「我々『鉄獣戦線』も随分と仲間が増えたものだ」
背中の右側に茶黒の翼を生やし、左には機械でできた翼を生やした百舌鳥の戦士……『鉄獣戦線 凶鳥のシュライグ」が呟く。
今は戦場ではないため仮面を取り、人としての面を覗かせている。
そんな彼が見つめているのは、鉄獣戦線として仲間を組んだ者たち。
戦場で立つ時は皆は仮面を外しているが、戦いの場でなければ皆安らぎを得てる人の姿を見せる。
背中に翼を生やし、小柄ながらもその機動力には目を見張るナーベル。
牛のような獰猛さを持ちつつも、銃を駆使し卓越した技も見せるケラス。
ケンタウロス体型で、複数の武器を戦線によって使い分け戦うフラクトール。
長き銃を持ち、後方支援もお手の物のフェリジット。
そんな彼女の妹であり、メカニック担当で戦いの場に立つことは基本的にない物の、いざとなれば『ベアブルム』の名を関した機械を操り戦場に立つキット。
そして同胞すらも殺す無慈悲さで敵を八つ裂きにするルガル。
皆が集い、戦場に立ち歯向かう者を倒すのが我ら『鉄獣戦線』。
しかし、皆は獣の力を宿してるとは言え人の姿でもある。
戦ばかり続き疲弊してるのもまた事実。
少しの間だけ、迫りくる敵と戦ってもらう兵を用意せねばなるまい。
「フェリジット」
「どうしました、シュライグ?」
シュライグはフェリジットに声をかけ、フェリジットが何事かと思い彼の元へやってくる。
「我は今から少しの間、新たな戦力を探しに行ってくる。我が留守となることで他の皆……特に我から『鉄獣戦線』のリーダー格を奪おうと目論んでるルガルが企みごとをするかもしれない。その間、皆のまとめ役を頼んでもらっていいか?」
「……私たちの力だけじゃ足りないっての?」
「これから待ち受けるかもしれない大いなる戦いのため、皆にはいったん休んでもらわねばなるまい。その間の他の場での戦線維持を頼むための兵をスカウトしてくるというだけだ」
「なるほど、そうでしたか」
フェリジットが納得したのを見てシュライグが頷く。
仲間内でキットとフェリジットだけが女性であり、女心に疎いシュライグはフェリジットの『私がいるのに他の人の力を当てにするの、バカ!』という内心を悟ることはイマイチ出来ていなかった。
だが、シュライグの仲間を思いやろうという気持ちはフェリジットにも伝わったため、敢えてこれ以上は何も言わないことに決めたのだ。
「では、行ってくる」
「ええ」
フェリジットに見送られ、シュライグは己の翼を機械の翼を使い、空へと羽ばたきその場を離脱していった。
さて、戦となるとやはり勇猛で戦う力に満ち溢れてる者がよいな。
そういえばあの地には戦いに明け暮れてる者たちがいたな。
彼らの協力を取り付けられれば良い戦力となるだろう。
シュライグはそう思い、遠く離れた地にある闘技場へと向かう。
「うおおおおおおおおおっ!」
「いけ、行けーっ!」
闘技場の中央で、赤き鎧を身に纏った虎の剣闘士と斧を携えた恐竜の剣闘士が戦いを繰り広げる。
周りで応援してる人々は彼ら剣闘士がかつて戦いに明け暮れていたのを見守っていた幻。
だが、その応援がたとえ幻でも、その声に応え戦い続けるのが『剣闘獣』と呼ばれる彼らである。
その中央から少し離れた所に他の剣闘士たちも闘いの場が空くのをまだかまだかと待ちわび、闘志を溢れさせている。
「よっと」
虎の剣闘士……『剣闘獣ラクエル』と恐竜の剣闘士『剣闘獣スパルティクス』の戦いの間にシュライグが割って入る。
「うおおお、乱入者か!?」
「いけいけ、ぶっ飛ばせー!」
そして虚空の応援者たちは、剣闘獣たちの誇りある戦いの場を汚す乱入者を許さない。
「待ちな、お前たち」
「何者だ、テメェ」
だがシュライグは剣闘獣たちが見続けてる観客の幻など見えず、ただ無人の闘技場で戦いを繰り広げてる剣闘獣たちだけに目を向ける。
「せっかくの戦いの力、今まで戦い続けてきた面子にだけ奮うのにも飽きてきたころじゃないか? 他の地での無法者相手にその力を奮ってみないか?」
「俺とラクエルの決闘を邪魔した挙句、俺たちの力を利用しようってのか、生意気な野郎だ」
「…………」
スパルティクスの耳に入ってくるのは己の闘いを邪魔したシュライグに対する『殺せ!』『あらびきのつくねにしろ!』『今夜は焼き鳥っしょ!』という、スパルティクス自身が腹が減ってるために食に飢えた声も響き渡る物騒な声だった。
「ならやってみるか?」
「上等だこの野郎!」
こうして無人の闘技場で、スパルティクスとシュライグの決闘が始まった。
「ガハッ!?」
そして数分後。
「なかなかやるが……やはり仲間内同士の争いに明け暮れ、本気の殺意を向けることがいつしか出来なくなった獣では我には勝てぬか」
息を荒げたスパルティクスの喉元にシュライグの機械の翼が向けられる。
あと少し翼を動かせば、喉を潰すのは容易だと言わんばかりに。
「外に出て、本気の殺意を向けてくるであろう相手と戦って見たまえ、そうなれば今この場で行ってる闘いよりも素晴らしき戦が出来るようになるぞ」
「貴様」
「よせ、スパルティクス」
憤るスパルティクスと他の剣闘獣たちをラクエルが制止する。
「確かにその言葉には一理ある。なれば今こそこの闘技場より外に出て殺意を向けられ、その相手を全力で対処した後、改めて我々の誇り高き決闘を邪魔した貴様に決闘を申し込むとしよう」
ラクエルのその言葉は、今よりも更なる闘争を求める剣闘獣たちを納得させるのに十分な言葉だった。
そしてその闘争を経た後、シュライグに改めて決闘を申し込み絶対に勝つという心意気も含まれていたのも大きいだろう。
「その時を楽しみに待つとしよう」
剣闘獣たちのやる気に溢れた声を聴き、シュライグは空を飛びその場を去っていった。
「ここか……」
次にシュライグが降り立ったのは、黒き翼を持つ『BF』の巣窟。
「何者だ、貴様は」
そんなシュライグを真っ先に出迎えたのは、手に槍を持ち鴉の被り物を被った鳥人『BF―黒槍のブラスト』数体。
「手荒な歓迎だな」
「当たり前だ。我々『BF』はいずれシグナ―と呼ばれる者たちに力を貸し『地縛神』と呼ばれる世界を滅ぼす悪神とその眷属である『地縛囚人』や『地縛戒隷』との戦いのため常に戦いに明け暮れている。そんなころに訪れる侵入者など、奴らの手に堕ちた手先としか思えないからな」
その言葉にシュライグが不快そうに眉を顰める。
己の自由のために戦いを繰り広げてる『鉄獣戦線』。
そんな我らが誰かの手先に成り下がるなど、いくら知らぬとはいえ侮辱にも等しき言葉だった。
「やるか、貴様ら」
「ほらみろ早速本性を現したぞ、百舌鳥が」
しかし、シュライグとブラスト数体の戦いは空から響き渡る声に止められる。
『止めろ、お前たち』
「そうだ、真の敵すらも見極める目を持たぬのか」
シュライグが空を見上げると、そこにいたのは黒き翼を持つ巨大なる竜『ブラックフェザー・アサルト・ドラゴン』。
そしてその背に乗る『BFT―漆黒のホーク・ジョー』がブラスト数体をさげすむ目で見る。
「ほ、ホークジョー様に我らの龍までも!?」
『解放のために力を奮う者たちを、あろうことか地に縛り続けられる哀れなる者たちの手下などと見違うとは』
「まったくだ。私の躾はどうやらまだ行き届いてなかったらしい。これは更なる躾が必要そうだな」
「お、お許しくださいホーク・ジョー様!」
「どうかそれだけは!」
ブラストたちが頭を下げるのを見た後、アサルト・ドラゴンがシュライグに目を向ける。
『とはいえ地に縛られた者たちの戦いが間近なのは事実。その雰囲気はあなたがたも感じ取っているのでは?』
「……流石ですね」
シュライグは他の場に兵を欲しがったのは、仲間たちを休ませたいだけではなく、他にも迫りくる新たな敵との戦いの予感を感じていたからである。
もっとも、それらの敵が『地縛』の者たちだとはシュライグも想像していなかったが。
『ご安心を。我々BFの敵はBFでケリをつけます。あなたがたの戦場に地に縛られた者たちを近づけさせることは絶対にいたしません。それがあなたの望みだろう?』
どうやらすでに我の目的すらもこの竜は見抜いていたらしい。
さすがは数百年単位で繰り広げられる戦を何度も戦い抜いてきた偉大な存在だとシュライグは竜に対して敬意を向けた。
「ええ、その通りです」
『ならばこれでお引き取り願いたい。彼らが早とちりをしたのも戦が近づき、皆が血気だっているため。これ以上ここにいれば他のBFたちもあなたを排除するためにやってくるぞ。止めはするが、私の闘いは荒っぽい。あなたも巻き添えになるのは確実でしょう」
「……それはご勘弁願いたいですね」
アサルト・ドラゴンの言葉を受けシュライグはその場から飛び去っていく。
「さてと……我らの真の敵となり得る者の気配すら見抜けぬ者たちの躾を行わねばな」
『その通りですね、ホーク・ジョー』
アサルト・ドラゴンもホーク・ジョーのこれからも行いを止めようとしない。
「「ひ、ひいいいいっ!?」」
そしてこれから待ち受けるホーク・ジョーの躾を受けるブラストたちの悲鳴がBFの巣窟に響き渡っていたという。
「きゅっ?」
次にシュライグが降り立ったのは、可愛らしい動物たちがいる森。
「ああ、すまない危害を加える気はないのだ」
シュライグは森に入るなり警戒の目を向ける小動物たちに敵意がないことを示す。
「君たち『メルフィー』の可愛らしさは良く知っている。そのかわいさでフェリジットやキットたちの安らぎになってもらいたい」
「……もっふん?」
ピンク色の子ウサギ……『メルフィー・ラビィ』は首を傾げ、シュライグを見る。
他のメルフィーたちもシュライグを見てはいるが、警戒すると同時に何を言ってるのかイマイチ分からないといった感じだった。
「ええと、そうだ」
確かこういう時のためにキットが開発した機械があったはず。
「翻訳マスク~……ってこんなことをやってる暇はないのであった」
キットが渡してきたノリを思い出してその時の口調で思わずつぶやいてしまった。
キット曰く『なんでも、人間たちの世界で流行してる青い猫型ロボットが人を助ける道具を出すときの口調なんだって』とのことらしいが、シュライグにはイマイチよくわからなかった。
まぁ人の文化を学ぶことも平和になった後は重要であるし、それをすでにやってるキットをこれ以上責める気はない。
そう思いつつ翻訳マスクを口にする。
『オジサン、誰? 私たちをイジメるの?』
「オジサンではない、お兄さんだ。イジメないよ」
『じゃ、何しに来たの?』
ラビィが首をかしげると、改めてフェリジットやキットたちを和ませてほしいとの訳を告げた。
『でも、そうしたら私たちこの森から離れないといけなくなるよね? おやつのニンジンはどこで調達すればいいの?』
「我らが皆の分の食い扶持を提供しよう」
『それはいいね! わーいわーい! 皆、このおじ……お兄さんが食事を提供してくれるって!』
『やったー!』
『あ、でも私たちを今面倒見てくれてる人にちゃんと挨拶しないと』
「面倒を見てくれてる人?」
シュライグが首を傾げた瞬間。
森全体が揺れ響き、小柄なメルフィーたちが思わず飛び跳ねる。
『わわ、やってきた!』
『大変、お兄さんを侵入者と認識しちゃったみたい!』
「なーにーもーのーだー?」
森の奥からドスの利いた声を響かせ、己の背丈ぐらいある巨大な棍棒を振りかざす者……『森の番人 グリーン・バブーン』がシュライグの前に立ちはだかる。
「この者たちをイジメようというのなら、容赦はしーなーいーぞ!」
そういいいきなり棍棒を振り下ろすが、シュライグの背中の機械の翼が棍棒を受け止める。
「待て、話を聞け」
『そうだよ、番人さん!』
「どーうーいーうこーとーだー?」
シュライグとメルフィーたちが事情を話し終えると、グリーン・バブーンがシュライグに頭を下げる。
「なーるーほーど。てっきりメルフィーたちをペットショップに売りさばくために捕獲に来た密猟者だったのかと」
「違う」
まぁある意味愛玩動物みたいにさせてしまうから当たらずも遠からずなのだが、それは黙っておくことにした。
「そういう事ならみんなを連れて行っていいぞ。さーいーわーい、俺も森の奥にある何かを調べたかったからな」
「何か?」
「きーかーいーで出来た巨人だ。うーごーかーなーいが、もし動かせるようになればこの森を守れる、おーれーたーちーの最終兵器になるかもしれない」
「そういうことなら俺たち『鉄獣戦線』にはキットという機械に対するエキスパートがいる。その巨人の事も見ればわかるだろう」
「たーすーかーる」
『じゃ、グリーン・バブーンさん、行ってくるね』
「おう、あーんーまーり、めーいーわーくかけるなよ?」
グリーン・バブーンに見送られ、シュライグとメルフィーたちは森を後にした。
……森の奥で放置されていた機械の巨人は『ネガロギア』という神すらも殺す兵器と呼ばれ、キットが修理した結果メルフィーの森を脅かす者は誰もいなくなったのだが、それは別のお話。
「わー、かわいいー」
「そうだな」
キットがラビィをもふもふし、フラクトールの背中に数体のメルフィーたちが乗る。
その様子をシュライグとフェリジットが微笑ましく見守る。
キットはもちろんのことだったが、意外なことにルガル以外の全員がメルフィーたちの可愛らしさにメロメロになっていた。
……実のところ、ルガルもルガルで「ほらよ、食え」と『メルフィー・パピィ』におやつであるジャーキーを分け与えていたのだが、それは天のみぞ知ることである。
「よしよし」
そして色々な土地をめぐってきて疲れたシュライグの膝に『メルフィー・キャシィ』が寝っ転がり、シュライグが思わず微笑む。
「…………」
そんなシュライグの膝のキャシイを股間方向にどかし、フェリジットがシュライグの膝に頭を乗せ寝転がる。
「………?」
困惑してるシュライグに対し、フェリジットがジト目でシュライグを見る。
「何よ、キャシィは良くて同じネコ科である私はダメだって言うの?」
「いや、別に何も言ってないが」
「ならいいじゃない」
そういうとキャシィがフェリジットの顔に覆いかぶさるように近づく。
(ああもう私ってば何をしてるのキャシィちゃんありがとううううう!)
柄にもないことをしたあげく独占するような事を言い、顔を真っ赤にし内心悶え苦しんでるフェリジットの顔を隠すのがキャシイの真意である。
同じネコ科という事で、キャシィがフェリジットを気遣ったのである。
なお、少し前に述べた通りシュライグは鈍感なのでフェリジットの内心に気づくことはなかった。
そしてキットがこっそりとその様子を隠し撮りしており、フェリジットがその写真をデータごと隠滅するため1日中キットを追いかけまわすことになるのだが、それもまた別のお話である。