本栖高校
(ふむ……コッヘル1コあればできるのか)
『はじめての アウトドアめし』という本を開きながら廊下を歩く少女。腰まで届きそうなほど長い髪を揺らしながら、目的の場所に向かって黙々と歩く。
(今度やってみようかな ラーメンもあきたし)
(ラーメン……)
思い出されるのは先日出会ったヘンな奴。何気なしにポケットから出した携帯電話の画面には、各務原なでしこという文字が映し出されている。あれから特に連絡をすることも、向こうから連絡が来ることもない。いやまぁ私の方から連絡してないんだから向こうから来る方がおかしいのだが。
元来ソロでいる方が気楽で良いという性格なので、他の人を積極的に誘うという行為に慣れていないのもあり、イマイチ距離感を掴みあぐねていた。
(一回くらい誘った方がいいんだろうか)
タッタッタッ
(……暖かくなるまでいいか)
タッタッタッ
思案と共に携帯の画面に視線を移していた少女は、横を通り過ぎる桃色の髪を持つ転校生に気付くことは無かった。再会の時は意外と近い。
ーーーー
「あった!! ぶしつとう!!」
「野外活動、サークル!!」
とある事情によって無尽蔵と言えるほどの体力を手に入れたわたしは、教室から部室棟まで全力疾走で走ったのにも関わらず息切れのひとつもしていない。
(この高校にはアウトドアの部活が二つあって、登山部は体育会系だけど、こっちはまったり系って聞いたんだよね〜)
テントや料理、焚き火、そんな楽しげなキャンプへの期待を胸にしながら、野外活動サークルとプレートが付けられた部屋のドアを開く。
「こんにちは〜〜〜〜〜」
(せまい……うなぎのねどこだ……)
誰もいない部室って、もうちょっと広く感じるものじゃないのかな?アウトドアの本、薪、松ぼっくりなど、様々なものが細長い部室の中に丁寧にしまわれている。壁にある黒板には肉を持った謎のキャラクターが踊っている。見れば見るほど謎が深まる。なんだこれ。
しばらく部室の中を見ていると、再度部室の扉が開いた。第一村人ならぬ、第一部員との邂逅だ。しかし突然だったこともあり、わたしはこちらを覗く視線に精一杯返事をしようと言葉を出す。せっかくだから仲良くなりたい!
「えっと、わたしは、あのぅ」
と思ったら閉じた。自己紹介失敗。
「本栖湖で行き倒れているところを謎のキャンプ少女とイケメンお兄さんに助けられ、ラーメンまでごちそうになった、と」
「夜のふじさんがすっごくキレイだったんだよ!!」
「それでアウトドアに興味出て、ウチらのサークル来てくれたんやね〜」
「でもせっかく来てもらって悪いんだけど、ウチ部員募集してないんだよね」
「そんなんだ……」
(どうしよう……)
新たに部室に入ってきた二人は、この野外活動サークルの部員のようだった。自己紹介と入部の動機を伝え意気込んでいたわたしに告げられるのは、現在は部員募集をしていないという現実。
さっきまで浮かれていた気持ちが嘘のように萎んでいく。どうしよう、せっかくみんなと一緒に楽しいキャンプができると思ったのに。
すると何やらわたしを横目に二人が話し合っている。部員や部室がどうこうという単語が聞こえてくるが、私は一抹の望みにかけて審判の時を待つ。
どうやら協議の結果、入部を許されたらしい。
「私が犬山あおい、こっちが大垣千明」
「私がこの野クルの部長だ、よろしくな」
「各務原なでしこです!! よろしくねーーー!!」
「「野クルへようこそーーー」」
「ありがとーーっ!!」
べちっ どすっ
盛り上がって体を大きく広げた部員二人だったが、幅が狭い部室でそんな事をしたら結果は見えている。お互いに体をぶつけたようで(部長は急所に当たったようで特に)痛みに悶えている。
元々この部室は使っていない用具入れだったらしい。4月に作ったばかりのサークルで、まだ部員も二人しかいないという。しかし、せっかく来てくれた新入部員ということもあり、歓迎のためにキャンプっぽい事をしようという話になった。
それから数十分後、わたしは今学校の中庭にいた。
落ち葉焚きをしようとしたら、昨日焚き火したからかもう資源は残っていなかったため断念、落ち込むわたしを励ますためか、一度部室に戻った際にキャンプ雑誌を見せてくれた。
それからテントの話題になり、通販で買ったはいいものの届くのが遅れ放ったらかしになっていた激安テント(¥980税込)を引っ張り出し、中庭で設営してみることにしたのだった。
やっとキャンプっぽいことできる!!
ーーーー
(あいつ……ここの生徒だったのか……)
唯一と言っても過言では無い親友のような友人に髪を結われながら視線を向ける先には、中庭でテント用のポールを両手に持ち喜んでいる少女と、それを見守る二人が居た。そのポールを両手に喜んでいる少女こそ、先の話に出てきた謎の少女だったのだ。まさか同じ高校に通っている何て思いもしなかったので、結構驚いている。
「あの子たちが気になるの?」
「いやべつに」
「リンあーいうの得意じゃん……っとできた」
「 クマヘアー 」
「おいやめろ」
団子に纏めていた髪を解いて何をしているのかと思えば、私の頭の上にはクマの頭が出来上がっていた。しかもそれなりの完成度のものがだ。一体どうやったらそんなふうにできるのか不思議でならない。何か彼女にはそんな才能があるのだろうか。
そんなやり取りをしながら中庭を見ていると、どうやらテントの設営をしているらしい。広げたシートにポールを通そうとしている。あぁ、そんなに力任せに通そうとしたら……。
折れた
「あ、棒が折れちゃったよ」
まぁそうなるよな。安物のテントは特に、設計が雑だったり耐久性がイマイチだからああなってしまうことが多々ある。
私はおじいちゃんのお下がりでお値段がそこそこするものを使っているから、大事に扱えばそうそう壊れることは無い。
「テントってあの棒が折れたらどうすんの?買い替え?」
「まぁメーカーに送って修理かな。でもポール補修用のパイプとかがあれば、応急処置くらいはできるけどね」
「こういうの?」
「なんで持ってんだよ」
落し物箱に入っていたらしいそれを友人が手に取って見せてくる。いやなんで図書室にテント補修用のパイプ落としていく奴が居るんだよ。
「リン これ持ってって助けてあげなよ」
(えぇぇ……)
(うわぁ、すげー嫌そうな顔)
「じゃ私が行って助けてくんね」
「うい」
友人の提案を、あからさまに嫌な顔をして回避する。私は基本ソロだから大人数でわちゃわちゃするあのサークルは苦手なんだよな。できることなら関わりたくない……。
私の内情を理解しているおせっかいな友人は、補修用のパイプを手に中庭に歩いていった。
(あいつまさか同じ学校だったとは…… 見つかったらメンドクサそうだから気をつけよう)
書いてるとキャラが勝手に動いていくっておもしろいですね。感想、評価等お待ちしております!