「店長! おはようございます!」
「おはようございます各務原さん。今日も一日頑張りましょうね」
「はい! お願いします!」
最近はキャンプ場計画に力を入れているため忘れがちだが、我々はそれぞれ自分たちの仕事があるのだ。あれはもはやもうひとつの仕事と言っても過言ではないが、本業の方を疎かにしていい理由にはならない。しかし、各務原さんに関しては心配無用な様で、むしろ今までより精力的に仕事に取り組んでいる気がする。接客でお客様と話している時もいつもより楽しげな雰囲気を醸し出している。
さて、今日は先日試用したキャンプギアの報告書をまとめて提出しなくては。これもやはり使ってみると、もっとこうだったら良いのにという意見がちらほら出てくる。実際にキャンプギアを製作するというのは、こういうトライアンドエラーの連続なのだろうな。
(昼までには終わらせられるかな)
ーーーー
『報告書見たよ、だいぶ様になってきたじゃないか』
昼休み前に報告書を書き上げた僕は、メーカーに送る前に鏑木さんにチェックをしてもらう為メールを送った。すると、数十分後に彼から電話がかかってきた。いつもは文面で修正だったり了承の返事が来るのだが、今日は珍しいな。
「ありがとうございます、鏑木さん。そちらにも書かせて頂いた通り、前から心配されていたポールの耐久面はクリアされてそうです。硬さを抑えてしなやかになった分扱いやすさも向上しているように感じました。ただ新素材を扱っている分まだ今後どのような問題が出てくるかまだ不明なので、そこが懸念点ではありますね」
『うむ、やはりそうだろうな……。最近調子はどうだ。例のキャンプ場計画とやらも進んでいるのか?』
「お陰様で順調に進められています。この調子なら今年の夏オープンにも間に合いそうです」
『君から頼まれていた広報の件だが、何人か知り合いに話してみたところ興味を持ってくれた人が居てな。近々プレゼンの場を用意しようと思っているのだが構わんか』
「本当ですか! っ……ありがとうございます!」
『また詳細が決まったら連絡する。まぁなんだ、頑張れよ』
「はい! 精一杯頑張ります!」
それじゃあと言い残し電話を切った鏑木さん。暗くなったスマホの画面を見ると、高揚感の出ている自身の顔が映る。これはより多くの人に僕らのキャンプ場を知って貰える絶好の機会だ。このチャンスを必ずものにしなくては。
トントントン
「各務原です、店長今お時間よろしいですか」
そんなふうに意気込んでいると事務室に各務原さんが訪ねてきた。まだ彼女は休憩時間中のはずなのだが、何かあったのだろうか。ちょうど電話も終わったところだったので追い返す理由もない、しかしなんだかさっきより声色が硬いような気もするが、きっと気のせいだろう。
「はい、どうぞ」
「失礼します、今あきちゃんから連絡があって……」
「大垣さんから? 何かあったのですか?」
「それが……」
ーーーー
話の内容は思いもよらないものだった。
どうやらキャンプ場の敷地に調査が入ることになったらしい。先日のテストキャンプでちくわが見つけた陶器の破片を大垣さんが上司に報告したところ、本物の土器である事が判明した。その結果、遺跡発掘の為に何ヶ月にも及ぶ調査が必要になったらしい。
かなりの数の土器が出土したため、その場所を遺跡関連の施設にしようという案が出ているらしい。キャンプ場作りを辞めて、どうするか再検討する事になってしまった。遺跡という地域を盛り上げるうってつけの物が見つかってしまった手前、キャンプ場という計画が復活する可能性は極めて低いと言わざるおえない。
『皆にあそこまで手伝って貰ったのに……、本当にすみません!』
「いえ、謝らないでください大垣さん。辛いのは大垣さんも一緒でしょう。まだ何か手はあるかもしれません、みんなでもう一度考えてみましょう」
『っ……! ありがとうございます……』
「はい、ではまた」
とりあえず、今からすぐ鏑木さんに連絡して、現状の報告と今後どうするかの相談をしないとな。その後何か他に出来ることはないかみんなで話し合いつつ身の振り方を考えよう。ええっとその後は……。
「店長……その、話聞きました?」
「ええ、とても残念ですがとりあえず休止せざるを得ないでしょうね」
「ですよね……」
「難しいかもしれませんが、切り替えましょう各務原さん。まだやれることは残っているはずですから、後で皆で話し合いましょう」
「……わかりました!」
「頑張りましょうね。そうだ、ビバークの新刊が届いていたので、棚に出しておいて貰えますか?」
「りょーかいですっ! 行ってきます!」
「はい、お願いします」
今は落ち込んでいてもしょうがない、やれるできることを全力でやるのみだ。昼休みが終わる前にもう一度鏑木さん
連絡しよう。
「あ、もしもし瑞浪です。先程の件なのですが……」
簡単に諦めてやるもんか。
窓の外に映る雨は、未だ降り続けている。
ーーーー
「お邪魔します」
「いらっしゃい優太くん! お正月ぶりねぇ!」
「お久しぶりです、あの時はお世話になりました」
「いいのよぉ、ゆっくりしてってね!」
「ありがとうございます」
しばらくぶりに何も予定の無い日が出来たため、恵那と日付を合わせて彼女の実家へお邪魔させて頂くことになった。
キャンプ場計画が頓挫してから、各方面に連絡をした時ほとんどの方が保留という形で待つと言って下さった。これはやはり鏑木さんからの言葉が大きいのだろう。どうやら彼は様々な場所でこのキャンプ場計画について話をしてくれていたようで、興味を持ってぜひ宣伝させて欲しいという方が沢山居てくれている。頓挫してしまうという連絡を受けた上でも、まだ我々が諦めていない旨を知ったその方たちはまだ希望を持って待ってくれている。その期待に応えなくては。
「ちくわはキャンプぶりだな」
「ワオン」
「車の音で気付いたのかな、もうリード咥えてスタンバってるよ」
「流石にこの雨だと散歩は無理かもな……」
「クゥン……」
残念そうなちくわには申し訳ないが、外は未だそこそこの雨が降り続けている。びしょ濡れになりながら散歩をするのはあまりよろしくないだろう、今日は家の中でいっぱい遊んであげるから我慢してもらおう。
「とりあえず私の部屋行こっか」
「ああ、お邪魔させていただこうかな」
「どうぞどうぞ〜 ♪ 」
いつものように階段を登り彼女の部屋の中に入る、こまめに帰っているようで、生活感がありながらも綺麗に整頓されていた。上着を脱いで座布団に腰をかけると努めて元気に振る舞う恵那が話を続ける。
「キャンプ場、残念だねぇ」
「そうだな」
「でも、しょうがないよね。遺跡なんて教科書に載ってるようなものだもん、ちくわも本物の土器を見つけちゃうなんて、お手柄だったねぇ」
「そう、だな」
「それに! 高下が元気になるならそっちの方が良いよね! そのお手伝いが出来たって考えれば悪くは無いかな。地元がどんどん活性化するなら願ったり叶ったりだよ!」
「恵那」
「っ……! どうしたの優太?」
「無理しなくていいから、少なくとも僕の前では」
「……」
一番大丈夫そうな彼女は、実は一番無理をしていたのでは無いだろうか。辛いことを隠しながら必死に明るくしようとする彼女を見ていると、とても悲しくなった。もちろん、表立って残念な顔をしろとは言わない。それでも僕の前だけでは素の彼女でいて欲しかった。これは僕のエゴだろうが、それでも構わない。これ以上彼女に無理な笑顔を貼り付けさせるくらいなら、エゴでも何でもいい、頼って欲しいと思った。
「……どうしてここなんだろうね」
「……」
「せっかくまた皆で集まれて、皆でキャンプして、あの頃みたいに楽しい思い出が出来ると思ってた」
「……高下で作った思い出が消えるわけじゃないさ」
「だけど! ……悔しいよ」
「……恵那、僕らは大人になった。でも、大人になったからって何でもできる訳じゃない。沢山の人に支えて貰ったから今があるんだ」
「……うん」
僕の言葉に諦めた表情をしながら俯いてしまう。違うんだ恵那、僕は君にそんな顔をさせたい訳じゃない。
「それでもまだ僕らにはやれる事があるはずだ。何でもは出来ないけど、できることはある。僕は恵那に何度も支えられてここまでやってきた、だから……」
「今度は僕が支えるよ」
「っ!!」
声を抑えながら彼女は僕の胸に飛び込んでくる。ずっと我慢していたのか、その感情が痛いほど伝わって来る。震える彼女をそっと抱きしめて、声をかけ続ける。
「大丈夫、なんとかなるさ」
「うん……! うん……!」
「大丈夫、大丈夫」
しばらく僕らはその安らかな空気を楽しんだ。途中廊下から足音が聞こえたが、察してくれたのかゆっくりとその足音は遠ざかって行った。本当にありがたい。
「ありがとう優太、もう大丈夫」
「もういいの? 胸を貸すくらいあと小一時間くらいなら余裕でいけるよ」
「とても魅力的な相談だけど、後で私が大変な事になっちゃいそうだから我慢しとく」
「……さいですか」
目を腫らしながらゆっくりと、少し名残惜しそうに離れた彼女を見て続ける。
「とりあえず、もう一度皆で集まろう。少人数で悩むより、皆で考えた方が良い案が浮かぶかもしれない」
「そうだよね、うん、きっとそうだよ!」
「落ち着いたら下に降りようか、奥さんがそろそろ夕飯の準備を始めるかもだがらお手伝いしないとね」
「別に私は今すぐ行っても良いけどね、お母さんに何か聞かれたら、優太にいっぱい泣かされちゃったって答えれば良いだけだし ♪ 」
「それは本当にやめてくださいお願いします」
なかなか心臓に悪い事を言うこの子は、さっきとは違って無理はしていないように思えた。だからと言って腫らした目のままスキップして部屋を出て行こうとするのはやめてください、僕が色々な意味で死んでしまいます。
流石に冗談だったようなのでほっとした。
「クゥン……」
「どうしたちくわ〜?」
今度はこっちが元気無さげだな。僕らの話を聞いていたちくわがしょんぼりとした顔を浮かべて悲しげに鳴いている。そんなちくわを膝の上に乗っけてゆっくりと撫でる。
「そんな落ち込むなよちくわ、ご主人様の事は任せとけ」
「ワン……」
「大丈夫だって、なぁ恵那」
「そうだぞちくわー、私はもう元気になったから、心配ご無用!」
「ワン! ワフン!」
「おいおい、くすぐったいって」
元気になったからか、それはもうすごい勢いで僕らの顔をぺろぺろ舐めまくったちくわは満足気に下の階へ降りていった。恐らく彼は人の機微が分かる賢い犬なのだろう、一体誰に似たんだか。
「とりあえず今日はゆっくりして、今後のことは明日から考えよう」
「そうだね ♪ もう私は大丈夫だから、私達も下行こっか」
「承知しました、お供しますよお嬢様」
「うむ、苦しゅうないぞ ♪ 」
上機嫌で降りていく彼女の背中を追いかける。まだ外は雨が降り続けているが、もう心配は要らないだろう。
止まない雨は無いのだから。
映画で恵那ちゃんはちくわと二人で乗り越えましたが、今作は優太君が居るのでもちろん一役かって貰いました。この話はプロットを書き始める段階で決めていましたので、楽しんで貰えたら幸いです。
皆様の感想、評価等お待ちしております!
今後の続きと小話の案としていくつか考えてはいるのですが、どれが需要あるのかわかんないのでアンケートやってみます。お気軽にご参加ください。なお、ほかにも希望がございましたら感想欄でお願いいたします。
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