「あ、あの! 前にちくわを助けてくれたお兄さんですよね?!」
「……イエ、チガイマス」
「うぇ、ぜったいそうじゃん! なんで嘘つくの?!」
まさかの再会に喜ぶ私の言葉を、カタコトの日本語で否定する彼。思わずつっこんでしまう私を責める人はいないと信じたい。その間にもずっとちくわは彼に飛びかかり続けている。そんな様子を見て流石に彼も観念したようで、ちくわを撫でながらこちらに意識を向ける。
「あの時は本当にお世話になりました」
「……大したことはしていないので」
「それでも、私にとっては大したことだったんです!」
なかなか素直にお礼を受け取ってくれない彼に、半ば強引に押し付ける。
「でもまさかこんな所でまた会えるなんて、お家近所なんですか?」
「……はい、家までここから十分くらいですかね」
「えぇ! めっちゃご近所じゃないですか! なんで言ってくれなかったんですか!」
「……いや、私だって驚きですよ。それに特に連絡をする手段もありませんでしたし」
「学校帰りですか? どこか行ってきたんですか?」
「……今日は大学休みでしたので。夕飯の材料を買いにスーパーに行った帰りです」
興奮した私は、まくし立てるように質問をする。それを一呼吸置きながらも彼は答えてくれた。それでももっとお話したい、もっと彼のことを知りたい。どう私の気持ちを伝えようかと迷っていた所、なると彼の方から話を振ってくれた。
「……そちらは散歩ですか?」
「! はい! 今折り返して帰ろうと思っていたところです」
「……もしよろしければ、家まで送りましょうか」
「良いんですか!!」
なんという幸運だろう。また会いたいと思っていた彼と再会することが叶っただけではなく、帰り道に話す機会が出来るなんて。
二つ返事で了承した私は、彼と一緒に家へ向かって歩き始める。
「あらためて、斉藤恵那です!本栖高校の一年生です」
「……瑞浪優太です」
「優太さんも高校生ですか?」
「……いえ、大学二年です」
私が質問をして、彼が返す。会話というよりはほぼ一方的に質問するインタビューに近かったが、彼は色々なことを話してくれた。山梨の大学に通っていること、キャンプ用品店でアルバイトをしていること、休日はバイクに乗ってキャンプに行っていること。
夢中になっていた私は、寒さを忘れ彼との会話に没頭していた。楽しい時間は直ぐに終わりを告げ、家に着くまでの十五分はあっという間に過ぎてしまった。
「私の家、ここですから。わざわざ送って貰って、本当にありがとうございました」
「……私の家もこちらの方向でしたので、特に問題もありませんよ」
「ほんとにご近所さんだったんですね、今までよく遭遇しませんでしたね」
「……必要以上に外出しないので、無理もないかと」
「LIME交換したので、またぜひお礼させてください!優太さん!」
「……お気になさらず」
彼の連絡先を手に入れた私の携帯には闇夜の中浮かび上がる瑞浪優太の文字。心がふっと暖かくなるような感覚を覚えた。
「それでは
「……えぇまた、斉藤さん」
やっぱりいきなり名前呼びは距離感を誤っただろうか。それでも私は、彼を自然と名前で呼んでいた。短い別れの言葉を告げた後も、先程歩いてきた道を引き返す彼の背中が見えなくなるまで家の前に立っていた。そろそろ戻らないと。
「ただいまー!」
「ワンッ」
「おかえりなさ〜い」
家に帰った私の体は、冷たい夜道を歩いてきたのが嘘のように暖かかった。
ーーーー
今日はありがとうございました、ましよければ今度は……いや違う。こんばんは! また会えるなんて思っても……いや、これも違う。
彼とのトークには、未だ一つも言葉が綴られていない。かれこれ一時間以上画面とにらめっこしながら、送信する言葉を考えている。書いては消し、また書いたと思えばそれも消す。そんな事を繰り返していると、もはや何が正解なのか分からなくなってくる。
(もう最初に思いついた文を送っちゃおうかな……)
ピロン
「うわっ!」
ゴンッ
「っっ!……いった〜……」
悩んでいる最中の急な通知に驚いた私は、思わず手に持っていたスマホを顔に直撃させてしまった。
鈍い音と共に、おでこに痛みが走る。
[恵那ちゃん! こんばんは! 今日はありがとね!]
[なでしこちゃん、どういたしまして〜]
[リンちゃんと仲良しみたいだけど、恵那ちゃんもキャンプするの??]
[ううん、私はインドア派かなぁ〜。特に最近は寒いから、学校と犬のちくわとの散歩以外は外に出ないかも]
[そうなんだ!]
[たしかにさむいよね〜]
[あ! お姉ちゃんに呼ばれちゃった!]
[また学校でお話しようね! おやすみなさ〜い]
[うん! おやすみ〜]
なでしこちゃんからの通知だったか。ちょっと残念な気持ちが湧きそうになったが、なでしこちゃんに罪は無い。
今日できた新たな友達に返信をして、会話が終了する。元気な子だったけど、LIMEの文面まで元気だなぁ。
ピロン!
(ん? またなでしこちゃんからかな?)
最後にスタンプか何かを送ってきたのだろうか。おもむろに画面を見る。
[瑞浪優太 通知一]
(?!)
そこに映し出された名前に驚きで声も出なかった。なんと彼の方からメッセージを送ってくれたのだった。まさかの展開に心臓が激しく鼓動する私は、震える手でゆっくりと慎重に通知をタップする。
[よろしく]
[おやすみ]
短いスパンで送られたメッセージはとても簡素なものだったが、彼らしいその文面に私の口元は綻ぶ。
[おやすみなさい♪]
即座に既読が表示され、また静寂が訪れる。私のLIME史上最も短いやり取りだったかもしれない。それでも、今までで一番濃密な、満足度の高いやり取りだった。
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