まで置いてあった。
処分の事を考えると頭が痛くなりそうだ。
「くぅ〜腰がいてぇ!」
「わたしも〜」
向こうでは別の箇所を痛がってる者が数名。まだ始めてそんなに時間は経っていないはずなのだが、普段しない体勢での草刈りという作業に体が悲鳴を上げているようだ。
大垣さんは志摩さんと配置換えを提案するも、やはりまだ始めたばかりという理由で却下されてしまう。
(これは草刈りだけでも骨が折れそうだな)
「んぉ? ……ねぇ、あれってなんだろう?」
何かを見つけたらしい各務原さんが皆に声をかけた。彼女の視線の先には大きな鳥かごのようなものが鎮座していた。
どうやら皆も気になっていたようで、わらわらと集まってくる。
見れば見るほど鳥かごのように見えるが、それは無いだろう。第一印象で浮かんだ考えを霧散させる。
「あぁ、あれは……鳥かごだ」
「……」
大垣さんによると、あの鳥かごは前の施設で鳥と触れ合える場所を作る目的で建設されたらしい。ただ網が大き過ぎたせいで一日で鳥が全て逃げたという黒歴史を背負った鳥かごなんだそうだ。
あれを設置するのにかかった費用を想像すると、とても笑えたものではないな。
「あれってどうするの?」
「……まぁあれも撤去かなぁ」
「そうするのが妥当でしょうね」
ーーーー
作業を一時中断していた我々は謎の建造物の正体とそれの撤去という答え出た事で、また黙々と草刈りに勤しんでいた。
ただやはり作業ペースは遅く、このままではかなりの時間を草刈りに費やすことになってしまうだろう。何かいい方法は無いものだろうか。
「おーい! 大垣ちゃん!」
「あ! 岡崎さん!」
そんなことを考えていると遠くから男性の声が聞こえてきた。どうやらこの近所に住んでいる人のようで、事前に下調べと共に近隣住民の方とも交流をしていた大垣さんへ、自宅で取れた柚子を差し入れに来たそうだ。
やはりこの子はしっかりしているな。持ち前のコミュニケーション能力と気遣いを活かして手回しを済ませてくれてたらしい。こういった作業をする上で万が一、迷惑をかけてしまう可能性なども考慮していたのだろう。
すると岡崎さんと呼ばれた男性は、我々が何やら作業を行っているのに気づいたらしく声をかけてきた。
「なに? ここ手で刈ってるの?」
「それがなかなか上手くいかなくて……」
「そうなんが。どれ、貸してみ」
そう言うと岡崎さんは我々に鎌と鋸の使い方を伝授して下さった。やはりこの辺に住んでいることもあって野良仕事には慣れているようで、我々が苦戦していた草や枯れ木をなんてことも無さげに切ってしまった。
「怪我しないようにな!」
颯爽と帰っていく彼に皆でお礼を言う。まるでヒーローのような方だったな。
そこからは、気持ちが良いくらいに作業ペースが早くなった。教えてもらった技術を活用すると、みるみるうちに刈られた草と木々が溜まっていく。
先程までは日が変わっても終わらないだろうと予想していたが、なんと我々は夕日が落ち切る前に建物前の草刈りを終わらせることが出来たのだった。
「ねぇみんな、今日はこれくらいにしてお茶にしない?」
「「さんせ〜」」
ほぼ半日通して草刈りを続けていた体を休ませる。疲労感はあったが、懐かしい面々と顔を合わせて行った作業故か、それはとても心地の良いものだった。
各務原さんに淹れてもらったホットレモンを飲みながら、夕日に照らされる富士山を眺める。手元から漂う柚子の香りを楽しみながら一日の疲れを癒していく。
「こうして見ると、段々の所を整備すればテントサイトは足なんとかなりそうなな」
「あとはさっき出たアイデアをどう入れ込んでいくかだな」
「わたしちょっと描いてみるよ」
そう言うと各務原さんは荷物の中から自前のバインダーを取り出すと、キャンプ場予定地のマップをすらすらと描いてくれた。
描き上がったそれを皆で覗き込むと、そこにはしっかりと全員の希望が詰め込まれたレイアウトが完成していた。内容は盛りだくさんで、まさに夢のようなキャンプ場だ。
だがそんな夢には必ず障害はある。
「一応スペースは取れそうだな。ただ鳥かごの撤去もあるし、遊具入れたり柵を作ったりすると予算的に厳しいかもな……」
そうこれだ。色々なものを詰め込むためには、それ相応の金額がかかってくる。これは簡単に乗り越えられるものでは無いためほとんどの場合は妥協する事で解決するのだが、簡単には諦めたくないな。
「今出てるアイデアをまとめるために、キャンプ場のコンセプト柄必要かも」
「コンセプト?」
「どういうキャンプ場を目指すかってことかな」
志摩さんの発言に頭を悩ませる。……言われてみるとパッとは思いつかないものだな。
「まぁ他のキャンプ場も取材するし、私もちょっと考えてみるよ」
「取材?」
「うん、ここの連載記事を書けることになったんだ」
「「「「えぇー!!」」」」
「そう言うことは早く言ってくれよ!」
「えっ、ダメだった?」
志摩さんのふと零した発言に私たちは驚くことしか出来なかった。まさか名古屋のローカル誌とはいえ、雑誌にここのキャンプ場建設プロジェクトが掲載されるなんて思ってもいなかっただろう。
そうなると僕もやれる事はやらないとな。
「僕も知り合いを当たって宣伝して貰えるように頼んでみます」
「ほんとですか!」
「えぇ。曲がりなりにもショップマネージャーなので、ツテはそこそこあるんですよ?」
志摩さんも明日から早速取材に行くらしい。僕も来週には報告できるだろうな。
そろそろ日が落ちようとしている。
こうして我々のキャンプ場建設プロジェクト一日目が終了したのだった。
ーーーー
「優太が言ってたツテって、もしかして鏑木さんのこと?」
「ん? あぁ他にも居るけど一番頼りにしてるのはやっぱりあの人かな」
「そっか、お世話になりっぱなしだね」
「本当にそうだよ。それでも、君達の夢を叶えるためだったらそうも言ってられないしね」
「そこには優太もちゃんと入ってるんだよ?」
「……あぁ、そうだったな。僕らの夢だ」
「ふふっ、よろしい ♪ 」
何気にホットレモン伏線回収でもあります。
私は普段珈琲ですが、ホットレモンも好きです。
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その後の展開(具体的にはR18展開)どうしましょう。書いたことは無いのですが、需要があれば挑戦してみても良いかなと思っています。
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