「できたー!!」
¥980(税込)のテント、何とか完成。せっかくなので部長と二人で入ってみる。安物とはいえ初めてのテント、中庭と隔離された空間に入るとなんだか不思議な感覚になる。少し暗い室内から見える風景は、いつものものとは違って見えた。
「おぉ、980円だけどちゃんとテントしてるよー」
「材質はそれなりだけどな」
テントの外にいる二人は彼女らを横目に話を始める。
「斉藤さんありがとうな 助かったわー」
「どういたしまして〜」
「でもあんなことよー知っとったねー? テント持っとるの?」
「あ ちがうちがう」
「あそこの子に聞いたのよー」
斎藤さんと呼ばれる彼女が指さす先を三人で見る。そこには図書室の椅子に座るお団子頭の少女。本から視線を外しこちらを見上げる彼女と目が合う。
無慈悲なり。関わりたく無かったであろう彼女はお節介な友人によって強制的に関わることになったのだった。げぇ、と言わんばかりの表情を浮かべた彼女であったがもう遅い。その姿を見てあの時の恩人の一人だと確信した少女は大声を張り上げる。
「あぁーー!!!」
「んぁー、シマリンじゃん」
「シマリン!?」
「ゆるキャラみたいな言い方やめーや」
「志摩は苗字、名前はリンだよ」
「リンちゃん……!!」
助けてくれた恩人の一人とこんな所で再会できるなんて!興奮したわたしは思わず彼女に向かって走っていく。
「同じ学校だったんだーー!!こないだは!ありがとヘブッ」
勢い良く恩人の元へ駆け出したものの、わたしが居るのは中庭、目的の少女が居るのは図書室。当然繋がっている訳もなく、後先考えず駆け出したわたしは図書室の窓へ激突するのであった。
「犬じゃないんだから、もうちょっと落ち着きなよ」
「えへへーー」
野クルのみんなと別れた後、彼女の友人である恵那ちゃんと一緒に図書室にやってきたわたしは、リンちゃんとの再会を心から喜んでいた。
「あの時のおにーさんもここの学校なの?」
「いや流石に違うと思うよ、私も初対面だったし。それに、多分もっと年上じゃないかな」
「そっかぁ……また会えるかな……」
「リン 今回も一人でキャンプしてたんじゃなかったの?」
リンちゃんには会えたから、もしかしたらお兄さんも居るのかと思ったけど。そんなに簡単に会えないか。
「そうだったんだけど、たまたま同じ日にキャンプしてるお兄さんがいたんだよ」
「こんな時期にキャンプする人がリン以外に居るなんて」
「おい」
「焼いたお魚くれたんだよ! すっごく静かであんまり表情は動かなかったけど、かっこよくて優しかったんだよ!!」
「へー、そうなんだー」
何か考える素振りを見せる恵那ちゃん。もしかして知り合いに似たような人がいたのかな?
ーーーー
「静かで表情が動かず、かっこよくて優しい……」
帰り道の電車の中で、さっきなでしこちゃんが言っていた人物の特徴を反芻する。
どこかで感じたことがあるような、どこで感じたのか思い出そうとしながら、ぼうっと電車の窓から流れていく風景を見る。
「……もしかして」
数ヶ月前に出会ったちくわを助けてくれた人かな?
「いやいや、そんな訳ないよね」
なでしこちゃんが自分の恩人であるリンに出会うという出来事が目の前で起こったからか、私もちょっと期待しちゃってるのかな。
ありえないな、と思考を隅に追いやった時に車内アナウンスが次の駅名を告げる。
「あっ……降りる駅、過ぎちゃった」
やはり電車は考え事をしながら乗るものじゃないね。次の駅で降りた私は、しぶしぶ反対の路線に乗り、いつもより少しだけ遅く家に帰った。
「ただいまー」
「おかえりなさい、今日は遅かったわねぇ?」
「考え事してたら降りる駅過ぎちゃってさー」
「あらあら、もうご飯できるから、ちくわの散歩はその後にしなさいねー」
「は〜い」
帰宅するとお母さんが私を迎える。とてもいい匂いがする。今日は肉じゃがかな? 気分が良くなった私は軽い足取りで自分の部屋へと向かう。
「ただいまーちくわ」
「ワンッ」
帰宅した私を羨望の眼差しで見つめるのは愛犬のちくわ。リードを咥え、今にも飛び出して行きそうな雰囲気を纏っている。
「ごめんねー、お散歩行くのちょっと待っててね」
「クゥーン」
「ほんとごめんね〜、その代わり今日の散歩はいつもよりちょっと長めのコースにしてあげるから」
「!! ワンッワンッ!!」
も〜、現金だなぁ。
私の言葉を聞いた途端にとても嬉しそうにはしゃぎ出した。待たせてしまったぶんちゃんと楽しませてあげないとね。制服から着替え、リビングがある一階へと降りる。いつもより遅めの夕飯を食べて、ちくわとの散歩に備えるのだった。
ーーーー
「いってきまーす」
「車に気をつけるのよー」
「わかってる〜」
「ワンッ」
いつも通りの散歩道を、いつものペースで歩く。ついこの間までの秋はとうに過ぎてしまったようで、防寒具が唯一覆っていない顔を冷たい夜風が刺す。
最近の秋はとても短い。一年のうち、春と秋と呼べるような日は、全て合わせても1ヶ月無いのではないだろうか。山梨の冬はやはり寒い。白い息を吐く一人と一匹は、星空の下をゆっくりと進んでいく。
目的地を折り返し、家への帰路につく。
「ワンッ」
「? どうしたのちくわ?」
何か見つけたのか、ちくわが声を上げながらリードを引っ張る。その先には一人の青年が、スーパーのレジ袋を下げながら歩いていた。
何か美味しそうな匂いでもするのかな? あと残りほんの数メートル。もう少しですれ違う距離、街頭に照らされ、青年の顔が闇夜に浮かび上がる。
「あ」
「……あ」
声を上げた私に気付いたのか、視線を上げた先にはあの時の恩人が居た。連絡先を渡し忘れて最近後悔していたところだったが、まさかこんなところで再開するなんて思ってもみなかった。
時が止まったかのようにお互いを見つめていたその時も、ちくわだけは全身で彼に飛びつき再会の喜びを表現していた。その時ばかりは、何の負い目もなく感情を表現出来るちくわに少しだけ嫉妬した事を覚えている。
ついに再会。はよ絡んでくれと思いながら書いてました。感想、評価等お待ちしております!