ゆるキャン△ 愛故に   作:狭間です

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 真冬に真夏のお話をどうぞ


【41】お出かけ

 

 

 

カタカタカタ

 

 猛暑が続く八月の朝。テレビではアナウンサーが、例年より気温が高くなるという聞き飽きた内容のニュースを繰り返し読み上げている。

 

 そんな中僕達二人と一匹は、程よく冷房の効いた我が家でくつろいでいた。元々インドア派だった恵那はちくわを膝に乗せながら室内という快適な空間を堪能している。

 

タンッ

 

「終わったぁ〜」

 

「おつかれさま〜」

 

「ワンッ」

 

 僕はと言えば、珍しく纏まった休みを取る事が出来たものの、まだ事務仕事が残っていたのでそれを終わらせていた所だ。書類を作り終え体を伸ばすと、直ぐに労いの言葉が投げかけられる。

 

「これで暫くはゆっくりできそうだ」

 

「私もこの後数日は休みだからいっしょだね ♪ 」

 

 そんなやり取りをしていると、ちくわがこちらに近寄ってくる。出会った頃から胸に飛び込んでくるのが恒例だったが、もう流石に歳なのかそこまでの元気はないらしい。

 

 それでも、ちくわのお気に入りの場所は恵那と僕の膝の上であることは変わらない。足元までやってきたちくわをそっと抱き上げて膝の上に置く。ふんす、と満足気に鼻息を出しながらぺろぺろと僕の手の甲を舐めている。

 

「ねぇ優太」

 

「ん、なんだい?」

 

「持ち帰ってきた仕事は終わったんだよね?」

 

「そうだね、もうこれで最後だったから」

 

「そっかぁ」

 

「……お出かけでもする?」

 

「いいの?」

 

「そりゃもちろん、せっかく休み出来たんだし」

 

「でも、優太疲れてない……?」

 

「別に疲れてないよ。それに、恵那と出かけられるなら例え疲れてたとしても喜んで行くよ」

 

「もぅ……うれしい ♪ 」

 

 彼女の言いたいことが何となく分かった。夏前ということもあり、最近はお互い仕事が忙しかったためゆっくりすることが出来なかった。休みの日が被ることはあるものの、泊まりがけの旅行はこういう職種の人間にとってはなかなか難しい。

 

「それで、どこに行きたい?」

 

「それなら……海かな」

 

「海か、珍しいね。よしそうしようか」

 

「……実はもう水着買ってたりして」

 

「それを先に言いなよ。よし行こう、すぐ行こう」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! はしゃぎすぎだってばぁ!」

 

 これが待っていられるものか、なぁちくわ。え? 流石にもう少し落ち着けだって? そんな正論を表情で伝えないでくれ。

 

 ここ数年は出番が無かった水着を押し入れの奥から引っ張り出す。三十路に突入しているものの、日々のハードワークと健康的な食事のおかげで体型は維持できている。何年か前に買ったものだがサイズの心配は要らないだろう。

 

「そうだ、どうせなら一泊二日にしよう。今から海に行って、夜は標高の高い所でキャンプすれば幾分涼しいだろうし。あとは近くに温泉があればベストだね」

 

「それ良いね ♪ ちくわも一緒に行けるかな?」

 

「ペット同伴できる場所はリストアップしてあるから、探せばすぐ見つかるさ」

 

 こういう時にキャンプ用品店で働いていた経験が活きるのだ。キャンプをするというお客さんの中で、ペットも一緒に連れて行きたいと考える人は少なくない。そこで最適な接客ができるよう、条件に合ったキャンプ場や周辺施設は常日頃から調べている。小さな気遣いが固定客を掴むコツだ。

 

 

 

「さぁお出かけだぞちくわ」

 

「ワンッ!」

 

 荷物を纏めて、駐車場に停めてある恵那の車に載せていく。軽でありながらも、荷物を載せてもしっかりとスペースが確保できるこの車は本当に優秀だ。

 愛犬のために設置したペットシートにちくわがすっぽりと収まったのを確認し、我々も車に乗り込む。

 

「それじゃあ出発!」

 

「はいよ」

 

 恵那の合図と共に車を発進させる。今日の運転は僕が担当だ。

 

「楽しみだね〜ちくわ ♪ 」

 

「ワンワンッ!」

 

 安全運転を念頭に、目的地である海に向かって車は走る。夏休みシーズン真っ只中ということもあり道は若干混んでいたが、その分会話をする時間も増える。静かに夏のヒットソングを垂れ流しているラジオを聴きながら、そんな道中も悪くないなと僕は思った。

 

 

 

「あ! 優太、海見えてきたよ!」

 

「もうそろそろだね」

 

 軽く休憩を挟みながら運転していると、視界の端に鮮やかな青が見えた。日本海側に位置する今日の目的地は、毎年多くの観光客で賑わっている。その分海の家やレンタル品の貸し出しなど、サービスが整っているため荷物が少なくても楽しむことが出来そうだ。

 

 到着したのは正午を少し回った頃だった。空いている駐車場に車を停め荷物を降ろすと、最初に立ち寄った海の家でパラソルをレンタルする。

 

「それじゃ、僕はちくわと一緒に荷物持って先に場所取っておくよ。準備出来たら迎えに行くから、またここで集合しようか」

 

「はぁ〜い ♪ またLIMEするね!」

 

 恵那は水着に着替えるため更衣室へと歩いていった。体に傷がある僕は、人目のある更衣室で着替えることが憚られるため家に居る時にあらかじめ着ておいたのだ。

 真夏の太陽で熱された砂を歩かせる訳にもいかないので、パラソルを持っていない方の腕でちくわを抱え上げると、僕らは腰の下ろせそうなスペースを探して歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

「僕らの方が先に着いちゃったみたいだね」

 

「クゥン」

 

「……ここで待ってるのもあれだし、入れ違い防止用にもう一回メッセージ入れて更衣室の方に行こうか」

 

「ワンッ」

 

 レンタル品以外の貴重品を持って海の家に到着した僕らだったが、そこに恵那の姿は無い。待たせてしまっているかもと思い足早に来たのだがその心配は要らなかったようだ。

 少し着替えに時間がかかってしまっているのだろうか、到着を伝えたLIMEには既読は付くものの返信は無い。

 

 幸いにも更衣室はすぐそこだ、見つけるのに時間はかからないだろう。

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

 

「お姉さん一人? それとも友達と来たのかな、良ければ一杯奢るよ」

 

「えっと……そういうのは困ります」

 

「そんなこと言わずにさ、ここの海の家飯も美味いんだよ。オススメ教えてあげるから、ほら行こうぜ」

 

 私は突然の事で頭が真っ白になっていた。

 

 更衣室を出て、るんるん気分で海の家に向かおうとしていた時だった。男性二人組に声をかけられて足を止めてしまう。これは俗に言うナンパというものなのだろうか。自分とは縁の無い出来事だと思っていたが、いざ自分の身に降りかかると男性二人に言い寄られるという状況で足が動かなくなってしまう。

 

「やっぱり友達と一緒だった?」

 

「そりゃそうっしょ、こんな可愛い子一人で来るわけねぇよ」

 

「あ、あの……」

 

「大丈夫大丈夫、俺ら二人居るから財布だと思ってくれて構わないよ」

 

「お友達はまだ着替え中か?」

 

「だから……えっと」

 

「ちゃんと待ってるからさ、そんな急かさなくてもいいじゃん」

 

 どうしよう。怖い。はっきり断ればいいということくらい分かっている。それでも上手く口に出すことが出来ない。

 

 (助けて……優太……!)

 

 届かないと分かっている。それでも、私は心の中で彼の事を呼んでいた。

 

 

「あ、そうだ。お姉さん名前なんて言うの? 俺は颯馬、そんでこっちがーー」

 

 

 

 

「僕の彼女に何か用でしょうか」

 

「グルルル」

 

 

 

 ……願いは、届いたのだ。

 

 

「あ、あぁ。カレシ持ちだったのね」

 

「だから言ったじゃねぇかよ、こんな子が一人で来てるわけねぇって」

 

「それで、何か用でしょうか」

 

「ごめんね? まさかカレシ君と一緒に来てるなんて思わなかったから、一緒にご飯食べよって誘ってたんだ」

 

「見ての通り僕は彼女の彼氏です。ですので、そういった事はやめて貰いたいのですが」

 

 毅然とした態度で私と二人組の間に割って入る優太。そんな彼の背中は、いつもより数倍頼もしく見えた。

 

「いやほんとごめん、怖がらせちゃったかな……」

 

「お前最近彼女にフラれたからってがっつき過ぎなんだよ」

 

「おま、それは別に今言わなくていいだろ?!」

 

「わりぃな彼氏さんも、お邪魔虫は直ぐに消えるからよ」

 

 口が悪めの男性がもう一人の頭を軽く叩きながら肩を組んで歩き出す。

 

「あっそうだ、ここの名物はたこ焼きだから。海の家行ったら是非食ってみてくれ、マジで美味ぇから」

 

 そう告げると彼らは今度こそ人の波へと消えていった。優太が来てからの態度や、去り際の様子を見るに悪い人たちでは無かったのかもしれない。それでも私が怯えていたのは事実だし、絶対に許さないんだから。

 

 

「ふぅ……恵那、大丈夫?」

 

「……こわかった」

 

「ごめんね、直ぐに来てあげられなくて」

 

「ううん。ありがと、助けてくれて」

 

 優太の手を握っていると、先程までの怖さがどんどん和らいでいく。ちくわも心配してくれているのか、私の指を舐めて励ましてくれている。

 

 しばらくそうしているとだいぶ落ち着いてきた。慣れない出来事に見舞われ緊張していた感覚が緩まると、私のお腹からくぅ〜という音が鳴くのが聞こえた。

 

「はぁ〜なんだかお腹すいてきちゃった」

 

「もうお昼過ぎてるし、何か食べようか」

 

「せっかくだし、たこ焼き食べてみようよ」

 

「……まぁ食べ物に罪は無いからね」

 

「ほらほら、早く行こ ♪ 」

 

「ワンワンッ!」

 

「そんな急がなくても……まぁいいか」

 

 私は彼の手を引いて売店へと走る。いつの間にか先程の恐怖や不安は私の中から消え去っていた。

 

 今はただ、いい匂いのする方へと二人と一匹で進むことしか頭に無かった。

 

 

 




 ベッタベタでしたね。でも一度書いてみたかったので悔いは無いです。是非評価と皆様の感想お聞かせください、よろしくお願いいたします!

 今後の続きと小話の案としていくつか考えてはいるのですが、どれが需要あるのかわかんないのでアンケートやってみます。お気軽にご参加ください。なお、ほかにも希望がございましたら感想欄でお願いいたします。

  • 卒業旅行編
  • 恵那 専門学校時代編
  • 桜さんとの原付の旅耐久視聴編
  • 映画編 その後
  • IF 優太が恋に気付かなかった編
  • 黙って全部書け
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