ゆるキャン△ 愛故に   作:狭間です

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 どうぞ!


【40】立つ鳥

 

 

 

 

 あれからしばらく経ち、僕らは約束通り引越しをする運びとなった。もう季節は春になろうとしているだろうか、肌を刺すような寒さを感じる日は少なくなってきた。

 賃貸契約や役所での手続きを済ませ、今まで住んでいた住処を手放すために荷物を纏める。

 

「こんなもんでいいかな」

 

 いくつか積まれたダンボールを見やって一息つく。椅子やテーブルなどはキャンプギアをそのまま使っていたため、家具を片付けるのは意外と時間はかからなかった。大学卒業後直ぐに越してきたということもあり、このアパートにもある程度愛着が湧いていた。

 

 これまで友人を何度かこの家に呼んだことはあったものの、来客のほとんどの割合を恵那が占めていただろう。その都度彼女は自身の荷物を少しずつ置いていっていたため、引越し荷物を纏める際にそれらを手に取り、その都度思い出をを呼び起こしながら荷造りをする。

 あんなこともあったな、なんて思い耽っていると、ふと時計が目に入る。昼前から始めていた荷造りだったが、いつの間にか時計の針は十九時を回っていた。数日前から計画的に整理していたはずであったが、気付けば引越しの日は明日に迫っている。

 座り込んで固まっていた体を解しながら、このアパートで食べる最後の夕食を食べに台所へと向かった。

 

 コンロなども既にダンボールの中にあるため、そこ残っていたのは小さな電気ケトルが一つだけ。恵那の影響で凝るようになった料理に使う調理器具なども、同棲を機に不要になるものは処分した。酷くこざっぱりした台所に踏み込むと、生活環の様子に違和感を感じざるを得ない。

 

 電気ケトルに水を入れ、スイッチを押す。手元には先程コンビニで買ったカレーめん。久々に食べるカップ麺だったが、自然と手が伸びていたのはこのカレー味のものであった。蓋を開くと、しっかりとしたカレーの香りが辺りに漂う。

 

 しばらくすると、カチッという音と共に電気ケトルがお湯の準備を終える。電気ケトルを手に取り、開かれた蓋に向かって徐々に傾け、カップ内の線までゆっくり注がれるお湯を見ていると、彼女らとの数奇な出会いを今でも昨日の事のように思い出す。

 

 (思えば、これもきっかけのひとつだったな)

 

 あとは三分間待つだけ……、と言ったところでスマホに着信が入る。ディスプレイが映し出すのは、最愛の彼女の名前。思わず零れる笑みを抑えながら、受話器の形をした緑のマークをタップする。

 

『あっもしも〜し、進捗はどう?』

 

「今粗方終わって最後の夕飯食べようと思ってたとこ」

 

『私も同じくらいかなぁ。仕事道具は職場に置いてきてあるから明日は荷物も少なくて済みそうだよ』

 

「引越し業者に荷物を引き渡して、そのまま直で新居に向かうよ」

 

『私もそうする〜』

 

「そういえばさ恵那、さっき片付けてる時にーー」

 

 彼女と話していると、どうでもいいことでもつい共有したくなってしまう。先程見つけた思い出の品を皮切りに、随分と話し込んでしまった。

 

『それじゃあ優太、また明日!』

 

「またね、恵那」

 

 再び部屋が静寂を取り戻す。いつも通話を終える度に少々名残惜しさを感じるが、それもまた悪くは無いだろう。どれだけ年月が経とうとも、恵那という存在を際限なく求め続ける自分が居るということなのだから。

 

「……あ」

 

 なんて事を考えていると、お湯を入れたまますっかり放置されていたカレーめんを思い出す。

 

 何分経ったか確認をするのすらも怖い。恐る恐る蓋をめくると、想像通り水分を思う存分吸い、正規の時間で作った時の約二倍に膨れ上がった麺が、その存在をありありと主張していた。

 

 最後の食事がなんとも言えない結果になってしまったものの、これはこれで後々笑い話にもなるだろう。そうして僕は、伸びきったカレーめんを噛み締めながら啜るのだった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「これで全部です。それでは、よろしくお願いします」

 

「はい、お任せ下さい」

 

 引っ越し料金の支払いを終え、にこやかに答える引越し業者の青年にお礼を告げた僕は、管理人に鍵を返すという最後の仕事へと向かう。いよいよ大詰めだ。管理人さんが住んでいる隣の一軒家へ足を運び呼び鈴を鳴らすと、のっそりと、まるでたぬきの様なシルエットが表に出てくる。

 

「管理人さん、おはようございます。鍵を返しにきました」

 

「そうかい、ご苦労さん」

 

「今まで本当にお世話になりました!」

 

「こちらこそ、綺麗に住んでくれてありがとう。次の場所でも、しっかりやりなさい」

 

 普段は険しい顔をしている事が多い管理人さんだったが、僕から鍵を受け取る瞬間は少し柔らかな笑顔を浮かべていた。普通なら退去の際には立ち会いをする事がほとんどなのだが、面倒だからそのままで良いと持ち物件をそのまま貸し出していた管理人さんはその手順を省いた。恐らく信頼してくれているのだろう、それを裏切らないようにしっかりと片付けは済ませた。

 

 最初に越してきた頃は、大きな体と表情が相まって上手くやって行けるかどうか少し不安だった。それでも、すれ違えば挨拶はしたし、世間話程度なら向こうも突っぱねる事無く聞いてくれていたため、いつからか僕の中で彼は親戚の叔父さんのような位置付けになっていた。会う度に調子を聞かれたし、彼の奥さんが作るご飯を食べに来いと言われ、何度かご馳走になった。

 

 ぶっきらぼうながらも、彼の持つ優しさはちゃんと僕に伝わっていた。

 

 最後の別れを済ませた僕は、貴重品などの最低限の荷物を入れたリュックを背負い、そばに停めてあったバイクに跨る。

ゆっくりとスロットルを開けば、サイドミラーに移る過去の住まいがどんどん小さくなっていく。

 

「……お世話になりました」

 

 そっと呟いたそんな言葉は、バイクのエンジン音に混ざって春の空気に溶けていくのだった。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

 

「優太! おまたせ〜」

 

「大丈夫、僕も今来たとこだよ」

 

 僕と恵那はまるで示し合わせたかのように、ほぼ同時に新居へ到着した。

 

「業者さんとの合流までまだ時間があるから、それまで中でゆっくりしようか」

 

「そうしよっか ♪ 」

 

 改めて新居を二人で見上げる。今まではアパートでの生活だったが、今日からは一軒家だ。主に駐車場の関係でここを選んだのも大きいが、ペット禁止のアパートもやはり多かったため、ちくわが遊びに来れる家という条件も同じくらい大きかった。平屋建てだが、二人で住む分にはちょうどいい。もし家族が増えるなら、またその時に考えれば良いだろう。玄関前まで来ると恵那は僕から鍵を受け取り扉を開くと、新居特有の香りが鼻を抜ける。

 

 するりと横を通り抜けた恵那は一足先に靴を脱ぎ、廊下にあがるとこちらを振り返る。こちらを見つめてもじもじとしている。まるで何かを待っているようなーー

 

 (そういうことか)

 

 彼女の意図に気付いた僕は、改めて背筋を伸ばし、はっきりとした口調でこう言った。

 

 

 

「ただいま、恵那」

 

「おかえり、優太 ♪ 」

 

 

 

 どうやら彼女のお気に召したようだ。それから引っ越し業者が新居にやってくるまで、彼女は僕の隣でずっと満足気な笑みを浮かべていた。

 

 

 




 ヨシッ(現場猫感)。お引越し完了しました。映画版の続きは今のところ供給が無いので、これからオリジナルの展開が増えていく事になります。作者のモチベ維持、並びに読者の皆さんの反応も見たいので、是非感想や評価よろしくお願いします!!

 R18版も実験的に投稿致しましたので、興味がございましたらどうぞ。

 今後の続きと小話の案としていくつか考えてはいるのですが、どれが需要あるのかわかんないのでアンケートやってみます。お気軽にご参加ください。なお、ほかにも希望がございましたら感想欄でお願いいたします。

  • 卒業旅行編
  • 恵那 専門学校時代編
  • 桜さんとの原付の旅耐久視聴編
  • 映画編 その後
  • IF 優太が恋に気付かなかった編
  • 黙って全部書け
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