心がすっきり爽快になる快晴。
大地や生き物に恵みを与える雨。
こんこんと降りしきり、雪。
大地にとどろく雷。
これらの天気は全て、妖精からの贈り物である。
しかし、天気を司る妖精は1体だけではない。
複数の天気があればこそ、複数の妖精たちがそれぞれ己の出番を主張することもあれば、他の妖精に立場を譲ることもあるのだ。
これは、そんな天気を司る妖精たちが経験した1つの物語。
「ふぁ……」
メガネをかけた青髪の少女は多くの人々が歩く道路で欠伸をする。
道を歩くのは雨を司る妖精、ラズラ。
口臭の面々で堂々と欠伸をしようものなら悪目立ちしそうなものだが、この世界の人間には彼ら妖精の姿を見ることは出来ない。
厳密には、心から純粋な気持を失っている大人たちには見ることが出来ない。
純粋な気持を持つ子供にとっては妖精たちが数多くの人々に紛れていても気づかない。
なのでこうやって堂々と妖精たちは人々の生活の中に溶け込めている。
「にしても流石は晴天気の力」
ラズラは曇り1つない青空を見上げながら仲間の妖精の力に感心する。
ラズラとて雨を降らせるときは広範囲に降らせることが出来るが、雲天気や雷天気の力も借りて雨に彩を与える。
だが、晴天気は他の妖精の力1つ借りずにここまで綺麗な天気を生み出せるのだ。
雨を司るからと言ってラズラは晴れが嫌いなわけではない。
むしろこうやって堂々と散歩が出来る分、晴れという天気に感謝をするぐらいだ。
そんな中、ラズラは1人の子供に眼を見張る。
年齢はおそらく幼稚園児ぐらいだろうか。
そしてそんな子供のお兄ちゃんなのだろう、少し年上の少年が少女の手を引いている。
それだけならどこにでもいる女の子だ。
だけども、その女の子の異質な所は、晴れてるのにレインコートを着ているところだろう。
ラズラが力を発揮して雨を降らせるとき、人は傘をさすなり少女のようにレインコートを着るという事で雨で濡れることを回避する。
だが、少女は雲1つ無い青空の中レインコートを着て歩いてるのだ。
その場違いな格好に通りすがる大人たちのほとんどは少女をチラ見している。
もっとも、ずっと目を合わせることもなくすぐに少女から目を離すのだが。
「ねぇ、君」
ラズラはそんな少女たちに興味を持ち、話しかける。
少女はいきなり話しかけられたことできょとんとし、ラズラを見る。
「そんなに雨が降ってほしいの?」
晴れの日にわざわざレインコートを着てるという事は、雨が降ることを望むということ。
おそらく大好きなパパかママあたりにレインコートを買ってもらったけども、肝心の雨が降らなくて着る機会がないのでこうやって晴れの日でも着て歩いているのだろう。
だったら、少しの間だけでも雨を降らせてあげてもいいかも。
そう思ってラズラは尋ねたのだが、少女はラズラの質問を聞き、眼をうるうるさせ今にも泣きそうな顔をしながら首を横に振る。
「え、えっ?」
「違うよ、お姉ちゃんのバカ」
「こら、失礼なこと言うな……行くよ」
予想外のリアクションにラズラが戸惑っていると、少女は少年に手を引かれ、雑踏の中に紛れ込んでいった。
「そんなことがあったんだよ」
散歩を終え妖精世界に戻ってきたラズラは赤髪の少年、雷を司る妖精『雷天気ターメル』に話しかける。
「そりゃ珍妙なこともあったもんだね」
「レインコートって普通は雨の日に着るもんだよね」
「不思議なこともあったものね」
ターメルの横にいた雲や雪を司る妖精たちもラズラの言葉にうなずく。
「なんでそんなことをしてるのかよくわからなくてさ。みんなはどう思う?」
尋ねるが、その場にいた妖精たちの誰もがラズラの質問に答えることが出来なかった。
「そういう時はその子供のことを見てあげるのです」
そんな中、美しいブロンドの髪の毛が映える女性……『虹天気アルシエル』が優しい顔つきで妖精たちに話しかける。
「見てたよ?」
「外見だけじゃなく、内面もという意味ですよ」
「アルシエル様には理由が分かってるのですか?」
ラズラが尋ねると、アルシエルは眼を閉じてにっこりと笑う。
あらゆる天気を組み合わせ、虹と言う綺麗な光景を作り上げ人々の心を捉える妖精。
そんなアルシエル様だからこそ、少女の気持も分かるというものだろうか。
いずれにせよ、このままモヤモヤとした気持ちを抱えたままなのはラズラにとってすっきりはしなかった。
また妖精の世界を飛び出し、人間の世界に降り立つ。
そしてこの間少女たちと通りすがった道辺りを数日の間ずっと歩き、再び少女と出会えるのを待つ。
そんなある日、今日はラズラの担当日ということでこの界隈に雨を降らせていた。
そんなラズラの思いが叶い、再び少女がラズラの視界に入る。
雨が降る中なので当然レインコートを着ているが、やはり泣きそうな顔をしていた。
話しかけようとしたのだが、この間以上の辛そうな顔を見ては少女に話しかけるのも躊躇われる。
そんな中、髭を蓄えたおじさんのような見た目の妖精……『晴天気ベンガーラ』が少女に話しかける。
「お嬢さん」
「誰、おじちゃん?」
「容赦ないよね幼児って……まぁ、それは良い。お嬢さん、晴れの方が良いのかい?」
ベンガーラの質問に少女は激しい勢いで首を縦に降る。
「どーれ」
(すまんな、ラズラ。ほんのちょっとだけじゃ)
ベンガーラがぱちんと指を鳴らすと、少女の周り数百メートル辺りが晴れになる。
すると少女はきゃっきゃと騒ぎ、晴れたことを喜び出したのだ。
ラズラがどういうことか戸惑ってると、少女がベンガーラに話しかける。
「おじちゃん、すごーい!」
「おじちゃんじゃなくてお兄さんじゃ」
「ごめんなさい、お兄さん。その力、3日後に絶対に使ってね!」
3日後?
ラズラが首をかしげると、ベンガーラはうんうんと頷く。
「任せなさい。お兄さんはこう見えて晴れ男などと呼ばれておってな、純粋な人が晴れを願った日には晴れをもたらすことが出来るのじゃ」
「すごいすごいすごーい! 絶対の絶対にお願いね!」
「うむうむ、任せておけ」
少女は満面の笑みを見せながらベンガーラの傍から去っていった。
真っ白なレインコートのフードをすっぽりと被ったその後ろ姿を見たベンガーラが更に満足そうな顔をする。
「……どういうこと?」
雨を降らすという己の領分を侵され、少しだけむっとしながらベンガーラに話しかける。
ベンガーラはそんなラズラの態度に怒ることもなく、むしろ余裕を持ちながらラズラに向き合う。
「あれを見てみるのじゃ」
ベンガーラが指をさした方向には1枚のポスターが貼られていた。
「それに私は晴れを望む声を聞くことが出来てな。だけども晴れてる中レインコートを着てる少女が晴れを望む声はさすがに前代未聞でな。ここ最近ラズラがあの子を気にしてたように、私もあの子のことが気になっておったのじゃ。では、あの子の家に一緒に行こう。それでラズラも全てが理解できるはずじゃ」
ベンガーラの案内でラズラが少女の家に向かう。
そして少女の家の軒並みを見た瞬間、少女の格好の謎がラズラの中で解けたのだ。
数日後。
ベンガーラがアルシエルやラズラ、他の天気の妖精たちを説き伏せ、今日という日を晴れにした。
本来今日はラズラの担当日だったのだが、ベンガーラが必死に説き伏せる理由を知ってるからこそ一緒にアルシエルを説き伏せた。
「どうやら、謎は全て解けたみたいですね」
アルシエルはラズラとベンガーラの話を聞き、にっこりと笑っていた。
「こういうことだったんだね」
ラズラは屋台でアルバイトをしている『灰流うらら』から『ワタポン』を模した綿菓子を受け取り、口にする。
ふわふわとした甘さを味わっていると、焼きトウモロコシをかじるベンガーラがうんうんと頷く。
2人の眼の先には。
「お兄ちゃん、格好いい!」
青色の法被を着て、満面の笑みで太鼓を叩く少年。
レインコートを着ていた少女はお兄ちゃんとお揃いの法被を着て兄の雄姿を見届けていた。
今日は子供や大人の1年に1度のお楽しみのお祭りの日だったのだ。
小学生の男の子が太鼓を鳴らし、その町に活気を付ける。
少女の自慢であるお兄ちゃんがその太鼓を鳴らす名誉ある役目を任され、その姿をなんとしてでも見たいと思っていたのだ。
だが、天気予報ではその日は雨模様となりそうだったのだ。
少女はなんとしてでも晴れを願い、いっぱいのとある物を作ったのだ。
「さすがにあれを見たときはびっくりしたよ」
ラズラがくるくると1つの物体を指で回す。
白いティッシュと小さなゴムボールを使って作られた……『てるてる坊主』。
少女は晴れを望み、数多くのてるてる坊主を作ったのだ。
ラズラはベンガーラに連れられ向かったその家で、外に多く飾られたてるてる坊主を見たのだった。
だが、それでも足りないと感じた少女は……白いレインコートをフードごとすっぽりと被り、自身がてるてる坊主になったのだ。
それほどまでに強く晴れを望む少女の純粋な気持ちは、ベンガーラの心に絶対に今日は晴れにするぞという強い意思を宿させたのだ。
そして晴れの天気の中、一生懸命を太鼓を叩く兄を見る少女の眼は、太陽に負けないぐらい光輝いていたのだった。
「さてと……少女の望みを叶えたのだ。そろそろ戻るとしようか」
「うん」
純粋な少女の望みを叶えたことでベンガーラとラズラは人々が祭りを楽しむ中、こっそりと人々の中に紛れ込んでいく。
「おじ……お兄さん、それからお姉ちゃん、ありがとう」
少女はそんな2人の後ろ姿を見送った後、ぽつりと呟くのだった。
「ただいまー」
祭りを終え、少女が兄、母、父と家族全員揃って家に帰ってきた。
「おかえりなさい」
「おばあちゃん、妖精さんいたよ! おばあちゃんもお母さんも昔いるかもしれないねって言ってたけど、その通りだったよ!」
少女の嬉しそうな声を聞き、母も祖母もにっこりと微笑む。
『マスターデュエル』という次元。
その次元で母が娘に『天気』という妖精たちの存在を語った。
その娘が成長し、立派な女性となった彼女から産まれた少女もまた『天気』の妖精たちの存在を直に眼にしたのだった。
こうやって、純粋な子供たちにしか見えない『天気』の存在は語り継がれていき、妖精たちの存在は消え去ることはないのである。