「うーん……」
紫色のローブに縦長の帽子。
世界で一番それを着こなせている魔術師……『ブラック・マジシャン』が眼を閉じ憂いを宿した顔を浮かべている。
「どうしたんですか、お師匠様?」
そしてそんな魔術師の様子を見かねてくりくりした眼をした可愛らしい少女……『ブラック・マジシャン・ガール』がブラック・マジシャンに声をかける。
師匠である彼は常にクールで弟子である彼女は今までそんな師匠の顔を見たことがなかった。
それゆえ少しばかり心配になったのだ。
「あぁ……実は少し悩んでいてだな。丁度良かった、相談に乗ってくれないか?」
「私でよければ!」
ブラック・マジシャンにこうやって頼られるのは初めてだ。
故に弟子であるブラック・マジシャン・ガールが張り切るのも無理はなかった。
「で、改めてどうしたんですか?」
「実はだな……」
ブラック・マジシャンは数枚の写真を見せる。
「えっと……馬にティマイオスにカース・オブ・ドラゴン……全てお師匠様が融合したときに乗るモンスターたちですよね」
「そうだ。彼らも皆私の力を引き出させてくれる素晴らしいパートナーだ」
「特にティマイオスは素晴らしいですよね。私も乗せてもらいましたが、騎士としての力を引き出させてくれました!」
『竜騎士ブラック・マジシャン・ガール』という融合体を持つブラック・マジシャン・ガールもまたティマイオスの背中に乗ることで新たな力を発揮することが出来た。
それゆえブラック・マジシャンに認められるパートナーというのは良く理解できる。
「でも、彼ら3体がどうしたんですか?」
「無論彼らも素晴らしいパートナーだ……だが、もし私の融合体が新たに登場することになったとき、次に乗るべきモンスターは何が良いかと考えていたのだ」
ああ、そういうことかとブラック・マジシャン・ガールは納得する。
ブラック・マジシャンは遊戯王デュエルモンスターズのみならず『遊☆戯☆王』というコミックの主人公である『武藤遊戯』のエースモンスターという大看板を背負っている。
故に色々な世界で彼を愛用する人は数多いとも聞いている。
だが、人の欲望というのは底知れない。
人気を背負ってるからこそ、新たな形態になったときの見栄えの良さ、効果の良さがなければその分の失望も深い。
それらの期待に応えるためにも努力を重ねていることを弟子であるブラック・マジシャン・ガールはよくわかっている。
ならば師匠のその悩みを解決するために力を貸すのは弟子として当然の事であるとブラック・マジシャン・ガールは心に決めた。
「そうだ、確か私と並んで力を発揮する融合体もありましたよね」
「そうだったな」
『超魔導師―ブラック・マジシャンズ』。
師匠と弟子が並んでいるだけのイラストかもしれないが、それでも師匠と弟子が力を合わせるだけに魔法や罠を操る力は随一だ。
「だったら、私の上に乗れば更にすごい力が発揮されるかもしれませんよ!」
「いやさすがに絵面が問題あり過ぎるだろう」
女の子を四つん這いにさせ、その上にドヤ顔でまたがる男。
それだけでもヤバいのに、師匠と弟子という関係である以上、師匠が脅して弟子を無理やり馬にさせ乗せているという虐待疑惑まで出てきてしまう。
たとえ効果が凄まじく強い物になったとしてもイラストの見た目で一発アウトだろう。
「馬乗りがダメでしたら、私がお師匠様をおんぶしますよ!」
「それでもダメだろう。私が介護されてる老人のようになってしまうだろう」
「だったら『時の魔術師』さんに力を借りてお爺さんにしてもらったうえで私がおんぶしましょう!」
確かに『時の魔術師』の効果成功時に『黒衣の大賢者』という偉大な老魔術師になることが出来る。
しかしやはりそれでもどう見ても介護な絵面に変わりはない。
「却下だ。可愛い弟子である君に負担をかけるのはそもそも私の本意ではない」
「力になれず申し訳ありません……今、可愛いって言いました?」
「言ってない」
「いーいーまーしーた!」
思わず失言してしまったことでブラック・マジシャンは内心溜息をつきたくなった。
ブラック・マジシャン・ガールはその可愛らしさゆえに色々な世界で愛されてるのは師匠であるブラック・マジシャンもよくわかっている。
だが見た目だけではなく実力も身に付け、いずれは自分以上の大魔術師になってほしいというのが師匠の想いだ。
それなのに可愛いと言ってしまったことは見た目だけしか見てないと思われかねない最低な発言だとブラック・マジシャンは思っていた。
「女の子が可愛いって言ってもらえてうれしくないわけがないでしょう、お師匠様!」
しかし可愛いと言われたブラック・マジシャン・ガールはまんざらでもない、むしろ満面の笑顔でブラック・マジシャンを見てくる。
それを見てると魔術の道はおろか、女心を見極めるのはまだまだ遠い未来なのだと思ってしまう。
「……今はそれどころではないだろう」
「はっ、そうでしたお師匠様! えーと、私とのお馬さん融合がダメなら……そうだ、『真紅眼の黒竜』さんなんてどうでしょう! 彼も色々な融合形態を持ってるし、お師匠様の更なる力を引き出させてくれる最高のパートナーになってくれるかも!」
確かに『可能性の竜』とすら呼ばれる『真紅眼の黒竜』ならば背中に乗るだけでも相当な力を発揮させてくれそうだ。
だが。
「いや、ダメだ。『真紅眼の黒竜』とはかつて『憑依』という形で力を合わせたことがある。だが、その際に得られた力はまだ時代が早すぎて『禁忌』という形で今は封印している」
『超魔導竜騎士―ドラグーン・オブ・レッドアイズ』。
真紅眼の黒竜を鎧に変化させブラック・マジシャンがそれを身に纏うことで、無限の可能性をその身に宿し、敵対する者のあらゆる可能性が発揮する力を無効にし破壊する力。
そのうえ竜の破壊の力も最大限に発揮し、相手を滅する力も宿した。
だがあまりにもその力は強力過ぎて『禁止カード』という称号を得てしまい、やむを得ず『禁忌』という形で自ら封印した力である。
「そんなことがあったんですね。その時のお師匠様の姿が見てみたかったです」
ブラック・マジシャン・ガールが少し残念そうに言う。
「まぁいずれ時代が進めば『禁忌』とされた力がいずれ標準となる時代が来るかもしれない。その時が来るまでお互い精進しよう」
「もちろんです! しかし、真紅眼の黒竜さんでもダメとなると……そうだ、時代を超えた力を得るというのはどうでしょうか!」
「時代を超えた力?」
「シンクロという未知の力でも、乗ることで力を発揮させることが出来るモンスターはいるみたいです。風のうわさによると『ダイガスタ・イグルス』というモンスターは鷹の上に魔法使いが力を発揮させるシンクロモンスターみたいです」
「ほう」
シンクロ召喚。
かつて別次元の個体が未来の世界へと飛ばされた時があった。
その時一緒に共闘した決闘者がシンクロの力を宿した星屑の竜を使っていたことがあるらしい。
確かに融合にばかり眼を取られていたが、未知なる力を試すのも悪くはない。
何より魔術師としての進化を目指すのならば、未知なる力を取り入れるのはむしろ積極的にするべきなのかもしれない。
「そこで最近登場した『レボリューション・シンクロン』なる小型の機械竜さんのチューナーの力を得てお師匠様の勇気と力をレボリューションさせるのはどうでしょう!」
「ふむ……いや、ダメだ」
「え、何でですか?」
「LV10のシンクロとなると私の『禁忌』の力とほぼ同等の力を持つシンクロモンスターがいるらしい」
「そうなんですか!?」
「すでにシンクロの力を取り入れたことがある『デーモンの召喚』からその存在を聞いたことがある」
『フルール・ド・バロネス』。
超魔導竜騎士と違い1度きりではあるが、相手のあらゆる可能性を無効にし破壊する力を持つ。
そして余波で対戦相手すらも傷つけるほどではないが、対戦相手の魔物を滅する力も持つ。
すでに先駆者がある以上、これを超えるほどの力を得ないと新たな力を持つのを待つ者たちは納得しないだろう。
「なかなかに難しいですね~」
色々な案を出したがそれでもお師匠様を納得させる案を出せないことに嫌悪しながらブラック・マジシャン・ガールが机に突っ伏す。
確かにこれなら師匠が悩むのもよくわかるとも実感もしていた。
「私も『ワイト』さんの持つ墓地の同志の力を得て戦う『王』の力から着想を得て、お師匠様たちの力を得て戦う力を持つことが出来ましたけども、難しいですね」
墓地の『ブラック・マジシャン』と『マジシャン・オブ・ブラックカオス』の数だけ力を得るのがブラック・マジシャン・ガールの能力である。
『ワイト』とは違い自身の数で力を得られないところがまだまだブラック・マジシャン・ガールが未熟な魔法使いということの証でもある。
「まぁ新たな力など簡単に思いつくわけではないからな。周りの意見も取り入れ柔軟な発想を得ることも必要なのだ」
「そうでしたか」
だから弟子である自分にも協力を依頼したのかとブラック・マジシャン・ガールは納得する。
「……まぁ、新たなパートナー探しも悪くはないが、まずはそれらのパートナーの力を最大限発揮させることが出来るように自身がそれ相応の力を得ることが出来ねばならない」
そう言いながらブラック・マジシャンはゆっくりと席を立つ。
フレーバーテキストで『魔法使いとしては、攻撃力・守備力ともに最高クラス』と評されている。
だが、それ以上の力を持つ魔法使いなどこの広大な世界に数多くいる。
それゆえ自身の限界以上の力を引き出させる魔法や罠を開発し、いまやブラック・マジシャンの戦闘力は最上級魔法使いに引けを取らないぐらいに成長している。
まず己の発展をおろそかにする者に未来はない。
そのことを弟子に伝えないといけない。
「さて、話はここまでだ。今日も修行に励むぞ」
「はい、お師匠様!」
新たな力を持つ姿を楽しみに待ってくれてる者のために、それらの姿に恥ずかしくない立派な力を得る。
その輝かしい日が来る時のために、今日も師匠と弟子は鍛錬に励むのであった。